水不足や洪水、水質汚染……。水をめぐる問題は今や「一時的な危機」ではなく、後戻りできない段階に達しているといいます。2026年1月、国連大学が発表した報告書は、世界がすでに「水破産」の時代に入ったと警告しました。日本でも他人事ではありません。上水道の老朽化、渇水リスクの高まり、バーチャルウォーターへの依存——。この記事では、世界と日本の水資源をめぐる現状と課題、そして私たちにできる対策を整理します。
「水危機」ではもう足りない|国連大学が警告する「水破産」
2026年1月20日、国連大学は世界が地球規模の「水破産(global water bankruptcy)」の時代に入ったとする報告書を公表しました。この報告書では、「水危機」や「水ストレス」といった言葉ではその深刻さをもはや捉えきれないと指摘しています。
具体的には、アフガニスタンの首都カブールは近代都市として初めて水が枯渇する可能性があるとされ、メキシコ市では地下帯水層からの過剰なくみ上げにより大規模な地盤沈下が進んでいるといわれています。
国連大学水・環境・保健研究所(UNU-INWEH)は、世界はもはや「水危機」を超え、地球規模での「水破産」の状態に陥っていると位置づけています。
報告書の著者でもある国連大学水・環境・保健研究所のカーヴェ・マダーニ所長は「多くの地域で人々は水文学的な限界を超えており、重要な水システムの多くはすでに破産状態にある」と述べるとともに、農業の転換やAI・リモートセンシングを活用した水監視の強化、湿地や地下水の保護強化など、一連の行動を求めています。
数字で見る|世界の水資源の現実
地球上に水は豊富にあるように思えますが、実態は異なります。
地球の表面の約70%は水で覆われており、地球上の水の総量は14億立方キロメートルと推定されますが、淡水のほとんどは南極・北極の氷や氷河であり、人が利用しやすい河川や湖沼などの水は地球上の水の総量のわずか0.008%にすぎないとされています。
現時点で世界では20億人を超える人々が安全に管理された飲料水へのアクセスを欠いており、約40億人が年に少なくとも1か月は深刻な水不足を経験しているとされています。農業における需要だけで水使用全体の約70%を占めており、さらに淡水への負荷は将来的に大幅に増加すると予測されています。
地下水の過剰利用も深刻です。
豊富な地下水を利用する穀倉地域では過剰なくみ上げによる地盤沈下や資源の枯渇が問題となっており、アメリカでは8州にまたがる巨大な地下水層の過剰利用が深刻化しているとされています。
また、国際河川をめぐる「水紛争」も現実の問題です。
複数の国家が使用権を持つ河川・湖沼が世界各地に存在し、その権利をめぐって各地で水紛争が起きています。中国からベトナムに向かって流れるメコン川では、上流の中国が大規模なダムを建造したことで、下流のカンボジア、タイ、ラオス、ベトナムなどで急激な水位低下が続き、農業や漁業、生態系に深刻な被害を及ぼしているといわれています。
日本は「水が豊か」は本当か
「日本は雨が多くて水が豊かな国」というイメージは、必ずしも正確ではありません。
国土交通省によると、日本の年間平均降水量は1,718mmと世界平均の約2倍ですが、実は1人あたりの水資源量は世界平均を下回っているとされています。
日本では河川の流量が一年を通じて変動が大きく、安定的な水利用を可能にするためにダムや堰などの水資源開発施設を整備してきた経緯があります。近年は渇水が頻発しており、各地で安定的な水の供給が損なわれることが懸念されています。
また、日本が食料輸入を通じて大量の「見えない水」を世界から取り込んでいる点も見逃せません。
日本は食料自給率が低く、作物や畜産物を育てるのに必要な水を海外に肩代わりしてもらっているため、いわゆる「バーチャルウォーター」に依存しているといえます。
さらに、インフラ面でも課題が山積しています。
高齢化や人口減少による水源地域の森林・農地の荒廃、そして高度経済成長期に整備された水インフラの老朽化が急速に進んでおり、これに起因する事故発生時のリスクが高まっています。
対策の方向性|流域全体で取り組む「健全な水循環」
課題が複合的に絡み合う水問題に対して、どのようなアプローチが求められているのでしょうか。
流域全体の連携と生態系の保全
水循環の基盤となる森・里・川・海を連続した空間として捉え、流域全体の生態系を保全・再生していく取り組みが必要とされています。
森林が健全であれば雨水が地中にしみ込み地下水を涵養する機能が保たれ、洪水や渇水のリスクも軽減されます。
雨水・再生水の活用
雨水・再生水の重要性が再認識され、近年導入事例が増加しています。しかし、依然として利用量は全体から見れば少量にとどまっているため、今後さらに増やしていくことが求められています。
テクノロジーの活用
国連大学の報告書は、AIやリモートセンシングを活用した水監視の強化を求めており、水資源の管理・保護に向けたデジタル技術の導入が世界的に注目されています。
国際協力と資金拡充
国連水関連機関調整委員会(UN-Water)は、水と衛生施設に関連するSDGsの達成に必要な年間資本投資額が現状の投資水準の3倍に上るとする試算があるとされており、知識の共有や能力育成、技術移転も不可欠だとしています。
私たちにできること
水問題は遠い途上国の話ではなく、日常のすぐそばにあります。日頃の節水はもちろん、食品ロスの削減や国内産品の選択もバーチャルウォーターの観点から有意義な行動です。
SDGs目標6「安全な水とトイレを世界中に」は、2030年までに誰もが安全な水を適切な価格で利用できることを目指しており、水資源は持続可能な社会を考えるうえで欠かせないテーマです。
水を「当たり前のもの」と思わず、その価値に気づくことが、個人の行動変容の第一歩になります。まずは身近なところから、水との関わり方を見直してみませんか。

