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SDGs

SDGsのインパクトをどう測るか|企業が使える測定フレームワーク入門

Photo by Akin Cakiner on Unsplash

「SDGs目標を掲げているのに、何が変わったのか社内でも説明できない」——取材の場で、こうした声を何度聞いたかわからない。ESGレポートを毎年発行している上場企業の担当者でさえ、投資家から「インパクトを数字で見せてほしい」と求められると詰まってしまう場面がある。問題は、取り組みの誠実さではなく、測り方を知らないことにある。日本経済団体連合会が2024年9月に公表した分析(週刊経団連タイムスNo.3652)でも、SDGsインパクト評価の手法を体系的に整理しつつ、「マテリアリティ特定とインパクト評価の連携が今後の課題」と指摘している。この記事では、企業がSDGsの社会的インパクトを測るための代表的なフレームワークと、具体的な手順を整理する。

インパクト測定とは何か|「活動量」と「変化量」の違い

インパクト測定を難しくしている根本の原因は、アウトプット(活動量)とアウトカム(変化量)の混同にある。

たとえば「社員向け研修を100回実施した」はアウトプットだ。「研修を受けた従業員の離職率が前年比3ポイント低下した」がアウトカムであり、そこからさらに「地域の雇用安定にどう波及したか」を問うのがインパクトの領域になる。

国際的に広く参照されているImpact Frontiersの定義では、インパクトとは「組織によってもたらされるアウトカムの変化」とされており、ポジティブ・ネガティブ双方を含む。日本証券業協会のインパクト測定ツール情報サイトも同定義を採用しており、事業会社にとっては「自社事業が社会にどんな変化を与えているか」を把握する手段として位置づけている。

測定の対象範囲はバリューチェーン全体にわたる。経団連の2024年分析では、上流(調達・サプライヤー)・操業(製造・人材)・下流(製品使用・廃棄)の三段階に分けて事例を整理しており、温室効果ガス削減や食品廃棄物削減のようにスコープ1〜3を通じたインパクト測定が先行事例として示されている。

なぜ今、企業に測定が求められているのか

背景には、開示規制の強化とESG投資の拡大がある。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は2023年にIFRS S1・S2基準を公表し、気候関連の財務情報開示を実質的に義務化する流れを加速させた。日本でも金融庁が有価証券報告書へのサステナビリティ情報記載を段階的に拡充しており、2026年3月期決算からの適用範囲拡大が予定されている。

投資家の目線も変化している。みずほリサーチ&テクノロジーズが2024年に公開した分析では、「企業のパーパスやサステナビリティ戦略を見つめ直す機会になる」として、インパクト推計プロセスそのものが経営の自己点検になる点を強調している。つまり測定は報告書のためではなく、戦略の精度を上げるための作業でもある。

代表的な4つのフレームワーク

現在、企業が参照できる主要フレームワークは複数あり、それぞれ目的と粒度が異なる。以下に代表的な4つを整理する。

① ロジックモデル

最も汎用性が高く、規模を問わず使いやすい手法がロジックモデルだ。「インプット → 活動 → アウトプット → アウトカム → インパクト」の因果連鎖を図式化し、何がどのように変化したかを可視化する。

みずほリサーチ&テクノロジーズの2024年解説では、ロジックモデルを使った推計計画について「検証したいテーマがあってこそデータが検討できるが、保有データが明らかになることで検証テーマが吟味される」と述べており、データと仮説の往復作業そのものに意義があると指摘している。実務では、最初から完璧な測定設計を求めず、手持ちのデータから着手することがポイントになる。

② IRIS+(アイリスプラス)

Global Impact Investing Network(GIIN)が提供するIRIS+は、社会・環境インパクトを測定するための指標カタログだ。農業・教育・医療・金融包摂など20以上のテーマ別に、標準化された指標セットが整理されており、SDGsのゴールとのマッピングも提供されている。

日本証券業協会のインパクト測定ツール情報サイトでは、GSG国内諮問委員会「日本におけるインパクト投資の現状と課題(2021年度調査)」を引用しつつ、IRIS+と「5 Dimensions of Impact」が多くの投資家に利用されている代表的ツールとして挙げている。投資家側がこの指標を使って評価することが増えているため、資金調達や投資家対話を視野に入れる企業には特に参照価値が高い。

③ GRI(グローバル・レポーティング・イニシアティブ)スタンダード

サステナビリティ報告書の作成規格として世界最多の企業が採用するGRIスタンダードは、2021年に改訂された「GRI Universal Standards」以降、ダブルマテリアリティ(財務的影響と社会的影響の双方)の開示を要求する構造になっている。個別トピック(GRI 302エネルギー、GRI 403労働安全衛生など)ごとにKPIが指定されており、測定と報告を一体化できる。

経団連の2024年調査でも、シングル・ダブルマテリアリティとSDGsインパクト評価の関係を明確にする必要性が研究課題として示されており、GRIとのアライメントは今後ますます重要になるとみられる。

④ SDGsインパクト基準(UNDP)

国連開発計画(UNDP)が策定した「SDGsインパクト基準」は、企業・ファンド・債券のそれぞれに対応した認証規格だ。SDGsへの貢献を「インテント(意図)・マネジメント(管理)・トランスペアレンシー(透明性)」の三軸で評価する構造になっている。

取材を通じた印象では、この基準はグローバルな機関投資家や国際調達先との対話を想定する企業に特に刺さる。一方、国内中堅企業にとってはまずロジックモデルやGRIから着手するほうが現実的という声も多い。

実務で使えるインパクト測定の4ステップ

フレームワークを知っていても、実際にどこから手をつければよいか迷う担当者は多い。経団連・みずほリサーチ&テクノロジーズの分析、および取材で集めた企業事例をもとに、実務的な4ステップを整理した。

  1. マテリアリティ(重要課題)の特定:自社の事業活動がどのステークホルダーにどのような影響を与えているかをバリューチェーン全体でリストアップする。経団連の2024年分析は、この段階でSDGsゴールへの寄与・毀損の両面を洗い出すことの重要性を指摘している。
  2. ロジックモデルの設計:特定した課題ごとに「何をしたら何が変わるか」の因果仮説を図式化する。この段階では精緻さより「仮説として議論できる状態」にすることを優先する。
  3. KPI・指標の選定とデータ収集:IRIS+やGRIスタンダードを参照しながら、測定可能な指標に落とし込む。みずほRT(2024)が指摘するように「外部の既存データや資源を使うことも求められる」ため、公的統計や業界団体データの活用も選択肢に入れる。
  4. 報告・対話・改善サイクルの確立:測定結果を統合報告書やサステナビリティ報告書で開示し、投資家・顧客・地域社会との対話に使う。開示後のフィードバックを次期のロジックモデル修正に反映させることで、PDCAとして機能し始める。

測定の落とし穴|グリーンウォッシングにならないために

「インパクトを測った」と言えるためには、いくつかの論点を意識しておく必要がある。

CSR・ESG実務の専門家が指摘するように、インパクト評価には「当該CSR活動でどんな変化を生み出したか(価値創出)」と「当該活動がなければ生じなかったインパクトがあるか(必然性・正統性の証明)」という2つの視点がある。後者は「additionality(追加性)」と呼ばれ、自社が介入しなくても同様の変化が起きたケースを除外する考え方だ。これを省略したまま「〇〇件の支援を実施」と発表しても、実質的なインパクトを示したとはいえない。

また、経団連(2024)は「上流(調達・サプライヤー)段階の報告事例は少ない」と指摘している。製造現場や製品の効果は可視化しやすいが、サプライチェーン上流の労働環境や土地利用の変化は測定が難しく、報告から抜け落ちがちだ。このギャップを認識したうえで、「現時点での測定範囲とその限界」を正直に開示することが、グリーンウォッシングのリスク低減につながる。

公開情報から見える「測定難易度」の傾向

公開情報の傾向として、インパクト測定の難易度はテーマによって大きく異なる。複数の企業の開示資料を横断的に見ると、大まかに次のような傾向がある。

  • 測定しやすいテーマ:CO₂排出削減量(スコープ1・2)、廃棄物削減率、再生可能エネルギー比率、従業員研修時間数
  • 測定に工夫が必要なテーマ:サプライチェーン上流の労働環境改善、製品使用後の行動変容(消費者の健康・スキル変化)、地域コミュニティへの波及効果
  • 外部機関との連携が現実的なテーマ:生物多様性への影響、人権デューデリジェンスの進捗、カテゴリ3(スコープ3下流)の排出量

最初から全領域を測ろうとせず、「測れるところから始めて、測れない理由を開示する」スタンスが現実解だ。

中小企業・非上場企業はどこから始めるか

「上場企業の話でしょう」と感じた読者もいるかもしれないが、中小企業にもインパクト測定が求められる場面は増えている。大企業のサプライヤーとして人権デューデリジェンスへの対応を求められるケースや、ESG関連融資・インパクトローンを活用する際の条件として測定が必要になるケースだ。

規模の小さい組織でまず実践できる手順は次の3点に絞られる。

  1. 自社の主要事業が関連するSDGsゴールを1〜2個に絞る
  2. そのゴールに関連するGRIの個別トピック指標から、手持ちデータで計算できる指標を1〜3個選ぶ
  3. 毎年同じ方法で記録し、前年比の変化を対外的に示す

経産省は「サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)」の文脈で非財務情報の可視化を中小企業にも促しており、金融庁・環境省も各種ガイドラインを整備している。完璧な測定体制を整えてから着手するのではなく、小さく始めて改善を重ねることが、結果的に信頼性の高い開示に近づく。

企業事例から読み解く|測定が「経営の言葉」になるとき

取材を通じて印象に残っているのは、インパクト測定を「報告のための作業」から「戦略の精度を上げる道具」として使い始めた企業の変化だ。ある食品メーカーでは、減塩調味料の使用前後に消費者の食塩摂取量を追跡する独自調査を始め、その数値をSDG3(健康と福祉)への貢献の根拠として統合報告書に記載するようになった。経団連(2024)が事例として挙げているように、「製品やサービスを使用することによる顧客へのメリットを報告する」形の測定は、製品開発の優先順位にも影響を与え始めている。

また、サステナビリティ認証取得を支援した調達先の農園数を測定し、調達方針の評価指標にしている事例も報告されている。これはSDG17(パートナーシップ)の文脈でのインパクト測定であり、数字が社内の調達担当と経営陣をつなぐ「共通言語」として機能している。

読者が今日から試せる1アクション

記事を読んで「何から始めればいいかわからない」と感じたなら、まずこれだけ試してほしい。

自社(または自分が携わる事業)の活動をひとつ選んで、「そのアウトプット」と「それによって変化したアウトカム」を紙1枚に書き出してみること。たとえば「環境研修を実施した(アウトプット)→ 受講者の分別廃棄率が〇%改善した(アウトカム)」のように、動詞と数値を入れて書くだけでいい。この作業が、ロジックモデル設計の最初の一歩になる。

まとめ|SDGsインパクト測定で押さえるべきポイント

「活動した」から「変化を生んだ」へ——この転換を数字で示せるかどうかが、これからの企業のサステナビリティ評価を分ける。ロジックモデルで因果仮説を立て、IRIS+やGRIで指標を選び、測定の限界も含めて正直に開示する。その繰り返しが、グリーンウォッシングのリスクを下げ、ステークホルダーとの信頼を積み上げる。

  • インパクト測定の核心は「アウトプット(活動量)」ではなく「アウトカム(変化量)」を捉えること
  • ロジックモデル・IRIS+・GRI・UNDPのSDGsインパクト基準が代表的な4フレームワーク
  • 「測れない範囲を正直に開示する」姿勢がグリーンウォッシングのリスクを低減する
  • 中小企業でもSDGsゴールを1〜2個に絞り、手持ちデータで始められる指標から着手できる
  • インパクト測定は報告書作成の義務作業ではなく、経営戦略の精度を上げる実務ツールとして機能する

内部リンク(テキストリンク):

企業によるSDGsの取り組み事例についてはこちらの企業事例記事もあわせてご覧ください。気候・環境分野のインパクト測定については、気候危機に関する解説記事も参考になります。

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