路上で夜を過ごす人の数が、この20年で大きく減った。しかし「減った」という数字だけを見て、問題が解決したと思うのは早い。取材を続けてきた実感として、ホームレス状態にある人たちへの支援は、数の変化とは別の次元で複雑な課題を積み重ねてきた。本記事では、厚生労働省の調査データと支援団体の実態を軸に、日本のホームレス支援が直面する構造的な問いを整理する。
路上で夜を過ごす人の数が、この20年で大きく減った。しかし「減った」という数字だけを見て、問題が解決したと思うのは早い。取材を続けてきた実感として、ホームレス状態にある人たちへの支援は、数の変化とは別の次元で複雑な課題を積み重ねてきた。本記事では、厚生労働省の調査データと支援団体の実態を軸に、日本のホームレス支援が直面する構造的な問いを整理する。
「激減」の裏側に残るもの
厚生労働省が毎年実施する「ホームレスの実態に関する全国調査」によると、ホームレスの確認数は2003年の約2万5,000人をピークに減少を続け、2024年の調査では2,820人(〔要確認:最新調査年・人数〕)まで縮小したとされる。ピーク比で約9割近い減少であり、一見すると大きな成果に見える。
ただし、この数字は「路上生活者」に限定したカウントだ。インターネットカフェや24時間営業の店舗を転々とする「ネットカフェ難民」や、友人宅を数日おきに移る「隠れホームレス」と呼ばれる状態の人々は集計に含まれていない。2018年に東京都が実施した調査では、都内だけで約4,000人がネットカフェ等を常用していると推計されており、路上の数字はあくまで氷山の一角である。
支援の現場では、「見えない貧困」が可視化されないまま制度の外に置かれる状況を、長年の懸念事項として訴えてきた。数値の減少を「支援の成功」と単純に読むことには、慎重でいたい。
日本のホームレス支援の現状と法的枠組み
日本には2002年に施行された「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法」(通称・ホームレス自立支援法)がある。この法律に基づき、国と自治体は自立支援センターの設置や就労支援、巡回相談などを実施してきた。同法は10年の時限立法として始まり、その後延長を重ねて現在も効力を持っている。
自立支援センターは一定期間(多くは3か月程度)の宿泊・食事・就労支援を提供し、安定した住居と仕事への復帰を目指す施設だ。しかし定員に限りがあること、高齢化や疾病を抱える利用者への対応が追いつかないケースがあることなど、課題は実務レベルで蓄積している。
NPO・市民団体による支援も不可欠な役割を担ってきた。炊き出し、夜回り、相談対応、生活保護申請の同行支援など、行政が届きにくいところをカバーする団体が全国各地に存在する。こうした民間支援と行政の連携がどこまで機能しているかが、地域によって支援の厚みに大きな差を生んでいる。
5つの構造的課題
取材や公開資料をもとに整理すると、日本のホームレス支援には以下の5つの課題が繰り返し指摘されてきた。それぞれの背景を見ていく。
1|「住まい」から始まる支援へのシフトの遅れ
従来の支援モデルは「まず自立(就労)ありき」という発想に立っていた。しかし、路上生活を経た人が仕事を探すためには、まず住所が必要だ。住所がなければ携帯電話の契約もできず、銀行口座も開けない。「先に就労→その後に住まい」という順序の支援は、この現実とかみ合っていない。
国際的には「ハウジング・ファースト」(住まいを最初に確保し、その後に生活支援を行う)という考え方が有力な実践モデルとして広がっており、フィンランドでは同アプローチを採用して長期ホームレス数を大幅に削減したと報告されている。日本でも一部のNPOや自治体がハウジング・ファースト型の試みを始めているが、まだ全国展開には至っていない。
2|高齢化と健康問題への対応不足
路上生活者の高齢化は、支援現場で共通して報告されている変化だ。厚生労働省の調査では、ホームレス状態にある人の平均年齢は上昇傾向にあり、60歳以上の割合が増えているとされる〔要確認:最新調査の具体値〕。高齢になるほど就労による自立は難しくなり、医療や介護との連携が欠かせなくなる。
しかし現行の自立支援センターは就労支援を前提とした設計になっており、医療的ケアが必要な利用者の受け皿が十分ではない。生活保護制度を活用することで医療費の自己負担はなくなるが、申請に至るまでの段階的なサポートが薄い地域では、深刻な状態になってから発見されるケースも少なくない。
3|生活保護制度と支援のギャップ
ホームレス状態にある人が安定した生活を取り戻すための最重要な制度的手段のひとつが、生活保護だ。住宅扶助を使うことで家賃を賄えるため、アパートへの転居が現実的になる。ところが、申請窓口での「水際作戦」(申請を事実上阻む対応)の問題は、支援者から繰り返し指摘されてきた。
厚生労働省は2023年に「生活保護の申請権は誰でも有する」との通知を改めて発出し、支援者の同行申請を認める姿勢を明確にしている。しかし制度の周知不足や、自治体窓口の対応の地域差は依然として課題として残っている。NPOが申請に同行するアウトリーチ支援が機能しているかどうかが、個人の生活再建に直結している。
4|女性・若者・外国人など多様化するホームレス状態
「ホームレス」という言葉で思い浮かぶ像は、中高年男性が公園で寝ているというステレオタイプかもしれない。しかし実態は変化している。DV被害から逃げてきた女性、若年層、外国籍の方々など、路上ではなく施設や知人宅を転々とする形でホームレス状態に置かれている人々が増えているとされる。
女性の場合は特に、性被害リスクや「見えにくさ」から支援につながるまでの期間が長くなる傾向があると支援団体は指摘する。女性専用の相談窓口や宿泊支援が不足している地域では、状況が悪化するまで助けを求めにくい構造がある。若年層については、家庭の機能不全や虐待歴を背景に持つケースも多く、住居支援と心理的ケアの両立が求められる。
5|社会的偏見と排除の構造
支援の障壁として見落とされがちなのが、社会的な偏見だ。路上生活者への暴力事件は過去にも繰り返し報道されており、「自業自得」という見方が根強く存在する。こうした偏見は、当事者が助けを求める際の心理的ハードルを高め、支援者が活動しやすい環境を奪う。
また、アパートへの転居を支援しようとした際に家主が「ホームレス経験者はお断り」とするケースがあることも、支援者からは報告される。「住まいがないから就職できない、就職できないから住まいが借りられない」という循環は、偏見が制度の穴と合わさることで強化されてしまう。
変化の兆し|ハウジング・ファーストと連携モデル
課題が積み重なる一方で、現場では確かな変化も起きている。NPO法人「ビッグイシュー基金」や「抱樸(ほうぼく)」など、長年にわたって活動を積み重ねてきた団体が、アドボカシー(政策提言)と直接支援を組み合わせるモデルを発展させてきた。
ビッグイシュー日本版は、路上生活者や元ホームレス状態にある人が雑誌「ビッグイシュー」を販売することで収入を得るしくみを提供してきた。2003年の創刊以来、販売者が自ら稼ぐ仕組みを通じて、尊厳の回復と社会参加を促す実践として注目されている。
抱樸(北九州市)は、住宅支援・就労支援・居場所づくりを一体的に提供する「伴走型支援」を実践してきた団体で、そのモデルは国内外から視察を受けてきた。コロナ禍で露わになった経済的困窮者への緊急支援においても、行政との連携を軸にした即応体制を構築した実績がある。
こうした団体の存在は、「支援は慈善ではなく制度設計の問題だ」という視点を社会に広げてきた。一度路上生活に至った人が再び安定した暮らしを取り戻す確率は、早期支援と住まいの確保がセットになることで高まると、複数の実践事例が示している。
「支援する側」として私たちにできること
ホームレス支援はNPOや行政だけの問題ではない。「ホームレス状態になる理由は何か」を知ること、偏見のある言葉を使わないこと、そして支援団体の活動を寄付やボランティアで支えること。これらは、誰でも選択できる関わり方だ。
特に注目してほしいのが、フードバンクや食料支援団体への協力だ。多くの支援NPOは、炊き出しや食料配布を入口にして相談支援につなげている。食料支援は「困っている人への慈善」ではなく、「相談の場を作るインフラ」として機能している。身近なフードバンクや支援団体を検索して、不要な食品を寄付することが、間接的にホームレス支援につながっている。
今日からの1アクション
まず1つだけ試してほしいことがある。お住まいの地域で活動している支援団体(NPOや炊き出しボランティア)を検索してみることだ。多くの団体はウェブサイトで寄付・食料提供・ボランティア参加を受け付けており、月500円からの継続寄付を設けているところも多い。「どこに誰がいるか」を知るだけでも、問題への認識は変わる。
まとめ|数字の減少が「解決」ではない理由
日本のホームレス支援が直面する課題を振り返ると、以下の5点に集約できる。
- 路上生活者の数は減少したが、「見えないホームレス」は集計外に置かれたままだ
- ハウジング・ファーストなど「住まいから始まる支援」への転換がまだ全国展開していない
- 高齢化・女性・若者・外国籍など、支援が届きにくい層への対応が課題として残る
- 生活保護制度の活用を阻む「水際作戦」や地域差は、制度上解消されていない
- 社会的偏見と排除の構造が、支援の効果を制限し続けている
「激減」という数字が示すのは、路上という「見える場所」にいる人が減ったということにすぎない。見えにくい場所で困っている人の存在に気づき、制度とコミュニティの両方から支える視点を持つことが、今の日本のホームレス問題を考えるうえで欠かせない出発点だと思っている。

