電気をつけるたびに、どこかで化石燃料が燃えています。石炭・石油・LNG(液化天然ガス)を燃やして動かす火力発電は、今も世界の電力供給を支える主役です。しかしその裏側では大量のCO2が排出され、地球の平均気温を押し上げ続けています。2023年のCOP28では「化石燃料からの脱却」という文言が初めて国際合意文書に盛り込まれ、脱火力の方向性は国際社会で共有されつつあります。それでも、なぜ火力発電をすぐにやめられないのか。何がデメリットで、どんな解決策があるのか。データをもとに整理します。
火力発電とは|仕組みと3種類の燃料
火力発電は、燃料を燃やして水を蒸気にし、タービンを回すことで電気を作る発電方式です。気候条件や時間帯に左右されず、需要に応じて出力を細かく調整できる「調整力」があるため、電力の安定供給に欠かせない役割を担ってきました。国際エネルギー機関(IEA)の統計によると、2022年の世界の発電量のうち約61%が火力発電(石炭・石油・天然ガスの合計)によるものとされています。
使われる燃料は主に3種類で、それぞれ特性が異なります。
石炭火力
石炭は植物が長い年月をかけて堆積・化石化したもので、採掘コストが低く世界各地で産出されるため比較的安価に調達できます。IEAの統計では、石炭は世界の電力供給の約36%(2022年)を占め、発電用燃料として最大のシェアを持ちます。インド(約75%)・中国(約62%)・オーストラリア(約52%)での依存度が特に高く、日本でも電源構成の約30%前後が石炭火力とされます。
石油火力
石油は液体の化石燃料で、採掘できる地域が限られています。中東、特にサウジアラビアやイラクが主要産出国です。石油はガソリン・灯油・軽油などに精製されることが多く、発電燃料としての利用は世界全体の電力のうち約3〜4%にとどまります。日本でも石油火力は電源構成の5%程度です。
LNG(液化天然ガス)火力
LNGは天然ガスを−162℃まで冷却し液化したものです。液化することで体積が気体の約600分の1になり、船による大量輸送・貯蔵が可能になります。石炭と比較してCO2排出量が約40%少なく、二酸化硫黄(SOx)の排出もほぼゼロとされ、石炭からの「橋渡し燃料」として移行する国も多くあります。IEAの統計によると、LNG火力は世界電力の約23%を担い、日本では電源構成の約30%強を占めています。
火力発電の3つのデメリット
安定した電力供給を実現する火力発電ですが、3つの深刻なデメリットがあります。
デメリット1|大量のCO2を排出する
火力発電最大の問題は、発電時に大量のCO2を排出することです。一般社団法人日本原子力文化財団の資料によると、ライフサイクル(製造〜廃棄)全体で見た発電1kWhあたりのCO2排出量は、太陽光発電の約38gに対し、LNGコンバインド方式で約474g、石炭火力では約943gにのぼります。石炭火力は太陽光発電の約25倍のCO2を排出する計算です。
IEAの「World Energy Outlook 2023」では、エネルギー部門が世界のCO2排出量の約75%を占め、電力セクターが最大の排出源と分析されています。パリ協定の1.5℃目標を達成するには、2030年までに電力部門のCO2排出量を大幅に削減する必要があるとされています。
デメリット2|化石燃料の枯渇リスク
石炭・石油・LNGはいずれも有限の資源です。一般社団法人日本原子力文化財団の推計では、現在確認されている埋蔵量と採掘ペースをもとにすると、石炭は約118年分、石油は約46年分、天然ガスは約59年分とされています(推計時期によって数値は変動します)。
「可採年数」は新しい油田・ガス田の発見や採掘技術の向上によって延びることもありますが、有限であることに変わりはありません。将来世代へのエネルギー供給を考えると、代替手段への移行は避けられない課題です。
デメリット3|輸入依存による地政学リスク
日本は化石燃料のほぼ全量を海外からの輸入に頼っています。資源エネルギー庁の資料によれば、石炭・LNG・石油の多くをオーストラリア・中東・東南アジアなどから調達しています。2022年のロシアによるウクライナ侵攻後、欧州を中心にエネルギー価格が急騰し、日本でも電力・ガス料金の大幅な値上がりが起きました。これは化石燃料への依存が、国際情勢の変化によるエネルギー価格の乱高下に対してどれほど脆弱かを示した具体的な事例です。
火力発電をすぐにやめられない2つの事情
デメリットが大きい火力発電ですが、今すぐ全廃するのが難しい事情もあります。
再生可能エネルギーの「変動性」問題
太陽光や風力は発電時にCO2を出しませんが、天候や時間帯によって出力が大きく変動します。日が沈めば太陽光は発電できず、無風の日は風力も止まります。この「変動性」を補うため、需要に応じて出力を増減できる火力発電が「バックアップ電源」として機能しています。
大型蓄電池の導入コスト低下や揚水発電の活用によって変動性を吸収する取り組みは世界各地で進んでいます。しかし、日本のような大規模な電力需要を完全にカバーするには、送電網の大規模整備を含む相当なインフラ投資がまだ必要な段階です。
原子力発電の社会的受容問題
CO2をほとんど排出しない原子力発電は、脱炭素の文脈で改めて注目されています。フランスでは電力の約70%を原子力が担い、その安定した低炭素電源が同国の電力輸出を支えています。日本でも2023年にGX(グリーントランスフォーメーション)推進法が成立し、既存原発の最大限活用と次世代原子炉の開発が政策として打ち出されました。
一方で、2011年の東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所の事故以降、日本社会における原子力への信頼回復は道半ばです。地震・津波・火山といった自然災害リスクが高い日本では、安全基準の厳格化と地域住民の合意形成が欠かせません。技術面だけでなく社会的・政治的にも、火力発電をすぐに原子力で代替することは容易ではない状況が続いています。
COP26からCOP28まで|国際社会の動き
火力発電、とりわけ石炭火力を巡る国際的な議論は、気候変動交渉の場で年々加速しています。
2021年のCOP26(イギリス・グラスゴー)では、石炭火力発電の段階的「削減」が196カ国・地域の合意文書に盛り込まれました。議長国イギリスは当初「廃止(phase-out)」という文言を提案しましたが、石炭依存度の高い途上国の反発を受け、最終的に「削減(phase-down)」という表現に落ち着いた経緯があります。
2022年のCOP27(エジプト・シャルムエルシェイク)では、石炭だけでなく「非効率な化石燃料補助金」の段階的廃止も文書に記載されました。そして2023年のCOP28(UAE・ドバイ)では、「化石燃料からの脱却(transitioning away from fossil fuels)」という表現が初めて合意文書に盛り込まれ、国際社会の方向性がより明確になりました。2030年代までに石炭火力の廃止を目指すロードマップが各国に求められています。
金融の世界でも変化が起きています。欧州の主要銀行や年金基金が石炭関連の投融資から引き上げる動きを強めており、石炭火力への新規資金調達が難しくなっています。日本でも大手メガバンクが海外炭鉱プロジェクトへの融資制限方針を公表し、石炭火力の経済的な新設ハードルが上がっています。

日本の電源構成の現状と2030年目標
資源エネルギー庁の電源構成データによると、2022年度の日本の発電電力量に占める火力発電の割合は約72%でした(石炭・LNG・石油の合計)。再生可能エネルギーの拡大が続く中でも、依然として高い水準にあります。
日本政府は2021年に「2030年度に温室効果ガスを2013年度比46%削減」という目標を掲げ、第6次エネルギー基本計画(2021年閣議決定)では2030年度の電源構成目標として、再生可能エネルギー36〜38%、原子力20〜22%、火力発電41%(LNG20%・石炭19%・石油等2%)を設定しています。
2025年には第7次エネルギー基本計画の閣議決定が見込まれており、再エネ比率のさらなる引き上げと石炭火力の削減加速が焦点となっています。電力部門の脱炭素化を加速するため、系統整備や蓄電池の普及促進とともに、段階的な火力発電の縮小が計画に盛り込まれる見通しです。

火力発電の課題を解決する3つのアプローチ
デメリットを抱えながらも、すぐには全廃できない火力発電。その課題を緩和・解決するために、世界と日本でさまざまな取り組みが進んでいます。
アプローチ1|再生可能エネルギーの大規模導入
太陽光・風力・地熱・水力など、発電時にCO2を排出しない再生可能エネルギーへの転換が最も直接的な解決策です。洋上風力発電は将来の主力電源として期待されています。1990年にスウェーデンで初めて商業運転が始まり、現在はイギリスが世界最大級の洋上風力大国として知られています。イギリスは2023年時点で発電量の約42%を再生可能エネルギーが占め、石炭火力の割合は1%台にまで低下しています。
日本でも洋上風力の本格普及に向けた法整備(再エネ海域利用法)が進み、2040年までに最大45GWを目標とする政府計画が示されています。ただし、漁業権との調整・送電網整備・建設コストなどの課題が残っており、実現には長期的な取り組みが必要です。
アプローチ2|高効率化技術とCCSで排出を削減する
再生可能エネルギーへの移行が進む間、既存の火力発電のCO2排出量を減らす技術革新も重要です。日本が強みを持つ超超臨界圧(USC)石炭火力は、蒸気の温度・圧力を極限まで高めることで発電効率を約46〜48%に引き上げています。世界平均の石炭火力の発電効率(約38%)を大幅に上回るこの技術を中国・インド・東南アジアに普及させることで、日本全体の年間CO2排出量に匹敵する規模の削減効果が期待できるとされています。
加えて、CO2回収・貯留技術(CCS/CCUS)の実用化も進んでいます。発電所の排気ガスからCO2を分離・回収し、地中に貯留または再利用するこの技術は、既存の火力発電所をゼロエミッション化する手段として研究が続いています。IEAは2050年のカーボンニュートラル実現シナリオにおいてCCSを不可欠な技術と位置づけています。
アプローチ3|水素・アンモニア混焼で燃料を段階的に置き換える
燃焼時にCO2を排出しない水素やアンモニアを石炭・LNGに混ぜて燃やす「混焼技術」も有力な解決策の一つです。日本では電力会社や大手商社が2024年以降、アンモニア20%混焼の商用化に向けた実証試験を複数の発電所で進めています。将来的には100%水素・アンモニア専焼への移行も視野に入れた開発が続いています。
水素・アンモニアの製造コストや輸送インフラの整備はまだ課題ですが、既存の発電設備を大幅に改修せずにCO2排出を段階的に減らせる点で、現実的な移行手段として評価されています。

まとめ|火力発電の現実と私たちにできること
火力発電は安定した電力供給を支える一方、CO2の大量排出・資源枯渇リスク・地政学リスクという3つの深刻なデメリットを抱えています。COP28で「化石燃料からの脱却」が合意されたように、国際社会は脱火力の方向に向かっています。しかし、再生可能エネルギーの変動性や原子力の社会的課題があるため、移行には技術の進歩と長い時間の両方が必要です。
- 火力発電のCO2排出量は、太陽光発電のライフサイクル排出量の約10〜25倍にのぼる
- 石炭・石油・LNGはいずれも有限資源で、現在の採掘ペースが続けば今世紀中に枯渇するとされる
- COP28(2023年)で「化石燃料からの脱却」が初めて国際合意文書に盛り込まれた
- 日本の2030年目標では火力発電比率を41%まで引き下げ、再生可能エネルギーを36〜38%まで高める計画が示されている
- 高効率化技術(USC・CCS)や水素・アンモニア混焼が、移行期間中の火力のクリーン化を支える
個人レベルでできることとして、まず電力会社の契約プランを確認してみてください。再生可能エネルギー由来の電力を選べるメニューを提供している電力会社は増えています。自宅の電力プランを切り替えるだけで、日常の電気消費が火力発電から再エネ発電に変わります。まず1つ、現在の契約プランを調べることから始めてみてください。

