かつて、教育やビジネス、政治などのあらゆる分野において、男女の区別が存在しました。
今も完全になくなった訳ではありませんが、あからさまな区別は世間が許しません。
様々な分野で男女差別が撤廃される中、表面的な区別撤廃ではジェンダー問題が解決しない分野があります。
それが「スポーツ」です。
「男性の方が女性より、体力がある」
そのようなことを背景にスポーツ界では男性優位で考えられ、今現在も性の偏見は根強いと言えるでしょう。
この記事では、スポーツ界におけるジェンダー問題をジェンダーやLGBTの意味とともに紹介します。
「ジェンダー」とは?
「ジェンダー」の日本語訳は「性別」になります。
しかし”性”には「セックス」と「ジェンダー」があるのをご存知でしょうか?
「セックス」が生物学的な体の性を表すのに対して、「ジェンダー」は社会的意味合いから見た、男女の性区別を指します。
簡単にいうなら、男性と女性の役割の違いで、生まれる性別のことです。
例えば、”男らしさ””女らしさ”という区分。
「女性はピンクが好き」「男性は会社で働き、女性は家庭を守る」などの考え方の背景には、社会に根付いた「性別に対する考え方」がいます。
ジェンダーには「女性」「男性」という2つの性別だけでなく、女性にも男性にも分類されない、もしくはどちらにも分類されるなど、多様なセクシャリティへの固定概念も含まれています。
「LGBT」「LGBTQ」とは?
「多様なセクシャリティ」という言葉を聞いたとき「LGBT」を思い浮かべた人は多いのではないでしょうか?
「LGBT」とは、生まれつきの性別ではなく、身体と心の性が異なる人や恋愛対象が同性である人を指します。
レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーがあり、これらの頭文字を取っています。
レズビアン(女性同性愛者):身体は女性で、恋愛対象は女性
ゲイ(男性同性愛者):身体は男性で、恋愛対象は男性
バイセクシャル(両性愛者):男性も女性も恋愛対象
トランスジェンダー:生まれた時の性別と、自認している性別が異なる人
また、LGBTにQを足した「LGBTQ」という言い方もあります。
クエスチョニング:自分の性を定義しない、模索中の人
クィア:男性でも女性でもの悪、既存の性別の枠組みに当てはまらない自己認識を持つ人
多様性を認める社会には、上記のような言葉の認知が必要です。
しかし、LGBTやLGBTQだけが注目され、そこに当てはまらないセクシャルマイノリティが軽視されてしまう可能性もあります。
「女性の体で男性の心を持ち、恋愛対象は男性」「男性と女性、両方の性自認を持つ」など、セクシャリティは無数に存在します。
そのため、「レズビアン」「トランスジェンダー」などとカテゴリ分けを行うのではなく、それぞれの多様な性自認・性的指向を認めることが必要です。
スポーツとジェンダー問題
ここまで、ジェンダー問題の基本的な部分を紹介してきました。
女性の社会進出や、セクシャルマイノリティの人たちへの理解は徐々に広がってきているものの、スポーツ界における男女格差や多様性の享受はまだまだ浅いと言えます。
ここからは、プロスポーツ社会や学校での体育・部活動での男女について具体例を使いながら説明していきます。
スポーツ社会に存在する男女間の格差問題
「男女平等にすべき」と言われているものの、スポーツ界においては実質的な平等になっていないことが多くあります。
例えば、男女での距離やセット数の違い。
フルマラソンは42.195キロですが、女性はそんなに長距離を走れるわけがないという前提で、女性マラソンは1984年のロサンゼルスオリンピックまで種目として存在しませんでした。
テニスでも、女子は体力が無いことを理由に3セットマッチ(男性は5セットマッチ)となっていました。
他には、優勝賞金の差も問題になっています。
サッカーではW杯優勝の賞金総額が、男性は4億ドル(約432億円)に対し、女子は3,000万ドル(約33億円)と13倍もの差があるのが現状です。
学校の体育における男女格差
学校の体育でも、男女格差が見られます。
体育の授業では、男女が分かれて別の種目を行なった経験はありませんか?
「ダンスは女子が行うもの」「武道は男性が行うもの」などという認識から、男女で種目を変えて授業を行う学校はいまだに多くあります。
部活についても同じことが言えるでしょう。
男女別の部構成になっていたり、女子のみ・男子のみの部活があります。
女子差別撤廃条約 第10条(g)「スポーツおよび体育に積極的に参加する同一の機会」が掲げられているため、男子と女子のどちらかしか参加できないのは、男女平等であるとは決して言えません。
東京オリンピックにおけるジェンダー問題とは?
東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会前会長の森喜朗氏による発言は、日本国内だけでなく世界でも話題となり、批判されました。
この問題によって、「ジェンダー問題に関する日本社会とスポーツ界の現状」が浮き彫りになりました。
ここからは、東京オリンピック・パラリンピックにおけるジェンダー問題に関するニュースを紹介していきます。
東京五輪の基本コンセプトは「多様性と調和」
具体的な例の前に、東京オリンピック・パラリンピックについて説明します。
2021年開催の東京オリンピック・パラリンピックには3つの基本コンセプトがあります。
全ての人が自己ベストを目指し(全員が自己ベスト)
一人ひとりが互いを認め合い(多様性と調和)
そして、未来につなげよう(未来への継承)
「多様性と調和」は「人種、肌の色、性別、性的指向、言語、宗教、政治、障がいの有無など、あらゆる面での違いを肯定し、自然に受け入れ、互いに認め合う」と説明されています。
性的指向(好きになる性)のみではなく性自認(心の性)などの視点に立った「多様な性のあり方」が含まれているのです。
トランスジェンダーの自転車選手が、初めてアメリカ代表補欠に
東京オリンピックで開催される自転車競技、BMX freestyle女子のアメリカ代表補欠に選ばれたのが、トランスジェンダーのチェルシー・ウルフ選手です。
トランスジェンダーを公表しているアスリートがアメリカ代表チームに加わるのは、ウルフ選手が初めて。
ウルフ選手がBMXを始めたのは6歳の時(アメリカ自転車競技連盟のWebサイトより)で、トランスジェンダーのウルフ選手は子どもの時から孤独を感じ、何度も壁にぶつかったと語っています。
自身が子どもの頃にトランスジェンダーアスリートのロールモデルが見つけられなかった経験から、自分がロールモデルになるべきではないかと考えるようになり、東京オリンピックへを目指すことにしたそうです。
参照元:【東京オリンピック】トランスジェンダーの自転車選手が、アメリカ代表補欠に「子どもたちの希望になりたい」|HUFFPOST
史上初、トランスジェンダーのニュージーランド選手がオリンピックに出場
ニュージーランドの重量挙げで、トランスジェンダーのローレル・ハバード選手が東京オリンピックの女子87キロ超級の代表に選出されました。
トランスジェンダーの選手が大会に出場するのは史上初です。
2013年に性別を女性に変える前まで、ハバード選手は男子重量挙げに出場しており、2017年世界選手権では銀メダルを獲得しました。
ハバード選手は大会が定めているガイドラインをクリアし、女性として出場しています。
しかし、男性として第二次性徴期を過ごした人は、骨密度や筋肉量が女性より高くなるなど、生物学的に有利だという指摘もあり「女性として不公平だ」という声も上がっているようです。
参照元:トランスジェンダー選手が東京五輪代表に、五輪出場は史上初 「不公平」と物議も|BBC NEWS JAPAN
まとめ
スポーツ界での男女格差、セクシャルマイノリティの参加などは徐々に認識され始めています。
その結果、テニスではウィンブルドンやグランドスラムでの賞金金額における男女差がなくなりました。
また、オリンピックにおいてもトランスジェンダーの選手が出場するなど、多様な性が認められつつあると言えるでしょう。
その一方で「男女が同じフィールドに立つことが本当に正しいのか?」「男性の体を持つ女性選手が、大会で活躍することは平等なのか?」といった声があるのも事実です。
また、学校体育においても安全性の面や、思春期に伴う配慮なども考慮する問題があります。
スポーツ基本法の制定により、スポーツは単なる余暇の楽しみから権利になりました。
そして、性的指向や性自認に関係なく、スポーツを楽しむ権利は基本的人権として平等に与えられています。
スポーツにおけるジェンダーの平等を実現させるためには、平等とは何か、どのようなルールが良いのかを考え、多様性を認めることが必要です。