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「報告」から「経営」へ|SSBJ基準が問いかける、サステナビリティ開示の新時代

「報告」から「経営」へ|SSBJ基準が問いかける、サステナビリティ開示の新時代

企業のサステナビリティ情報を、財務情報と同じ重みで開示する時代が、いよいよ本格的に幕を開けようとしています。2025年3月にサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が国内基準を正式公表し、同年11月には金融庁が開示府令の改正案を提示しました。大企業から段階的に始まるこの制度は、中小企業や非上場企業にも確実に波及していきます。「誰かがやること」ではなく、「すべての企業が向き合うこと」として、何が変わり、何が求められるのかを整理します。

SSBJとは何か|日本版サステナビリティ開示基準の全体像

まず、議論の中心にある「SSBJ基準」について理解しておきましょう。

サステナビリティ基準委員会(SSBJ)は、2025年3月5日にサステナビリティ情報の開示基準を公表しました。
この基準は、
国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)のIFRS S1・S2を土台としつつ、日本の法制度や上場企業の実務に合わせて調整した、「日本版サステナビリティ関連財務情報のルール」です。
基準はISSBを土台としつつ、日本の法制度や実務環境に合わせて再設計され、適用基準・一般開示基準・気候関連開示基準の3本柱で構成されています。とりわけScope3排出量の算定、内部炭素価格の活用、気候リスクシナリオ分析など、国際的に投資家が注目するテーマへの対応は、今後の企業価値を左右する重要な論点になります。

これまでのサステナビリティ開示は、CSRレポートや統合報告書として各社が任意の形式で発行してきました。しかし
今回の基準により、サステナビリティ情報はCSRレポートの延長ではなく、将来的に監査や保証の対象となる「サステナビリティ関連財務情報」として扱われる方向性が明確になりました。

義務化のスケジュール|誰がいつまでに対応すべきか

2025年11月26日、金融庁が「企業内容等の開示に関する内閣府令」等の改正案を公表しました。有価証券報告書等で開示するサステナビリティ情報について、東京証券取引所プライム市場上場会社のうち平均時価総額1兆円以上の企業には、SSBJ基準を適用するとされています。また、温室効果ガス排出量のスコープ3に関する定量情報については、セーフハーバー・ルールが適用されます。

義務化の段階的なスケジュールは次のように想定されています。
本基準については、2026年3月期から任意適用が始まり、2027年3月期から時価総額3兆円以上の企業を対象に適用が義務化される予定です。2028年3月期から時価総額3兆円未満1兆円以上、2029年3月期から時価総額5000億円以上の企業にも義務化の対象範囲が広がり、2030年代には、プライム市場に上場する全企業に適用が義務化される方向で議論が進んでいます。

また、サステナビリティ情報とは別に、
人的資本については、企業戦略と関連付けた人材戦略、従業員の給与等の額及び内容の決定に関する方針、平均年間給与の対前事業年度増減率の記載が新たに求められます。これらは2026年3月31日以後に終了する事業年度に係る有価証券報告書への適用が予定されています。

大企業だけの話ではない|中小企業・非上場企業への波及

この制度が「大企業の問題」にとどまらない理由があります。

気候変動関連の基準では、スコープ1、2、3の排出量開示が求められています。スコープ3は、サプライチェーンのGHG排出量が多くを占めるため、企業がサプライヤーのGHG排出量を把握する重要性はますます高まっていくでしょう。
中小企業や非上場企業もサプライチェーンを通じてデータ提供を求められるようになり、Scope3対応の一部として影響を受けることは避けられません。さらに、銀行や投資ファンドなどの金融機関が、融資・投資判断にサステナビリティ情報を活用するようになれば、開示対応は企業規模を問わず「事実上の必須条件」となっていくでしょう。

日本だけでなく、EUの動向も無視できません。
EUでは企業規模に応じた段階的な適用スケジュールが設けられており、EU域内に子会社を持つ日本企業も、子会社の規模によっては影響が及ぶ可能性があります。さらに、EU域外企業であってもEU域内で一定以上のビジネスを展開している場合には連結単位でのESG情報の開示が義務化される見通しとされています。なお、EU側のスケジュールについては、制度見直しの議論が続いており、最新の動向を継続的に確認することが重要です。

グローバルにビジネスを展開する日本企業にとって、国内外の二重の対応が求められる局面が近づいているといえます。

何を開示するのか|求められる4つの柱

SSBJ基準や現行の内閣府令改正に基づき、企業が有価証券報告書で開示すべき情報は大きく整理されています。
有価証券報告書に「サステナビリティに関する考え方及び取組」の項目を新設し、①ガバナンス(取締役会や委員会等のサステナビリティ関連のリスクおよび機会に対するガバナンス体制)、②戦略(人材育成方針や社内環境整備方針を明記するほか、各企業が識別したリスクとその機会への取り組み)、③リスク管理(サステナビリティ関連のリスクと機会を識別・評価・管理するためのプロセス)、④指標及び目標(人材育成方針や社内環境整備方針に関する指標の内容、GHG排出量の削減目標と実績値)の4つで開示する必要があります。

これらは、単に数字を並べる作業ではありません。
ESG情報の信頼性を高めることを目的に、各国では第三者機関による保証の範囲やレベルについて議論が進んでいます。もはや情報を開示するだけでは不十分で、その正確性や信頼性の担保が不可欠です。

「規制対応」を超えて|開示を経営の力に変える視点

準備が整わないまま義務化の波を受けると、企業にとっては大きな負担になりかねません。一方で、この転換をポジティブに捉える見方もあります。

これまでは、企業のサステナビリティ関連情報の開示は任意であり限定的でした。しかし、気候変動や人権問題などが事業継続に大きな影響を与える現代において、財務諸表だけでは「その企業が5年、10年先も生き残れるか」を判断することは難しくなっています。投資家がESG投資をますます重視しているのも、そのためです。
「サステナビリティ2026問題」は、単なる規制対応の枠を超え、日本企業が世界の投資家と同じ言語で対話するための大きな転換点となります。SSBJ基準による開示義務化は、これまで「非財務」とされてきた情報を、企業の将来価値を決定づける「財務情報」と同等の重みへと昇華させました。
規制対応に主眼を置いた受け身のレポーティングではなく、信頼性の高いサステナビリティ情報を提供することによってステークホルダーに対する透明性と説明責任を追求することこそが、長期的な企業価値向上における重要なミッションです。

まとめ|2026年は「準備」から「実装」へ

2027年3月期から本格化する開示義務化を”機会”として捉え、サステナビリティデータを利活用した経営改革のため、2026年までにサプライヤーを含むデータ基盤整備およびサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)推進のための体制を整備できるかが、企業において重要な分岐点となります。

大企業の担当者はもちろん、サプライチェーンの一端を担う中小企業にとっても、「うちには関係ない」と静観できる時期はすでに終わっています。まず自社のGHG排出量(Scope1・2)の把握から始めること、担当部署や責任者を明確にすること、そして取引先からのデータ提供依頼に応えられる体制を少しずつ整えていくことが、現実的な第一歩となるでしょう。

サステナビリティの開示は、社会への約束を「見える化」するプロセスです。その積み重ね

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