東証プライム上場企業のうち、パーパス(企業の存在意義)を掲げる会社は2026年時点で348社、全体の22.2%に達しました。エスエムオー株式会社(SMO)の継続調査では、2022年の4.9%から4年で4倍超の水準です。ただし、掲げる企業が増えたことと、パーパスが経営や職場で機能していることは別の話です。
この記事では、日本の公的資料や調査を並べて、パーパス経営の広がりを数字で確認します。そのうえで、掲げたあとに残る課題と、読者が自分の立場からパーパスの中身を見極めるための具体的な行動を整理します。10月は多くの企業で下期が始まる時期です。就職活動や転職、投資、日々の仕事のどれにとっても、会社のパーパスを見直すのに向いたタイミングです。
日本のパーパス経営を数字で見る
パーパス経営とは、企業が自社の存在意義を言葉にし、それを軸に事業や投資、人事の判断を行う経営のあり方を指します。日本での広がりは、複数の調査で確認できます。
プライム上場企業の推移(SMO調査)
SMOは東証プライム上場企業の企業理念を毎年調べ、パーパスを公式に掲げている企業を数えています。2026年7月1日公開の結果では、推移は次のとおりでした。
2022年は対象1,839社のうち91社(4.9%)、2023年は1,836社のうち164社(8.9%)、2024年は1,650社のうち236社(14.3%)です。2025年は1,634社のうち337社(20.6%)、2026年は1,569社のうち348社(22.2%)となりました。
伸び率は年々緩やかになっています。2025年から2026年にかけて、掲げる企業は337社から348社へ増えましたが、増加幅は前年までより小さくなりました。SMO自身も、今後の焦点は「掲げる」から「経営・組織への実装」へ移ると総括しています。
統合報告書では広く浸透している(KPMG調査)
KPMGジャパンは、TOPIX100構成企業100社の統合報告書を分析した「統合報告に関する調査2025」を2026年4月に公表しました。それによると、94%の企業がパーパスを示しており、そのうち59%で経営者が「語り手」となって価値創造ストーリーを説明しているとされています。
この調査は、投資家向けの開示資料を丁寧に作る大企業が対象です。プライム全体の22.2%と比べて数字が大きいのは、対象の規模と調査の定義が異なるためと考えられます。
二つの数字を並べるときの注意点
SMOの数字は「パーパスを企業理念として公式に掲げているか」という基準で数えたもので、毎年の対象社数も変わっています。KPMGの数字は、統合報告書に「パーパス(存在意義)」の記述があるかどうかで見ています。
つまり22.2%と94%は、同じ尺度の大小ではありません。大企業ほど統合報告書でパーパスを語る傾向が強く、社名を冠した「パーパス」という語を使わず、従来の経営理念で同じ内容を表す企業も少なくないと推測できます。数字を引用するときは、調査主体と対象を必ず添えるのが誠実です。
政策面の後押しとSXという考え方
日本でパーパスが広がった背景には、政策面の動きもあります。ここでは経済産業省が2022年に示した枠組みを確認します。
伊藤レポート3.0が示した「同期化」
経済産業省は2022年8月30日に、「伊藤レポート3.0(SX版伊藤レポート)」と「価値協創ガイダンス2.0」を公表しました。伊藤レポート3.0は、サステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の重要性を整理した文書です。
SXとは、社会のサステナビリティと企業のサステナビリティを「同期化」させ、そのために必要な経営や事業の変革を進めることを指します。企業が長く続くためには、社会が抱える課題の解決と、自社の稼ぐ力を切り離さずに考える必要があるという発想です。パーパスは、この同期化の方向を社内外に示す言葉として使われやすい位置にあります。
価値協創ガイダンス2.0が求める開示と対話
価値協創ガイダンス2.0は、経営理念やビジネスモデル、戦略といった情報を、投資家に体系的に伝えるための手引きです。SXの実現に向けた経営の強化や、効果的な情報開示、投資家との建設的な対話を目的としています。
企業にとって、パーパスは一度書けば終わりの標語ではなく、ビジネスモデルや戦略と結びついた説明が求められる要素になりました。統合報告書でパーパスを示す企業が多いのは、この流れに沿った動きと読めます。
読者の視点でどう活かすか
この政策的な背景を知っておくと、企業の資料を読む目が変わります。パーパスの文言そのものより、その言葉が事業の説明や数値目標にどうつながっているかが、評価の分かれ目になるためです。
たとえば就職活動中の学生であれば、パーパスの横にビジネスモデルや戦略の説明が置かれているかを確認できます。株式を保有する人であれば、経営者メッセージと中期計画が同じ言葉で語られているかが手がかりになります。
掲げたあとに残る課題
パーパスを策定する企業が増えた次の段階は、現場への浸透と事業への反映です。ここには公開されている調査結果が複数あります。
従業員の受け止め方に関する調査
アイディール・リーダーズ株式会社は2021年6月に、パーパスを有する日本国内の企業に勤める従業員824名を対象に、インターネット調査を行いました。パーパスが働く理由になっているとの回答は約60%(「とても理由になる」23.1%、「少し理由になる」37.3%)でした。
パーパスが思考や行動に影響しているという回答は約55%、パーパスを理解し自分事化する機会が得られているという回答は約59%です。パーパスのある企業の従業員でも、実感を伴う人は6割前後にとどまる、というのがこの調査の読み取りです。
ただし、これは調査時点が2021年で、回答者はパーパスを有する企業の従業員に限られます。日本企業全体の傾向とは言えません。
学術研究が指摘する「規範モデルの不足」
古川英樹氏による2024年の論文は、パーパスを「持続可能性を目指す企業の存在意義」とし、従来の経営理念を「Why」の視点で補うものと位置づけています。同時に、パーパス駆動型マーケティングの規範的なモデルが未構築であること、価値観や行動規範を組織文化として確立する必要があること、日本企業を対象とした事例研究が不足していることを課題に挙げています。
つまり、パーパス経営がうまくいく条件は、学術的にもまだ十分に整理されていません。「この手順を踏めば成功する」と断定する情報には、慎重に向き合うのが妥当です。
数字から見える実装の論点
SMOの推移とあわせて見ると、論点は二つに絞れます。一つは、策定した言葉を事業判断や評価制度にどう結びつけるかです。もう一つは、全体説明会や社内報のような一方向の伝達だけでなく、現場が自分の仕事に引き寄せて考える場をどう作るかです。
どちらも、制度の整備より日々の運用に左右されます。そのため、外部から見ると見極めにくい点でもあります。
公開情報から読み取る、パーパスの置き方の3つの型
ここからは、公開情報をもとにした当メディアの整理です。調査や統計ではなく、企業が公表している資料から読み取れる傾向として受け取ってください。
事業の方向を一文で示す型
ソニーグループは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というPurposeを掲げています。創造と技術という二つの軸で、事業領域を横断して説明できる形です。事業の幅が広い企業ほど、この型で全体を束ねやすいと考えられます。
数値目標とセットで示す型
味の素グループは、アミノサイエンス®で人・社会・地球のWell-beingに貢献することをPurposeに掲げ、2030年に向けて「10億人の健康寿命の延伸」と「環境負荷50%削減」を目標に置いています。言葉に数字が付くため、進捗を外部から追いやすい型です。
経営者が自分の言葉で語る型
KPMGの調査が指摘するように、経営者が自らの言葉でパーパスを語り、価値創造のストーリーにつなげる形です。59%という数字は、この型が上位企業で広がっていることを示します。社内外への説得力は、文言の美しさより語り手の一貫性に表れます。
三つの型は排他的ではなく、多くの企業は複数を組み合わせています。見るべきなのは、どの型でも「言葉と行動の距離」が縮まっているかです。
読者の次の一歩|気になる企業のパーパスを3か所で確かめる
ここまでの内容を、今日から試せる1つの行動にまとめます。気になる企業(志望先、勤務先、投資先のいずれでも)について、公式サイトのパーパスの文言を、次の3か所の記述と照らし合わせてみてください。
一つ目は経営者メッセージ、二つ目は事業や戦略の説明、三つ目は目標値やKPIです。同じ言葉や概念が3か所に現れ、数字や施策に落ちていれば、パーパスが経営に組み込まれている可能性が高いと言えます。逆に、パーパスのページだけで言葉が完結している場合は、実装がこれからの段階かもしれません。
所要時間は一社あたり20〜30分程度です。下期が始まった今の時期に、まず1社だけ試してみてください。結論を出すための作業ではなく、資料の読み方を身につけるための練習として十分に役立ちます。
まとめ
東証プライム上場企業でパーパスを掲げる会社は、SMOの調査で2022年の4.9%から2026年の22.2%へ増えました。KPMGの調査では、TOPIX100の統合報告書の94%がパーパスを示しています。背景には、2022年8月の伊藤レポート3.0がSXを示したことで、企業の持続性と社会の持続性を結びつけて説明する流れが強まったことがあります。
一方で、掲げる企業が増えたことと、パーパスが職場で実感されていることは別です。従業員調査ではパーパスが働く理由になっているとの回答は約60%で、学術研究も実装の規範モデルが未整備だと指摘しています。数字を読むときは、調査主体、対象、時点を確かめる姿勢が欠かせません。
だからこそ、外部から確かめられる手がかりを使うのが現実的です。パーパスの文言を、経営者メッセージ、事業説明、目標値の3か所と照らし合わせる習慣が、その手がかりになります。
- プライム上場企業でパーパスを掲げる会社は22.2%(2026年、SMO調査)まで増え、伸びは緩やかになっている
- 統合報告書での開示は大企業ほど進んでおり、調査の定義が違う数字は単純に比べない
- 伊藤レポート3.0のSXは、社会と企業のサステナビリティの同期化を求める考え方である
- パーパスが働く理由になっているとの従業員回答は約60%で、実装は途上と読み取れる
- 経営者メッセージ、事業説明、目標値の3か所で同じ言葉が使われているかを確かめる
参考文献
- エスエムオー株式会社「PURPOSE STATEMENT LIST 2026」(2026年)
- KPMGジャパン「統合報告に関する調査2025」(2026年)
- 経済産業省「伊藤レポート3.0・価値協創ガイダンス2.0」公表資料(2022年)
- アイディール・リーダーズ「パーパスに関する意識調査レポート」(2021年)
- 古川英樹「A Cultural Study Perspective on Purpose-Driven Marketing Practices」(2024年)

