日本が2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出量と吸収量が実質ゼロになった状態)を実現するための重要な制度が、いま始まろうとしています。それが「GX-ETS」です。テレビやニュースでも見かけることが増えた言葉ですが、実はどのような仕組みなのか、詳しく知らない人も多いかもしれません。この記事では、GX-ETSが何か、そして私たちの生活とどのような関係があるのかについて、わかりやすく解説します。
GX-ETSとは|日本版の排出量取引制度
GX-ETSは、GXリーグの下で企業が自主的に設定する排出削減目標に向けた排出量取引として2023年度より実施されており、2026年度より排出量取引を本格稼働します。
難しい言葉が並んでいますが、簡単に説明すると、企業の二酸化炭素(CO₂)排出量を「売り買いする仕組み」です。
ETSとは国や企業ごとに温室効果ガスの排出枠を設定し、排出枠を超えた国や企業は、余っている国や企業から排出枠を購入する義務を負う制度です。
GX-ETSの「GX」は「グリーン・トランスフォーメーション」を意味します。つまり、経済成長を妨げないように、環境に優しい産業へと転換していくための制度なのです。
どのような企業が対象になるのか
年間のCO₂直接排出量が10万トン以上の事業者が排出量取引制度への参加を義務付けられ、約300~400社が対象となり、日本の温室効果ガス排出量の約60%を占める規模となります。
対象となるのは、電力会社や鉄鋼メーカー、化学業など、エネルギーをたくさん使う大企業です。全国の企業の多くは対象外となりますが、これらの大企業が削減することで、日本全体の温室効果ガスを大幅に減らせるという計算です。
制度のしくみ|排出枠の売り買い
GX-ETSの基本的な流れは、以下の通りです。
政府は対象企業に対して、毎年一定量の「排出枠」を無償で割り当てます。企業はこの枠の範囲内で、CO₂を排出することができます。その後、企業が実際の排出量を報告し、以下の3つのパターンに分かれます。
パターン1:削減を達成した企業 削減目標を超えて達成できた企業は、余った排出枠を他の企業に売却することができます。これにより、企業は削減努力に対する経済的なメリットを得られます。
パターン2:目標を達成できなかった企業 排出量が多かった企業は、他の企業から排出枠を購入して不足分を補う必要があります。または、J-クレジットなどのカーボンクレジットを購入することも可能です。
この仕組みにより、温室効果ガスの削減に対してインセンティブが発生し、環境対策と経済活動の両立が期待できます。
実は試行段階から始まっていた
多くの人がGX-ETSを初めて聞くかもしれませんが、実は既に始まっています。
GX-ETSは2023年度からボランタリーな制度として施行が始まっていたが、今回の改正案により参加や削減の履行を義務的なものとして実効性を高めることが定められました。
2023年4月に経済産業省が設立した「GXリーグ」という企業の集まりで、野心的に脱炭素化に取り組む企業たちが、自主的に排出量取引を行っています。
2024年4月時点で747者が加盟しており、日本国内の温室効果ガス排出量の5割超をカバーする枠組みとなっています。
世界とのつながり|参考になった制度
GX-ETSは、世界の排出量取引制度をモデルにしています。
EUでは世界に先駆けて、2005年からEU-ETS(排出量取引制度)を開始し、2050年までのカーボンニュートラルを義務付けています。
欧米の企業は既にこのような制度に適応しており、日本企業も同じルールで競争できるようになることが目的の一つです。グローバル企業にとって、自社の排出量を管理し、削減を達成することは、国際的な競争力を保つために欠かせなくなっています。
私たちの生活への影響|間接的な形で
「排出量取引」と聞くと、大企業の話だと思うかもしれません。しかし、対象企業が増加すれば、その影響は私たちの生活にも広がる可能性があります。
企業が削減コストを負担すれば、商品やサービスの価格に反映される可能性があります。一方で、削減に成功した企業は競争力を高め、環境に配慮した製品やサービスをより多く提供できるようになるかもしれません。
2028年度からは化石燃料を使った場合に一定の負担が発生する「化石燃料賦課金」が導入され、2033年度からは電力会社などがCO₂排出枠を入札方式で購入する「有償オークション」が開始される予定です。このように、段階的に制度は強化されていくため、社会全体で脱炭素化への対応が求められます。
私たちにできることは
GX-ETSが始まることで、企業は急速に脱炭素化を進めます。この動きに呼応して、私たちも以下のようなアクションが取れます。
・環境に配慮した企業の製品やサービスを選ぶ・自宅のエネルギー効率を高める(LED照明の導入など)
・再生可能エネルギーを使う企業から電気を買う選択肢を検討する・企業の環境報告書を確認し、脱炭素への取り組みを評価する
小さな選択の積み重ねが、企業の脱炭素化の加速につながります。
まとめ|2026年から始まる大きな変化
GX-ETSは、日本が2050年カーボンニュートラルを達成するための重要な政策です。
2026年度から一定規模以上の二酸化炭素の排出を行う事業者を対象に排出量取引制度への参加が義務化されます。
企業が排出量を削減するインセンティブを持ち、脱炭素化への投資が加速されることで、世界に遅れ取っていた日本の環境産業も大きく成長する可能性があります。私たちの世代と次の世代のための、長期的な取り組みが本格化する時代がやってきたのです。

