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SDGs

「消滅」か「再生」か|2030年を前に問われる地方のSDGsと、自治体が変わるための条件

「消滅」か「再生」か|2030年を前に問われる地方のSDGsと、自治体が変わるための条件

SDGsの期限である2030年まで、あと4年ほどです。「消滅」か「再生」か。地方がこの分かれ道に立っていると言われるのは、若い世代の流出で地域の担い手が細り、人口減少が暮らしの基盤そのものを揺さぶっているからです。そのとき、SDGsは単なる看板ではなく、地域の課題を整理して官民で動くための共通言語になりえます。この記事では、「消滅可能性自治体」の数字の読み方、国の制度、紫波町・西粟倉村・真庭市の実践、そして自治体が「SDGsをやっている」で終わらないための条件を整理します。

この記事で学べること

  • 「消滅可能性自治体」という数字が何を測っているのか、2014年と2024年で何が違うのか
  • SDGs未来都市や地方創生2.0など、国が用意している制度の現在地
  • 紫波町・西粟倉村・真庭市の取り組みに共通する設計の考え方
  • 「補助金に頼らない」「SDGsを宣言した」といった誤解されやすい点と、見極めの基準
  • 住民や事業者として、自分の地域で今日から始められる行動

「消滅可能性自治体」は何を測った数字なのか

2014年の増田レポートが突きつけたもの

2014年5月、元岩手県知事で元総務大臣の増田寛也氏が座長を務めた日本創成会議が、いわゆる「増田レポート」を発表しました。2010年から2040年にかけて、20〜39歳の女性人口が半数以下になる自治体を「消滅可能性都市」と呼び、その数は全体の約半数にあたる896市区町村に上るとされました。

20〜39歳の女性に着目したのは、出産の中心になる世代だからです。この層が減れば、移住が増えない限り次の世代も細っていきます。レポートは多くの自治体に強い衝撃を与え、「地方創生」が国の政策課題として動き出すきっかけになりました。

2024年に人口戦略会議が行った再分析

10年後の2024年4月24日、人口戦略会議(座長は三村明夫氏、副座長は増田寛也氏)が新しい分析レポートを公表しました。2020年から2050年までに20〜39歳の女性人口が50%以上減る自治体を「消滅可能性自治体」と定義し、その数は744自治体、全1,729自治体の43.3%にあたると報告されています。

2014年の方法を踏まえつつ、人口減少を「自然減への対策」と「社会減(人口流出)への対策」の両面から見直した点が特徴です。地域差も大きく、744自治体のうち282が東北と北海道に集中しています。一方で、若者が集まっても出生率が低い「ブラックホール型」と呼ばれる自治体が25あり、その多くが東京都の特別区をはじめ首都圏に集中している点も示されました。

数字を読むときに外したくない三つの視点

まず、この数字は「自治体が将来なくなる」という予言ではありません。若年女性人口の推計が一定以上減るという、人口構造の指標です。

次に、896から744へと数が減ったことを、そのまま改善と受け取るのは早計です。推計の対象期間も、見直した視点も異なるため、並べて「良くなった」とは言えません。

最後に、数字が高い地域ほど、住民の努力が足りないわけではありません。進学や就職で若者が出ていく構造は、地方だけの問題ではなく、東京圏に若者が集まる流れと表裏一体です。だからこそ地方の再生は、日本全体の活力にも関わる問題として語られています。

国は地方のSDGsをどう位置づけているか

SDGs未来都市という制度の現在地

内閣府は、SDGsの達成に向けた取り組みを行う自治体のうち、経済・社会・環境の三側面で新しい価値を生み出せる可能性が高い都市を「SDGs未来都市」に選定しています。選定は2018年度に始まり、2025年度は岩手県遠野市、新潟県小千谷市、長野県箕輪町、静岡県三島市と小山町、大分県日出町、宮崎県高鍋町、鹿児島県志布志市、東京都西東京市の9都市が選ばれました。累計では200都市を超えています。

選ばれた都市のうち、特に先導的な事業は「自治体SDGsモデル事業」として支援を受けます。内閣府は、SDGs未来都市計画に基づく事業を優先的な資金的支援の対象とすると示しており、選定は計画づくりの質を高める仕組みであると同時に、財源につなげる入口にもなっています。

地方創生2.0がめざす方向

2025年6月13日には、「地方創生2.0基本構想」が閣議決定されました。今後10年を見据えた方向性として、五つの柱が示されています。

  • 安心して働き、暮らせる地方の生活環境の創生
  • 稼ぐ力を高め、付加価値を生む新しい地方経済の創生
  • 人や企業の地方分散
  • 新時代のインフラ整備とAI・デジタルなどの新技術の活用
  • 広域リージョン連携

基本構想は、地方創生を単なる地域活性化策ではなく、日本の活力を取り戻す経済政策であり、多様な幸せを実現する社会政策だと位置づけています。SDGsの「経済・社会・環境の統合」という考え方と、重なる部分が多い方向性です。

官民の分断を埋める場としてのプラットフォーム

地方創生が思うように進まない理由として、よく指摘されるのが官民の分断です。住民は「それは行政の仕事」と考え、行政は「それは民間の仕事」と一歩引いてしまうことがあります。

内閣府の「地方創生SDGs官民連携プラットフォーム」は、この溝を埋める場として設けられました。自治体が地域課題を登録し、民間から提案を受けて連携につなげる仕組みで、伴走支援を行う事業者の紹介も用意されています。会員は2025年6月時点で、全国1,231の自治体と6,745の民間企業・団体が参加していると公表されています。

三つの地域に見る実践の設計図

岩手県紫波町|駅前の町有地を民間の力で動かす

紫波町の「オガールプロジェクト」は、JR紫波中央駅前の町有地10.7haを中心に、2009年度に始まった公民連携の事業です。町は財政負担を最小限に抑えながら、必要な公共施設と民間の経済開発を一体で進める方針を取りました。

官民複合施設「オガールプラザ」は、先にテナントを決め、その賃料から建設費を逆算して資金を調達する方法で整備されました。町は完成後に公共施設部分を買い取っています。内閣府の事例集では、工事費が約11億円(公共約8億円、民間約2.7億円)、プラザとオガールベースを合わせた雇用創出が約170人、プラザの年間入場者数が140万人超と紹介されています。

岡山県西粟倉村|森林を軸にした「百年の森林構想」

人口1,450人ほどの西粟倉村は、「百年の森林構想」を掲げ、森林資源を軸にした地域づくりを続けてきました。2020年8月には、住友林業、三井住友信託銀行と包括連携協定を結び、個人が所有する森林を信託して管理を委ねる「森林信託」にも取り組んでいます。

森林の所有者が高齢化し、管理の担い手が不足するのは、全国の山村に共通する悩みです。西粟倉村の取り組みは、金融の仕組みを使って森林管理を続けやすくしようとする試みで、構想への共感から移住や起業が生まれているとも紹介されています。

岡山県真庭市|円卓会議で担い手を広げる

真庭市は、木質バイオマスの活用を長年進めてきた地域で、SDGs未来都市と自治体SDGsモデル事業の両方に選ばれています。注目したいのは、市が「真庭SDGsパートナー制度」と「円卓会議」を運営している点です。

パートナーは、真庭市のSDGsの取り組みに賛同して宣言を行った企業・団体・個人で、環境、教育、福祉、医療、産業などあらゆる立場の人が登録できます。登録者が円卓会議に参加して、課題や取り組みを共有します。行政が答えを配る形ではなく、地域の担い手が同じテーブルにつく形をとっています。

三つの実践に共通する設計の考え方

三つの地域の取り組みには、共通点があります。いずれも地域に元からある資源(駅前の町有地、森林、バイオマス)を出発点にしていること、そして行政だけで抱え込まず、民間や住民が関わる仕組みを先に整えていることです。

SDGsの17目標から入ったわけではなく、地域の課題と資源から入り、結果としてSDGsの言葉で説明できるようになった、という順序です。他の地域が参考にするなら、事例の「形」をなぞるより、この順序を見るほうが役に立ちます。

誤解されやすい三つの点

「補助金に頼らない」は「補助金ゼロ」ではない

オガールは「国の補助金に頼らない公民連携」の象徴として語られることが多い事例です。ただ、これは補助金や交付金を一切使っていない、という意味ではありません。

国土交通省の資料には、紫波中央駅前地区の都市再生整備計画(2009〜2013年度)の交付対象事業費が約19億円と記されています。オガールプラザの整備では、民間都市開発を支援する出資制度が使われたことも国の資料で紹介されています。

オガールの特徴は、公的な支援を使いながらも、民間施設の事業を賃料収入で成り立つように設計した点にあります。「お金をかけない」ではなく、「お金が回る形に組み立てた」と捉えるほうが実態に近いはずです。

「宣言した」と「変わった」は別のこと

SDGsのロゴを掲げ、宣言を出しても、地域の課題が何も動かない状態は「SDGsウォッシュ」と指摘されます。選定された、登録された、というのは入口の話で、住民の暮らしや地域経済に変化が出てはじめて成果と呼べます。

見極める手がかりは、宣言の数ではなく、具体的な指標の変化が公開されているかどうかです。たとえば、雇用の数、担い手の数、公共施設の利用者数といった、地域の実感に結びつく数字です。

「移住者が増えた」だけでは再生とは言えない

人口の増減は分かりやすい指標ですが、それだけでは地域が「豊かに続く」状態かどうかは測れません。移住者が来ても、仕事や住まい、子育てや介護の支えが整っていなければ、数年で暮らしが続かなくなることもあります。

人口が減る局面では、「増やす」ことと同じくらい「減っても暮らしが回る」仕組みを整えることが重みを持ちます。そう考えると、SDGsの目標3(健康と福祉)、目標8(働きがいと経済成長)、目標11(住み続けられるまちづくり)は、地方の課題とほぼそのまま重なります。結婚・出産・子育ての場面では目標5(ジェンダー平等)も関わってきます。

自治体が変わるための三つの条件

条件1|外の評価基準ではなく、地域の「問い」から始める

「人口が減る中で産業をどう維持するか」「地域のケアを誰が担うか」「若者が戻りたいと思える環境をどうつくるか」。こうした問いは、どの地方にも共通して存在します。

SDGsを「外から採点される基準」として扱うと、報告書を書くことが目的になりがちです。地域の問いを先に言葉にしておき、SDGsはそれを他の地域や企業に伝えるための共通言語として使う。この順序が、先ほどの三つの地域にも見えました。

条件2|成果を測る数字を決め、公開する

地域の問いが決まったら、答えが出たかどうかを測る数字を、自治体が自分で決めておく必要があります。雇用、担い手、利用者数、暮らしの満足度など、小さくても構いません。

数字を公開すれば、住民や企業が「ここなら関われる」と判断しやすくなります。うまくいかなかった数字も出せる自治体ほど、官民連携の相手から信頼されます。

条件3|住民と事業者が「当事者」になる入口をつくる

真庭市の円卓会議や、内閣府のプラットフォームに共通するのは、行政以外の人が参加できる入口を用意している点です。参加のハードルが低いほど、地域の中にある知恵や資金が表に出てきます。

補助金や選定制度は、あくまで後押しです。主役は地域の人々で、行政は場をつくり、情報を出し、伴走する役割を担います。この役割分担が見えている自治体ほど、「再生」への道筋を描きやすくなります。

住民や事業者として、今日からできること

自分の自治体の「現在地」を確認する

まずは、お住まいの自治体が「消滅可能性自治体」に含まれるかどうかを調べ、総合戦略や総合計画のどこにSDGsの記載があるかを探してみてください。自治体の公式サイトで読める資料ばかりです。

そのうえで、載っている目標に数字が付いているか、進み具合が公表されているかを確認します。来年度の予算づくりが進む秋のこの時期は、意見を伝えやすい機会でもあります。

関われる入口を一つ見つける

次に、自治体のSDGsパートナー制度、地域課題を募る窓口、住民向けの会議などから、参加できるものを一つ探します。事業者の方なら、内閣府のプラットフォームで自治体の地域課題を閲覧し、自社の強みと重なるものがないか見てみる方法もあります。

大きな行動でなくても構いません。地域の問いを知り、一つだけ関わる。その積み重ねが、「消滅」ではなく「再生」へ向かう土台になります。

まとめ

「消滅可能性自治体」は、予言ではなく、人口構造の変化を数字で示した警告です。2014年の896、2024年の744という数字は、若者が地方を離れる構造が10年経っても続いていることを表しています。

その一方で、紫波町、西粟倉村、真庭市のように、地域の資源と問いから出発して、官民の仕組みを整えてきた地域もあります。共通するのは、SDGsを掲げることではなく、地域の課題を解く道具として使っている点です。

2030年まで、残された時間は限られています。まず自分の地域の現在地を確認し、関われる入口を一つ見つけてみてください。

  • 消滅可能性自治体は、若年女性人口の推計減少を示す指標で、自治体が必ずなくなるという意味ではない
  • 国はSDGs未来都市や地方創生2.0、官民連携プラットフォームで地方の取り組みを後押ししている
  • 「補助金に頼らない」は補助金ゼロではなく、事業が自力で回る形に設計し直したという意味で読む
  • 自治体が変わる条件は、地域の問いから始めること、成果を数字で公開すること、住民が当事者になる入口をつくること
  • 住民や事業者は、自治体の計画を確認し、関われる入口を一つ見つけることから始められる

参考文献

  • 記事を書いたライター
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