企業がグローバルに広がるサプライチェーン全体で起こりうる人権侵害や環境破壊に対して、責任を持って対策を実施する取り組みをご存知ですか?この動きは「サプライチェーンデューデリジェンス」と呼ばれており、世界的に注目が高まっています。企業の社会的責任がもはや自社だけでは済まず、原材料の採掘地から製造、流通、販売まで、すべてのプロセスに広がっているのです。本記事では、この重要な仕組みをわかりやすく解説します。
サプライチェーンデューデリジェンスとは
サプライチェーンデューデリジェンスとは、企業が自社や取引先を含めた供給網において人権侵害や環境汚染のリスクを特定し、責任を持って予防策や是正策をとることを意味します。
「デューデリジェンス」とは「注意義務」という意味で、企業が進んで気づかってリスクを調査し、対策する責務を負う、という概念です。
言い換えれば、企業は製品の最終的な品質や価格だけでなく、その製品がどのように作られ、どんな環境で、どんな労働条件の中で生産されたのかまで見える化し、適切に管理する責任があるということです。
なぜ今、サプライチェーンデューデリジェンスが重要なのか
ビジネスと人権に関する指導原則が2011年に国連人権理事会で合意されて以来、企業の人権デューデリジェンスに関する国際的な枠組みが進展しており、OECD多国籍企業行動指針の改訂やOECD責任ある企業行動のためのガイダンスも発表されています。
背景にあるのは、グローバル化する企業活動です。先進国の企業が発展途上国で原料調達や製造を行う際に、児童労働や強制労働などの人権侵害、環境汚染が起こっているケースが顕在化してきました。企業の本社から遠く離れた取引先での問題であっても、その企業に責任があるのではないか—という認識が国際的に広がったのです。
企業が実施すべきプロセス
OECD・デューデリジェンス・ガイダンスでは、デューデリジェンスを①方針策定・体制整備、②影響の評価、③影響の停止・防止・軽減、④追跡調査、⑤情報開示、⑥是正という6つのプロセスに整理しています。
具体的には、企業はまず自社とサプライチェーン全体の透明性を確保します。その上で人権や環境に関するリスクを特定し、どの取引先にどんなリスクがあるのかをマッピングします。その後、予防措置を講じたり、問題が見つかった場合は是正措置を取ったりします。さらに、これらの活動を継続的に監視・報告することが求められます。
世界での義務化の動き
ドイツでは2023年1月から施行されたサプライチェーン・デューデリジェンス法により、従業員3000人以上の企業に対して国内外のサプライチェーンにおける人権や環境を尊重するための企業の取り組みが義務化されました。
イギリスの現代奴隷法(2015年)やフランスの企業注意義務法(2017年)なども、サプライチェーン上の人権リスクの確認と情報開示を企業に義務付けています。
一方、環境省では2020年8月に「バリューチェーンにおける環境デュー・ディリジェンス入門」を公表し、EUは2022年2月に「企業サステナビリティ・デュー・ディリジェンス指令案」を公表し、EU域内・域外の大企業に対して環境や人権への負の影響を特定・防止・軽減するデューデリジェンスの実施を義務化することを予定しています。
日本企業への影響
日本企業の多くはまだサプライチェーンデューデリジェンスに本格的に取り組んでいる段階です。ただし、ドイツやEUの法制度に対応する必要のある企業は、今から準備を進める必要があります。特に自動車、衣料品、電機などの業種で海外の製造拠点やサプライヤーが多い企業にとって、この対応は緊急の課題となっています。
企業人権ベンチマークは、世界の大企業の半数近くが、バリューチェーンにおける人権や環境問題の軽減はおろか、特定すらできていないことを明らかにしています。
日本企業も例外ではなく、現状把握と体制整備が急務といえます。
私たちにできること
消費者の視点からは、企業がどのような取り組みを行っているのかを知ることが大切です。企業のサステナビリティ報告書やウェブサイトを確認し、サプライチェーン上の人権・環境課題にどう対策しているのかを学びましょう。また、信頼できるサステナビリティ認証(フェアトレード、FSC認証など)の商品を選ぶことも、企業に好ましい取り組みを促す応援になります。投資家であれば、ESG投資を通じて企業のデューデリジェンス実施状況を評価することも一つの方法です。
サプライチェーンデューデリジェンスは、企業が持続可能なビジネスを実現するための不可欠な取り組みです。透明性と責任感のある企業行動が、結果的に私たち消費者のためにもなる時代が来ています。

