現在、飢餓に苦しむ人は世界中に8億1,100万人います。
10人に1人が十分な食事ができず空腹に耐えている、または空腹は満たされていても栄養不足に陥るケースのどちらかになるのです。
日本でも相対的貧困による飢餓が問題となっており、政府や企業がさまざまな取り組みを始めています。
そこで本記事では、飢餓について知るために原因や日本の現状をまとめました。より深く飢餓について理解し、取り組む際の参考にしてみてください。
まずは、飢餓とはどのような状態か解説します。
参照元:2021年世界食料安全保障と栄養の現状(SOFI)概要| 国立研究開発法人 国際農林水産業研究センター
飢餓とは
飢餓とは、身長に対する最低限の体重や軽度の活動をするために必要なエネルギー(カロリー数)が足りていない状態です。
また、食事量は足りていても栄養素が足りずに心身に影響がでるケースもあります。
必要なエネルギーは、
・年齢
・性別
・活動水準
・病気の有無
・妊娠の有無
・授乳中
そのなかでも注意しなければならない影響が免疫力の低下です。
とくに子どもは、病気に抵抗する力がさらに弱くなります。
はしかや下痢など、通常であれば軽度ですむ病気で命を落とす子も少なくありません。
また病気だけでなく、体や脳の発達の遅れにもつながります。
このように世界中で問題となっている飢餓ですが、何が原因で起きているのでしょうか。
次は飢餓の原因について見ていきましょう。
飢餓の原因とは
飢餓の原因は3つあり、「自然災害」「紛争」「慢性的貧困」と言われています。
自然災害
地震や津波、豪雨による洪水など、自然災害によって田畑が被害を受けると、食料不足や農作物を販売して生計を立てられなくなります。
そして貧困に苦しむ途上国では農業を主産業としているため、自然災害が発生すると多くの人々が食料と一緒に職を失います。
近年は気候変動の影響で自然災害が多発しており、途上国の飢餓問題も深刻化しているのが現状です。
紛争
途上国では宗教や食料、土地など、さまざまな理由から紛争が起こっています。
そして一度紛争が起きると大勢の人々が安全な場所へと避難するため、家や農地は放置されることになるのです。
紛争は長引くことが多く、そうなると農地の様子を見に行くこともできません。
現地に残ったとしても、身の安全の確保が1番のため農作業を行うことも難しいでしょう。
そのため、手入れができず農作物は枯れてしまいます。
慢性的貧困
途上国にも裕福な層は存在します。
彼らは多くの土地を所有し、農民たちを低賃金で雇い働かせているのです。
農民たちは土地や食物の種を購入する資金もなく、教育を受けていないため農業以外の職に就けません。
また自分の子どもを学校に行かせるお金や余裕もないため、子どもは親と同じように選択肢のない環境で生きていかなければならないのです。
このように、貧困は断ち切ることが難しく繰り返されています。
参照元:
・飢餓と発展途上国の農業|JICA
・なぜ飢餓が起こるの?|日本国際飢餓対策機構 ハンガーゼロ
世界でおきている飢餓の問題
2021年に発表された、「世界食料安全保障と栄養の現状」(SOFI2021)報告書によると、アフリカでは人口の21%、ラテンアメリカ・カリブ海諸国9.1%、アジア9%の人々が飢餓に苦しんでいると発表されました。
とくにアフリカは、ほかの地域の2倍以上、約5人に1人が飢餓に直面している状態です。
そして報告書からも分かるように、飢餓は途上国を中心に起きています。
なぜ飢餓は、途上国に集中しているのでしょうか。
その大きな理由の1つが「貧困」です。
途上国には、貧困が原因で学校に通えない子どもが大勢います。
勉強する機会を与えられず大人になり、文字の読み書きや計算ができないため力仕事や農業以外で働く選択肢がありません。
また農業で生計を立てようとしても、農業整備や技術の遅れ・自然災害による不作・伝染病などの流行による労働力の減少が足かせとなり、飢餓から抜け出せずにいます。
途上国の飢餓をなくすためには、教育・医療・持続的な農業技術などの整備が不可欠になってくるのです。
ここまでの話から、「日本は義務教育もあるし、ご飯が食べられないほどの貧困とは無縁そう」と思う人もいるかもしれません。
しかし日本では、途上国と異なる貧困や飢餓が問題となっています。
参照元:
・世界食料安全保障と栄養の状態2021|国連食糧農業機関
・飢餓と発展途上国の農業|JICA
日本では相対的貧困による飢餓が問題となっている
日本を含む先進国では、途上国のように貧困や飢餓がまったく起きていないわけではありません。
先進国では「相対的貧困による飢餓」が問題となっています。
相対的貧困とは
相対的貧困とは社会や地域の生活水準と比較して、大多数よりも貧しい状態を指します。
所得で見る場合は、国の等価処分所得(※)の中央値が半分(貧困線)に満たない状態です。
(※)等価処分所得:就労所得や財産所得などの可処分所得を、世帯人数の平方根で割り調整した所得
参照元:p.8「等価世帯所得の分布(2018年値)」|内閣府「選択する未来2.0」有識者懇談会ヒアリング資料|東京都立大学
グラフによると、2018年の等価世帯所得のグラフが示す貧困線は127万。
これは所得が127万以下の人は、相対的貧困層に分類されるということになります。
そして、相対的貧困の影響を大きく受けているのは子どもたちです。
2019年厚生労働省が発表した「2019年 国民生活基礎調査」では、2018年の子どもの貧困率は13.5%でした。
相対的貧困層の子どもたちは、母子家庭や親が病気で働けないなどの理由から1日の食事量や食事回数が少ない子もいます。
さらに近年は、食費以外の生活費に投資していることが原因で、食事から十分な栄養を取れていない家庭も増えているのです。
このように「食べる物がまったくない」だけが飢餓ではなく、必要な栄養が足りていない場合も飢餓に含まれます。
この問題を全員で協力し解決するために、飢餓はSDGsの目標にも設定されました。
参照元:
・相対的貧困とは?絶対的貧困との違いや相対的貧困率についても学ぼう|国際協力NGOワールド・ビジョン・ジャパン
・2019年国民生活基礎調査 各種世帯の所得状況 p.6 貧困率の状況|厚生労働省
飢餓はSDGsでも取り上げられている課題
世界全体で解決しなければならない問題と言われている飢餓は、SDGsの目標にも組み込まれています。
それが目標2「飢餓をゼロに」です。
まずは目標2の内容に触れる前に、SDGsについて解説します。
SDGsとは
SDGsとは、Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)の略語になります。
2015年に開催された国連総会にて、193の加盟国すべてが賛同した国際目標です。
2030年までに達成しなければならない17の目標と、年や数値など具体的な到達点が書かれた169のターゲットによって形成されています。
SDGsは地球上にいる全員が協力し、世界の「環境」「社会」「経済」に関する課題の解決や「誰一人取り残されない世界」を目指します。
それではSDGsがどのようなものか理解した所で、次は目標2「飢餓をゼロに」の内容について見ていきましょう。
目標2「飢餓をゼロに」とは
SDGs目標2は、
・食料を安定して確保できるようにする
・栄養状態の改善を実現
・持続可能な農業の促進
・自然環境や生態系を維持しながらの食料生産
など、「ただ空腹を満たせるようにする」のではなく「あらゆる方面から飢餓と栄養不良の問題を改善していこう」という内容になっています。
そして、目標達成に向けて8つのターゲットが設定されました。
【2.1】 | 2030年までに、飢餓を撲滅し、すべての人々、特に貧困層及び幼児を含む脆弱な立場にある人々が一年中安全かつ栄養のある食料を十分得られるようにする。 |
【2.2】 | 5歳未満の子どもの発育阻害や消耗性疾患について国際的に合意されたターゲットを2025年までに達成するなど、2030年までにあらゆる形態の栄養不良を解消し、若年女子、妊婦・授乳婦及び高齢者の栄養ニーズへの対処を行う。 |
【2.3】 | 2030年までに、土地、その他の生産資源や、投入財、知識、金融サービス、市場及び高付加価値化や非農業雇用の機会への確実かつ平等なアクセスの確保などを通じて、女性、先住民、家族農家、牧畜民及び漁業者をはじめとする小規模食料生産者の農業生産性及び所得を倍増させる。 |
【2.4】 | 2030年までに、生産性を向上させ、生産量を増やし、生態系を維持し、気候変動や極端な気象現象、干ばつ、洪水及びその他の災害に対する適応能力を向上させ、漸進的に土地と土壌の質を改善させるような、持続可能な食料生産システムを確保し、強靭(レジリエント)な農業を実践する。 |
【2.5】 | 2020年までに、国、地域及び国際レベルで適正に管理及び多様化された種子・植物バンクなども通じて、種子、栽培植物、飼育・家畜化された動物及びこれらの近縁野生種の遺伝的多様性を維持し、国際的合意に基づき、遺伝資源及びこれに関連する伝統的な知識へのアクセス及びその利用から生じる利益の公正かつ衡平な配分を促進する。 |
【2.a】 | 開発途上国、特に後発開発途上国における農業生産能力向上のために、国際協力の強化などを通じて、農村インフラ、農業研究・普及サービス、技術開発及び植物・家畜のジーン・バンクへの投資の拡大を図る。 |
【2.b】 | ドーハ開発ラウンドの決議に従い、すべての形態の農産物輸出補助金及び同等の効果を持つすべての輸出措置の並行的撤廃などを通じて、世界の農産物市場における貿易制限や歪みを是正及び防止する。 |
【2.c】 | 食料価格の極端な変動に歯止めをかけるため、食料市場及びデリバティブ市場の適正な機能を確保するための措置を講じ、食料備蓄などの市場情報への適時のアクセスを容易にする。 |
ターゲットには、栄養不良の解消や食料生産に欠かせないレジリエントな農業の実現などが記載されています。
ここまでは、SDGs目標2について解説しました。
次は実際に、目標2の達成に向けて日本企業が行っている取り組みを見ていきます。
飢餓問題に対する日本企業の取り組み
深刻化する飢餓の問題に対して日本の企業は、得意分野を生かす取り組みや無理なく続けられるやり方で課題解決を目指します。
日本航空株式会社
航空運送事業を中心に旅行やクレジットカードなど、幅広く事業展開を行う日本航空株式会社(以下、JAL)では、SDGs目標2の取り組みとして「TABLE FOR TWO 社員食堂プログラム」を実施。
日本初の社会貢献プログラム「TABLE FOR TWOプログラム」を利用して寄付を行っています。
JALの社員食堂で販売されている対象メニュー1品を購入すると、支払金額から20円が寄付される仕組みです。
集められた寄付金は、開発途上国にある学校の給食事業に使用されます。
開発途上国の学校では1食分の学校給食が約20円で作られているため、この金額が設定されました。
さらに対象メニューは、正確に栄養計算がされた健康的な内容となっており、購入者の身体のことも考えた取り組みと言えるでしょう。
このようにJALは、おいしく食べて健康を維持しながら社会貢献ができる取り組みを行っています。
参照元:協賛・寄付、国際協力など|サスティナビリティ|JAL企業サイト|日本航空株式会社
バリュードライバーズ株式会社
バリュードライバーズ株式会社が運営するサービス「tabeloop(たべるーぷ)」は、
・品質に問題はないが形が不揃いな野菜や果物
・大きさが不揃いや漁獲量が少ない海産物
・賞味期限が近い加工食品
上記のような理由により、市場に出せない食品をお得に購入できるフードシェアリングサービスです。
近年、味や賞味期限に問題のない食品を捨てる食品ロスが問題となっています。
平成28年度の日本の食品廃棄量は約2,759万トンもあり、食品ロスはそのうちの約643万トンでした。
これは日本人が、1人あたり茶碗1杯のごはんを毎日捨てていることに相当します。
世界には、その日の食料を得ることも困難な人たちがいるにもかかわらず、私たちは食品を廃棄しているのです。
これ以上食品ロスの増加を防ぐためにも、バリュードライバーズ株式会社は日本の現状を重く受け止め、tabeloopを運営し削減に貢献。
さらに売上金の一部は、飢餓撲滅に取り組む団体に寄付されています。
参照元:
・tabeloopとは|バリュードライバーズ株式会社
・数字で見る食品ロス|tabeloop
・SDGs達成に向けた取り組み | tabeloop
まとめ
世界には、飢餓で苦しむ人が大勢います。
発展途上国では自然災害や紛争などが原因で、食料が手に入らず命を落とすことも珍しくありません。
また先進国では、食事によって空腹は満たされますが、必要な栄養を取れず次第に身体に影響がでるケースが問題となっています。
原因は国や地域によって異なりますが、飢餓は世界的な問題なのです。
この問題を解決するために寄付や食品ロスの削減など、日本でもさまざまな企業が取り組んでいます。
このような取り組みを行う企業が増えれば、飢餓問題もなくなりSDGsの目標2の達成にもつながるでしょう。
地球上に暮らす人々が飢餓で苦しむことのない幸せな世界を築くために、まずは「自分たちに何ができるのか」を話し合うことから始めてみませんか。