公式LINEアカウントでも絶賛配信中!

友だち追加
SOCIETY

「こどもの貧困の解消」を法律に刻んで2年|改正法の現在地と、埋まらない支援の空白

「こどもの貧困の解消」を法律に刻んだ1年半|改正法の現在地と、埋まらない支援の空白

2024年6月、法律の名前に「こどもの貧困の解消」という言葉が初めて入りました。「子どもの貧困対策の推進に関する法律」が「こどもの貧困の解消に向けた対策の推進に関する法律」に改められ、同年9月25日に施行されています。あれから約2年がたちました。2025年の国民生活基礎調査では子どもの貧困率が11.0%に下がった一方、母子世帯の8割以上が「生活が苦しい」と答えています。数字は改善しても、暮らしの実感は追いついていません。法律の名前に刻まれた「解消」は、今どこまで進み、どこに空白が残っているのでしょうか。

この記事で学べること

  • 2024年の法改正で何が変わったのか、条文の中身
  • 2025年調査の貧困率11.0%と、母子世帯の「生活が苦しい」81.8%をどう読むか
  • 2026年度に動いた支援と、まだ動いていない支援
  • 養育費の新制度と、こども食堂が1万2,000か所を超えた地域の支え
  • 読者が今日からできる、無理のない関わり方

法改正の中身|「対策」から「解消」へ

改正の意味は、名称の変更にとどまりません。国会の資料や自治体の改正概要では、いくつもの条文が加わったことが整理されています。ここでは、日々の暮らしに関わる3点を取り上げます。

基本理念に「将来の貧困を防ぐ」が入った

対策は、こどもの現在の貧困を解消するとともに、将来の貧困を防ぐことを旨として推進するとされました。妊娠・出産期からこどもが成人するまで、切れ目なく支援する考え方も明記されています。今つらい状況にある子どもを助けるだけでなく、貧困が次の世代に引き継がれる道筋を断つことまで、法律の目的に含めたということです。

「養育費受領率」が指標に加わった

大綱に定める指標の例として、ひとり親世帯の養育費受領率が追加されました。政府が2023年4月に養育費受領率の達成目標を定めたことを踏まえた改正です。養育費が貧困対策の成果を測る物差しになったことは、後ほど触れる制度変更とつながっています。

当事者の声を反映する規定が新設された

政府が大綱を定めるときは、貧困の状況にあるこどもとその家族、学識経験者、支援を行う民間団体などの意見を反映させるために必要な措置を講じるとされました。あすのば、キッズドア、しんぐるまざあず・ふぉーらむ、セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン、Learning for Allの5団体が超党派の議員連盟へ共同提言を行い、その多くが改正に盛り込まれたと報じられています。政策を決める場に、現場と当事者の知見を入れる回路が法律で用意されました。

数字で見る現在地|子どもの貧困率11.0%をどう読むか

法律ができてから初めての大規模調査の結果が、2026年に公表されています。まず確認できる事実を並べます。

公式統計では改善している

厚生労働省の「2025(令和7)年 国民生活基礎調査の概況」によると、2024年の貧困線(等価可処分所得の中央値の半分)は138万円です。相対的貧困率は15.0%、17歳以下の「子どもの貧困率」は11.0%で、2021年の11.5%から0.5ポイント下がりました。約9人に1人という水準は変わらないものの、方向としては改善です。

暮らしの実感は逆に厳しくなっている

同じ調査を分析したキッズドアのレポートでは、「生活が苦しい」と答えた母子世帯の割合が75.6%から81.8%へ6.2ポイント上がったとされています。統計上の貧困率は下がっているのに、苦しいという実感は強まっています。

この差には理由が考えられます。貧困率は「所得が中央値の半分を下回るか」という相対的な指標で、食料品や光熱費の値上がりによる家計の圧迫を直接は映しません。所得は2024年の数字で、物価高の影響を受けた直近の暮らしは、まだ統計に十分に反映されていない可能性があります。ただし、この因果は調査から断定できません。「率が下がったから問題は解決に向かっている」とも、「改善は見せかけだ」とも言い切れない、というのが誠実な読み方です。

貧困は教育の機会の差としても現れる

家庭の経済状況は、学習塾や習い事といった学校外の教育、そして進学の選択肢にも影響します。ひとり親世帯や困窮世帯の子どもほど、これらの機会を得にくい傾向が各種調査で指摘されています。

あわせて読みたい記事として、子どもの貧困と教育格差の全体像を扱った記事があります。

2026年度に動いたこと、動いていないこと

法改正から2年、予算や制度はどう動いたのでしょうか。2026年度に実施されたものを整理すると、「全ての子ども向け」と「困窮世帯に絞ったもの」で性格が分かれます。

全ての子ども向けの負担軽減は進んだ

2026年4月から、公立小学校の給食費への国の支援が始まったと報じられています。国の支援には上限があり、給食費の単価によって保護者の負担が残る場合があります。高校授業料の所得制限をなくす改正も、2026年2月末に閣議決定されました。対象は授業料が中心で、入学金や教材費などは対象外と報じられています。

また、物価高対応の子育て応援手当として、0歳から高校生年代までの子ども1人あたり2万円を市町村が支給する方針が決まり、広島市などの資料では2026年2月以降に順次支給されたことが示されています。いずれも家庭の収入にかかわらず広く届く施策です。

困窮世帯に向けた拡充は「現物・サービス」が中心

こども家庭庁の令和8年度予算案では、食事支援、体験機会、学習支援といった、ひとり親・貧困世帯のこどもへの支援の大幅な拡充が掲げられました。2025年12月の大臣記者会見でも、この点が説明されています。

一方、支援団体からは、困窮世帯に的を絞った現金給付や手当の上乗せは実施されておらず、経済的支援は限定的だという声が上がっています。給食や学習の支援は子どもの育ちを直接支える大切な前進です。ただ、物価高の中で家計そのものを底上げする力は、現物・サービス中心の支援だけでは限られます。

論点は「どちらか」ではなく「組み合わせ」

現金給付とサービスは、どちらかを選ぶ関係ではありません。サービスは子どもの経験や学びを支え、現金は家計の余裕を支えます。役割が違うため、どちらも欠けると穴が残ります。法律が掲げる「解消」を実態に近づけるうえで、この組み合わせをどう設計するかが、今後の大きな論点です。

見落とされやすい空白|ひとり親家庭と養育費

貧困率の中でもとくに厳しいのが、ひとり親世帯です。ここには、2026年4月に動き出した新しい制度が関わっています。

養育費の受領率は長く3割に届かなかった

政府の養育費受領率に関する資料では、母子世帯の養育費受領率は2003年の17.7%から2021年の28.1%へ上昇しています。ただし、取り決めがある世帯に限ると2021年は57.7%です。受け取れていない世帯が多いだけでなく、そもそも取り決めがない世帯が多いことが課題でした。政府の目標は、2026年の調査結果を踏まえて必要に応じて見直すとされています。

2026年4月から「法定養育費」と先取特権が始まった

2026年4月1日に、父母の離婚後の養育に関する民法等の改正が施行されました。養育費の取り決めがなくても、子ども1人あたり月2万円を請求できる「法定養育費」が始まっています。これは暫定的・補充的な位置づけで、収入や子どもの人数を踏まえて適正額を取り決めることが望ましいとされています。また、養育費の一部には先取特権が付与され、支払いが滞った場合に給与や預貯金の差し押さえを申し立てやすくなりました。

制度ができても、使えるかは別の問題

新しい仕組みは、手続きを知り、相談先にたどり着けて初めて使えます。法律の指標に養育費受領率が入ったことは、この「使えるか」まで見届ける意味を持っています。今後の受領率の推移が、改正法の実効性を測る一つの手がかりになります。

地域の支え手|こども食堂と学習支援の現在

制度の隙間を埋めてきたのは、地域の民間団体です。複数の取り組みを見ると、役割の違いが分かります。

こども食堂は1万2,000か所を超えた

むすびえの「2025年度こども食堂全国箇所数調査」の速報値では、全国のこども食堂は1万2,601か所で、前年度の確定値1万867か所から増えました。小学校区の充足率は39.69%で、約4割の校区に少なくとも1か所ある計算です。年間の延べ利用者数は推計で2,533万人、うち子どもは1,732万人とされています。調査は届出不要の民間活動が対象のため、全てを網羅できていない可能性があるという注記もあります。

学習支援や提言を担う団体もある

キッズドアのように学習支援を行う団体、セーブ・ザ・チルドレンのように政策提言を続ける団体、Learning for Allのように学習・生活支援を広げる団体など、役割は分かれています。こども家庭庁も、支援したい人や企業とNPOなどを結びつける「こどもの未来応援国民運動」を進めています。改正法では、国や地方公共団体が民間団体の活動を支援するために財政上の措置を講じることも明記されました。

教育格差をデータで確認したい方には、次の記事が手がかりになります。

地域に偏りがあることを知っておく

校区充足率が約4割ということは、残りの約6割の校区には届いていないことを意味します。身近にこども食堂があるかどうかは、地域によって大きく違います。民間の善意だけで空白を全て埋めることはできず、公的な支援との役割分担が問われ続けます。

誤解されやすい3つのポイント

貧困の話題では、数字や制度の言葉が独り歩きしやすくなります。次の3点を整理しておくと、ニュースが読みやすくなります。

「貧困率が下がった」は「困っている人が減った」とは限らない

貧困率は相対的な指標のため、全体の所得が動くと値も動きます。11.0%という数字は、約9人に1人という規模の子どもが今も貧困状態にあることを意味しています。生活が苦しいと感じる母子世帯が増えている点とあわせて見る必要があります。

「無償化」は「負担ゼロ」とは限らない

給食費も高校授業料も、国の支援には上限や対象範囲があります。教材費や入学金、給食費の超過分など、家庭が払うお金は残る場合があります。「無償化」という言葉だけで、家庭の負担がなくなったと受け取らないことが大切です。

貧困は「家庭の責任」だけではない

改正法の基本理念では、貧困は家庭だけの責任として捉えるべきではないことが示されています。個々の家庭の努力に原因を求めるのではなく、社会の仕組みとして考える視点が、法律の出発点にあります。

読者が今日からできること

秋が深まり、これから年末にかけて、食料や防寒など暮らしの支出が増える時期です。支援の現場でも、寄付や協力の呼びかけが増えます。無理のない関わり方を3つ挙げます。

近くのこども食堂を調べる

自治体や社会福祉協議会、むすびえなどの地域ネットワークのサイトで、近くのこども食堂を探せます。まずは開催日や困りごとを知るだけでも十分です。食材や寄付の受け入れ方法は団体ごとに違うため、事前に確認するのが確実です。

寄付先は活動内容と報告で選ぶ

寄付先は、何に使われるのか、活動報告や会計が公開されているかで選べます。継続的な少額寄付は、団体が計画を立てやすくなる利点があります。金額の大小より、続けやすい形を選ぶことが長く支える助けになります。

声を届ける回路を使う

改正法は、大綱の策定時に当事者や支援団体の意見を反映する規定を設けました。パブリックコメントや自治体のアンケート、議員への意見送付といった方法で、関心があることを伝えられます。関心の数は、政策の優先順位にも影響します。

まとめ

法律の名前に「解消」が入って約2年、公式統計では子どもの貧困率が11.5%から11.0%へ下がりました。給食費や高校授業料、子育て応援手当など、全ての子どもに広く届く支援も動いています。一方、母子世帯の81.8%が「生活が苦しい」と答え、困窮世帯に絞った経済的支援は限定的だという声が続いています。

空白が残るのは、統計の改善と暮らしの実感の間、制度と利用の間、そして地域の支え手が届く範囲の間です。2026年4月に始まった法定養育費のような新しい仕組みが実際に使われるか、こども食堂が届かない校区をどう補うかが、「解消」を実態に近づける鍵になります。

まずは、自分の住む地域のこども食堂を1つ調べてみてください。

  • 2024年の改正で、法律名に「貧困の解消」が入り、将来の貧困の予防と当事者の意見反映が条文になった
  • 2025年調査で子どもの貧困率は11.0%に下がったが、母子世帯の81.8%が「生活が苦しい」と回答している
  • 2026年度は給食・高校・手当など広く届く支援が動いた一方、困窮世帯に絞った現金給付は限定的
  • 2026年4月に法定養育費と先取特権が始まり、使われるかが次の焦点になる
  • こども食堂は全国1万2,601か所に増えたが、小学校区の充足率は約4割にとどまる

参考文献

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
MIRASUS

MIRASUS編集部。地球と人に優しい未来をつくるサステナビリティな事例をご紹介。誰にでもわかりやすくSDGsに関する情報は発信していきます。

  1. りそな×大学生「共創プロジェクト」の1年間。「さすてにゃ診断」の誕生から最終発表までを振り返る

  2. 廃棄予定の複合機を再び使う|TMTユニバーサル「コピーキ革命」のレンタルを紹介

  3. 創業120周年を迎えたあらしおの歴史|駿河の塩づくりから平釜塩の復活まで

RELATED

PAGE TOP