日本の子どもの約9人に1人が貧困状態にあるとされています。2024年6月には、法律の名称そのものに「貧困の解消」という言葉が初めて刻まれた改正法が成立しました。しかし2026年2月の時点で、支援団体からは「経済的支援は依然として限定的」という声が上がり続けています。法整備と現実の支援の間にある空白——今、何が問われているのでしょうか。
法律の名前が変わった、その意味
2024年6月19日、参議院本会議で可決・成立した改正法は、旧来の「子どもの貧困対策の推進に関する法律」から、「こどもの貧困の解消に向けた対策の推進に関する法律」へと名称を変えました。
名称の変更は単なる言葉の置き換えではありません。
基本理念には、現在の貧困解消だけでなく、将来の貧困を防ぐことが掲げられ、こどもの貧困が家族の責任としてのみ捉えるべきではないことも明記されました。
つまり、貧困を「個人・家庭の問題」から「社会全体で解消すべき問題」へと、法律の根幹から位置づけ直した改正だったのです。
この改正は、超党派の議員立法によるもので、第213回国会において成立しました。
あすのば・キッズドア・しんぐるまざあず・ふぉーらむ・セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン・Learning for Allの5団体が、超党派の「子どもの貧困対策推進議員連盟(田村憲久会長)」へ法改正の共同提言を行い、その多くの要望が改正に盛り込まれました。
改正内容のなかには、こども貧困大綱に定める指標へ「ひとり親世帯の養育費受領率」を追加することや、大綱策定の際に貧困状態にあるこども・家族等関係者の意見を反映させる規定の新設なども含まれています。当事者の声を政策に届ける回路を法的に整えた点は、重要な一歩といえるでしょう。
数字で見る「9人に1人」の現実
法改正の背景にあるのは、依然として厳しい子どもの貧困の実態です。
厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)によると、日本の子どもの貧困率は11.5%で、子どもの9人に1人が貧困状態にあるとされています。
貧困状態にあるということは、食事や医療だけでなく、教育の機会にも直接影響します。
文部科学省「令和3年度子供の学習費調査」によると、家庭が自己負担する教育支出のうち、相当割合が学習塾や習い事などの学校外活動費となっており、世帯収入が高いほど学校外教育支出が多い傾向があるとされています。世帯収入による学校外教育支出の格差については、数倍に及ぶという調査結果があります。
こうした格差はやがて進学率の差となって現れます。
四年制大学進学率を世帯収入別に見ると、世帯収入の多寡によって大きな差が生じているという調査結果があります。
生まれた家庭の経済状況が、子どもの将来の選択肢を大きく左右している——この構造こそが、法律が解消しようとしている「連鎖」の正体です。
法整備の前進、しかし「現金給付」は動かず
改正法の成立から約1年半が経過した2026年2月の時点で、支援の現場からは厳しい声も上がっています。
2026年2月現在、政府は経済的に困難な状況にある子どもたちに的を絞った現金給付や手当の上乗せを実施していないとされています。こども家庭庁の令和8年度(2026年度)予算においては、食事の支援や学習支援、相談支援事業などが拡充された一方で、経済的支援は依然として限定的なままだという指摘があります。
物価高騰が続く中、経済的に非常に厳しい状況にある子育て世帯にとって、いま必要なのは現金給付などの即効性のある経済的支援だという指摘があります。
食事支援・学習支援・相談支援の拡充は確実な前進ですが、生活の底上げとなる直接的な経済的支援とのバランスをどう取るかは、引き続き政策論争の中心に置かれています。
「社会全体で解決する」を形にするNPOの現場
こども家庭庁は、こどもの貧困が経済的な困窮にとどまらず、学習面・生活面・心理面など様々な面においてその後の人生に影響を及ぼすと位置づけ、貧困の問題を家庭のみの責任とするのではなく社会全体で解決することが重要だとしています。
この理念を体現しているのが、全国各地のNPOや市民団体の取り組みです。
こども家庭庁は「こどもの未来応援国民運動」を推進し、支援したい人や企業と、草の根でこどもたちを支えているNPO等の団体を結びつけ、国や自治体が行う施策を促進させる活動を進めています。
また改正法では、国や地方公共団体がこどもの貧困に取り組む民間団体の活動を支援するために財政上の措置を行うことが明記されました。
法律が民間の支援活動に財政的な後ろ盾を与える仕組みが整ったことで、NPOが担ってきた「制度の狭間」を埋める役割が、より広い規模で機能することが期待されています。
セーブ・ザ・チルドレンをはじめとする支援団体は、子どもの貧困対策への重点的な施策拡充を政治的な課題として訴え続けており、政治的な認知は高まりつつあるという見方があります。
「解消」は遠くない目標にできるか
文部科学省は、全ての子供たちが家庭の経済状況に左右されることなく、安心して育ち、学ぶことができるよう、幼児期から高等教育段階までの切れ目のない教育費の負担軽減やスクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカーの配置等による教育相談体制の整備に取り組んでいます。
日本財団の試算では、子どもの貧困を放置すると将来にわたって大きな経済損失が生じるとされており、支援しないことが社会全体のコストになるという視点が示されています。
貧困の連鎖を断ち切ることは、子ども個人の未来のためだけでなく、社会全体の持続可能性にも直結する問題です。法律の名前に「解消」という言葉が刻まれた今、問われているのはその言葉を実態に追いつかせるための、具体的な一手です。
支援団体への寄付や地域のこども食堂へのボランティア参加など、「社会全体で解決する」という理念は、一人ひとりのアクションからも始まります。法整備が進んだ今こそ、私たちにも一歩踏み出す機会が広がっています。

