SDGsの目標4「質の高い教育をみんなに」は、「すべての人に包摂的かつ公正な質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する」ことを掲げた目標です。幼児教育から高等教育、職業訓練、成人の識字まで、学びのあらゆる段階を対象にしています。
UNESCO(ユネスコ)の2025年の推計では、2023年時点で世界の学校に通えていない子どもや若者は2億7,200万人にのぼります。2030年の期限まで残り数年となりましたが、進み具合は計画を下回っています。
この記事では、目標4の中身を押さえたうえで、世界と日本の最新の状況、国内外の取り組み、そして誤解されやすい点と自分にできる行動までを整理します。
目標4の中身|7つの成果目標と3つの実施手段
目標4には10のターゲットがあります。番号が4.1〜4.7のものは「どんな学びを実現するか」という成果の目標で、4.a〜4.cは「それを支える手段」です。
この分け方を知っておくと、ニュースで「目標4が遅れている」と聞いたときに、学校に通う人数の話なのか、学んだ中身の話なのか、教員や施設といった条件の話なのかを区別して読めます。
4.1〜4.7|誰に、どんな学びを届けるか
成果の目標は、次の7つです。期限はいずれも2030年です。
- すべての子どもが、無償で質の高い初等・中等教育を修了できるようにする(4.1)
- すべての子どもが、質の高い乳幼児の発達支援・就学前教育を受けられるようにする(4.2)
- すべての人が、手頃な費用で技術教育・職業教育・高等教育に平等にアクセスできるようにする(4.3)
- 就職や起業に必要な技能を持つ若者・成人を大幅に増やす(4.4)
- 教育におけるジェンダー格差をなくし、障害のある人や先住民族、脆弱な立場の子どもも平等に学べるようにする(4.5)
- すべての若者と多くの成人が、読み書きと基本的な計算の力を身につけられるようにする(4.6)
- すべての学習者が、持続可能な開発や人権、ジェンダー平等、平和などに関する知識と技能を身につけられるようにする(4.7)
特徴的なのは、「通学できること」ではなく「学習成果が出ること」を求めている点です。4.1の文言にも「適切かつ有効な学習成果をもたらす」と書かれています。
4.a〜4.c|学びを支える施設・奨学金・教員
残りの3つは、学びの土台に関する目標です。
4.aは、子どもや障害、ジェンダーに配慮した安全で包摂的な学習環境の整備です。校舎やトイレ、水道、電気といった基本的な設備が含まれます。4.bは、開発途上国の若者に向けた奨学金の大幅な拡大です。4.cは、開発途上国を中心に、資格を持つ教員を大幅に増やすことを求めています。
この3つは、後半で見るように、世界の現状を読み解くうえで重要な手がかりになります。教員が足りなければ、学校を建てても学びの質は上がらないからです。
なぜ「質」が問われるのか
目標4は、読み書き計算を超えた力も視野に入れています。情報を見極める力や、対話して問題を解く力は、社会の意思決定を支える土台になります。
識字が十分でなければ、薬の説明書や契約書を読めず、生活や健康に直接影響が出ます。偏った情報に流されやすくなり、対立が深まる要因になるとも指摘されています。学びの機会は、個人の収入だけでなく、地域や社会の安定にもつながっています。
世界の現状|2億7,200万人と「学べていない」問題
最新の数値は、UNESCO統計局とGEM(世界教育モニタリング)レポートが2025年に公表した「2025年版SDG4スコアカード」で確認できます。各国が自ら設定した2025年の目標に対し、どこまで進んだかを評価した資料です。
結論から言うと、不就学者は減るどころか、推計の見直しで従来より増えました。
不就学者2億7,200万人の内訳
2023年時点の不就学者は2億7,200万人と推計され、従来の推計より2,100万人多い結果でした。各国は2030年までにこの数を1億6,500万人減らすと約束していますが、2025年の時点で目標より7,500万人分遅れる見通しとされています。
年齢層別に見ると、初等教育の年齢(6〜11歳)で約7,800万人、前期中等教育の年齢(12〜14歳)で約6,400万人、後期中等教育の年齢(15〜17歳)で約1億3,000万人です。不就学率でみると、年齢が上がるほど高く、15〜17歳では31%にのぼります。
さらに、ミャンマーやソマリア、スーダンなど紛争の影響を受ける国々では、データの制約から実際の不就学者が少なくとも1,300万人分過小に推計されているとされています。
通っていても学びが届かない
「学校に行けている子どもは大丈夫」とは言えません。スコアカードによると、各国が掲げた2025年の目標からの遅れが特に大きいのは次の3つです。
- 小学校終了時に最低限の読解力を身につける割合(目標から11ポイント遅れ)
- 就学前教育への参加(目標から9ポイント遅れ、コロナ禍の影響が指摘されている)
- 就学前教育の教員が研修を受けている割合(目標から7ポイント遅れ)
読解力については、そもそもデータが足りない国が多く、実態はさらに見えにくいとされています。通学の数字だけでは、目標4の進み具合は測れないということです。
教員不足と教育予算という構造問題
学びの質を左右するのは教員です。UNESCOと教員タスクフォースの報告によると、SDGsを達成するには2030年までに世界で4,400万人の教員が必要で、そのうち約1,500万人はサハラ以南のアフリカで求められています。
お金の面でも、後退が指摘されています。スコアカードは、各国の公的教育支出が、GDPの4%・公的支出全体の15%という国際的な目安から、2015年よりも2023年のほうが遠ざかっていると報告しています。
教室や教員を増やすための財源が細っていることが、不就学者の増加や学習成果の停滞の背景にあります。
日本の現状|不登校35万人超と、見えにくい3つの格差
日本は義務教育が整い、就学率は高い国です。それでも目標4の観点から見ると、取り組むべき課題は国内にもあります。ここでは、公的な調査で数字が確認できるものを3つ取り上げます。
不登校は12年連続で増加
文部科学省が2025年10月に公表した令和6年度の調査によると、小・中学校の不登校の児童生徒数は35万3,970人で、前年度の34万6,482人から増えて過去最多となり、12年連続の増加です。内訳は小学校が13万7,704人、中学校が21万6,266人です。
一方で、前年度の増加率が15.9%だったのに対し、令和6年度は2.2%まで鈍化しました。高校の不登校生徒数は約6万8千人で、前年度から減少しています。数字は動いており、「増え続けている」と一括りにせず、学年や年度ごとに見る必要があります。
なお、不登校は「学校に通えていない状態」を表す統計上の区分で、世界の「不就学」とは別の概念です。日本の子どもの多くは、学校に籍を置いたまま、学びとのつながり方に悩んでいます。
日本語指導が必要な子どもの増加
外国にルーツを持つ子どもの学びも、目標4が掲げる「誰一人取り残さない」に直結します。文部科学省の令和7年度(2025年5月1日現在)の調査では、公立学校で日本語指導が必要な児童生徒は過去最多の8万4,759人で、うち外国籍が7万3,313人、日本国籍が1万1,446人とされています。
日本国籍でも日本語指導が必要な子どもがいる点は、見落とされがちです。母語もさまざまで、一つの言語に合わせた対応では足りません。学校だけでなく、地域の日本語教室や自治体の通訳支援など、複数の担い手が必要になります。
家庭の経済状況と教育費負担
給食費や教材費、塾や習い事の費用は、家庭の状況によって学びの機会に差を生みやすい部分です。国は2026年4月から、公立小学校の学校給食について、食材費の一部を児童1人あたり月額5,200円(完全給食の場合)を目安に自治体へ支援する仕組みを始めました。所得制限はなく、保護者の手続きも不要です。
ただし文部科学省はこれを「無償化」とは呼ばず「抜本的な負担軽減」としており、自治体の給食費が支援の目安を超える場合は、超えた分を保護者から徴収できます。お住まいの自治体で実際にいくら負担が残るかは、自治体ごとに異なります。
日本と世界の取り組み|制度・自治体・国際協力を見比べる
課題への対応は、国内の制度整備と、海外での教育協力の両面で進んでいます。ここでは複数の取り組みを横並びにして、それぞれが目標4のどのターゲットに対応しているかを見ていきます。
国内の制度|学びの場を学校の外にも広げる
文部科学省は2023年3月に、不登校対策「COCOLOプラン」を発表しました。教育支援センターの整備やICTを使った学びの場づくりを進め、「学びの多様化学校」(不登校の子どもに配慮した特別の教育課程を持つ学校)を、全国の都道府県・政令指定都市に1校以上、将来的には全国300校設置することを目指しています。
通学を前提とせず、学び方の選択肢を増やす方向への転換であり、目標4.5の「脆弱な立場の子どもも含めた平等なアクセス」に通じる考え方です。
家計負担を下げる制度
給食費への国の支援は、4.1の「無償で質の高い初等・中等教育」を家計の面から支える動きといえます。支援の範囲や上乗せの有無は自治体によって異なるため、制度の存在だけでなく、住んでいる地域でどう運用されているかを確認することが大切です。
国際協力|日本の教育支援はどこで行われているか
日本政府は2015年9月に「平和と成長のための学びの戦略」を策定し、質の高い教育協力や人材育成を進めています。
代表例が、JICA(国際協力機構)が西アフリカを中心に支援してきた「みんなの学校」です。保護者や地域住民、校長、教員が学校運営委員会をつくり、校舎の修繕や衛生設備の整備、学習環境づくりを話し合って進める仕組みで、JICA研究所は社会関係資本の向上といった効果を分析してきました。この考え方は現在、マラウイで2023年4月から2028年3月までのプロジェクトとして展開されています。読み書き計算の力を高めるモデルや、中途退学・留年を防ぐモデルの開発も進められています。
学校を建てるだけでなく、地域が自分たちの学校を運営する力を育てる点が特徴で、教員不足や予算不足という前の章の構造問題に対する一つの答えです。
よくある誤解|目標4を読むときの3つの注意点
目標4は、わかりやすい言葉で書かれているぶん、誤解も生まれやすい目標です。ここでは、定義を知った直後に抱きがちな思い込みを3つ整理します。
「日本は達成済み」ではない
日本は就学率が高く、世界の不就学の話は遠く感じられます。しかし、目標4は不就学者の数だけを問うものではありません。不登校、外国につながる子どもへの日本語支援、家庭の経済状況による機会の差、障害のある子どもの学びの環境など、4.5の「誰も取り残さない」に関わる課題は国内にあります。
「途上国の問題」と「日本の課題」を切り分けず、同じ目標の延長として見ることが、自分ごととして考える出発点になります。
「学校に戻すこと」がゴールではない
不登校の増加をニュースで見ると、「どうすれば学校に戻せるか」と考えたくなるかもしれません。ただ、国が学びの多様化学校やICTの活用を進めているように、重視されているのは学校に戻ることだけではなく、本人に合った形で学び続けられる環境を用意することです。
当事者や家族にとっては、「通えない自分が悪いのでは」という思いが重荷になりやすい面もあります。統計の数字は、個々の事情を平らにならしてしまうことを意識しておくと、言葉選びが変わります。
寄付すれば解決、とは限らない
教育支援の寄付は有効な行動の一つですが、「学校を建てれば解決」とは限りません。教員がいない、通学路が危険、家計が学用品を負担できない、といった理由が重なって通えない子どももいます。
どの課題に対する寄付なのかを確認することが、支援の効果を高める第一歩です。
私たちにできること|立場に合わせて選ぶ行動
行動は、時間・お金・影響力のうち、いま自分が出せるものから選ぶのが続けやすい方法です。ここでは3つの切り口に分けて紹介します。
まず知る・確かめる
地域の状況を知るのが最初の一歩です。お住まいの自治体の教育委員会のサイトで、給食費の負担、不登校支援の窓口、日本語教室の有無を調べてみてください。世界の数字は、UNESCOのスコアカードや文部科学省の調査結果で一次情報に触れられます。
SNSで流れてくる教育の数字は、年度や対象が違うまま比べられていることがあります。「どの年度の、誰を対象にした数字か」を確認する習慣が、誤解を防ぎます。
お金で支えるときの選び方
寄付先を選ぶときは、次の4点を見ておくと判断しやすくなります。
- 支援の対象が、就学の機会、学びの質、教員の育成、学習環境の整備のどれかが明記されているか
- 使い道と成果が、年次報告などで公開されているか
- 現地や地域の人が運営に関わる仕組みになっているか
- 継続できる金額か(少額でも毎月続けられるほうが、支援先の計画が立てやすい)
ユニセフ、JICA関連の基金、国内の学習支援団体など、受け皿は多様です。内容は団体ごとに異なるため、公式サイトで確認してから決めてください。
身近な場で関わる・声を届ける
学習支援ボランティアや子ども食堂、外国にルーツを持つ子ども向けの日本語教室など、地域には関わり方があります。専門知識がなくても、宿題を一緒に見る、話し相手になるといった形で参加できる場もあります。
また、教育予算や学校の制度は、地方議会や国会での議論で決まります。選挙で候補者の教育政策を比べる、自治体のパブリックコメントに意見を送るといった行動も、目標4に関わる一つの方法です。
まとめ
SDGs目標4「質の高い教育をみんなに」は、学校に通えるかどうかだけでなく、何を学べたか、誰も取り残されていないかを問う目標です。世界では不就学者が2億7,200万人と推計され、教員不足と教育予算の後退が、学びの質を押し下げています。
日本でも、不登校が35万人を超え、日本語指導が必要な子どもも増えています。国は給食費の負担軽減や学びの多様化学校の整備を進めていますが、地域によって実情は異なります。数字の見方を誤らず、どの課題の話なのかを分けて考えることが、行動の質を高めます。
まず1つだけ試すなら、お住まいの自治体の教育に関する取り組みを一つ調べてみてください。そこから、関わり方が見えてきます。
- 世界の不就学者は2023年時点で2億7,200万人と推計され、各国の目標から遅れている
- 通学だけでなく、読解力や教員の質など「学びの中身」が目標4の中心
- 日本では不登校35万3,970人(令和6年度)と、日本語指導が必要な子どもの増加が課題
- 寄付やボランティアは、支援の対象と使い道を確かめてから選ぶ
参考文献
- UNESCO GEM Report「2025 SDG 4 Scorecard progress report on national benchmarks」(2025年)
- UN News「UN issues global alert over teacher shortage」(2024年)
- 文部科学省「令和6年度児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果及びこれを踏まえた対応の充実について(通知)」(2025年)
- 文部科学省「帰国・外国人児童生徒等の現状について」(2025年)
- 文部科学省「学校給食費の抜本的な負担軽減」(2026年)
- JICA「みんなの学校(住民参加型教育開発)プロジェクト」(2023年)
- JICA研究所「ブルキナファソの『みんなの学校プロジェクト』 JICA研究所が経済実験で成果を検証へ」(2011年)
- 外務省「教育分野の国際協力」

