カナダは、人口の約4人に1人が移民という「移民大国」です。2021年の国勢調査では、移民または永住者になった経験のある人が約830万人、人口の23.0%に達しました。これは連邦成立以降で最も高い割合で、G7の中でも最大です。ただし、カナダは移民を無制限に受け入れてきた国ではありません。毎年、永住者の受け入れ数に目標を定めて運営してきました。2020年に発表した3年計画では受け入れを増やし、2025年以降は一転して絞り込む方向に舵を切っています。この記事では、カナダ移民政策の歴史と、直近の計画の変化を整理します。
移民大国カナダの現在地|人口の23%が移民
カナダが「移民大国」と呼ばれるのは、人数が多いからだけではありません。移民を経済や人口の担い手として位置づけ、国の仕組みの中に組み込んできたからです。まず、現在の規模を数字で確認します。
数字で見るカナダの移民
カナダ統計局が2022年10月に公表した2021年国勢調査の結果では、移民または永住者である(あった)人は約830万人で、人口の23.0%でした。1921年の22.3%を上回り、連邦成立以降で最も高い水準です。2016年から2021年に受け入れた新規移民のうち、56.3%が経済移民として入国しています。経済移民の内訳は、技能労働者向けの制度が34.5%、州ごとの推薦制度(PNP)が33.6%でした。
日本と比べるときの注意
日本の在留外国人は、出入国在留管理庁の発表で2026年6月末に428万1,026人となり、過去最多を更新しました。総人口に占める割合は3.5%と報じられています。ただし、この2つの数字を並べて「カナダは日本の6〜7倍」と読むのは正確ではありません。カナダの23.0%は、帰化してカナダ国籍を取った人も含む「移民経験者」の割合です。日本の3.5%は、日本国籍を持たない在留者だけの割合です。数え方が違うため、規模感をつかむ目安にとどめるのが適切です。
カナダ移民政策の歴史|管理から多文化主義へ
カナダは1869年から移民を法律で管理してきました。ただ、今日の姿に近づいたのは1960年代後半以降です。ここでは、現在の制度につながる節目を順に見ます。
1967年の点数制で「何ができる人か」を基準に
1967年の移民規則で、カナダは点数制を導入しました。学歴、職業技能、就職の見通し、年齢、英語とフランス語の能力、人物評価といった項目で、申請者を評価する方式です。出身国で線引きするのではなく、個人の能力で選ぶ形に移ったことが大きな変化でした。この考え方は、後に整備された経済移民の仕組みにも受け継がれています。1976年の移民法では、移民政策の目的が明文化され、難民が移民とは別の区分として定められました。
1971年の政策から1988年の法律へ
1971年10月8日、トルドー首相(当時)が多文化主義政策を発表しました。英語系とフランス語系の二つの文化だけでは、カナダ社会を説明できないという認識が背景にあります。1982年のカナダ権利自由憲章には、憲章の解釈を多文化的な遺産の保持と向上に沿って行うという第27条が入りました。そして1988年、カナダ多文化主義法が成立し、国の政策に法的な枠組みが与えられました。この法律は、人々が自らの文化的遺産を保ち、育て、分かち合えることや、出身を問わず社会に完全かつ平等に参加できることを、政府の方針として掲げています。
二つの公用語と、ケベック州の位置づけ
カナダの連邦レベルの公用語は英語とフランス語です。ケベック州はフランス語圏で、州としてフランス語を守る姿勢が強く、標識や公的な表示もフランス語が中心です。多文化主義とは別に、言語の面でも「二つの言語を共存させる」という前提が国の土台にあります。移住者にとっては、英語だけでなくフランス語の能力も評価や生活に関わる場面があります。
受け入れの3本柱|経済・家族・難民
カナダの永住者受け入れは、大きく「経済」「家族」「難民・保護対象者」の3つに分かれます。どれを重く見るかは時期によって変わり、その配分に国の考え方が表れます。
経済移民が中心になっている
経済移民は、職歴や学歴、言語能力などをもとに選ばれる人たちです。IRCC(移民・難民・市民権省)の資料によると、2026年の目標では全体の約63%、2027年と2028年は約64%を経済区分が占めます。同省は、この割合を「10年以上で最も高い水準」としています。労働力不足を埋めたいという意図が、数字にはっきり出ています。
家族と難民の枠も維持されている
家族区分は、配偶者や親、子どもなどの呼び寄せが中心で、2026年に8万4,000人、2027年と2028年は各8万1,000人です。難民・保護対象者の区分は、3年間とも年4万9,300人です。経済重視へ傾いても、家族の再統合や人道上の受け入れを残す構成になっています。
移住後の語学支援
カナダでは、新しく来た人向けに英語またはフランス語を学べるプログラムが整えられていると言われています。無料で受けられるものもありますが、対象や内容は州や自治体によって異なります。実際に利用を考えるときは、IRCCや移住先の州政府の最新の案内で確認するのが確実です。
2021〜2023年計画の背景|コロナで届かなかった目標を取り戻す
元の記事でも取り上げた「120万人」の計画は、2020年10月30日に発表されました。ここでは、その狙いと結果を確認します。
3年間で120万人超を受け入れる計画
この計画で、永住者の目標は2021年が40万1,000人、2022年が41万1,000人、2023年が42万1,000人と設定されました。3年間で120万人を超える規模です。新型コロナウイルスの影響で2020年の受け入れが目標に届かなかったため、その不足分を3年に分けて上積みする形でした。人口の約1%を毎年受け入れるという従来の水準を保つ狙いもありました。
実績は目標を上回った
2021年の実際の受け入れは約40万5,000人で、目標を上回り、カナダ史上最多となりました。この時期の判断には、少子高齢化で働き手が減り、医療や社会保障を支える力が弱まるという課題がありました。移民を増やして経済の回復につなげるという考え方が、はっきり打ち出されていたと言えます。
2026〜2028年の最新計画|増やす時代から整える時代へ
直近の数年で、カナダの方針は大きく変わりました。受け入れ数を増やす局面から、人口増加の速さを調整する局面へ移っています。
永住者の目標は年38万人で横ばい
2024年10月に発表された2025〜2027年計画では、永住者の目標が2025年に39万5,000人、2026年に38万人、2027年に36万5,000人と、段階的に下がる設計でした。それ以前は、2025年に50万人とする目標が掲げられていました。2025年12月時点の2026〜2028年計画では、3年とも年38万人で、幅は35万人から42万人とされています。政府は、2027年以降も新規の永住者を人口の1%以内に抑える方針を示しており、2028年には0.9%になる見込みです。
一時滞在者を減らす方針
もう一つの大きな柱が、一時滞在者(留学生や外国人労働者など)の抑制です。2025〜2027年計画で、一時滞在者の新規受け入れ目標が初めて示され、2026年は51万6,600人とされていました。2026〜2028年計画では、2026年の目標が38万5,000人へ引き下げられたと報じられています。政府は、2027年末までに一時滞在者の人口比を5%未満にすることを約束しています。住宅や医療へのアクセスへの配慮が、理由として挙げられています。
人口統計にも変化が出ている
この方針は、統計にも表れています。カナダ統計局によると、2026年4月1日時点の人口は4,141万7,056人で、1月1日から5万5,025人(0.1%)減りました。一時滞在者は第1四半期に11万7,879人減り、255万8,562人です。第1四半期に受け入れた永住者は8万3,149人で、前年同期から20.2%減っています。これらの数値は速報で、2026年9月に改定される予定でした。
なお、2027〜2029年の新しい移民計画は、法律上、例年11月1日ごろまでに議会へ提出されます。2026年10月24日時点では公表されていません。数字を確認するときは、IRCCの公式発表を直接見るようにしてください。
日本の読者が押さえたいこと|誤解されやすい点と出発前の確認
ここまでの内容を、日本から見るときの視点に引き寄せて整理します。
「移民大国=誰でも入れる」ではない
よくある誤解は、移民大国なら入国や定住のハードルが低いというものです。実際は逆で、点数制や毎年の目標数があり、条件は政策に応じて何度も変わってきました。多文化主義についても、カナダ百科事典は、導入当初は象徴的な意味合いが強く、裏づけとなる予算が少ないという批判があったと伝えています。理想の制度というより、課題を抱えながら調整を重ねてきた政策と見るのが実態に近いでしょう。
留学やワーキングホリデーを考えるなら
日本人にとって身近なのは、留学やワーキングホリデーです。一時滞在者を減らす方針のもとでは、許可の条件や、永住につなげる道筋が変わる可能性があります。次の3点は、出発前に確認しておきたい項目です。
- IRCCの公式サイトで、滞在許可や就労許可の最新条件を見る
- 永住を目指す場合は、希望する州の推薦制度の対象職種と言語要件を確認する
- ブログや動画の情報は、公開時期を確かめてから参考にする
日本が学べる視点
カナダの経験から日本が学べるのは、受け入れ数の多さそのものではありません。受け入れる人の数を、住宅や医療などの受け皿に合わせて見直す仕組みを持っている点です。多文化主義も、文化を尊重する理念と、社会への参加を支える制度の両方があって成り立っています。日本でも外国人住民が増える中、数だけでなく、暮らしを支える環境を同時に整える視点が問われます。
まとめ
カナダは、点数制の導入、多文化主義の法制化、毎年の目標数による管理を重ねて、移民が人口の23.0%を占める国になりました。2021〜2023年計画は、コロナで届かなかった受け入れを取り戻す「増やす」計画でした。2025年以降は、住宅や医療への負担も考慮して「整える」計画に変わっています。
日本の外国人比率は3.5%ほどと、カナダとは数え方も規模も異なります。それでも、受け入れの数と、受け入れた人が暮らしやすい環境をセットで考える姿勢は参考になります。留学や移住を考える方は、まず公式情報で最新の条件を1つ確認するところから始めてみてください。
- カナダは人口の23.0%が移民で、連邦成立以降で最も高い割合になった
- 1967年の点数制、1971年の多文化主義政策、1988年の法制化が、政策の主な節目
- 2021〜2023年計画は増員、2026〜2028年計画は年38万人の横ばいと一時滞在者の抑制が柱
- 日本との比較は、移民経験者と在留外国人という数え方の違いに注意する
参考文献
- Statistics Canada「The Daily(2021年国勢調査の移民に関する発表)」(2022年)
- Statistics Canada「Canada’s population estimates, first quarter 2026」(2026年)
- IRCC「2026–2028 Immigration Levels Plan—Permanent Resident Targets」(2025年)
- IRCC「Supplementary Information for the 2025-2027 Immigration Levels Plan」(2024年)
- IRCC「Government of Canada announces plan to support economic recovery through immigration」(2020年)
- Canadian Museum of Immigration at Pier 21「Canadian Immigration Acts and Legislation」
- Justice Laws Website「Canadian Multiculturalism Act」(1988年制定)
- nippon.com「在留外国人、過去最多428万人」(2026年)

