気候変動による豪雨・猛暑・大規模地震——。都市が直面するリスクは年々複雑さを増しています。そうした中で国際的に注目を集めているのが「レジリエントシティ(強靱な都市)」という概念です。単に災害に耐えるだけでなく、危機から素早く立ち直り、さらに前進できる都市のあり方とはどういうものか。世界と日本の最前線を見ていきます。
レジリエントシティとは何か
「レジリエンス(resilience)」とはもともと物理学や心理学で使われた言葉で、「外力を受けても元の状態に戻る力」を意味します。都市の文脈に置き換えると、自然災害をはじめとする負荷、そして貧困・インフラの老朽化・人の移動などの長期的ストレスに対する都市の回避・対応・回復能力
を指します。
都市のレジリエンスとは、経済・環境・社会・制度的なあらゆる衝撃を吸収し、回復し、将来に備える能力のことであり、レジリエントシティとは逆境に打ち勝つだけでなく、そこからさらに発展できる都市のこととされています。
重要なのは、「防災・減災」だけが目的ではないという点です。
気候変動や大規模自然災害への対応として、レジリエントなまちづくりを目指す自治体が増えてきており、さらに災害時でも社会経済システムを支える都市機能を維持するため、防災・減災の取り組みだけでなく、都市のエネルギー自治や都市構造の変革等についても着目されるようになってきたとされています。
なぜ今、世界で注目されているのか
2050年までに都市への人口集中がさらに進むとされる中、都市は21世紀におけるリスク対応の最前線に立たされている。人口密度の高い都市部は、異常気象による自然災害、パンデミック、テロリズム、サイバー攻撃をはじめとする人的災害など、様々な脅威の影響を受けやすく、また貧困や不平等に起因する社会不安・対立などの発火点となることも多い。
こうした背景から、都市レジリエンスの強化は今や世界的な重要課題となっています。
国連の予測によると、2050年に向けて都市への人口集中はさらに加速するという。都市人口の増加が続く今、世界各国の政府機関はリスク管理体制の見直し、そして先行き不透明な時代の長期的リスクに備えた都市レジリエンスの強化を求められている。
例えば2023年には世界が記録上最も気温の高い夏(6〜8月)を経験し、未曾有の海面水温上昇と異常気象に見舞われた。インドでは激しいモンスーンによって北部地方の橋・住宅に甚大な被害が発生するなど、深刻な影響が報告された。
日本でも近年、線状降水帯による大規模水害や能登半島地震(2024年1月)など、「想定外」の複合災害が相次いでいます。
4つの柱で都市を評価する
Economist Impactが作成した「Resilient Cities Index(都市レジリエンス指数)」は、「基幹インフラ」・「環境」・「社会制度的レジリエンス」・「経済」という4つのカテゴリーに分類し、都市の防災体制・レジリエンスを包括的に評価する試みだ。この調査では、世界の都市が防災体制・レジリエンス強化を理論から実践段階へと移行させていること、そしてレジリエンスとサステナビリティ両立の重要性が高まっていることが明らかとなった。
この4つの柱は、日本の都市政策を考える上でも参考になります。
基幹インフラは、橋梁・上下水道・エネルギー網などのハード面です。日本では高度成長期に整備されたインフラが一斉に老朽化する「2040年問題」が指摘されており、どう維持・更新するかが課題です。
環境は、緑地・水辺・自然地形を活かした「グリーンインフラ」の整備や気候適応策を含みます。ヒートアイランド対策や洪水リスクの低減に直結します。
社会制度的レジリエンスは、地域コミュニティのつながりや行政・民間・市民社会の協働力を指します。平常時からの関係性が、有事のときに人命を守る力となります。
経済は、産業の多様性や中小企業の事業継続力(BCP)など、経済システムの強さです。一産業に依存する地方都市ほど、大規模災害時の経済的打撃が大きくなりやすいとされています。
世界のネットワークと日本の取り組み
世界では、多数の都市が参加する「Resilient Cities Network(RCN)」が各都市の「チーフ・レジリエンス・オフィサー(CRO)」と連携しながら、都市同士が知見を共有しつつレジリエンス強化を進めている。
2026年現在も同ネットワークは活動を続けており、気候レジリエンスや公平な都市づくりなどを軸に議論が深まっています。
日本でも、京都市が「レジリエント・シティ京都」としてSDGsとレジリエンスを組み合わせた形で組織的に取り組んでいるとされているほか、富山市もレジリエンス戦略を策定し、都市構造のコンパクト化と連携を組み合わせた独自モデルを推進しているとされています。
都市が直面する危機に対し、市民からの意見や文化的な遺産など、都市がすでに持っている「強み」を活かしていくことが重要とされており、画一的なモデルの輸入ではなく、それぞれの都市の歴史・地域性・市民力を土台にした取り組みが求められています。
気候変動とレジリエンスは切り離せない
気候変動の影響が顕在化しつつある今、都市は非常事態に適応し、その影響に対応するだけでなく、持続可能性を担保する形でレジリエンス強化を図る必要があるという指摘があります。つまり、レジリエントシティの追求はSDGs目標11「住み続けられるまちづくり」だけでなく、目標13「気候変動に具体的な対策を」とも深く連動しています。
気候変動、人口増加、技術革新など、都市が前例のない課題に直面している時代において、都市のレジリエンスという概念はかつてないほど重要になっている。
日本では、2024年1月の能登半島地震が改めて「地域コミュニティの強さ」と「インフラの老朽化」という二つの課題を浮き彫りにしました。避難所の環境改善・デジタルを活用した被災者情報管理・孤立地区への物資輸送など、「都市」だけでなく地方の「まち」全体のレジリエンスをどう高めるかが、今まさに問われています。
私たちにできること
レジリエントシティは行政や専門家だけが作るものではありません。
都市のレジリエンスは単にインフラの問題ではなく、社会的なレジリエンスの構築も含まれる。コミュニティへの参加、社会的公平性、そして教育が、レジリエントな都市社会を育む役割を担う。
一人ひとりができることとして、まず地域の防災訓練や自主防災組織への参加が挙げられます。また、ハザードマップを確認し、家族との避難計画を立てておくことも重要です。さらに、住んでいるまちの都市計画・防災計画のパブリックコメントに意見を出すことで、市民として都市の意思決定に参加することもできます。
「壊れない都市」を目指すのではなく、「壊れても素早く立ち直り、次の危機にはより賢く備えられる都市」を育てること——それがレジリエントシティの本質です。気候変動が加速する2026年代において、このまちに暮らす私たち一人ひとりの行動が、都市のしなやかさをつくる土台となっています。

