気候変動損失損害(ロス&ダメージ)とは、気候変動の悪影響に適応できる範囲を超えて発生する損失や損害を指します。暴風雨や豪雨といった極端な気象現象から生じる被害と、海面上昇や氷河の融解、気温上昇、土壌の劣化といったゆるやかに進行する影響から生じる被害が含まれます。
言い換えれば、気候変動によって引き起こされるすべての悪い影響のうち、人類が防ぐ・適応することができず、もう避けられない部分を指しています。
経済的損失と非経済的損失|二つの側面
気候変動損失損害は、お金で計算できるかどうかによって二つに分けられます。
経済的な損失だけでなく、非経済的な損失(人命や健康、生物多様性、文化的アイデンティティ、伝統的な知識の喪失など)も見ていく必要があります。
経済的損失の例として、農作物や家屋、インフラへの被害が挙げられます。一方、非経済的損失は測定が難しいのですが、文化の喪失、生態系サービス、および住民の移住といった、市場では取引されにくく、金銭的に測定しにくい損失
を指しています。
世界で起きている具体例
現実は深刻です。
2022年7月から8月の大雨で洪水が発生したパキスタンでは、3,300万人が被災し、800万人以上の避難民が健康の危機に直面し、1,730人以上が亡くなりました。
経済的には、2022年のパキスタン洪水は最大で400億米ドルの損失を引き起こしたと推定されています。
またアフリカ東部地域では2022年の干ばつで3,610万人が影響を受け、130万人以上が移住を余儀なくされ、少なくとも2,100万人が深刻な食糧危機に直面していました。
こうした事態は、排出ガスを大量に出してこなかった地域で起きているという根本的な不公正が存在しています。
なぜ今、損失損害という概念が必要なのか
気候変動対策には「緩和」「適応」「損失損害」という三つの段階があります。緩和とは温室効果ガスの排出を削減すること、適応とは気候変動の悪影響に対応する準備をすることです。しかし、気候変動の一部の損害は避けられません。これは、排出されたガスの影響が完全に気候システムに反映されるまでの長期間により、すでに「ロックイン」されている気候変動の影響があるためであり、さらに気候変動への適応には限界があり、行動が経済的に見合わない、物理的または技術的に不可能、社会的に困難、または単に十分でない場合に損失損害が発生するためです。
つまり、いくら頑張って温室効果ガスを削減しても、いくら適応策を整えても、避けられない被害が存在するということです。そうした被害にどう対応するかが「損失損害」という概念の核心にあります。
国際的な取り組み|基金の設立
「損失損害」という用語は2013年のCOP19(ワルシャワ)で正式に認識され、ワルシャワ国際メカニズムが設立されました。
しかし本格的な国際的対応は遅れていました。
2022年11月のCOP27で、気候変動により損失損害を受けた国々を支援するための基金を設立することで合意し、2023年のCOP28で運用が開始されました。
COP28では損失損害基金の運用が合意され、世界銀行が基金事務局のホストとなり、4年間の暫定期間として金融仲介基金として運用することになりました。
気候正義の視点から考える
気候変動損失損害の議論で重要なのは「気候正義」です。
世界で最も裕福な10%の人々が1990年以来観測された地球温暖化の3分の2に責任があり、世界人口のより貧しい半分がわずか10%の排出に貢献しているとされています。
それなのに、気候変動による損失損害に直面している国は、より貧しい国および島国で、対応するための財政的および技術的資源が不足しています。
このような不公正さが、気候変動損失損害という概念が生まれた背景にあります。
私たちにできること
気候変動損失損害は、遠い国の問題ではなく、やがて日本にも直接の影響を及ぼします。私たちができることは、まず温室効果ガスの削減に貢献すること、そして国際支援の議論を注視し、気候正義の観点から公正な解決策が実現するよう関心を持つことです。
損失損害への対応は気候変動の根本的な原因に取り組むことや地球規模での復原力構築から目をそらすべきではなく、損失損害を減らすための最も良い方法は、気候適応と気候緩和です。
私たち一人ひとりの行動と選択が、世界中の人々の未来を守る一歩となります。

