公式LINEアカウントでも絶賛配信中!

友だち追加
ENVIRONMENT

マイクロプラスチックが「地球の盾」を壊す|気候変動と海洋プラスチック汚染、見えてきた新たな接点

マイクロプラスチックが「地球の盾」を壊す|気候変動と海洋プラスチック汚染、見えてきた新たな接点

海洋プラスチック汚染は「海の問題」だと思っていませんか。近年、新たな研究がその認識を大きく塗り替えつつあります。マイクロプラスチックが、地球温暖化を食い止める海の力そのものを弱らせているというのです。プラスチック汚染と気候変動は、もはや別々の問題ではありません。国際条約の交渉が難航するなか、科学が明かす「二重の危機」の実態を整理します。

海は地球最大の「炭素の受け皿」

大気中に増え続けるCO₂を吸い込み、深海へと蓄える——地球温暖化の抑制において、海洋はかけがえのない役割を果たしています。この働きの中心にいるのが、植物プランクトンや動物プランクトンです。彼らは光合成や摂食を通じて炭素を取り込み、死後に深海へと沈下させることで「生物学的炭素ポンプ」を動かしています。

海は地球最大の炭素シンクであり、その機能こそが気候変動に対する自然の盾となっています。しかし、この盾が今、目に見えない脅威によって損なわれつつあるといいます。

新たな研究が示す「隠れた危機」

近年公表された研究が、マイクロプラスチックが海洋のCO₂吸収能力を損なっている可能性を明らかにしています。

マイクロプラスチックとは5ミリメートル未満の微細なプラスチック粒子のことで、現在は深海の海底から北極の氷、淡水系、大気、土壌、そして人体の中にまで見つかっています。

研究者たちが特に注目しているのは、炭素循環の担い手であるプランクトンへの影響です。海洋の炭素を大気から深海へ移動させる「生物学的炭素ポンプ」がマイクロプラスチックによって阻害されており、植物プランクトンの光合成の低下と動物プランクトンの代謝機能の損傷がその主な経路とされています。

さらに見逃せないのが、プラスチック表面に形成される微生物コミュニティの存在です。「プラスチスフィア」と呼ばれるプラスチック表面に付着する微生物のバイオフィルムには、窒素循環や炭素循環に関わる多様な微生物が生息していることが示されています。また、プラスチックが分解される過程で温室効果ガスが排出されることも確認されており、マイクロプラスチックが気候変動を悪化させる別の経路となっているという見方もあります。

研究者たちは、海洋のCO₂吸収能力を損なうマイクロプラスチックの作用は、地球の気温を調節するうえで極めて重要なプロセスに干渉していると指摘しています。また、長期的にはこれらの変化が海洋の温暖化・酸性化・生物多様性の損失につながり、食糧安全保障と沿岸コミュニティを世界規模で脅かす可能性があるとも述べられています。

気候変動がプラスチック汚染を「増幅」する悪循環

問題はマイクロプラスチックが気候変動に影響を与えるだけにとどまりません。気候変動そのものがプラスチック汚染を広げるという、双方向の悪循環も見えてきています。

これまで海洋汚染を隔離していると考えられてきた海氷が、融解するにともなってマイクロプラスチックを海中に放出してしまうという現象が報告されています。また、気温の上昇はプラスチックから可塑剤や難燃剤などの化学添加物の溶出を促進し、それらが食物連鎖を通じて生態系や人の健康に蓄積するリスクを高めるとされています。海中でも、低酸素・酸性化した海水にさらされた二枚貝などのろ過摂食生物がマイクロプラスチックによって消化・免疫機能に障害を受けやすくなり、さらにわずかな海水温の上昇が魚類のマイクロプラスチック摂取量と毒性影響を増大させることも示されているといいます。

こうした知見は、「プラスチック汚染を廃棄物問題として、気候変動を別の問題として切り離して扱う従来のアプローチは限界を迎えている」という見方を後押しするものであり、プラスチック政策と気候変動対策を相互に強化し合うものとして整合させる必要があると提言する声も上がっています。

条約交渉は難航、それでも前進する国際社会

こうした科学的な警告が重なる一方で、国際的な政策対応はなお難しい局面にあります。

プラスチック汚染条約の策定を目指す政府間交渉委員会(INC)の第5回会合は2024年11月25日から12月1日にかけて韓国・釜山で開かれましたが、プラスチックの生産規制をめぐってEUや島しょ国と産油国の溝は埋まらず、合意は先送りとなりました。UNEP(国連環境計画)事務局長のインガー・アンデルセン氏はINC-5の閉幕にあたり、「プラスチック汚染の終結に向けた世界の取り組みは明白であり、私たちの仕事はこれからも続く」と述べており、交渉は2025年以降の次回会合に持ち越されました。

各国・地域の政策も少しずつ前進しています。使い捨てプラスチックに対する有料化・禁止措置などの規制は世界各地で広がりを見せており、目標を絞った政策が実際に効果を上げているとの報告も出ています。研究者たちはこうした状況を踏まえ、使い捨てプラスチックの削減・廃棄物管理の改善・生分解性代替素材への投資を求めると同時に、国連に対してSDGsにおけるプラスチックの位置づけを見直すよう求めています。

「廃棄物問題」の枠を超えた視点で考える

海洋プラスチックごみの累積量は推計されており、世界経済フォーラムの2016年の試算では、2050年には重量ベースで海洋中の魚の総量を上回るとの見方も示されています。そこにマイクロプラスチックによる海洋の炭素吸収機能の低下という新たな知見が加わったことで、この問題はもはや「海ごみの清掃」や「リサイクルの推進」だけで語れるものではなくなっています。

プラスチック汚染は、気候変動という文明的課題と深くつながった問題です。一人ひとりができる行動(使い捨てプラスチックを減らす、マイボトルやエコバッグを使う等)は引き続きもちろん重要ですが、それと同時に、国際条約の行方や各国・企業の政策動向に関心を持ち続けることが、この問題を正しく理解するうえで欠かせない視点といえるでしょう。

RELATED

PAGE TOP