日本は水資源に恵まれ、高度な浄化技術も持ち合わせているため、水の豊かな国というイメージを持っている人が多いでしょう。
しかし、1900年代のはじめ頃に紹介された「バーチャルウォーター」という概念により、日本の水資源に関して問題視する声があがっています。
そこで、バーチャルウォーターの概念を通じてわかった日本の水問題について解説します。バーチャルウォーターに関する日本の現状のほか、問題の解決策についても紹介します。
バーチャルウォーターとは?
バーチャルウォーターとは、食料を輸入している国が、その食料を自国で生産した場合に必要となる水の量を試算したものです。
実際に使用した水ではないので、「バーチャルウォーター」あるいは「仮想水」と呼ばれています。1900年代はじめに、ロンドン大学のアンソニー・アラン教授によって紹介された概念です。
バーチャルウォーターの計算方法
環境省のホームページでは、バーチャルウォーター量を自動試算するページがあります。
食材ごとに基準値が定められており、食材の質量を入力するとバーチャルウォーター量が算出されます。
また、別のページでは私たちの身近な食べ物でバーチャルウォーターの試算をしています。
たとえば、ハンバーガーを1つ作るのに必要な牛肉は45g。牛肉45gを作るために必要とされるバーチャルウォーターは927リットルとなり、500mlのペットボトル1854本分に相当します。
同じように、ハンバーガー用のパンで試算すると、ペットボトル144本分。つまり、ハンバーガーを1つ作るのに、ペットボトル2,000本の水を必要とする試算結果となります。
バーチャルウォーターの世界比較
2019年にウォーターエイドが発表した「世界水の日報告書2019」によると、日本を含む主要先進国であるG7(ジーセブン)のほとんどが、バーチャルウォーターの上位輸入国となっています。
上位輸入国9ヶ国を順位付けした場合、日本は6位。アジア諸国では中国と日本がランクインしており、中国は9位となっています。バーチャルウォーターを多く輸入する国に共通することは、人口が多い、あるいは食料自給率が低いことで、いずれかを満たした先進国がランキングに入っています。
2003年におこなわれた第3回世界水フォーラムの中で、「過去50年間に世界の人口は倍増し、水の消費量は4倍になった」と発表されました。この背景には、食生活の変化が関係しています。
肉や乳製品には、家畜を育てるために多くの水を必要とします。しかし、食生活の変化により今まで以上にそれらを食べる人が増えたことで、水の消費量は年々増えています。つまり比例して、バーチャルウォーターの量も年々増えているということが言えます。
バーチャルウォーターからわかる問題
バーチャルウォーターの概念を通じて、浮き彫りになった問題は大きく分けて以下の2つがあります。
- 他国の水不足を深刻化させる加害者となってしまうこと
- 2つめは、食材の入手困難・価格高騰などのリスクを抱えることです
まず、他国の水不足への問題ですが、1900年代にバーチャルウォーターの概念が示されたことには理由があります。他国で生産した農作物に生産国の水が大量に使われ、間接的に生産国の水が大量に消費されていることへの懸念です。
なかでも日本は食料自給率が低く、多くの食料を輸入に頼っています。
ハンバーガーの例では、牛肉、パンを作る小麦のほとんどは海外からの輸入品です。ハンバーガーを1つ作るのに必要なペットボトル2,000本分の水を、食材の輸出国に立て替えてもらっている状態で、自国の水を使わずに済んでしまっています。
このことは日本にとって良いことのように聞こえてしまいますが、食材を輸出している国の中には、水不足に悩む国が存在します。
日本が食材を輸入に頼ることで他国の水不足をより深刻化させてしまう懸念があり、日本のような輸入国が間接的にその加害者となってしまう可能性があります。
また、食材輸出国には水質汚染の問題を抱える国があることを忘れてはいけません。食材を作る国の水質は、食材の安全性に影響を及ぼし、やがてその食材を輸入している国の人が口にする食事に影響をもたらすこととなります。
そうした安全性のリスクや、干ばつ・洪水などによる収穫不足で入手困難・価格高騰など多くのリスクがあります。これらは、食材の輸出国の環境に依存するため、コントロールができず、常にリスクに晒されている状態となります。
バーチャルウォーター問題の解決策
バーチャルウォーターに関するこれらの問題を解決する対策として、私たち日本人ができる取り組みとしては下記の5点です。
①食料自給率を上げる
まず、日本が早急にすべきことは食料自給率を上げることです。
食料を自国で作ることで、水不足の国を追い込むことなく、また入手困難・価格高騰といったリスクにさらされることがなくなります。
日本は令和12年度までに、カロリーベース総合食料自給率を45%、生産額ベース総合食料自給率を75%まで引き上げる目標を掲げています。
②日本が持つノウハウを広める
水不足に悩む国を支援できるよう、海水から真水を作る技術やインフラ設備の開発支援など日本のもつノウハウを広めることも進められています。
③節水を心がける
私たち一人ひとりができることとして、もっとも重要なことは節水を心がけることです。限られた資源を枯渇させないよう、毎日の生活の中で資源を大切に扱うことが必要です。
水道の水を出しっぱなしにしない、お風呂の残り湯を洗濯に使うなどは、これまでの生活で耳にしたことがあるはずですが、あらためてその背景も踏まえて実践してみましょう。
④地産地消を積極的に行う
地産地消を積極的に行うことが必要です。地産地消を進めることは、地域の農家の支援につながり、結果として食料自給率の向上につながります。
また輸送コストを下げられるので、生産者の利益向上になるだけでなく、食品の価格を安価に抑えられるので購入者にとってもメリットがうまれます。さらに、車や船での輸送が減れば燃料の使用量も減り、環境負荷を低減できます。
⑤食品ロスをなくす
そして最後に、食品ロスをなくすことが挙げられます。食品ロスの発生は、食品をごみとして燃やすことで温室効果ガスが発生し、地球温暖化の原因となります。そうした負の連鎖を引き起こさないよう、日ごろから私たち一人ひとりが意識を持って行動することが大切です。
バーチャルウォーターの実情を知り、行動を起こそう
日本に対するイメージとして、資源が豊富で安全な食材を確保している国と思う人は多いでしょう。
しかし実情は、他国からの輸入なしには食料確保ができないだけでなく、その食料は水不足の国の貴重な水を使用して生産されています。地球全体で限られた資源をいつまでも使えるよう、まずは個人が節水を心がけて生活しましょう。
最近、動物性たんぱく質をとらない食事を選択する「ヴィーガン」という言葉をよく聞きます。多くの人は、宗教的背景からヴィーガン食をとっています。また、動物愛護やダイエットを目的として選択している人もいます。
しかし、ヴィーガン食を選択することは、環境の面から見ると家畜を育てる水の節約、ひいては水不足の緩和につながります。
そうした選択肢も含めて、無理なく継続できることからぜひ行動をはじめてみましょう。
参照元:
・virtual water|環境省HP
・バーチャルウォーター量自動計算|環境省HP
・水の需給の動向|文部科学省HP
・「世界水の日報告書2019」|ウォーターエイド