SDGsが広く浸透しつつある昨今、観光でも「サスティナブルツーリズム」という概念が登場しています。
サスティナブルツーリズムは、単純に観光だけでなく、社会的にも重要な取り組みです。
今回は、サスティナブルツーリズムについて詳しく解説するとともに、注目される理由や取り組み事例を紹介します。
サスティナブルツーリズムとは
サスティナブルツーリズムは、「持続可能な観光」という意味があり、自然環境を大切に保ちながら、観光地の開発や観光業の活性を目指すのが目的です。
冒頭で記したように、観光だけに特化した概念ではなく、将来的に地域経済が発展し、観光地に暮らす人々が潤うことも大切な要素となっています。
とはいえ、いくら地域経済が発展しても、環境汚染や自然破壊が行われてしまえば、サスティナブルツーリズムとはいえません。
また、観光客が観光コンテンツを消費した場合も、ゴミが捨てられてしまったり、地域に暮らす人が疲弊するような事態になったりすると、サスティナブルツーリズムとはいえないでしょう。
観光客や観光地に暮らす人、旅行会社など、観光に関わる全てのニーズに対応することが大切なポイントです。
エコツーリズムとの違い
サスティナブルツーリズムとよく似た概念に、エコツーリズムがあります。
エコツーリズムの大きな特徴は、自然環境に加えて地域の伝統や歴史、文化について発信する点です。
観光客とともに、地域が持つ魅力の価値や重要性を学び、地域資源を守って行きます。
そのため、サスティナブルツーリズムよりも、「学び」に重点を置いたプランを立てるケースが多いでしょう。
とはいえ、大義としては、サスティナブルツーリズムが持つ「持続可能な観光」という意味を、エコツーリズムでも大切にしています。
グリーンツーリズムとの違い
グリーンツーリズムも、サスティナブルツーリズムと同じような意味を持つ概念です。
グリーンツーリズムの特徴は、農村や漁村エリアをメインとする観光という点にあります。
農村や漁村に滞在することで、地域の人と触れ合い、「暮らし」自体を体験することが大きな目的です。
主なターゲットは、都心に暮らす人で、普段できない体験によって、癒しや新たな発見が期待できます。
ニューツーリズムとの違い
ニューツーリズムでは、体験や交流に重きを置きます。
例えば、サイクリングツアーやロングステイなどもニューツーリズムの一環です。
サスティナブルツーリズムの概念も含まれており、グリーンツーリズムやエコツーリズムは、ニューツーリズムの一つとして考えられています。
サスティナブルツーリズムが注目される理由
近年、観光形態は多岐にわたり、サスティナブルツーリズムに限らず、地域によってさまざまな手法が導入されています。
また、インターネットが発達し、誰でも多くの情報が得られる時代です。
こうした中、サスティナブルツーリズムが注目されるのはなぜでしょうか。
続いては、その理由を詳しく解説します。
マスツーリズムがきっかけ
近年、サスティナブルツーリズムが脚光を浴びるようになった要因として、マスツーリズムが挙げられます。
マスツーリズムは、いわゆる「観光の大衆化」を意味する言葉です。
観光といえば、一昔前までは、経済力と時間に余裕のある富裕層が楽しむ娯楽でした。
しかし、1960年代に入ると、新幹線やジャンボジェットなど、交通網の発達や、地方における大型宿泊施設の開業などにより、一般市民も旅行を楽しめるようになりました。
その一方で、観光地のゴミ問題や自然破壊など、マスツーリズムによる弊害も問題視されていきます。
つまり、観光地が許容できないほどの観光客が押し寄せ、地域で暮らす人や自然に対して悪影響を及ぼすようになったのです。
こうした問題を解決するために、持続可能な観光を意味するサスティナブルツーリズムが注目されるようになりました。
参照元:マスツーリズムの歴史的変遷と今後の行方 マスツーリズムに終焉はない-|日本国際観光学会
SDGsの影響
2015年に、国連総会で採択された「SDGs(持続可能な開発目標)」もサスティナブルツーリズムが注目されたきっかけのひとつです。
SDGsでは、17の目標が掲げられ、サスティナブルツーリズムはほとんどの目標と関わりがあります。
例えば、目標11の「住み続けられるまちづくりを」では、サスティナブルツーリズムにおける、地域住民に対する配慮が大きく影響するでしょう。
そのほか、目標14の「海の豊かさを守ろう」も、観光資源を大切にしながら観光業を営むといったサスティナブルツーリズムのポイントが該当します。
このように、サスティナブルツーリズムは、SDGsを達成する上でも大変重要な役割を担っているといっても過言ではありません。
参照元:SDGs CLUB|ユニセフ
サスティナブルツーリズムの海外事例
サスティナブルツーリズムは、世界中で注目されており、各国でさまざまな事例があります。
続いては、海外における事例を4つ見ていきましょう。
スロベニア
スロベニアは、国自体が「世界で最もサスティナブルな国」として選ばれるほど、環境や文化、生物の多様性などを大切にしている国です。
小さな国ですが、ヨーロッパの観光地として非常に人気が高く、サスティナブルツーリズムの草分け的存在でもあります。
スロベニアでは、「Green Scheme for Slovenian Tourism」という独自の基準を設けており、基準を満たした観光地や観光事業者は、スロベニアグリーンとして評価されます。
実際、スロベニア国内における多くの観光地や観光事業者がスロベニアグリーンの格付けを与えられており、ほとんどのエリアが持続可能な観光地として評価されているのが現状です。
参照元:I FEEL SLOVENIA
クロアチア
クロアチアの首都であるドブロブニクも、多くの観光客が訪れる人気のエリアです。
しかし、歴史ある美しい旧市街地やアドリア海などで、観光客によるマナー違反が増えてしまい、懸念されていました。
そこで導入されたのが、「Respect the Cityプロジェクト」です。
このプロジェクトによって、クルーズ客船の乗り入れ計画を調整したり、ツアーアクティビティが可能な日を設定したりと、さまざまなルールが設けられました。
観光客だけでなく、地元に暮らす人たちも、旧市街地での過ごし方や文化的建造物の扱いなどを遵守するように求められています。
街をあげて、サスティナブルツーリズムを実行している一例です。
ドイツ
BIO HOTELSとは、オーストリアにある「Verein BIO HOTEL(ビオホテル協会)」の認定を受けたホテルで、宿泊客や従業員の健康に配慮し、環境保全にも留意しているのが特徴です。
認定を受けたホテルは、ドイツだけではなく、オーストリア・イタリア・ギリシャ・スロベニア・スイスの6カ国で80箇所を超えています。
ドイツの、BIO HOTELSのひとつ「Bio-&Nationalpark Refugium Schmilka」では、100%オーガニックの食材や地域の特産品が使われており、寝具やアメニティにもオーガニック製品が導入されています。
また、電気にも配慮がなされており、認定されたエコ電力を採用するほど、徹底したサスティナブルツーリズムを実行しているホテルです。
参照元:Bio-&Nationalpark Refugium Schmilka
アイスランド
アイスランドといえば、「火と氷の国」ともいわれ、非常に自然豊かな場所です。
中でも、ヴァトナヨークトル国立公園は、火山活動と氷河によって形成された独特の景観が人気で、世界遺産にも登録されています。
ヴァトナヨークトル国立公園のビジターセンターは、アイスランド独自の環境認証である「VAKINN」を受けているのが特徴です。
建材には、環境に優しい資材を採用し、建物自体もエネルギー効率が高い作りになっています。
また、観光客に対する配慮も素晴らしく、貴重な自然を守るための啓蒙活動もしっかり行われています。
参照元:ヴァトナヨークトル国立公園
サスティナブルツーリズムの日本における事例
サスティナブルツーリズムは、徐々に日本でも導入されつつあります。
続いては、日本の事例として、4つのパターンを見ていきましょう。
群馬県みなかみ町
豊富な自然に恵まれた群馬県みなかみ町では、アウトドアアクティビティを取り入れたサスティナブルツーリズムを実施しています。
また、「みなかみ町アウトドアスポーツ振興条例」を制定している点も特徴的です。
この条例では、豊かな自然環境を守り感謝しながら、アウトドアスポーツにふさわしい地域づくりを行い、産業の活性化を目指すことを目的としています。
さらに、みなかみ町を含めた近隣の森林地帯を「みなかみユネスコエコパーク」に登録し、生態系の保全や調査研究、持続可能な地域づくりを行なっています。
参照元:
・みなかみ町アウトドアスポーツ振興条例
・みなかみユネスコエコパーク
新潟県佐渡市
新潟県佐渡市では、観光客を中心とした関係人口の確保を目的とした「さどまる倶楽部」というファンクラブ制度を導入しています。
会員になる条件は、島外に暮らしていることだけで、誰でも無料で登録可能です。
特典として、タクシーやレンタカーなどの交通手段が割引になったり、協賛店舗でサービスが提供されたりします。
また、自治体にとっては、旅行者の動向把握に役立ち、観光を生かして経済を回すサスティナブルツーリズムにつながる制度です。
参照元:さどまる倶楽部
神奈川県箱根町
神奈川県箱根町といえば、温泉地として国内外問わず人気のある観光地です。
箱根町では、外国人旅行客に向けた観光交流センターを設置しています。
英語や韓国語をはじめとするさまざまな言語に対応しているほか、12種類の外貨に対応した自動両替機も用意されている旅の窓口です。
また、日本文化を体験できるイベントやツアーなどを提供し、インバウンド化にも力を入れながら、地域を大切にしたサスティナブルツーリズムを導入しています。
東京都
サスティナブルツーリズムは、地方だけで導入されているわけではありません。
大都会、東京・銀座でも、サスティナブルツーリズムを意識した取り組みが行われています。
「銀座ミツバチプロジェクト」といい、養蜂を通して、環境と生態系を体感する取り組みです。
このプロジェクトで採取したハチミツは、地元のお菓子屋さんで材料として使われるほか、ミツロウで作られたキャンドルは、地域の教会で使用されています。
サスティナブルツーリズム導入に向けてできること
サスティナブルツーリズムを導入するためには、行政や観光地、観光業を営む人だけでなく、観光を楽しむ人たちも意識をすることが大切です。
続いては、サスティナブルツーリズムを導入するにあたって、観光地、観光客それぞれができることを解説します。
ゴミを持ち帰る
サスティナブルツーリズムは、観光客に対してマナーを啓蒙することも大切です。
いわゆる「ツーリスト管理」といわれ、サステナブルツーリズム国際認証の基準にも設けられています。
中でも、ゴミを持ち帰ることは、簡単そうに見えて意外と徹底できないマナーのひとつです。
観光地からの啓蒙だけでなく、観光客自身もしっかりと意識して、来た時よりも綺麗にして帰る必要があるでしょう。
地域に暮らす人への配慮
観光客が増えれば、それだけ経済が回るため、サスティナブルツーリズムにおける観光業の活性にも繋がります。
しかし、観光客によるマナー違反が頻発すると、地域住民の生活環境が侵されかねません。
大切な資源を守り、地域住民が気持ちよく観光客を受け入れるためには、地域に暮らす人への配慮も大切です。
入境制限
サスティナブルツーリズムでは、豊かな自然を体験するツアーが開催されることもあります。
しかし、多くの人が一度に押しかけてしまうと、生態系が崩れる可能性も否めません。
こうしたリスクを避けるために、入境制限をかけることも必要です。
排ガス規制
多くの観光客が訪れると、排気ガスの問題も発生します。
サスティナブルツーリズムを実現するためには、公共交通機関に電気自動車や天然ガス自動車の導入を検討するべきでしょう。
また、エリアによっては、自家用車の乗り入れを規制して、負担を軽減させる必要もあります。
まとめ
サスティナブルツーリズムは、この先も美しい地球を体感するために欠かせない取り組みです。
地球環境を守るだけでなく、地域にある文化を学び、地域住民の暮らしを尊重するうえでも欠かせません。
また、サスティナブルツーリズムにより、地域が活性化すると、住民の暮らしがより良いものになるでしょう。
その一方で、多くの人が観光地に訪れると、自然環境の破壊や生活環境の侵入などのリスクも考えられます。
こうしたリスクが発生しないためにも、サスティナブルツーリズムの本質をしっかりと把握しておくことが大切です。