子どもの貧困と教育格差は、日本では「約9人に1人」という数字で語られてきました。2026年7月に公表された2025年の国民生活基礎調査では、子どもの貧困率は11.0%で、前回の11.5%から下がっています。ただ、数字が下がっても、家庭の経済状況が子どもの学びや経験を左右する構図が消えたとは言えません。ひとり親世帯の貧困率は依然として約45%で、母子世帯の8割超が「生活が苦しい」と答えています。
この記事では、子どもの貧困の最新の数字を確かめたうえで、教育格差が学力、放課後、体験、進学のどこに表れるのかを整理します。2024年の法改正で何が変わったのか、国・自治体・民間の支援がいまどう動いているのかも取り上げます。最後に、読者が自分の暮らしの中でとれる行動を、無理のない順番で紹介します。
日本の子どもの貧困の現在地|2025年調査で見えた数字と生活実感のずれ
子どもの貧困というと、食べるものにも事欠く姿を思い浮かべる人が多いかもしれません。日本で使われる指標は少し違います。多くの場合は「相対的貧困率」という指標で、世帯の可処分所得を人数に応じて調整した金額が全体の中央値の半分に届かない状態を指します。見た目では分かりにくいぶん、周囲に気づかれないまま課題が積み重なりやすいのが特徴です。
2025年の国民生活基礎調査は、2026年7月15日に厚生労働省が公表しました。貧困率は調査前年である2024年1年間の所得をもとに算出されています。数字の読み方だけでなく、生活者の実感との間にずれがないかも確かめる必要があります。
子どもの貧困率は11.0%に下がった
子どもの貧困率は11.0%で、2022年調査(2021年の所得)の11.5%から0.5ポイント下がりました。賃金の上昇などを背景に、全体として所得が増えた結果とみられます。ただし、改善した数字が示すのは「中央値の半分」というものさしの上での変化です。物価の上がり方や、家賃・食費といった生活費の負担感までは、この数字だけでは分かりません。
ひとり親世帯は約45%、母子世帯の8割超が「苦しい」
子どもがいる現役世帯のうち、大人が1人の世帯の貧困率は44.7%でした。前回調査の44.5%とほぼ変わらず、約2世帯に1世帯が相対的貧困にあたる水準です。子どもの貧困率が下がったのに、ひとり親世帯の水準が動いていない点は見落とせません。
生活実感を見ると、母子世帯で「生活が苦しい」と答えた割合は8割を超え、前回調査より6ポイント以上増えました。子どもの学習支援や物資支援に取り組むNPO法人キッズドアは、母子世帯の平均所得の増え幅が他の区分より小さいことを指摘しています。そのうえで、相対的貧困率だけで「改善した」と判断せず、家計の負担感や生活実感も含めて対策を考えるよう求めています。
数字を読むときの3つの視点
数字を目にしたときは、次の3点を意識すると、全体像を取り違えにくくなります。
- 平均や全体の数字が改善しても、ひとり親世帯のような特定の層に困難が残っていないか。
- 所得を基準にした貧困率と、「苦しい」という生活実感が、同じ方向に動いているか。
- 調査の年次が古い場合、その後の物価や制度の変化が反映されていないこと。
教育格差はどこで生まれるのか|学力・放課後・進学の3つの場面
経済的な困難は、家計の問題にとどまらず、子どもが学ぶ環境の差として表れます。差がつきやすい場面は一つではありません。授業の理解、放課後の過ごし方、進学の選択肢と、年齢とともに場面が移りながら、前の段階での差が次の段階に持ち越されやすい点が特徴です。
ここでは、学力、放課後、進学の順に、差が生まれる場面を見ていきます。数字の多くは複数の調査や研究で語られている傾向であり、個々の家庭にそのまま当てはまるわけではないことも、あらかじめお伝えします。
学力の差は小学4年生ごろから見えやすいとされる
貧困状態にある子どもの学力の差は、10歳前後、つまり小学4年生ごろから目立ちやすいとされます。小学3年生までは読み書きや計算といった基礎の学習が中心なのに対し、4年生以降は基礎を使いこなす応用的な問題が増えるためだという見方があります。
この時期の差は、本人の努力や能力だけで決まるものではありません。家庭で宿題を見てもらえるか、静かに勉強できる場所があるか、分からないところを質問できる相手がいるかといった環境が積み重なって、差が広がると考えられています。
学力や進学率の差がどのような数字で表れているかを詳しく知りたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。
放課後と学校外の時間が、格差を広げる
学校の授業は全員に同じように開かれていますが、放課後の過ごし方は家庭の事情に大きく左右されます。学習塾や習い事に通えるか、共働きやひとり親で帰宅後に子どもだけで過ごす時間が長いか、といった違いです。学校外の教育にかかる費用は家庭の自己負担が大きく、その差が放課後の経験の差になりやすいと指摘されています。
放課後という時間が子どもの未来をどう分けるのか、その空白を社会がどう埋めようとしているのかは、次の記事で詳しく扱っています。
進学の壁は、学力だけでは説明できない
進学の段階では、学力に加えて費用、そして「進学するもの」という家庭内の見通しが影響します。ひとり親家庭、生活保護世帯、児童養護施設で育つ子どもは、全世帯の子どもと比べて大学等への進学率に差が残っていると、国の資料でも整理されています。
進学しない選択そのものに優劣はありません。問題になるのは、「進学したいのにあきらめる」「選択肢が最初から見えない」という状況が、生まれた家庭によって偏ってしまうことです。学費の負担軽減や相談体制の整備は、この偏りを小さくするための取り組みとして位置づけられています。
見えにくい「体験格差」|お金がかかる経験の差が、子どもの視野を分ける
学力や進学とは別に、もう一つの格差として注目されているのが「体験格差」です。スポーツ、音楽、キャンプ、美術館や科学館への訪問など、学校の外での経験の量に、家庭の経済状況が影響するという問題です。体験は成績に直結しないぶん、後回しにされやすく、気づかれにくい格差でもあります。
公益社団法人チャンス・フォー・チルドレンは、体験格差の実態を全国規模の調査で示してきた団体です。数字を2つの調査から見ておきます。
2022年調査では低所得世帯の約3人に1人が「体験ゼロ」
チャンス・フォー・チルドレンが2022年10月に行った調査は、小学1〜6年生の子どもがいる保護者2,097人が対象のWeb調査です。世帯年収300万円未満の家庭では、1年間に学校外の体験活動を1つもしていない子どもが29.9%、約3人に1人でした。年収600万円以上の家庭と比べると、その割合は2.6倍にあたります。
2026年3月の調査でも、開きは残っている
同団体が2026年3月に行った調査について、公明党のニュースは次のように伝えています。年収300万円未満の世帯の小学生のうち、直近1年間に学校外の体験に1度も参加しなかった割合は24.8%、年収600万円以上の世帯では8.8%で、3倍近い開きがあるという内容です。
2022年と2026年の調査では、設計や対象が同じとは確認できていません。そのため、29.9%から24.8%への変化を、改善と単純に読み取ることはできません。分かるのは、複数の調査で、家庭の経済状況による体験の差が繰り返し確認されているということです。
体験の差が、将来に及ぼすかもしれない影響
体験活動は、自己肯定感や協調性といった、点数では測りにくい力を育むと考えられています。国立青少年教育振興機構の調査でも、自然体験が多いほど、こうした力が高い傾向が見られたと紹介されています。
もちろん、体験が少ないことがそのまま将来の不利を決めるわけではありません。ただ、「お金がかかるから行かない」ことが何年も続くと、興味を見つける機会や、大人以外の人と関わる機会が少なくなります。子どもの視野の広がりに差が生じるおそれがある、という点は指摘されています。
法律は「対策」から「解消」へ|2024年改正で変わったこと
こうした状況を受け、子どもの貧困に関する法律は2024年に大きく改められました。変わったのは名前だけではありません。何を目指すのかという考え方が書き換えられています。
改正の要点を整理し、自分の暮らす地域でそれがどう形になるのかを見ていきます。
改正法の中身
改正法は2024年6月26日に公布され、同年9月25日に施行されました。法律の名称は「子どもの貧困対策の推進に関する法律」から「こどもの貧困の解消に向けた対策の推進に関する法律」に変わっています。
主な変更点は次の4つです。
- 基本理念に、現在の貧困の解消と将来の貧困の予防が加わった
- 妊娠から成人までの切れ目のない支援が明記された
- 国の大綱の指標に、ひとり親世帯の養育費受領率が追加された
- 都道府県・市町村の計画を、こども計画と一体で作成できるようになった
「対策を講じる」から「解消を目指す」への言葉の転換は、子どもの貧困を個々の家庭の事情ではなく、社会全体で取り組む課題として位置づけたことの表れといえます。
自治体の計画が、暮らしに近い支援を決める
この法律では、都道府県と市町村が、地域の実情に応じた施策を進める役割を持ちます。学習支援、居場所づくり、相談窓口の整備など、子どもや保護者に近い支援の多くは自治体が担います。そのため、同じ法律のもとでも、住んでいる地域によって取り組みの進み方には差が出ます。
自分の自治体がどのような計画を立てているかは、自治体のウェブサイトで「こども計画」や「子どもの貧困」と検索すると確かめられることが多いです。計画の中身を一度読んでみると、地域で何が足りていないのか、どこに力を入れているのかが見えてきます。
国・自治体・民間の支援はいまどう動いているか
法律が整っても、支援が子どもや家庭に届かなければ意味がありません。いま実際に動いている取り組みを、国の制度と民間の活動に分けて見ていきます。
国の支援は「家計の固定費」を軽くする方向へ
2026年4月から、公立小学校の学校給食費について、国が自治体を支援する制度が始まりました。文部科学省はこれを「学校給食費の抜本的な負担軽減」と呼んでいます。国が保護者に直接お金を渡すのではなく、自治体が給食の食材を買うための経費を支援する仕組みで、保護者の手続きは原則として不要です。
支援額は、主食・牛乳・おかずがそろった完全給食の場合、子ども1人あたり月5,200円(年11か月分)です。国の基準額を超える部分は、自治体の判断で保護者が負担する場合があります。そのため、「無償」の範囲は自治体によって異なります。わが子が通う学校の自治体で、どこまで負担が軽くなるのかを確かめておくと安心です。
民間の居場所と学習支援は、数で広がっている
民間の活動では、こども食堂の広がりが目立ちます。NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえの2025年度の調査(速報値)では、全国のこども食堂は約1万2,600か所で、前年から1,700か所以上増えました。小学校区のうち、こども食堂が1つ以上ある割合は39.69%で、4割に近づいています。
学習面では、キッズドアが2025年度に2,293人の中高生などに学習支援を届け、学習会を6,956回開いたと公表しています。食事の提供、勉強を見てもらう場、安心して過ごせる場所は、どれも家庭の状況にかかわらず子どもを支える基盤になります。
支援が届きにくい家庭の存在
一方で、課題も残ります。こども食堂は届出が不要な民間活動のため、すべてを数えきれているわけではありません。また、校区に食堂があっても、開催が月1回程度だったり、利用に心理的なハードルがあったりして、本当に必要な家庭に届いていない場合もあります。
支援を増やすことと並んで、「使いやすさ」「行きやすさ」を高める工夫が求められています。誰でも参加できる形にして、特定の家庭だけが目立たないようにする運営は、その工夫のひとつです。
誤解されやすいポイント|「相対的な貧困」「見えない貧困」をどう受け止めるか
子どもの貧困をめぐっては、受け止め方のずれが、支援の広がりを妨げることがあります。ここでは、よく聞かれる3つの見方を取り上げ、実態との違いを確認します。誰かを責める意図はなく、見方を少し広げるための整理です。
「相対的な貧困は、本当の貧困ではない」という見方
「日本では餓死するほどの貧困はない」という見方があります。確かに、相対的貧困は絶対的な飢えとは異なります。ただ、相対的貧困が問うのは、その社会で当たり前とされる生活や経験を、子どもが共有できているかどうかです。
友人と同じ習い事に通えない、修学旅行や部活動の費用をためらう、遠足に持っていくお弁当を気にする。こうした場面の積み重ねが、子どもの自己肯定感や将来の希望に影響する可能性があります。食べられるかどうかだけでなく、「選べるかどうか」も、子どもの育ちには大切な要素です。
「家庭の努力が足りない」という見方
貧困を家庭の責任として捉える見方もあります。しかし、子どもは生まれる家庭を選べません。ひとり親世帯の貧困率が約45%という数字は、個々の努力だけで説明できる水準ではありません。働く意欲があっても、労働時間や雇用の安定、養育費の受け取りなど、構造的な要因が関わっています。
こども家庭庁は、子育てや貧困の問題を家庭のみの責任とせず、社会全体で解決することが重要だとしています。2024年の法改正で養育費受領率が指標に加わったことも、家庭の外側にある仕組みに目を向ける流れのひとつです。
「貧困は見た目で分かる」という思い込み
貧困の中にいる子どもが、いつも身なりや持ち物に表れているとは限りません。むしろ、周囲に知られないよう、必要以上に明るく振る舞ったり、困りごとを話さなかったりする場合もあります。見えにくいからこそ、特定の誰かを探すよりも、誰でも気軽に使える居場所や制度を増やすという考え方が大切になります。
今日からできること|知る・寄せる・関わる
子どもの貧困は大きな課題ですが、一人ひとりができる関わり方も、いくつかあります。大きな行動でなくて構いません。生活の中で続けられるものから、1つずつ選んでみてください。
まず「知る」|自分の地域の状況を確認する
最初の一歩は、地域の状況を知ることです。自治体の「こども計画」や、地域のこども食堂、学習支援の情報を調べてみてください。居住地域の給食費の負担軽減の範囲を確認するのも、制度を身近に感じるきっかけになります。知ったことを家族や友人との会話で話題にするだけでも、見えにくい課題への理解が広がります。
次に「寄せる」|寄付や物資で支える
こども食堂や学習支援団体は、運営資金や食材、文房具などの物資の支援を必要としています。寄付は金額の大小より、続けやすい形で行うことが大切です。団体のウェブサイトで、現在必要としている物資や寄付の使い道を確認してから送ると、現場の負担を増やさずに支援できます。
そして「関わる」|ボランティアや職場から
近くにこども食堂があれば、配膳や片付けなどの短時間のボランティアから始められます。職場では、寄付つきの取り組みや、社会貢献活動に参加できる制度がないか確認してみてください。
関わるときは、子どもや家庭の事情を詮索しない、写真や声を無断で発信しない、といった配慮も大切です。支援を受ける人と支える人を分けず、同じ地域の一員として自然に関わる姿勢が、子どもにとって安心できる居場所をつくります。
まとめ
2025年の国民生活基礎調査では、子どもの貧困率は11.0%と前回より下がりました。一方で、ひとり親世帯の貧困率は約45%のまま変わらず、母子世帯の8割超が生活の苦しさを感じています。数字の改善と生活実感の間にあるずれを、見落とさないことが大切です。
教育格差は、学力、放課後、体験、進学という複数の場面で表れます。2024年の法改正で、法律の目標は「対策」から「解消」へと改められ、給食費の負担軽減やこども食堂の広がりなど、支援も動き始めています。ただし、自治体や地域によって差があり、支援が届きにくい家庭もまだ残っています。
まずは、住んでいる地域のこども食堂や自治体の計画を、1つだけ調べてみてください。知ることは、子どもの育ちを地域で支える最初の一歩になります。
- 2025年調査の子どもの貧困率は11.0%で、ひとり親世帯は約45%と高い水準が続いている
- 教育格差は学力だけでなく、放課後の過ごし方、体験、進学の選択肢にも及ぶ
- 2024年の法改正で、法律の目標は貧困への「対策」から貧困の「解消」へと改められた
- 給食費の負担軽減やこども食堂など、国と民間の支援が広がりつつあるが、地域差もある
- 知る・寄せる・関わるの3つから、無理のない形で子どもの育ちを支えられる
参考文献
- 厚生労働省「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」(2026年)
- キッズドア「2025年国民生活基礎調査から見えてきた子どもの貧困の実態について」(2026年)
- 衆議院「こどもの貧困の解消に向けた対策の推進に関する法律」(2024年改正)(2024年)
- チャンス・フォー・チルドレン「子どもの体験格差実態調査 最終報告書」(2023年)
- 公明党ニュース「子どもの直接体験の機会確保に向けた提言」(2026年)
- 文部科学省「学校給食費の抜本的な負担軽減」(2026年)
- むすびえ「2025年度こども食堂全国調査 総括」(2025年)



