宗教上の慣習、根強い固定観念、経済的な格差——さまざまな要因が絡み合って、世界中でジェンダー問題が続いています。「どこか遠い国の話」と感じる方もいるかもしれませんが、日本でも賃金格差や政治参加の壁など、身近なところに現れています。この記事では、世界と日本で実際に起きているジェンダー問題の具体例を整理し、SDGs目標5「ジェンダー平等を実現しよう」が求めることとあわせて考えます。
ジェンダー問題とジェンダー・バイアスの関係
日常会話の中でふと出てくる「女性はこうあるべき」という言葉。それ自体が大きな問題に見えなくても、その背後にあるのがジェンダー・バイアスです。ジェンダー・バイアスとは、社会的・文化的な性差(ジェンダー)に基づく偏見(バイアス)のことで、個人の意識と社会制度の両方に深く根を張っています。
「女性は家にいて家事・育児をするもの」「男性が一家の大黒柱であるべき」——こうした思い込みは、採用・昇進の判断や政策立案の優先順位にも影響を与え続けています。World Economic Forum(WEF)が発表した「Global Gender Gap Report 2024」では、日本のジェンダーギャップ指数は146か国中118位と報告されており、G7(主要7か国)の中で最低水準にとどまっています。政治・経済分野のスコアが特に低く、ジェンダー・バイアスが制度や慣行に反映されている状況が数字にも表れています。
SDGsの目標5「ジェンダー平等を実現しよう」は、こうした構造的な不平等を解消することを世界に求めています。目標は2030年までの達成を掲げていますが、現状のペースでは達成が難しいとの見方も国際機関から示されています。
世界のジェンダー問題|6つの具体例
世界各地で起きているジェンダー問題は、国や地域の文化・宗教・経済状況によって形が異なります。以下に、国際機関が報告している代表的な事例を挙げます。
人身売買と性的搾取
暴力・脅迫・詐欺などを手段として人を強制的に連れ去る人身売買は、世界で深刻な問題であり続けています。国連薬物犯罪事務所(UNODC)の報告によると、人身売買被害者の約70%が女性・女児とされており、性的搾取を目的とするケースが最も多くを占めます。紛争地域から逃れてきた難民や、経済的に困窮した家庭の女性・子どもが特に被害に遭いやすい状況にあります。
UNICEFは、子どもの人身売買を根絶するために各国政府・企業・市民社会が連携した取り組みを求めていますが、被害の全容把握自体が困難なため、実際の数字はさらに大きいとも指摘されています。
性暴力・家庭内暴力(DV)
UN Womenの推計では、世界で約3人に1人の女性が、生涯のうちに身体的または性的な暴力を経験するとされています。コンゴ民主共和国(DRC)では、男らしさを誇示する文化的規範が暴力を正当化する土壌となっており、独立行政法人国際協力機構(JICA)の調査報告でも、女性に対する性暴力が深刻な人権問題として記録されています。
インドでは、宗教的・文化的に男児を優先する傾向が根強く、女児に対するネグレクト(育児放棄)や性暴力が問題となっています。「女性に生まれたこと」が暴力の理由になる構造は、個人の努力では変えられない社会的課題です。
児童婚・強制結婚
18歳未満での結婚を指す「児童婚」は、本人の意思や未来の選択肢を大きく制約します。UNICEFのデータによると、現在も世界で約6億5000万人以上の女性が18歳未満で結婚した経験を持ち、うち約2億2000万人は15歳未満での結婚を経験しています。貧困家庭や農村部ほど児童婚の割合が高い傾向があります。
一部の地域では、成人年齢前の女性が法的な保護なしに結婚させられ、妊娠・出産を繰り返すことで健康を損なうケースも報告されています。早期の結婚は教育機会の喪失とも直結しており、貧困の世代間連鎖を生む要因の一つにもなっています。
児童婚がなぜ続くのか、その背景をさらに詳しく知りたい方はこちらの記事もあわせてご覧ください。
教育格差
「女性に教育は必要ない」という社会通念が残る地域では、初等教育には通わせても中等教育以上は認めない、あるいはそもそも学校に行かせないケースがあります。JICAの調査でも、コンゴでは「女性は結婚して家庭に入るのだから教育は無駄」との認識が一部で根強く、男性への教育が優先される実態が記録されています。
ユネスコ(UNESCO)の2023年報告では、世界全体で識字率の男女差は縮小傾向にあるものの、サブサハラ・アフリカや南アジアの一部地域では依然として女性の就学率が低い状況が続いています。学校までの道が危険であること、女子トイレが整備されていないこと、男女混合クラスへの抵抗感など、障壁は文化的・インフラ的な側面から複合して存在しています。
ジェンダー平等に向けた世界と日本のさらなる取り組みは、こちらの記事で詳しく解説しています。
グローバルな賃金格差
国際労働機関(ILO)の報告によると、世界全体で女性の賃金は男性の賃金より平均約20%低い水準にあるとされています。この格差の背景には、高賃金の職種への女性の参入障壁、育児・家事負担の偏り、育児休暇取得によるキャリアの断絶など、複合的な要因があります。
Equal Pay International Coalition(EPIC)の活動が示すように、法律上の賃金平等と実態上の平等は別物です。「同一労働同一賃金」を法制化した国でも、職種分離(女性が多い職種が低賃金に固定される現象)によって格差が温存されるケースがあります。
女性政治参加の壁
UN Womenの2024年データでは、世界の一院制または下院議会における女性議員の割合は約26.9%にとどまっています。政治的意思決定の場に女性が少ないことは、ジェンダーに関わる政策の優先順位に直接影響します。選挙制度の設計(比例代表制か小選挙区制か)、政党の候補者選定プロセス、選挙費用の調達難など、参加を阻む構造的障壁は多岐にわたります。
日本のジェンダー問題|4つの具体例
日本は法律上、男女平等を保障しています。しかし制度と実態のあいだには、依然として大きな差があります。WEF「Global Gender Gap Report 2024」で日本が118位に位置する理由は、以下のような具体的な問題に反映されています。
男女賃金格差|OECD最低水準からの脱却が課題
厚生労働省「令和5年賃金構造基本統計調査」によると、日本の男女間賃金格差(フルタイム労働者の所定内給与)は男性を100とした場合、女性は約75.7と報告されています。つまり、同じフルタイムで働いていても、女性は男性の約4分の3程度の賃金水準にある計算です。OECDの比較統計でも、日本の男女賃金格差は加盟国の中で上位の格差率として記録され続けています。
背景にあるのは、非正規雇用の構造です。総務省「労働力調査」では、非正規雇用労働者の約7割が女性と報告されており、正規・非正規間の賃金差が全体の格差を押し広げています。育児を機に正規職を離れ、再就職では非正規にしか就けないという「M字カーブ問題」は、近年改善傾向にあるものの、完全には解消されていません。
管理職・役員への登用|「2030年30%」目標の現在地
内閣府男女共同参画局の「男女共同参画白書(令和6年版)」では、民間企業の女性管理職割合は約12.7%と報告されています。政府は「2030年までに女性管理職30%」を目標に掲げていますが、現状との乖離は大きく、目標達成には企業の人事制度の大幅な見直しが必要とされています。
上場企業の女性役員比率についても、2023年時点で東証プライム市場の企業では約13%程度とされており、欧州主要国(フランス45%超、ノルウェー40%超)と比べると大きな差があります。日本でも2023年の会社法改正によって有価証券報告書での女性活躍情報の開示が義務付けられ、透明性を高める動きが始まっています。
女性議員の少なさ|クオータ制導入の議論
2023年10月時点の衆議院における女性議員の割合は約15.4%(465議席中71人)です。世界平均(約26.9%)を大きく下回り、G7の中でも最低水準です。参議院は約26%と改善傾向にあるものの、衆議院との差が際立っています。
2018年施行の「政治分野における男女共同参画の推進に関する法律」により、各政党は候補者の男女均等を「努力義務」として求められるようになりました。しかし法的拘束力を持たないため、選挙ごとの変化は限定的です。候補者クオータ制(一定割合を女性候補者に割り当てる制度)の導入を求める声は与野党双方から上がっており、2024年以降も議論が続いています。
職場でのハラスメント|件数増加と制度整備の現状
厚生労働省の「令和4年度雇用均等基本調査」によると、セクシュアルハラスメントに関する相談件数は年々増加傾向にあります。2022年4月からは、中小企業を含むすべての事業主にハラスメント防止措置が義務化されましたが、被害を申告しにくい職場環境や「そのくらい我慢すべき」という規範意識が、潜在的な被害の掘り起こしを妨げているとされています。
また、マタニティハラスメント(妊娠・出産・育児休業に関連する嫌がらせ)も依然として報告されており、「育休を取ったら昇進が遅れた」「妊娠報告後に降格された」という事例が労働相談の場で確認されています。職場環境の整備と、それを実効化する企業文化の変革の両方が求められています。
ジェンダー問題が生まれる構造的背景
これらの事例に共通するのは、「個人の意識の問題」だけではなく、社会制度・経済構造・文化的規範が複合的に絡み合っているという点です。
たとえば賃金格差一つをとっても、採用段階での無意識のバイアス(アンコンシャス・バイアス)、育児インフラの不足、職種によって賃金水準が固定される「職種分離」など、複数の要因が積み重なっています。いずれか一つを解決すれば全体が変わるという性質ではなく、法制度・企業制度・個人の意識・インフラが同時に変わる必要があります。
国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」目標5には、政治参加の均等化(5.5)、生殖に関する権利(5.6)、無償ケア労働の認識・削減(5.4)など、具体的なターゲットが設定されています。ジェンダー平等は単独の課題ではなく、貧困削減(目標1)・質の高い教育(目標4)・働きがいのある仕事(目標8)とも深く結びついています。
世界と日本のジェンダー問題に対する主な取り組み
問題の根深さに対して、国際社会と日本では様々なアプローチが進んでいます。現状を変えるための具体的な動きを見ていきます。
国際社会の取り組み
UN Womenは加盟国政府・企業・市民社会と連携し、女性の経済的エンパワーメントや政治参加の拡大を支援しています。ノルウェーやフランスでは取締役の女性比率を法律で義務化し、一定の成果を上げています。また、ルワンダは法律でクオータ制を設けた結果、下院議会の女性議員比率が60%を超え、世界トップレベルになっています。
児童婚の撲滅に向けては、「児童婚を終わらせるためのグローバル・プログラム」(UNFPA・UNICEFの共同イニシアティブ)が12か国以上で実施されており、法整備・コミュニティ啓発・女子教育の支援を組み合わせたアプローチが取られています。
日本の取り組み|制度と現場のギャップを埋める挑戦
日本では2023年に改正育児・介護休業法が施行され、男性の育児休業取得を促進するための「産後パパ育休(出生時育児休業)」制度が本格的に動き始めました。2023年度の男性育休取得率は過去最高の30.1%(厚生労働省調査)に達しましたが、取得期間が短い(2週間未満が多数)という課題も指摘されています。
企業レベルでは、女性活躍推進法(2016年施行・2022年改正)の対象企業拡大と行動計画の公表義務化が進んでいます。一方で、中小企業では人手不足を理由に制度整備が追いつかないケースも多く、「制度はあるが使えない」状況の解消が引き続き課題です。
私たちが日常でできること
世界規模の問題を前にすると、「自分には何もできない」と感じることもあるでしょう。しかし、ジェンダー問題の多くは、日常の認識と行動の積み重ねから変わっていきます。
たとえば、会議で女性の発言が遮られていないか観察する、採用・評価の場面で「この判断にバイアスはないか」と一歩立ち止まる、自分の職場の男女賃金格差データを確認する——こうした小さな問いかけが、職場環境を少しずつ変える第一歩になります。消費行動の面では、女性の働く環境を積極的に整備している企業の製品を選ぶという選択肢もあります。
フェアトレード製品や社会的責任を重視した企業への投資(ESG投資)も、間接的にジェンダー平等を後押しする行動です。
SDGs目標5「ジェンダー平等」の全体像や達成状況について、基礎からまとめた記事もご覧ください。
まとめ
ジェンダー問題は、「遠い国の話」でも「特別なケース」でもありません。人身売買・児童婚・教育格差といった深刻な事例から、日本の賃金格差・ハラスメント・女性議員の少なさまで、形は違っても根っこにある「ジェンダー・バイアスが機会を奪う構造」は共通しています。
SDGsの目標5が目指すジェンダー平等は、女性だけが得をする話ではありません。育児・介護・家事の負担が偏ることは男性にとっても働き方の制約になり、社会全体の可能性を狭めます。誰もが性別にかかわらず選択できる社会は、全員の利益につながります。
この記事で知ったことを、まずは身近な一人に話してみてください。認識が広がることが、変化の最初の一歩です。
- WEF「Global Gender Gap Report 2024」で日本は146か国中118位(G7最低水準)
- 世界の児童婚経験者は約6億5000万人以上で、貧困・教育格差と深く連動している
- 日本の男女賃金格差は男性を100とすると女性約75.7(厚生労働省調査)、非正規雇用の偏りが主因
- 2023年衆議院の女性議員比率は約15.4%と世界平均(26.9%)を大きく下回る
- ジェンダー問題はSDGs目標5だけでなく、目標1・4・8とも連動する構造的な課題
- 日常の意識・消費・投資の選択を通じて、個人も変化に参加できる



