熱帯林が失われるたびに、長い年月をかけて蓄えられてきた炭素が一気に大気中へと放出されます。森林の破壊は、単に「自然が失われる」問題ではなく、気候変動を加速させる重大な要因のひとつです。この問題に「経済的なしくみ」で立ち向かおうとする国際的な枠組みが、REDDプラス(REDD+)です。2025年10月にFAO(国連食糧農業機関)が公表した「世界森林資源評価2025(FRA2025)」の主な調査結果をふまえながら、森林保全の現状と、REDDプラスが担う役割をわかりやすく解説します。
世界の森林は今、どんな状況にあるのか
FAOの「世界森林資源評価2025(FRA2025)」によると、2025年の世界の森林面積は約41億haであり、世界の陸地面積の約3分の1を占めています。
一見、広大な数字のように思えますが、減少の傾向は依然として続いています。
世界の森林面積は2015年から2025年の間に、世界全体で年平均412万ha純減しています。ただし、1990年から2000年の間の年平均純減と比べると、その速度は鈍化しています。
減少ペースが鈍化していることは前進といえますが、毎年412万haという純減は、日本の国土面積(約3,780万ha)の約1割が10年で失われる計算に相当します。特に深刻なのは熱帯地域です。
大規模な森林減少が起こっているのは熱帯、とりわけ南米やアフリカとされており、非持続的な森林施業や林地の転用が引き続き存在するなど、対処すべき課題が多く残されています。
では、なぜ森林が失われることが気候変動に直結するのでしょうか。
森林は海洋に次ぐ炭素の貯蔵庫であり、伐採や農地への転換のために森林が破壊されると、そこから大量の二酸化炭素(CO2)や他の温室効果ガスが大気中に放出され、地球温暖化を促進することとなります。
REDDプラスとは何か
REDDは「Reducing Emissions from Deforestation and Forest Degradation in Developing Countries(森林減少・劣化からの温室効果ガス排出削減)」の略称で、途上国での森林減少・劣化の抑制や森林保全による温室効果ガス排出量の減少に、資金などの経済的なインセンティブを付与することにより、排出削減を行おうとするものです。森林減少・劣化の抑制に加え、森林保全、持続可能な森林経営および森林炭素蓄積の増加に関する取り組みを含む場合には、REDD+(REDDプラス)と呼ばれます。
ひとことで言えば、「森林を守った成果に報酬を支払うしくみ」です。
これは、森林を伐採するよりも保全する方が、経済的に高い利益を生むようにすることで、森林破壊と温暖化を防止する施策です。また、地域のコミュニティや先住民族の権利も守りながらREDD+が実施されれば、気候変動や生物多様性の劣化をくいとめながら、地域の人たちの生活にも恩恵をもたらすことが期待されます。
「成果に基づく支払い」という発想
REDDプラスの最大の特徴は、「成果を計測して、その分だけ支払う」という考え方にあります。
過去の森林減少の傾向から将来予測を作成し、その予測に対してどれだけ森林減少を食い止められたかを計測し、その成果に基づいて市場や基金からインセンティブが支払われるというメカニズムを採用しています。
この「支払い」を正確に算定するために不可欠なのが、MRV(計測・報告・検証)というプロセスです。
REDDプラスの活動では、温室効果ガスの排出削減量の正しい計測(Measuring)、報告(Reporting)、および検証(Verifying)が求められます。「計測」は森林からの温室効果ガスの排出量・吸収量を継続的に計測してデータを収集することを指し、REDDプラスでは二酸化炭素が計測の中心となりますが、メタンや亜酸化窒素などの温室効果ガスも対象となります。
国際的な枠組みとしての位置づけ
REDDの考え方は2005年にパプアニューギニア等によって提案され、2010年のCOP16でREDD+の大枠が定義づけられました(カンクン合意)。さらに2013年のCOP19で方法論に関する基本的枠組(ワルシャワ枠組)が決定し、2015年のCOP21ではパリ協定第5条2項においてREDD+の実施と支援が奨励されるに至っています。
パリ協定の下では、気候変動対策の核のひとつとして森林保全が明確に位置づけられており、REDDプラスはその実施手段として国際社会の期待を集めています。
日本はどのように関わっているか
日本は、REDDプラスに積極的に関与している国のひとつです。
2009年以降、民間企業等が環境省や経済産業省の支援を受けながらREDD+事業形成に向けた実証調査を実施し、森林のモニタリング方法や現地関係者との連携方法等、事業に必要な知見を蓄積してきました。2015(平成27)年度からは環境省の「二国間クレジット制度(JCM)を利用したREDD+プロジェクト補助事業」がスタートしました。
林野庁では、COP26で合意されたパリ協定第6条の実施ルール等に沿った、REDD+及び植林を対象にしたJCM森林分野のガイドライン類の改訂にも取り組んでいます。また、我が国民間企業等によるJCM森林プロジェクトの拡大に向け、パートナー国とのJCM森林分野のガイドライン類の策定を目指しているところです。
国際機関との連携においても、緑の気候基金(GCF)のREDD+成果払いパイロットプログラムでは、日本からは国際協力機構(JICA)と三菱UFJ銀行(MUFG)が認証機関として承認されているとされています。
さらに、研究面では国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所が継続的な情報発信を行っており、森林と気候変動に関するセミナー等を通じた普及啓発活動を続けています。
課題と可能性|REDDプラスが抱えるジレンマ
REDDプラスは画期的な仕組みである一方、解決すべき課題も残っています。
ひとつは「参照レベル(ベースライン)」の設定の難しさです。
森林減少・劣化率は経済成長率や農産物、アブラヤシ、林産物の値段・需要量などの変化により、森林開発の度合いが変わってくることを考慮しなければなりません。また、過去の森林減少の割合や傾向を参考にベースラインを設定すると、過去に森林減少・劣化の度合いが高かった国がより多くのREDDクレジットを獲得し、逆に森林減少・劣化の対策をとってきた国やこれから森林減少が起こる国がクレジットを十分に獲得できなくなり、公平性を欠く可能性があります。
もうひとつは「リーケージ(漏出)」のリスクです。ある地域で森林減少を食い止めても、その圧力が別の地域に移動してしまえば、地球全体での排出削減にはつながりません。これをどう防ぐかは、制度設計上の重要な課題とされています。
それでも、REDDプラスが持つ可能性は大きいといえます。
REDD+は、排出削減・吸収のほかに生物多様性の保全や途上国の持続可能な発展に寄与するなど、さまざまな副次的効果も期待されます。
森を守ることが、気候・生物多様性・地域社会という複数の課題を同時に解決する可能性を秘めているのです。
私たちにできること
REDDプラスは国家間・国際機関の枠組みですが、個人の行動と無関係ではありません。たとえば、持続可能な森林管理に基づく木材・紙製品の選択(FSC認証など)や、環境に配慮した農産品の選択は、熱帯林の破壊につながる農地開発の需要を間接的に減らすことにつながります。また、NGOや市民団体が行う途上国の森林保全プロジェクトへの寄付・支援も、REDDプラスを補完する現場

