ZEB(ゼブ、Net Zero Energy Building)は「ゼロエネルギービル」とも呼ばれ、快適な室内環境を保ちながら、省エネと創エネによって建物の年間の一次エネルギー消費量を正味ゼロに近づける建築物です。2025年4月からすべての新築建築物に省エネ基準への適合が義務づけられ、「ZEB義務化」という言葉を見かけるようになりました。ただし、義務になったのはZEBそのものではなく、その手前にある省エネ基準です。
この記事では、何が義務で何が目標なのか、2026年10月時点で日本のZEBはどこまで進んでいるのかを整理します。あわせて、オフィスや学校に関わる人が建物について何を確かめられるかを紹介します。
「ZEB義務化」で実際に義務になったこと
「ZEB義務化」と聞くと、すべての新築ビルがZEBにならなければいけないように読めます。実際には、法律で義務になっているのは省エネ基準への適合で、ZEBはそれより高い水準です。この違いを押さえると、ニュースや不動産広告の読み方が変わります。
2025年4月に義務になった省エネ基準への適合
国土交通省の資料によると、2025年4月1日以降、新築・増改築される住宅と非住宅のすべてが省エネ基準への適合義務の対象になりました。増改築では、増改築を行った部分が適合の対象です。建築確認の段階で適合が確認できなければ確認済証は交付されず、着工できません。
これまで小規模な建物や住宅は義務の対象外でした。その線が引き直され、新築はすべて一定の省エネ性能を満たす時代に入った、というのが2025年4月の意味です。
ZEB水準は2030年度に向けた目標
ZEBの水準は、この義務の基準よりもう一段高い位置にあります。2025年2月に閣議決定された第7次エネルギー基本計画は、2030年度以降に新築される住宅・建築物でZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能を確保することを目指す、と示しています。2050年には、既存の建物を含めたストック平均でその水準を目指す方針です。政府は、省エネ基準を遅くとも2030年度までにZEH・ZEB水準へ引き上げるとしています。
国土交通省の資料では、非住宅のZEB水準は、再エネを除いた一次エネルギー消費量を現行基準から用途に応じて30%または40%削減する水準とされています。小規模建築物は20%です。つまり「ZEB水準への義務化」は、現時点では決まった制度ではなく、基準を段階的に引き上げていく方向性です。
2026年4月に引き上げられた中規模非住宅の基準
その第一歩として、2026年4月1日には延べ面積300㎡以上2,000㎡未満の中規模非住宅の基準が引き上げられました。省エネ適合性判定を2026年4月1日以降に申請する建築物が対象で、現行基準から15〜25%強化されます。事務所等で一次エネルギー消費量の基準値(BEI)は0.80、用途によっては0.85とされています。
これは、街中の小さなオフィスビル、診療所、店舗などに直接かかわる変更です。大規模ビルだけの話だと思っていた人にも、設計や建て替えの検討で影響が出ます。
ZEBの仕組み|省エネと創エネの組み合わせ
ZEBは、冷暖房を我慢したり照明を落としたりして使用量を減らす建物ではありません。建物の性能そのものを高めて消費量を構造的に小さくし、足りない分を建物の側でつくる、という考え方で成り立っています。
4つの技術で消費量を減らし、つくる
省エネには二つの手段があります。一つは、高断熱化、日射遮蔽、自然採光・自然通風といったパッシブ技術です。もう一つは、高効率な空調・換気・照明・給湯設備といったアクティブ技術です。パッシブ技術で建物の負荷を小さくしたうえで、設備の効率を上げると、同じ快適さでもエネルギーの使用量は大きく下がります。
創エネは、主に太陽光発電など再生可能エネルギーで消費量を賄う部分です。再エネ全体の仕組みや種類は、次の記事も参考になります。
4つの区分の見分け方
ZEBには達成度に応じた4つの区分があります。環境省のZEB PORTALによると、いずれも基準一次エネルギー消費量からの削減率で決まります。
最上位の「ZEB」は、再エネを除いて50%以上削減し、再エネを含めて100%以上削減する建物です。年間の一次エネルギー消費量が正味ゼロかマイナスになります。「Nearly ZEB」は、再エネを除いて50%以上削減したうえで、再エネを含めて75%以上100%未満の削減を達成します。
「ZEB Ready」は、再エネを除いて50%以上削減する建物で、高断熱の外皮と高効率な設備が要件です。創エネは求められません。「ZEB Oriented」は延べ面積10,000㎡以上の建物が対象で、事務所・学校・工場等は40%以上、ホテル・病院・百貨店・飲食店・集会所等は30%以上の削減が求められます。さらに、評価ツールで未評価の技術を導入することが条件です。
大規模ビルでは、屋上の面積に対して使うエネルギーが大きいため、再エネだけでゼロにするのは難しくなります。そのため「まず省エネで50%以上」を確保するZEB ReadyやZEB Orientedが、現実的な入口として設けられています。
日本の現在地|市場と民間企業の動き
制度の整備が進むなか、市場と民間の実績はどこまで来ているのでしょうか。出典が確認できる数字で見ていきます。
市場規模は約1.2兆円から2035年度に約8.9兆円へ
矢野経済研究所が2025年10月16日に発表した調査によると、ZEBの国内市場規模(工事費ベース)は2024年度が約1.2兆円です。2030年度に約8.6兆円、2035年度に約8.9兆円へ拡大すると予測されています。対象は、ZEBプランナーが設計したZEB水準の非住宅建築物で、工場・作業場と倉庫は除かれています。
同社は拡大の要因として、官庁施設の基準改定、環境貢献や対外的なアピールを目的に民間の建築主がZEBを求める動き、政府目標の三つを挙げています。なお、これは民間調査機関の予測であり、政府の統計ではありません。
民間企業の実績
実績の側では、住宅メーカーなど一部の企業が公表している数字から傾向が読み取れます。積水ハウスは2026年4月22日の発表で、2025年度の非住宅建築のZEB比率(ZEB Ready以上)が55%となり、目標の50%を達成したと報告しました。前年度の43%から12ポイント上がり、受注は236棟(2026年3月末時点)です。
一社の数字を全体に当てはめることはできません。ただ、受注の半分を超える規模でZEB Ready以上を標準にできている企業が出てきたことは、「特別な建物」から「選択肢の一つ」へ位置づけが移りつつある例として読めます。
また矢野経済研究所は、ゼネコンが過去のZEB設計データとBIMを使った設計支援システムを開発し、設計の初期段階からZEBを検討しやすくしている動きにも触れています。ZEBの普及は、補助金や制度だけでなく、設計側の道具の整備にも支えられています。
公共建築物と学校のZEB化
民間の動きが先行する一方で、地域の暮らしに近い公共施設はどうでしょうか。ここは、読者にとって最も身近な論点かもしれません。
国の庁舎などは、官庁施設の環境保全性基準の改定により、2022年4月以降の新築が原則として「ZEB Oriented相当以上」とされています(矢野経済研究所の整理)。国が率先して基準を引き上げた形です。
自治体の学校でも、ZEB Readyの実例が出てきました。東京都江戸川区の区立下小岩小学校は、ZEB Ready認証を取得した公立小学校として都内で初めて竣工し、2025年4月に新校舎の供用が始まりました。区の発表によると、光と風を取り込みやすい凹凸のある建物形状、断熱性を高めたLow-E複層ガラス、西日を抑える展示パネルなどが特徴です。
一方、学校は全国に数が多く、建て替えや大規模改修の機会が限られます。ZEB化を進めるには、その機会に合わせて設計段階から性能目標を決めておくことが前提になります。公共施設の更新計画のなかでZEB水準をどう位置づけるかは、自治体ごとの差が出やすい部分です。
既存ビルのZEB化|新築より難しい理由と進め方
2050年にストック平均でZEB水準を目指すとなると、焦点は新築より既存の建物です。すでに建っているビルを改修してZEBに近づけた例が出ています。
築年数の古いビルでもZEB Readyに届いた例
大阪府が令和7年3月に発行したZEB事例集には、既存ビルの改修でZEB Readyを取得した例が載っています。大成建設の関西支店ビル(大阪市中央区)は、1992年に竣工し、2023年3月に改修されました。BEIは0.37で、基準値に対して約63%の削減に相当します。日建ビル1号館(同)は1968年に竣工し、改修を経てBEI 0.42とされています。
ZEB Readyの要件は削減率50%以上、つまりBEIにすると0.5以下です。築30年から50年を超える建物でも、この水準に届く例があることが分かります。ただし、これは大規模な改修をした個別の事例です。すべての既存ビルで同じ結果になるとは限りません。
改修時期と費用を合わせて考える
既存ビルのZEB化は、外壁や窓の断熱、空調・照明の更新、太陽光発電の設置など、工事の範囲が広がるほど費用が増えます。そのため、設備の更新時期に合わせて断熱や設備更新をまとめて検討し、長期の光熱費削減と合わせて採算を見るのが基本です。
補助を使う場合の見方
環境省は、既存の業務用建築物の脱炭素改修を支援する「業務用建築物の脱炭素改修加速化事業(脱炭素ビルリノベ事業)」を、環境共創イニシアチブ(SII)を執行団体として実施しています。2025年度(令和7年度)は先導モデル導入事業の公募が2025年6月10日から7月11日まで行われました。公募時期や要件は年度ごとに変わります。2026年度の最新の条件は、事務局の公募ページで確認してください。
誤解されやすい点と、ZEBがもたらすもの
ZEBは分かりやすい言葉である分、誤解も生まれやすい概念です。ここでは、特に混同されやすい点を整理します。
「ZEBなら電気代ゼロ」ではない
ZEBの「ゼロ」は、年間の一次エネルギー消費量を、再エネの発電量と収支で見たときの話です。ZEB Readyは創エネを含まず、削減率は50%以上という意味です。区分によって、電気使用量がゼロに近いとは限りません。また、ZEBは建物の運用時のエネルギーを対象にしており、建設や解体の際の排出は含みません。矢野経済研究所は、建設から解体までの排出を扱うホールライフカーボンの算定・開示を義務づける「建築物LCA制度」が2028年度に開始予定としています。
敷地外の再エネは算定に入らない
環境省の定義では、ZEBの判定で数えられる再エネは敷地内のものに限られます。自家消費分と売電分は含まれます。したがって、敷地外で発電された再エネ電力を購入したり、証書を購入したりしても、ZEBの区分は変わりません。証書の仕組み自体は次の記事で整理されています。
表示を確かめるには
「ZEB」「ZEB対応」といった表現は広告でも使われます。どの区分なのか、第三者機関による評価(BELSなどの建築物省エネルギー性能表示)を受けているのかを確認すると、判断しやすくなります。「環境に優しい」といった漠然とした言葉ではなく、区分や削減率の数字で語られているかどうかが目安です。
期待されるメリット
環境省は、ZEBの効果として、CO₂排出の削減に加えて、光熱費の削減や有事の事業継続性の向上を挙げています。高断熱の建物は室温のムラが少なく、快適さにつながると考えられており、企業にとっては脱炭素経営の発信や、働く人の快適性にも関わります。ただし、費用との釣り合いは建物ごとに異なります。
あなたの立場で確かめられること
ZEBは建築・不動産の専門家だけのテーマではありません。日々使っている建物に関わる立場ごとに、確かめられる点があります。
オフィスを借りる・働く立場
入居するビルや自社のオフィスについて、省エネ性能の表示(BELSなど)があるか、ZEBの区分は何かを、ビル管理者や不動産会社に尋ねることができます。企業の脱炭素の取り組みを説明する際にも、「ZEB Ready」「Nearly ZEB」といった区分は具体的な根拠になります。
学校や公共施設に関わる立場
学校の建て替えや公共施設の更新計画は、自治体の議会資料や公開された計画で読めることが多くあります。そのなかで、ZEB水準が検討されているか、改修時期はいつかを確認すると、地域の建物が将来どうなるかが見えてきます。江戸川区のように、実例を参考に検討を始めた自治体もあります。
ビルを所有・管理する立場
次の設備更新や大規模修繕の計画を、断熱や省エネの視点で見直す機会があるかもしれません。年度後半の今は、来年度の計画や予算を考える時期でもあります。補助事業は年度ごとに条件や公募期間が変わるため、早めに事務局の情報を確認すると選択肢が広がります。
まとめ
2025年4月に義務になったのはすべての新築での省エネ基準への適合で、ZEBそのものではありません。ZEB水準は、2030年度に向けて基準を段階的に引き上げていく政府の目標です。その途中経過として、2026年4月には中規模非住宅の基準が引き上げられました。
民間では市場規模の拡大が予測され、積水ハウスのように受注の半数以上でZEB Ready以上を標準にする企業も出ています。公共施設では江戸川区の小学校のような実例が出てきました。既存ビルでも、築年数の古い建物をZEB Readyまで改修した例があります。一方で、学校や公共施設の更新、既存ビルの改修は、まだこれから取り組みが広がる分野です。
建物は、私たちが毎日使い続けるものです。まず、自分が働くビルや通う施設について、省エネの表示や計画を1つ調べてみてください。それが、建物の脱炭素を身近に考える入口になります。
- 2025年4月に義務になったのは、すべての新築での省エネ基準への適合で、ZEBそのものではない
- ZEB水準への引き上げは2030年度に向けた方針で、2026年4月には中規模非住宅の基準が先に強化された
- ZEBは4区分があり、区分ごとに削減率と再エネの要件が異なる。数えられる再エネは敷地内のものに限られる
- 新築の実績は広がり始め、既存ビルや学校など公共施設の改修はこれからの分野
参考文献
- 国土交通省「建築省エネ法に基づく適合義務制度」(2025年)
- 国土交通省「住宅:建築物省エネ法 最新の法令」(2026年10月閲覧)
- 資源エネルギー庁「エネルギー基本計画(令和7年2月)」(2025年)
- 環境省 ZEB PORTAL「ZEBの定義」(2026年10月閲覧)
- 矢野経済研究所「ZEB市場に関する調査を実施(2025年)」(2025年)
- 積水ハウス「2025年度のZEH・ZEB比率 各種目標を達成」(2026年)
- 江戸川区「ZEB Ready認証の区立小学校 新校舎供用開始」(2025年)
- 大阪府「ZEB事例集」(2025年)
- 環境省「業務用建築物の脱炭素改修加速化事業(脱炭素ビルリノベ先導モデル導入事業)」(2025年)



