ドーナツ経済学(英語:Doughnut economics)とは、イギリスの経済学者ケイト・ラワースが提唱した、人間の基本的なニーズと地球の限界との間にバランスをとる経済モデルです。
2012年にラワースが出版した著書『Doughnut Economics: Seven Ways to Think Like a 21st-Century Economist』で初めて登場した概念で、日本では2018年に『ドーナツ経済学が世界を救う 人類と地球のためのパラダイムシフト』として翻訳出版されている
ため、今では多くの人に知られています。
ドーナツの形が示すこと|社会的基盤と環境的限界
ドーナツ経済学の最大の特徴は、その名の通り「ドーナツ」という視覚的なフレームワークを使うことです。
ドーナツという形は、社会的基盤と環境的限界という二つの要素によって定義される、経済活動の理想的な領域を表しているため、とてもわかりやすいのです。
具体的には、ドーナツの「穴」の部分が社会的基盤を、「外側」の部分が環境的限界を表します。
内側の輪は「社会的な土台」と呼ばれ、人類の誰もが基本的に満たすべき条件であり、具体的には食料、教育、住居など十二の項目を列挙しています。一方、ドーナツの外側には、ストックホルムレジリエンスセンターの「プラネタリーバウンダリー(地球の境界)」の9つの分野が配置されています。
このドーナツの「食べられる部分」(つまり、社会的基盤と環境限界の間の領域)が、人類が目指すべき経済活動の範囲です。
安全で公正な範囲を目指す、バランスの取れた繁栄を提示することがドーナツ経済学の根本的な考え方なのです。
従来の経済成長の考え方との違い
従来の経済学は、GDP(国内総生産)の成長を最重要視してきました。しかしドーナツ経済学では、第一の優先事項として経済・社会を「成長させる」ことではなく「繁栄させる」ことを目指す
と考え、大きく視点を転換させています。
繁栄とは、誰もが自分の「尊厳」を保つことができ、やりたいこと、なりたいものを選べる「機会」が与えられることであり、一人ひとりの潜在的な能力(健康や創造性など)が引き出され、信頼できる人々の「コミュニティ」と、地球の限られた資源内(=ドーナツ)のなかで、幸福に暮らすことができることである。つまり、お金がたくさん増えることよりも、一人ひとりが幸せに暮らせることを重視する経済の在り方なのです。
実現するために必要な二つの転換
ドーナツ経済学を実現するには、経済のあり方を根本的に変える必要があります。
これからの経済モデルとして、ドーナツ経済学は環境再生的(リジェネラティブ)で分配的(ディストリビューティブ)なものを提唱すると説明されています。
環境再生的というのは、資源を何度も利用し、ごみを出さない設計にすることや、太陽光・風力・潮力などをエネルギー源とし、廃棄物を次の生産活動に活かせるような設計をすることで環境を再生することを意味します。一方、分配的というのは、国際的な不平等・不公正はもちろんだが、国内での貧富の差が出ないよう、分配を行える経済を設計する
ことです。
世界での実践例|アムステルダムの取り組み
ドーナツ経済学は理論だけにとどまらず、実際の都市政策に取り入れられています。
世界でも多様性豊かなアムステルダムの首都では、持続可能なまちづくりの一環として2020年4月にドーナツ経済学の導入を発表しました。
具体的には、地産地消を含むサステナブルで健康的な食品の流通、町の緑化、リサイクルやリユースリペアなどで資源の無駄を減らすなど、様々な側面から取り組みが始まっています。アムステルダムはドーナツ経済を行政で取り入れた初めての市として、世界からも注目されています。
私たちにできることは?
ドーナツ経済学は、遠い目標に思えるかもしれません。しかし、日常生活の中で私たちも貢献できることがあります。例えば、食べ物を無駄なく使う、エネルギーの使用を減らす、フェアトレード製品を選ぶ、地域のコミュニティに関わるなど、身近な選択肢から始められます。
ドーナツ経済学は、教育やコミュニティ、ビジネスや政府、町や都市や国々など、さまざまな分野で議論され、実践されているため、個人から社会全体まで、多くの人たちが同じ目標に向かって行動することが大切です。
ドーナツ経済学という新しい考え方を知ることは、人類と地球の未来をより良くするための第一歩となるのです。

