「カーボン税って税金が上がるってこと?」「自分には関係ないのでは?」——そう思って調べてみたものの、専門用語が多くてよくわからなかった、という声を編集部でもよく耳にします。学生団体のプロジェクト支援をしている中でも、環境問題に関心はあるけれど制度の話になると急に難しく感じる、というパターンはとても多いです。この記事では、カーボン税(炭素税)の基本的な仕組みから日本の現状、2028年度に向けて動き始めた新しい制度まで、読者の疑問を先取りしながら順番に整理していきます。
そもそもカーボン税(炭素税)って何?
「カーボン税」と「炭素税」、どちらも同じ意味で使われます。まず基本的な定義から押さえましょう。
炭素税とは、環境税の一種であり、石炭や石油、天然ガスなどの化石燃料に対して課せられる税金のことです。排出される炭素の量に応じて税負担に差をつけることで、温室効果ガス排出を抑制することが目的になります。 つまり「CO2を多く出すほど、多く払う」という仕組みです。
よくある誤解として「カーボン税は新しい制度だ」というイメージがありますが、実際は違います。 世界で初めて炭素税を取り入れたのは環境先進国のフィンランドで、続いてスウェーデンやデンマークなどが採用し、今はイギリスやフランスを含む欧州全体に広がっています。 歴史的に見ると、すでに数十年以上の実績がある政策手法です。
カーボンプライシングとの違いは?
「カーボンプライシングという言葉も見かけるけど、同じもの?」と迷う方も多いはずです。カーボンプライシングは炭素税を含むより大きな概念です。 炭素に価格をつける仕組み全体がカーボンプライシングと呼ばれ、そのひとつが炭素税であり、もうひとつが温室効果ガス排出枠を取引する「排出量取引(ETS)」です。 炭素税は「価格を行政が決める」のに対し、排出量取引は「市場で価格が決まる」という点が大きな違いです。
日本のカーボン税、今どうなっている?
「日本にはまだカーボン税がない」と思っている方は少なくありませんが、それは半分正解で半分誤解です。
平成24年(2012年)10月1日から「地球温暖化対策のための税」が段階的に施行され、石油・天然ガス・石炭といったすべての化石燃料の利用に対し、環境負荷(CO2排出量)に応じて広く公平に負担を求める形で導入されました。 これが日本版の炭素税に相当する制度です。
ただし問題は税率の水準です。 化石燃料ごとのCO2排出原単位を用いて、それぞれの税負担がCO2排出量1トン当たり289円に等しくなるよう税率が設定されており、急激な負担増を避けるため2012年10月以降、3年半かけて3段階に分けて引き上げられました。
では、289円という水準は世界と比べてどうなのでしょうか。 資源エネルギー庁が2023年5月に公表した情報によると、CO2排出量1トンあたりの税負担は、イギリスで約2,900円、フランスで約6,100円、スウェーデンで約15,600円などとなっており、日本の地球温暖化対策税(CO2排出量1トンあたり289円)よりも、はるかに税負担が大きいことがわかります。 スウェーデンと比べると約54倍の差があります。
温対税の価格効果により、2019年度には約320万トンのCO2削減効果があったとされています(参照:環境省「地球温暖化対策のための税のCO2削減効果」)。また、温対税による税収は2021年度で約2,200億円に達し、この税収は再エネの普及や省エネ技術の導入など、温暖化対策の財源として活用されています。 一定の効果はあるとしつつも、2050年カーボンニュートラルの目標には力不足だという指摘が続いています。
GX(グリーントランスフォーメーション)との関係は?
「GXという言葉を最近よく目にするが、炭素税と何が関係あるの?」という疑問は自然です。 2023年2月に「GX実現に向けた基本方針」が閣議決定され、今後は炭素税を含め、さまざまな形で二酸化炭素の排出量に対するコスト負担が増えていくことが予想されています。
GXとは、脱炭素への取り組みが経済成長につながるよう「エネルギー供給体制を変革する」「投資へのサポートを行う」などの取り組みを通じて、持続可能な脱炭素を実現しようという考え方です。 つまりカーボン税は、GXという大きな政策の一部として位置づけられています。
2028年度から始まる「炭素賦課金」、これは何が変わる?
「日本では炭素税の本格導入はいつになるの?」——この疑問に対して、具体的な動きが出てきています。
政府は、企業の排出量削減を促すため、2028年度から化石燃料を輸入する企業に対し、炭素賦課金の支払いを義務付ける方針を決定しました。電力・ガス会社、商社などを対象とし、徐々に金額を引き上げる計画です。 現行の地球温暖化対策税とは別の新たな制度として注目されています。
多くの国々での導入状況から明らかなように、炭素税や排出権取引などのアプローチは、二酸化炭素排出量削減を実現しつつ、経済成長と環境保護の両立も可能にしています。単なる環境政策ではなく経済政策としても価値を持ち、国際的な産業競争力を念頭に置いた産業政策のツールになりつつあります。 2028年度の炭素賦課金導入は、その流れを日本が本格的に取り込む第一歩といえるでしょう。
また、欧州の動向も無視できません。 炭素国境調整メカニズム(CBAM)とは、国際的な取引において二酸化炭素排出量に応じたコストを負担させる仕組みで、課金は2026年度から発生する予定です。日本企業であっても国際的に取引をしていれば、このような海外における炭素課金の施策の影響を受けることになります。 グローバルに事業を展開する企業は、日本国内の制度だけでなく欧州ルールの動向も追っておく必要があります。
カーボン税のメリットとデメリット、正直なところは?
「税金が増えるのは困る」という感情は自然です。一方で「脱炭素に必要な制度だ」という意見もあります。どちらも正しい側面を持っています。支援してきた学生団体でも「炭素税は正義か搾取か」でよく議論になりましたが、メリットとデメリットを整理して考えると、見方が変わってきます。
期待できる3つの効果
炭素税には大きく分けて3つのプラス効果があるとされています。
- 価格効果:化石燃料のコストが上がることで、省エネや再生可能エネルギーへの切り替えが経済合理的な選択になる。
- 財源効果:税収を活用して中長期的な環境改善に投資する「財源効果」として、企業や自治体が再エネ設備を導入する際の補助金や、省エネ技術の研究開発費に使われる仕組みです。
- 行動変容効果:製品やサービスを選ぶ際、製造時や使用時のCO2排出量の少ないものが好まれるようになり、省エネに対する意識が高まり、環境への負担が軽減されるでしょう。
議論になっている3つの課題
一方、課題として繰り返し取り上げられるのが以下の3点です。
- 低所得者への逆進性:税金を増やすことは企業や消費者の負担を増やすことにもつながります。特に生活必需品への支出割合が高い低所得者にとっては大きな負担であり、低所得者への還元を行うなど、負担を軽減するための措置が必要となるでしょう。
- 産業競争力への影響:税率が高くなるほど、国際競争にさらされる産業のコスト負担が増す。これが炭素賦課金の設計でも大きな論点となっています。
- 経済成長との両立:日本政府は炭素税の導入について、経済成長が損なわれる事態は避けるべきだとして慎重な姿勢を示しています。 ただし欧州の事例は、適切な設計があれば両立できることも示しています。
世界の炭素税、どれくらい進んでいるの?
「日本だけが遅れているのか?」と思う方も多いはずです。世界の状況を確認しておきましょう。
欧州諸国だけではなく、近隣国でも炭素税の導入が進んでいます。たとえば、シンガポールでは2019年に炭素税を導入し、2024年までに税率を段階的に引き上げる計画です。さらに、インドネシアなどの新興国でも導入が進められており、アジア全体で炭素税を含むカーボンプライシングの取り組みが広がりつつあります。
中国についても見逃せません。 中国では2020年9月に習近平総書記が「2030年までにCO2排出量をピークアウトさせ、2060年までにカーボンニュートラルを実現する」という目標を正式に宣言し、現在は排出量取引制度(ETS)が実施されています。
この世界的な流れの中で、日本は「温対税という炭素税的な制度を持ちながらも、税率の低さから効果が限定的」という立ち位置にあります。2028年度の炭素賦課金導入は、その差を縮める試みとして国際的にも注目されています。
MIRASUSが整理|「カーボン税」を理解するための3つの視点
編集部でこのテーマに関するさまざまな公開情報を整理してきた中で、カーボン税を考える際に特に有効だと感じる3つの視点を共有します。
視点①「税率の高さ」ではなく「使い道の透明性」が鍵支援してきたプロジェクトの中では「税が上がること自体への不満」よりも「その税収がどこに使われるかわからない」という不信感のほうが、行動変容を妨げていると感じることが多くありました。 税収は省エネルギー対策、再生可能エネルギー普及、化石燃料のクリーン化・効率化などのエネルギー起源CO2排出抑制の諸施策に活用されることとされています。 この使途を具体的に知ることで、制度への理解が深まります。
視点②「企業だけの問題」という誤解を解く炭素賦課金の対象は電力・ガス会社や商社ですが、そのコストは最終的に電気代・ガス代・製品価格として消費者にも及びます。 一般家庭における電気代やガソリン代への影響も避けられず、私たちの生活にも密接に関わる政策です。 「遠い話」ではなく「自分の家計と直結する話」として捉えることが大切です。
視点③「脱炭素はコストか投資か」という問いを持つ炭素税の議論は往々にして「負担増か否か」の二項対立になりがちです。しかし長期的に見れば、脱炭素に取り組むことによる経済的なメリットが数字として可視化されるため、効率的に脱炭素化を進めることができます。また、環境への配慮やクリーンエネルギーの利用が、製品や事業に対して付加価値をもたらし、投資や消費の促進につながれば、さらに脱炭素は加速することが考えられます。 この視点が、炭素税を「コスト」ではなく「社会変革の投資」として読み直す鍵になります。
関連する環境・エネルギー政策の全体像は、こちらの記事でも整理しています。
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気候危機の文脈でカーボン税を位置づけたい方は、こちらもあわせてご覧ください。
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今日からできる1アクション
「制度のことはわかったけど、自分に何ができるの?」と思った方へ。まず1つだけ試してほしいことがあります。
自宅や職場の電力会社・料金プランを調べ、再生可能エネルギー由来の電力メニューがあるか確認してみてください。炭素賦課金が導入されると、化石燃料由来の電力コストは段階的に上がっていく見通しです。今のうちから選択肢を把握しておくことは、家計への備えにもなり、CO2削減にもつながる行動です。切り替えるかどうかの判断は、まずその選択肢を知ることから始まります。
クリーンエネルギーの選び方についてはこちらも参考にしてください。
エシカルな消費行動として炭素税問題を考えたい方はこちら。
企業の脱炭素取り組み事例が気になる方はこちらもどうぞ。
まとめ
カーボン税(炭素税)とは、化石燃料の使用によるCO2排出量に応じて課される税であり、地球温暖化対策の中心的な政策ツールのひとつです。日本では2012年から「地球温暖化対策のための税(温対税)」が導入されていますが、税率は世界水準と比べて低く、2028年度からは新たに炭素賦課金の導入が決まっています。「難しい制度の話」に見えますが、電気代や物価を通じて私たちの生活とも直結しています。
- カーボン税とは、CO2排出量に応じて化石燃料に課す税であり、カーボンプライシングの一種
- 日本では2012年から「温対税」(CO2排出量1トンあたり289円)が導入済みだが、欧州主要国と比べて税率は大幅に低い
- 2028年度からは新制度「炭素賦課金」の導入が決定し、電力・ガス会社・商社などが対象となる
- メリットはCO2削減・税収の再投資・行動変容促進の3点。課題は低所得者への逆進性と産業競争力への影響
- 欧州のCBAM(炭素国境調整)により、海外と取引する日本企業は2026年度以降、国外の炭素コストの影響を受ける

