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ENVIRONMENT

2026年、自然資本が「経営課題」になる年|ネイチャーポジティブと企業の対応最前線

2026年、自然資本が「経営課題」になる年|ネイチャーポジティブと企業の対応最前線

気候変動と並ぶ地球規模の課題として、いま「自然資本の喪失」と「生物多様性の危機」への注目が急速に高まっています。2022年に採択された国際目標の達成に向けた中間レビューが2026年に迫るなか、企業・投資家・各国政府のいずれもが具体的な行動を迫られる局面に入ってきました。日本でも複数の省庁が連携した戦略や、企業の自主的な取り組みが加速しており、自然資本は「環境部門だけの話」から「経営の根幹」へと位置づけが変わりつつあります。

なぜいま「自然資本」が注目されるのか

世界経済フォーラム(WEF)によれば、世界のGDPの半分以上(約44兆ドル)は自然に依存する経済活動から生み出されています。農業は授粉や土壌形成などの生態系サービスに依存し、製薬業界は新薬開発のために生物多様性を必要とします。

にもかかわらず、自然環境は急速に失われています。
1970年以降、野生動物の個体数は平均で約7割減少しているとされており(WWF「地球生命指数」)、絶滅のおそれがあるとされる野生生物も増加を続けています。
自然資本の経済的価値は従来の市場では適切に評価されず、「価格のない価値」として扱われてきました。その結果、生物多様性保全に向けた資金は著しく不足しており、資金ギャップは年間数千億ドル規模に達するとされています。

この現実を変えるために、2022年12月に国際社会が合意したのが「昆明・モントリオール生物多様性枠組(KM-GBF)」です。
日本を含む各国は、2030年までのミッションとして「自然の損失を止め、回復軌道に乗せることで、2050年までに自然の完全な回復を目指す」ことを約束しました。

2026年は「中間レビュー」の節目の年

KM-GBFには、目標の達成状況を定期的にチェックする仕組みが組み込まれています。
2030年の目標年に向けて、各締約国政府はNBSAP(国家生物多様性戦略・行動計画)の実施状況とターゲット達成に向けた進捗を報告する「国別報告書」の提出を求められています。この国別報告書をもとに世界全体の進捗状況を示すグローバル報告書が作成され、2026年に開催が予定されている生物多様性条約第17回締約国会議(COP17)においてグローバルレビューが行われることになっています。

この「中間レビュー」は、単なる数字の確認にとどまりません。
KMGBFの前身である「愛知目標」では評価が各国任せになっていたこともあり、多くの目標項目が未達で終わりました。この教訓を踏まえてKMGBFは強化されたモニタリングの枠組みを設定しており、今回の中間レビューはその実効性を問う最初の機会となります。

国内では、環境省が「生物多様性及び生態系サービスに関する総合評価2028(JBO4)」の中間提言を公開しました。これは、2026年のCOP17で行われる生物多様性保全に向けた取り組みの中間レビューに向けて発表されたものとされています。

TNFDが企業の自然開示を変える

国際的なビジネスの文脈でも、自然資本への対応は急加速しています。その中心的な枠組みが、TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)です。

TNFDとは、企業が自然資本や生物多様性に関わるリスクや機会を把握し、それらの影響を財務的な観点から情報開示するための国際的な枠組みです。その目的は、自然環境への負荷や依存を可視化することで、自然の保全や回復を促す取り組みに資金が流れる仕組みを整え、持続可能な社会と経済の実現を後押しすることです。
2023年9月にTNFD最終提言v1.0版が発行され、企業にとって把握し、開示すべきものが明確になりました。

注目すべきは、日本企業の対応の早さです。
2024年12月時点でTNFDアダプター(TNFD開示への自主コミットを表明した企業)に登録されている企業のうち、日本企業が最多を占めているとされています。
世界のESG投資の規模は拡大を続けており、今後さらにESG投資が浸透し、世の中が環境・自然資本に注目を集めるようになった場合、自然関連情報の開示は組織が社会的価値や社会的評価の向上を目指すうえで欠かせない要素となっていきます。早期からTNFD提言に賛同しておくことは、将来において大きなアドバンテージとなると考えられています。

日本政府と経済界の動き

日本では、国を挙げた政策の整備も進んでいます。
環境省、農林水産省、経済産業省、国土交通省の4省が連携し、自然資本に立脚した企業価値の創造を目指す「ネイチャーポジティブ経済移行戦略」を取りまとめています。

経済界でも動きが出ています。
日本経済団体連合会(経団連)および経団連自然保護協議会は、「生物多様性・自然資本保全と持続的な経済成長の両立に向けた提言」を公表しました。
この提言では、ネイチャーポジティブ分野の成長機会の認識から、企業価値向上と市場創出に向けた施策展開まで、幅広い課題と方向性が示されています。

生物多様性配慮を含むESG対応をベースとした持続的成長性への期待が、企業の価値評価へ大きな影響を与えるようになりつつあります。したがって、生物多様性に対して何も行動をしないことは、経営上の大きなリスクとなる可能性を孕んでいます。

自然保全への「資金の流れ」をつくる仕組み

政策的な枠組みだけでなく、自然保全に向けた新たな資金調達の仕組みも生まれています。
自然資本の保全・回復に向けた新たな資金調達メカニズムとして「生物多様性クレジット」が国際的に注目を集めています。カーボンクレジット市場が気候変動対策資金を動員してきたように、生物多様性クレジットは自然保全のための新たな市場ベースの手法として期待されています。
KM-GBFでは、2030年までに年間2,000億ドルの資金動員という世界目標が設定されており、生物多様性クレジットはその達成に向けた革新的な資金調達の手法のひとつとして期待されています。
イギリスとフランスは、企業が信頼性の高い生物多様性クレジットを購入できるよう市場形成を支援する「グローバル生物多様性クレジットロードマップ」を発表し、市場の健全性を確保するための国際諮問委員会(IAPB)も設立されたとされています。

私たちにできること|日常の選択が自然資本を支える

自然資本の課題は、企業や政府だけの問題ではありません。消費者一人ひとりの選択も、自然への影響と深くつながっています。

食べるものを選ぶとき、買い物をするとき、旅行先を決めるとき——そこに「自然への配慮」という視点を持つことが、大きな変化の一歩になります。生物多様性に配慮した認証製品を選んだり、地元の生態系を大切にする取り組みを応援したりすることも、自然資本を守る具体的な行動です。

2026年はネイチャーポジティブに向けた「中間確認」の年です。国際目標の達成状況が問われるこの節目に、企業・政府・私たち市民がそれぞれの立場でどう動くかが、2030年の自然の姿を決める鍵になるといえるでしょう。

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