2030年を期限とするESD(持続可能な開発のための教育)の国際枠組み「ESD for 2030」は、2026年を迎え、ちょうど折り返し地点を過ぎたところにあります。気候変動や生物多様性の喪失、貧困や格差といった複合的な課題が深刻化するなかで、「次世代の担い手を育てる」という教育の役割はかつてなく重みを増しています。日本ではこの枠組みのもと、学校現場での実践が着々と積み重ねられていますが、普及の広がりと中身の深化という二つの課題が残っています。ESDはいま、どこまで来て、何を問われているのでしょうか。
ESD for 2030とは何か
「ESD for 2030」は、2019年11月の第40回ユネスコ総会で採択され、同年12月の第74回国連総会で承認されました。2020年から2030年を実施期間とするESDの国際的な枠組みであり、ESDの強化とSDGs全17目標の実現への貢献を通じて、より公正で持続可能な世界の構築を目指すものです。
ESD(Education for Sustainable Development:持続可能な開発のための教育)は、持続可能な社会の創り手を育むため、現代社会における地球規模の諸課題を自らに関わる問題として主体的に捉え、その解決に向けて自分で考え、行動する力を身に付けるとともに、新たな価値観や行動等の変容をもたらすための教育です。もともと2002年の「持続可能な開発に関する世界首脳会議」において日本政府が提唱した考え方であり、ユネスコを主導機関として国際的に推進されています。
2019年12月の国連決議においても、ESDがSDGsの全ゴールを達成するための鍵であることが確認されています。
つまりESDは、環境や貧困といった個別テーマを教える教育ではなく、持続可能な社会を自ら「つくっていく人」を育む、より根本的な教育の考え方です。
日本の学習指導要領とESD
日本はESDを国際的に提唱した当事国として、国内の教育制度への組み込みを継続的に進めてきました。
2016年12月に発表された中央教育審議会の答申では、「持続可能な開発のための教育(ESD)は次期学習指導要領改訂の全体において基盤となる理念である」と明記されました。
ESDは、「持続可能な社会の創り手」の育成を掲げる2020年度からの学習指導要領においても基盤となる理念とされており、各教科でも関連する内容が盛り込まれています。
これは単に「環境の授業」を増やすという話ではありません。
「地球温暖化と言われても、自分とどう関わるのかよくわからない」という状態では行動にはつながらない、と指摘されるように、ESDでは知ることで価値観が変わり、価値観が変わることで行動へとつながる学びの連鎖が重視されます。
国語、社会、理科、家庭科……すべての教科の中で、持続可能性という視点を横断的に育んでいくのがESDの本質です。
ユネスコスクール|拠点校が担う役割
ESDの実践拠点として国際的に位置づけられているのが「ユネスコスクール」です。
ユネスコスクールは、ユネスコの理念を学校現場で実践するための国際的なネットワーク「ASPnet」に加盟した学校であり、日本では文部科学省および日本ユネスコ国内委員会によってESDの推進拠点と位置づけられています。ユネスコスクールでは、平和や国際的な連携を実践し、カリキュラム・マネジメントや社会に開かれた教育課程等、ESDの実践に関する多くの優良事例が生まれています。
ユネスコスクールのネットワークは世界180か国で約10,000校がASPnetに加盟して活動しています。
日本も加盟校数は多く、幼稚園から高等学校・大学まで幅広い学校種が参加しています。
ユネスコスクールでの実践の一例として、「ESDカレンダー」があります。
全ての授業をESDのコンセプトで構築した「ESDカレンダー」は、年間を通じて各教科での学びを持続可能性という軸でつなぎ直す取り組みの好例とされています。
こうした実践を通じ、子どもたちは「各教科で学ぶことは実は社会の課題とつながっている」という実感を積み重ねていきます。
ESD for 2030の5つの優先行動分野
「ESD for 2030」のロードマップには、実施に向けた5つの優先行動分野が提示されています。
政策の推進、学習環境の変革、教育者の能力構築、ユースのエンパワーメントと動員、地域レベルでの活動の促進の5つが優先行動分野とされています。
この中でも特に注目されるのが「教育者の能力構築」と「ユースのエンパワーメント」です。教師自身がESDの理念を深く理解し、授業設計に反映できるかどうかが、現場での実践の質を左右します。また、若者が受け身で学ぶだけでなく、社会課題の解決に向けて自ら提言・行動する主体となれるかどうかも、ESDの本来の目標です。
若者たちが中心となって社会課題を学び、政策提言や啓発活動を行うユース・グループの活動は、ESDが目指す「持続可能な社会を創り出す担い手」の育成そのものといえます。
「学ぶ」から「変える」へ|ESDの深化が問われる理由
ESDは2002年に日本が国際提唱してから20年以上が経ちました。枠組みは世界に広がり、日本でも学習指導要領への組み込みが進んでいます。しかし「ESD」という言葉が広まったことと、教育の実態が変わったことは必ずしも同じではありません。
ESDを知り学ぶだけでなく、実行し体感することによって、子どもも大人も大きく変容する機会を得ることができます。ESDの広がりとともに、学びの探究が行われ、従来の教育観を超越したアイデアも生まれてきています。
その一方で、教育現場では授業時間の制約や教員の負担、ESDに関するノウハウの地域差なども課題として指摘されています。
「ESD for 2030」の残り4年間で問われるのは、ESDを「特別な学校の取り組み」から「すべての子どもが経験する当たり前の学び」へといかに転換できるかです。
ESDとは、現代社会の問題を自らの問題として主体的に捉え、人類が将来の世代にわたり恵み豊かな生活を確保できるよう、身近なところから取り組むことで、問題の解決につながる新たな価値観や行動等の変容をもたらし、持続可能な社会を実現していくことを目指す学習・教育活動です。
その理念を「知識として知っている」から「毎日の授業の中で実感する」ものにできるかどうか、が今問われています。
私たちにできること
ESDは学校だけの問題ではありません。保護者や地域の大人が子どもたちの問いに向き合い、一緒に考える姿勢を見せること自体が、ESDの実践です。企業や自治体が学校と連携してリアルな社会課題を教材として提供することも、学びの質を高めます。
2026年という「折り返し」の年を機に、身近な学校でどんなESDの実践が行われているかを知り、関心を持つことから始めてみてはいかがでしょうか。未来の社会をつくるのは、いま教室にいる子どもたちです。その学びを支えることは、わたしたち一人ひとりにも開かれた行動です。

