毎年3月22日は、国連が定めた「世界水の日(World Water Day)」です。2026年は3月22日まであと2週間足らず。いま世界では水をめぐる危機が静かに、しかし確実に深刻化しています。気候変動による降雨パターンの変化、人口増加、そしてAI時代における新たな水需要の増大。「当たり前」にある水を見直すいま、日本と世界の最前線を整理します。
世界水の日とは|SDGs目標6が掲げる「2030年」の約束
「世界水の日(World Water Day)」は、淡水の保全と持続可能な淡水資源管理の促進への人々の意識を啓発し、各国の行動につなげるため、1992年6月にブラジルで開催された地球サミット(環境と開発に関する国連会議)でのアジェンダ21採択を経て、同年12月の国連総会で決議されました。1993年から毎年3月22日に制定され、以降、世界中でさまざまな催しやキャンペーンなどが行われています。
この日は、SDGsの目標6「安全な水とトイレを世界中に」の達成に向けた行動を促す日でもあります。しかし現実は厳しく、最新のデータによると、世界人口の半数の家には安全に管理された衛生設備がなく、4分の1が安全な飲料水を利用できず、3分の1近くは水とせっけんを備えた手洗い場が自宅にないとされています。これらは、SDGs目標達成にはほど遠い現状を示しています。
世界では、約10人に1人、7億3,000万人が清潔な水を利用できないなか生活しているとされています。また、清潔な水やトイレが利用できないことで、毎日800人の5歳以下の子どもたちが命を落としているという報告もあります。
水危機を加速させる2つの要因|気候変動と人口増加
水資源の問題を複雑にしているのは、気候変動と人口増加という2つの大きな力です。
地球は熱くなっています。海面が上昇し、降雨パターンが変化し、河川の流量が減少しています。その結果、ある地域では干ばつが発生し、別の地域では洪水や海岸浸食が発生しています。一方で、水の汚染や過剰消費は、すべての生命が依存している新鮮できれいで入手しやすい水の供給を脅かしています。
気候変動や都市化、人口増加により、水資源をめぐる争いは激化する一方で、2030年までには世界の人口の半分が水不足の状況で暮らすことになるとされています。
2022年11月15日には世界人口が80億人に達しました。今後、2030年までに約85億人、2050年には97億人に増えると予測されています。
人口が増えれば増えるほど、安全な水へのニーズは高まります。しかし、農業・生活・産業で使われる水の量もともに膨らみ、需給ギャップは拡大する一方です。
さらに、現在、153の国々が水資源を共有しているとされています。しかし、共有しているすべての水について協力協定を報告しているのは、わずか24カ国にすぎないという指摘もあります。
水資源は国境を越えて存在するにもかかわらず、管理の枠組みは国際的にいまだ十分ではないのが現状です。
日本は「水の恵まれた国」なのか|渇水と水道管の老朽化
「日本は水が豊富な国」というイメージを持つ方も多いでしょう。確かに日本の年間降水量は世界平均の約2倍ですが、実際に使える水の量は限られています。
日本の地形は急な場所が多くて河川が短く、さらに梅雨期や台風期に雨が集中して降るため、ほとんどの水は使われることなく海に流れるなどしてしまいます。私たちが使用できる水は約770億立方メートルであり、降水量の総量の約10%に過ぎないとされています。
その影響は現実の問題として表れています。
令和7年12月11日に渇水情報連絡室が設置され、2026年3月2日時点では、中部地方整備局、近畿地方整備局、四国地方整備局、九州地方整備局に渇水対策本部が設置されています。
冬から春にかけての少雨が、複数地域で同時に渇水対策を迫っている状況です。
加えて、日本が直面しているもう一つの課題が水道インフラの老朽化です。高度経済成長期に整備された水道管は各地で更新時期を迎えており、水道料金の値上げや地方の水道事業の持続性が社会問題として浮上しています。
AI時代の「見えない水消費」|データセンターが生む新たな需要
近年、新たな水消費の主役として注目されているのがデータセンターです。
世界的にデータセンターの建設が急増するなか、サーバー冷却のために膨大な「水」が必要となっています。気候変動による地球上の水循環システムの不安定化も深刻になるなか、新興国での需要拡大、そして急速に進化するAIに絡んだ需要増などを背景に、安全な水の供給・管理や再利用の重要性は高まるばかりです。
AIモデルの学習や推論処理は膨大な熱を発し、その冷却に大量の水が使われます。私たちが日々利用する検索やチャットの裏側で、見えない形で水が消費されているとも言えます。データセンターの立地や冷却方式の選択が、地域の水資源に直接影響する時代が来ています。
企業と個人に求められる「水リスク」への意識
水資源は、多くの企業の生産活動や調達する原材料の生産に不可欠であるため、水資源の需給ギャップの拡大は企業収益に直接的に影響を与えます。国連は現在の消費と生産パターンが変わらなければ、2030年までに世界の水供給が40%不足すると予測しているとされています。
企業の間では、サプライチェーン全体での水リスク評価が求められるようになっています。CDPの水セキュリティ評価への参加企業も増えており、世界で330社を超える企業がCDP気候変動、フォレスト、水セキュリティいずれかのAリストに認定され、Aリスト企業のうち91社が日本企業であり世界で最多となっているとされています。
投資家からの視線も厳しくなるなか、水リスクの開示と対策は企業経営の新常識になりつつあります。
私たちにできること|「水の日」を行動の出発点に
現在、世界で利用されている約80%の水は「廃水」として捨てられ、川や海、大地に流されているとされています。生活用水や経済活動に使われた水は河川の水質汚染につながり、生態系が崩れるだけでなく、人間の生活環境や健康にも悪影響を及ぼします。
私たちの日常生活でも、節水や水の使い方を見直すことは十分に意味があります。食器洗いひとつとっても、使い方を工夫するだけで消費量を大幅に減らせます。また、3月22日の世界水の日には、ウォーターエイドジャパンなどが毎年キャンペーンを行っており、SNSで発信したり身近な人に水問題を伝えたりすることが、関心の輪を広げる第一歩になります。
水の問題は「遠い国の話」ではありません。渇水が続く国内の現状、老朽化するインフラ、AIが生む新たな消費——あらゆる角度から水は私たちの生活に直結しています。3月22日の世界水の日を前に、いま一度「水」と向き合ってみませんか。

