公式LINEアカウントでも絶賛配信中!

友だち追加
SDGs

移民政策の成功例|カナダ・シンガポール・ドイツ・オーストラリアの取り組みと日本の現在地

移民政策の成功例4国|日本における移民政策と私たちにできること

世界の国際移民の総数は現在2.81億人にのぼるとされており、これは世界人口の約3.6%に相当します。人々が国境を越えて移動する動きは2000年代から加速し続けており、各国政府にとって移民をどう受け入れ、社会に統合するかは避けられない政策課題となっています。

同時に、移民政策の「成功」とは何かを問い直す動きも広がっています。経済成長に寄与した一方で住宅不足や社会摩擦を生んだカナダ、階層別管理で高成長を実現しながら制度見直しを迫られたシンガポール——成功事例として語られてきた国々でも、2024年以降に大きな政策転換が起きています。

この記事では、移民政策とは何かを整理したうえで、カナダ・シンガポール・ドイツ・オーストラリアの最新状況と日本の変化を具体的なデータとともに読み解きます。SDGs目標10「不平等の是正」とも深く関わるこのテーマを、私たちの身近な問題として考えるきっかけにしてください。

移民政策とは何か|定義と背景を整理する

「移民政策」とは、外国から人々を受け入れ、その国の社会・経済に統合していくための国家的な制度と戦略の総体を指します。単に「外国人を入れる・入れない」という入口管理だけでなく、定住後の言語支援・就労保障・子どもの教育・社会保障へのアクセスまで含む幅広い概念です。

政策の背景には、少子高齢化による労働力不足・経済成長の停滞・社会保障費の圧迫といった課題があります。多くの先進国が移民政策を「補完的な労働力確保」ではなく「社会変革の手段」として位置づけるようになったのは、この20年で急速に進んだ現象です。

また、「移民」と「難民」「外国人労働者」は法的・概念的に区別されます。難民は迫害や紛争から逃れた人々であり国際法上の保護対象、外国人労働者は主に一時的な就労を目的とした在留者です。政策を論じるときには、この区分を意識しておく必要があります。

SDGsの観点では、移民政策は目標10「不平等の是正」と直接結びついています。移住先での差別・搾取・社会的排除をなくし、移民が尊厳を持って生活・就労できる環境を整えることが、持続可能な共生社会の基盤になるからです。

カナダ|「多様性の力」を掲げてきた先進国の揺れ

カナダは世界有数の移民受け入れ国として長く評価されてきました。 ポイント制永住権申請制度「Express Entry」では得点配分が事前に公開されており、選抜基準が公平で明確とされています。 学歴・語学力・職歴・年齢などを数値化し、透明性の高い選抜を行うこの仕組みは、世界中の移民政策のモデルとして参照されてきました。

しかし2024年以降、カナダは大きな転換期を迎えています。 カナダ政府は2025〜2027年の移民受け入れ計画として、2025年に39万5,000人、2026年に38万人、2027年に36万5,000人と設定し、従来の計画値50万人と比較して2025年は約2割減となった。 急激な人口増加が引き起こした住宅不足・インフラ逼迫への対応が背景にあります。

2023年の人口増加分の約98%を移民が占め、うち60%は一時滞在者だった。カナダ政府は移民数の圧縮により、住宅市場への圧力の緩和と1人当たりGDP成長率の加速、失業率の低下を期待している。 受け入れ大国が「量の抑制」に転じた事実は、移民政策の成功が静的なものではなく、社会状況に応じて常に調整が求められるものであることを示しています。

カナダ商工会議所のシニアディレクターは「最近の移民政策の急激な変更に対して、労働力の供給や経済成長に与える影響を懸念する企業が増えている」と述べ、経済に貢献する高度人材への配慮を政府に求めている。 経済界の懸念と社会インフラの限界という二つの圧力の間で、カナダの政策は引き続き揺れています。

シンガポール|階層別管理と高成長の裏側

人口約580万人の都市国家シンガポールでは、居住者の約40%が外国籍とされています。1970年代以降の急速な経済発展とともに、政府は産業構造に応じた階層別の移民管理を一貫して推進してきました。

シンガポールの特徴は、職種・産業分野ごとに受け入れる人材の質と量を明確に区分している点にあります。建設・製造・介護分野では主に低賃金労働者を、IT・金融では高スキル専門職を受け入れることで、産業構造の維持と成長を両立させてきました。その結果、同国の1人当たりGDPはアジアでもトップクラスを記録し、国際企業の地域拠点誘致にも成功しています。

一方で、近年は住宅価格の高騰・雇用競争の激化・文化的摩擦が表面化しており、政府は高スキル外国人向けビザ要件の厳格化や、企業の「外国人依存度」に関するレポート義務化など、受け入れの質的管理に重点を移しています。規模を追うのではなく「誰を、なぜ受け入れるか」を精緻に問い続ける姿勢が、シンガポールの政策の核心です。

ドイツ|統合プログラムと2024年以降の政策揺り戻し

ドイツは2022年に移民・難民の受け入れを130万人に拡大するなど、積極的な姿勢を見せてきた。 EU域内最大の移民受け入れ国として、1970年代の「ゲストワーカー政策」から始まり、難民受け入れ・EU域内移動・熟練労働者招致という多層的な制度を積み上げてきた歴史があります。

制度面で特筆すべきは、 「統合コース(Integration Course)」と呼ばれる2005年に始まった公的な教育プログラムです。600時間のドイツ語学習と、100時間のドイツの歴史・法制度・政治に関する社会学習の計700時間をかけ、語学と社会理解をバランスよく習得できます。 受け入れ後の「統合支援」に国が責任を持つという考え方は、各国の政策設計に影響を与え続けています。

また、 ドイツでは若手人材獲得のため、ポイント制度である「チャンスカード」の導入が発表されました。この制度は4つの要件のうち3つを満たすことでドイツへの入国と求職の手続きが簡素化される仕組みです。 高度人材を引きつけるための仕組みと、統合後の定着支援を組み合わせる二段構えの設計が、ドイツ式の特徴といえます。

しかし2024年以降、欧州全体で移民政策の「揺り戻し」が起きています。 多くのEU加盟国では極右政党が躍進するなど右傾化が進んでおり、フランス・オランダ・ドイツが国境管理や不法移民送還の強化を打ち出している。 ドイツでも社会統合の費用や治安への懸念が政治争点化しており、長年の「開放路線」が試されています。ナチス期の排他政策への深い反省から構築されてきた多様性重視の姿勢が、どこまで維持されるかが問われている局面です。

オーストラリア|白豪主義から多文化主義へ、そして再設計へ

オーストラリアは多文化主義を掲げる移民国家の代表例として、カナダと共に国際的に高い評価を得ている国です。その多文化主義は、白豪主義と呼ばれるアジア系移民を制限する政策からの転換によって形成された歴史を持ちます。 1975年に人種差別禁止法を制定し、与野党が多文化主義を国家方針として宣言して以来、移民受け入れは国是として定着してきました。

2022年に始まったアルバニージー現労働党政権のもとで、移民政策に関する重要な文書が作成されました。2023年12月に公表された「移民戦略(Migration Strategy)」は、経済成長を支える高度人材の確保、労働者の搾取防止、国際教育の質向上、地域社会の強化を目的として、技能ビザ制度の改革や学生ビザの審査強化、地域ビザの優先処理など、移民制度の持続可能性と公平性を確保することを目指しています。

さらに2024年7月には「公正を目指して:すべての人のための多文化オーストラリア」と題した多文化フレームワークレビューが公開されました。1973年以来50年間の多文化主義政策を振り返る包括的な文書で、全国200回以上の協議を経て作成されたものです。 半世紀にわたる移民統合政策を定期的に自己点検するこの姿勢は、日本を含む他国への示唆が大きいといえます。

日本の現在地|特定技能と育成就労制度の最新動向

日本では長らく「移民政策を採らない」という政府方針が維持されてきました。文化的同質性を重視し、永住・定住を前提とした大規模受け入れには慎重という立場です。しかし実態は急速に変わっています。

2025年6月末時点の在留外国人数は395万6,619人となり、過去最多を更新しました。特定技能在留者は24年末比で18%増の33万6,196人に達しています。 そのうち家族帯同も可能な「特定技能2号」は3.7倍の3,073人と急増しており、長期定住へのルートが着実に広がっています。

政府の閣議決定により、2024年3月に特定技能の受け入れ見込数が再設定されました。2024年度から5年間の受け入れ見込み人数を82万人としており、これは以前の設定値の約2.4倍です。 対象分野も16分野に拡大され、自動車運送業・鉄道・林業・木材産業が新たに加わっています。

政府は2024年6月に入管法等を改正し、現行の技能実習制度を発展的に解消する育成就労制度を創設しました。これにより、育成就労から特定技能への道筋が一層明確化され、中長期にわたり日本で活躍する外国人の増加が見込まれています。 技能実習制度が長年抱えてきた「送り出し・受け入れ機関への依存」「転籍制限による人権侵害リスク」といった問題への対応が制度設計に盛り込まれた点は、前進として評価できます。

一方で課題も残ります。 文科省の令和6年度調査によると、住民基本台帳上の外国人の子どもは16万3,358人にのぼり、そのうち不就学の可能性がある子どもは8,432人います。 就労受け入れの拡大と、子どもの教育・生活支援の整備が連動していない実態が、数字として浮かび上がっています。SDGs目標4「質の高い教育」の視点から、子どもの就学環境の整備は急務といえます。

4カ国の比較から見えてくる「成功の条件」

カナダ・シンガポール・ドイツ・オーストラリアの事例を並べてみると、移民政策が安定して機能するための共通条件が浮かび上がります。

第一に、「受け入れの目的と対象の明確化」です。 移民政策を成功させるためには「何のために、どんな人を受け入れるのか」という目的と対象をはっきりさせることが不可欠とされています。 経済成長・少子化対応・人道支援のいずれを主目的とするかによって、制度設計はまったく異なります。

第二に、「統合支援の制度化」です。ドイツの統合コースやオーストラリアの多文化フレームワークに見られるように、受け入れた後の言語・社会・就労への統合支援を国が責任を持って設計するかどうかが、長期的な定着を左右します。

第三に、「定期的な政策の見直しと透明性」です。カナダの受け入れ数調整、オーストラリアのフレームワークレビュー、ドイツの統合コースの継続的改善は、いずれも「一度作ったら終わり」ではなく、データと対話に基づいて制度を更新し続ける姿勢を示しています。

  • 目的と対象の明確化:「なぜ、誰を」受け入れるかを社会全体で共有する
  • 統合支援の公的責任:語学・就労・子どもの教育まで国が制度的に支える
  • 選抜の透明性:ポイント制など客観基準を公開し、恣意的な運用を排除する
  • 定期的な政策レビュー:社会の変化に応じて受け入れ数・条件・支援を柔軟に調整する
  • 人権保障の組み込み:搾取・差別を防ぐ法的仕組みを制度の核心に置く

私たちにできること|共生社会への実践的な一歩

移民政策は「政府が決めること」と感じやすいテーマですが、共生社会の土台は日常の関わりの中に作られます。以下の三つの視点から、個人としての関わり方を考えてみてください。

正確な情報に基づいて考える 移民や外国人労働者に関する報道や議論には、データの読み方や文脈の切り取り方によって印象が大きく変わるものが少なくありません。SDGsの基礎も含め、信頼できる一次ソース(国連・政府統計・学術機関の公開資料)に触れる習慣が、偏見のない判断の出発点になります。

身近な「多様性」に関わる 地域の日本語教室ボランティアや、外国人住民との交流イベントへの参加は、制度を超えた人との接点を生みます。政策が統計で語る「移民」を、顔と名前のある隣人として知ることから、社会の意識は変わっていきます。

支援団体への参加・寄付を検討する 難民申請中の人々・技能実習生の権利擁護・外国人の子どもの教育支援に取り組むNPO・NGOは日本各地に存在しています。金銭的な支援に限らず、情報共有やSNSでの発信も、活動を支えるひとつの手段です。

まとめ|成功事例から日本が学べること

カナダ・シンガポール・ドイツ・オーストラリアの事例は、移民政策に「完成形」はないことを示しています。いずれの国も2024年以降に制度を大幅に見直しており、受け入れの量から質へ、入口管理から統合支援へと重点が移っています。日本でも在留外国人が395万人を超え、特定技能・育成就労制度のもとで外国人との共生は現実のものとなりつつあります。

  • 世界の国際移民は2.81億人(世界人口の約3.6%)。日本の在留外国人は2025年6月末時点で395万人超と過去最多
  • カナダ・ドイツ・オーストラリアはいずれも2024年以降に政策を大幅に見直し、「受け入れの質的管理」へ転換中
  • シンガポールは階層別管理と高成長を両立させてきたが、住宅・雇用・文化面での摩擦に直面し、制度の精緻化を進めている
  • 日本では育成就労制度の創設(2024年)と特定技能82万人目標が設定され、長期定住を視野に入れた外国人政策へ転換しつつある
  • 政策の成功条件は「目的の明確化・統合支援の制度化・透明な選抜・定期的な見直し・人権保障」の5点に集約できる

まず1つだけ、身近にいる外国人の方の名前を覚えることから始めてみてください。政策を変えるのは制度だけでなく、社会を構成する一人ひとりの意識でもあります。

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
MIRASUS

MIRASUS編集部。地球と人に優しい未来をつくるサステナビリティな事例をご紹介。誰にでもわかりやすくSDGsに関する情報は発信していきます。

  1. 【大阪公立大学】アルティメットとボランティアで地域とつながる!学生サークル「颯和(さつな)」の活動に迫る

  2. 原油急騰に「需要を減らす」という発想|IEAが示す10の緊急対策とその意味

  3. WMO「地球の気候状況2025」報告書|観測史上最も不均衡な気候に警鐘

RELATED

PAGE TOP