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「50人未満」の職場にも広がる健康の義務|2026年、ストレスチェック義務化が問いかける小さな職場のウェルビーイング

「50人未満」の職場にも広がる健康の義務|2026年、ストレスチェック義務化が問いかける小さな職場のウェルビーイング

働く人の「心の健康」を守る義務が、これまで対象外だった小さな職場にも届こうとしています。2025年5月に改正・公布された労働安全衛生法によって、従業員50人未満の事業場へのストレスチェック義務化が決定し、施行に向けた準備が進んでいます。大企業だけの話だった「健康経営」が、いよいよ日本の職場全体を問い直す時代に入っています。

「50人の壁」が崩れる

日本ではこれまで、ストレスチェック制度は常時50人以上の労働者がいる事業場にのみ義務付けられてきました。
2015年12月1日の労働安全衛生法改正によってストレスチェック制度が義務化され、常時50人以上の労働者のいる事業場は対象者に対して1年以内ごとに1回の頻度でストレスチェックを行う義務が生じました。該当しない事業場については実施が努力義務にとどまっていました。

しかし実際には、日本の企業の大多数は中小・小規模事業場です。50人未満の職場で働く人々は、長年この制度の「外」に置かれたまま、心の健康を守る仕組みが十分に届いていませんでした。

2025年5月8日に可決・成立した改正労働安全衛生法により、これまで努力義務とされていた従業員50人未満の小規模事業所においても、ストレスチェックの実施が義務化されることが決定しました。施行日は「公布後3年以内に政令で定める日」とされており(最長で2028年5月まで)、現時点では具体的な施行日は未定ですが、すべての企業が早期に準備を進める必要があります。

「実施して終わり」では通じない時代へ

制度が拡大するだけではありません。すでにストレスチェックを実施してきた事業場に対しても、その「使い方」が根本から問い直されています。

今回の制度改正では、ストレスチェックを単なるイベントではなく、組織改善へ確実に結びつけるよう運用することが標準化される見通しです。対象範囲の拡大や集団分析の実施、結果のフィードバックの強化により、従業員一人ひとりのストレス状態と組織の課題を把握し、改善策を講じることが企業の責務になります。
メンタルヘルス対策は、従来の「発症後の対応」から「予防中心のアプローチ」へ移行します。企業には、従業員教育(セルフケア・ラインケア)の強化や高ストレス者の早期発見、相談体制の整備など、主に一次予防の仕組みづくりが求められるようになるでしょう。

さらに、健康経営優良法人の認定制度においても評価の軸が変化しています。
従来の「適合項目数」を評価対象外とし、「健康経営の組織への浸透に向けた取り組み」「健康経営の推進による企業の健康風土の把握」が追加されました。この変更により、取組の量から質に評価のポイントがシフトしています。

「心の健康」の言葉も変わった

今回の制度の変化で注目すべき点の一つが、「言葉の転換」です。

「メンタルヘルス不調者への対応」という項目名が、よりポジティブな「心の健康保持・増進に関する取り組み」へと変更されました。
これは単なる名称変更ではなく、心の健康を「不調になってから対処する」ものではなく、「良好な状態を持続的に育てる」ものとして捉え直すという、認識の本質的な転換を意味しています。

また、評価対象となる「人」の幅も広がっています。
従業員の多様な構成に対応するため、「健康経営の実践に向けた土台づくり」の評価項目に「性差・年齢に配慮した職場づくり」が追加されました。これには、女性の健康対策や高齢従業員への対策が含まれます。

さらに、個人事業者等に対する健康支援の状況を問うアンケートが新設され、健康経営が個人事業者への支援にも広がる仕組みが検討されています。
フリーランスや業務委託で働く人々まで視野に入れた動きは、「雇用関係のある従業員だけを守ればよい」という発想の限界を示しています。

小さな職場ほど、実は「届いていない」

こうした制度整備が進む一方で、小規模事業場が直面する現実的な壁もあります。専任の人事担当者がいない、産業医との契約コストが高い、健康施策に充てる余裕がない——そうした課題は中小企業に重くのしかかります。

特に中小企業においては、人材不足や従業員の高齢化が深刻化しており、解決策の一つとしての健康経営の普及拡大が望まれます。昨年度より試験的に導入された小規模法人特例制度(従業員数の少ない企業に対する認定要件の緩和)や、昨年度からブライト500の下位に新設された「ネクストブライト1000」は、裾野の拡大と質の向上を促す施策であると考えられます。

行政側もこの課題を認識しており、経済産業省では、雇用主が自社のニーズに応じたサービスの選択肢を知り、一定の品質が確保されたサービスの選択を支援する仕組みの構築を目指した取り組みを進めています。
小規模事業場が費用対効果の高い外部サービスを選べるよう、情報開示の整備や評価基準づくりも並行して進んでいるとされています。

地域からも「ウェルビーイング」の動き

国の制度改正と並行して、自治体レベルでも健康・幸福度を地域政策の核に据える動きが広がっています。
静岡新聞社・静岡放送は、静岡県内企業・自治体のウェルビーイング実装と地域活性化を目的としたイベント「静岡ウェルビーイングサミット 2026」を2026年3月17日に開催します。「幸せを、地域の力に変える。」をテーマに、自治体・企業の枠を超えた議論が行われる予定です。
福井県は「全47都道府県幸福度ランキング」で12年連続1位という結果を踏まえ、さらなるウェルビーイング向上への取り組みを実施してきたとされています。
また、熊本県では独自の幸福度指標や住民参加型の政策形成といった取り組みを、平成24年度から進めてきたとされています。熊本県民の幸福度は、震災や豪雨といった困難な状況に直面しても安定した数値を維持しているとされています。

こうした自治体の試みは、住民一人ひとりの「良く生きる状態」を政策の出発点に置くという点で、企業の健康経営と共鳴しています。

数字ではなく「状態」をつくる

ストレスチェックを実施すること、認定を取得すること——これらはあくまで手段です。
健康経営優良法人認定制度においては評価項目が拡充され、「効果の可視化・継続改善」が重視されるようになっています。産業保健・メンタルヘルス・女性の健康支援・生活習慣といった「幅」のある健康経営が評価対象になっていきます。

「施策をやっているか」ではなく「どんな状態が生まれているか」を問う視点は、企業規模を問わず、あらゆる職場に求められるものです。50人未満の小さな職場でも、働く人が心身ともに安心して力を発揮できる環境をどうつくるか——その問いに向き合うことが、これからの健康経営の本質といえるでしょう。

制度の「義務化」は、スタートラインに過ぎません。大切なのは、義務を満たすことではなく、働く人が「今日も来てよかった」と感じられる職場の文化を、少しずつ積み上げていくことではないでしょうか。

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