年々厳しくなる夏の暑さに、エアコン代の高騰や地球環境への影響が気になる方も多いでしょう。そんな中、注目を集めているのが「グリーンカーテン」です。植物の力を借りて自然に涼しさを作り出すこの方法は、家計にも地球にも優しい暑さ対策として、多くの家庭や学校で取り入れられています。一見難しそうに思えるかもしれませんが、実は初心者でも簡単に始められる環境に優しい取り組みなのです。
この記事で学べるポイント
- グリーンカーテンの基本的な仕組みと3つの冷却効果
- 初心者でも育てやすいおすすめの植物の選び方
- 実際の作り方から注意点まで実践に必要な知識
グリーンカーテンとは何か?基本の仕組みを知ろう
グリーンカーテンの定義と特徴
グリーンカーテンとは、ゴーヤやアサガオなどのつる性植物を建物の窓や壁面に這わせて、カーテンのように仕立てた自然の日よけのことです。「緑のカーテン」とも呼ばれ、植物が作り出す緑の壁が強い夏の日差しを和らげてくれます。
この取り組みは決して新しいものではありません。日本では古くから「すだれ」や「よしず」を使って暑さをしのぐ知恵がありましたが、グリーンカーテンはその現代版ともいえる存在です。ただし、人工的な材料とは違い、生きた植物を使うことで、単なる日除け以上の効果を発揮します。
グリーンカーテンの最大の特徴は、植物の持つ自然の力を活用している点です。葉っぱが日光を遮るだけでなく、植物が行う蒸散作用によって周囲の温度を下げる効果もあります。まるで天然のエアコンのような働きをしてくれるのです。
なぜ「カーテン」と呼ばれるのか
グリーンカーテンが「カーテン」と呼ばれる理由は、その見た目と機能にあります。つる性の植物がネットに絡まりながら成長すると、窓全体を覆う緑の壁ができあがります。この様子が、まさに植物でできたカーテンのように見えることから、この名前が付けられました。
しかし、室内のカーテンとは大きく異なる点があります。室内のカーテンは窓とカーテンの間に熱がこもってしまいますが、グリーンカーテンは窓の外側に設置するため、熱が室内に侵入する前に遮断できます。これにより、より効率的に室温の上昇を防ぐことができるのです。
また、一般的なカーテンは光を完全に遮ってしまいますが、グリーンカーテンは葉と葉の間から適度に光が差し込みます。この「木漏れ日」のような光は、室内を暗くしすぎることなく、心地よい明るさを保ってくれます。
グリーンカーテンの3つの効果とメリット

日射遮蔽効果:約80%の熱エネルギーをカット
グリーンカーテンの最も注目すべき効果は、その優れた日射遮蔽能力です。十分に葉が茂ったグリーンカーテンは、日射の熱エネルギーの約80%をカットすることができます。この数値は、すだれの遮蔽率50~60%や、高性能の遮蔽ガラスの55%程度と比較しても、圧倒的に高い性能を示しています。
なぜこれほど高い遮蔽効果があるのでしょうか。その秘密は、植物の葉の構造にあります。葉は表面が凸凹していて、光をあまり反射しません。そのため、光のエネルギーを効率よく吸収し、熱として放散することができるのです。また、重なり合った葉が何層にもなることで、より確実に日光を遮ることができます。
この高い遮蔽効果により、室内に侵入する熱を大幅に減らすことができます。夏場に室内が暑くなる原因の約80%は窓からの日射によるものといわれているため、窓の外側でこれを防ぐグリーンカーテンの効果は絶大です。
蒸散作用による冷却効果
グリーンカーテンのもう一つの重要な効果は、植物の蒸散作用による冷却効果です。蒸散作用とは、植物が根から吸い上げた水分を葉から水蒸気として放出する現象のことです。この時、水が気体に変わるために必要な熱(気化熱)を周囲から奪うため、葉の周辺の温度が下がります。
この仕組みは、私たちが汗をかいて体温を下げるのと同じ原理です。また、夏の風物詩である「打ち水」も、水が蒸発する際の気化熱を利用して涼しさを得る昔からの知恵です。グリーンカーテンは、この自然の冷却システムを継続的に働かせることができるのです。
蒸散作用によって冷やされた空気は、風となって室内に入り込みます。この「涼風」は、エアコンの冷たい風とは違って自然で心地よく、体に負担をかけません。そのため、エアコンの設定温度を高めに設定しても快適に過ごすことができ、結果的に節電効果も期待できます。
植物の蒸散量は驚くほど多く、成長した1株のゴーヤは1日に約1.5~2リットルもの水分を蒸散させるといわれています。この大量の水分が気化することで、周囲の温度を2~3度下げる効果があります。
放射熱の抑制効果
グリーンカーテンの3つ目の効果は、放射熱の抑制です。放射熱とは、太陽光で熱せられた壁や地面、コンクリートなどから放出される熱のことで、直射日光とは別の暑さの原因となります。真夏の夜でも気温が下がりにくいのは、昼間に蓄積された放射熱が夜になっても放出され続けるためです。
グリーンカーテンは、建物の壁や窓周辺の地面に日陰を作ることで、これらの表面温度の上昇を防ぎます。壁や地面が熱くならなければ、そこから発生する放射熱も大幅に減らすことができます。特に都市部では、アスファルトやコンクリートが多いため放射熱の影響が深刻ですが、グリーンカーテンはヒートアイランド現象の緩和にも貢献します。
また、グリーンカーテンの設置方法を工夫することで、より効果的に放射熱を抑制できます。例えば、南向きの窓では斜めに設置して影の範囲を広げたり、東西向きの窓では垂直に設置して水平に入り込む日射を遮ったりすることで、建物周辺全体の温度上昇を抑えることができます。
グリーンカーテンに適した植物の種類
グリーンカーテンを成功させるためには、適切な植物選びが重要です。つる性で成長が早く、葉がよく茂る植物が理想的ですが、初心者でも育てやすく、見た目や収穫も楽しめる品種を選ぶことで、より充実したグリーンカーテンライフを送ることができます。
初心者におすすめ|ゴーヤとアサガオ
グリーンカーテンの代表格といえば、ゴーヤ(ニガウリ)です。ゴーヤは病害虫に強く、水やりさえ欠かさなければ初心者でも簡単に育てることができます。葉が大きくて厚いため遮光効果が高く、実を収穫して食べる楽しみもあります。沖縄料理のゴーヤチャンプルーなど、夏バテ防止にも効果的な栄養豊富な野菜として親しまれています。
ゴーヤの魅力は、その旺盛な成長力にあります。5月に植え付けを行えば、7月頃には立派なカーテンが完成し、9月頃まで収穫を楽しむことができます。また、雄花と雌花が同じ株に咲くため、1株だけでも実をつけることができる点も初心者には嬉しいポイントです。
一方、アサガオは古くから日本の夏を彩ってきた花として親しまれています。美しい花を楽しめるのが最大の魅力で、現在では品種改良により、青、紫、ピンク、白など様々な色の花を咲かせる品種があります。特に西洋アサガオは午後になっても花がしぼまないため、長時間美しい花を楽しむことができます。
アサガオは種から育てやすく、成長も早いため、子どもと一緒に楽しむグリーンカーテンとしても人気があります。朝に咲く花は短時間でしぼんでしまいますが、次々と新しい花が咲くため、毎朝の楽しみとなります。
その他の選択肢|ヘチマやフウセンカズラ
より多様なグリーンカーテンを楽しみたい方には、他にも魅力的な選択肢があります。ヘチマは生育力が旺盛で非常に育てやすく、沖縄では「ナーベラー」と呼ばれて食用としても親しまれています。育った実は食用のほか、スポンジやタワシとして活用することもできるため、実用性も兼ね備えています。
フウセンカズラは、その名の通り紙風船のような可愛らしい実をつける植物です。小さな白い花が咲いた後に風船状の実が膨らんでいく様子は、見ているだけで楽しくなります。実が枯れるとハート模様の種が採取でき、来年の種まきに使うことができます。成長すると4メートルにもなるため、グリーンカーテンとしての効果も十分期待できます。
キュウリも人気の選択肢の一つです。つる性で成長が早く、身近な野菜として親しみやすいのが特徴です。ただし、うどんこ病になりやすいため、病気に強い品種を選ぶか、定期的な観察と予防対策が必要です。
グリーンカーテンの作り方と育て方のコツ
グリーンカーテンの成功は、適切な準備と継続的な管理にかかっています。初心者でも失敗しないよう、必要な道具の選び方から日々の手入れまで、段階的に進めることが重要です。
必要な道具と設置場所の選び方
グリーンカーテン作りに必要な基本的な道具は、大きく分けて5つあります。まず、植物を植えるためのプランターですが、グリーンカーテンは面積が広いほど効果が高いため、大きめで深さのあるものを選びましょう。根がしっかりと張れる深さ30センチ以上のプランターが理想的です。
次に、つる性植物を這わせるためのネットが必要です。網目は10センチ角程度が最適で、植物のつるが絡みやすく、適度な強度を持っています。ネットのサイズは設置場所に合わせて選び、縦2~3メートル、横幅も窓の大きさに応じて決めましょう。
支柱は、ネットを固定し、植物を支えるために不可欠です。風に負けない丈夫なものを選び、マンションのベランダなら突っ張り棒タイプが便利です。また、土は野菜用の培養土を使用し、プランターの底には水はけを良くするための鉢底石を敷きます。
設置場所選びも重要なポイントです。日当たりが良く風通しの良い場所を選ぶのが基本ですが、マンションの場合は避難通路や避難ハッチの開閉を妨げないよう注意が必要です。また、隣人への迷惑にならないよう、土や水、落ち葉が飛散しない位置を選びましょう。
植え付けから収穫までのスケジュール
グリーンカーテンの準備は4月後半から5月にかけて始めるのがベストタイミングです。この時期に苗を植え付けることで、真夏には立派なカーテンが完成します。
植え付けの手順は、まずプランターの底に鉢底石を敷き、その上に肥料を混ぜた培養土を入れます。苗は1つのプランターに2株程度が適量で、苗同士の間隔は30~40センチほど空けましょう。植え付け後は、たっぷりと水を与えます。
植物が1~1.5メートルほどに成長したら、親づるの先を摘心します。これにより子づるや孫づるが横に広がり、面状のカーテンが形成されます。摘心は植物の成長に応じて数回繰り返し行います。
水やりは毎日欠かさず行い、特に夏場は朝夕の2回与えることもあります。土の表面が乾いたら、プランターの底から水が出るまでたっぷりと与えるのがコツです。肥料は月に1回程度、液体肥料なら週に1回の頻度で与えます。
注意点とデメリットへの対策
グリーンカーテンには多くのメリットがある一方で、植物を育てる以上、いくつかの注意点やデメリットも存在します。これらを事前に理解し、適切な対策を講じることで、より成功率の高いグリーンカーテン作りが可能になります。
手入れと管理のポイント
グリーンカーテンの最大の課題は、継続的な手入れが必要なことです。植物は生き物なので、毎日の水やりは欠かせません。特に真夏は1日2回の水やりが必要になることもあり、旅行などで長期間家を空ける際は対策が必要です。
害虫対策も重要な管理ポイントです。アブラムシやハダニなどの害虫が発生しやすく、定期的に葉の裏をチェックして早めに駆除することが大切です。人体に影響の少ない殺虫剤を使用するか、天敵昆虫を活用する方法もあります。
風対策も見落としがちな重要な点です。台風などの強風時には、ネットを一時的に地面に降ろして地這い状態にするなど、被害を最小限に抑える工夫が必要です。特に高層階では風が強いため、しっかりとした固定が必要です。
よくあるトラブルと解決法
グリーンカーテン作りでよくあるトラブルの一つが、「思ったように葉が茂らない」ことです。これは植物選びの失敗や摘心不足が原因の場合が多く、つるの長さが3メートル以上伸びる品種を選び、適切なタイミングで摘心を行うことで解決できます。
「虫が多くて困る」という声もよく聞かれます。植物を育てる以上、ある程度の虫は避けられませんが、風通しを良くし、定期的な観察と早期の対処で被害を最小限に抑えることができます。虫が苦手な方は、フェイクグリーンを使った人工的なグリーンカーテンも選択肢の一つです。
近隣トラブルを避けるためには、伸びすぎた植物が隣のベランダに侵入しないよう定期的な剪定を行い、枯れた葉はこまめに掃除することが大切です。また、水やり時に階下に水が滴らないよう受け皿を使用するなどの配慮も必要です。
地球環境への貢献と節電効果
グリーンカーテンは単なる暑さ対策にとどまらず、地球環境保護と持続可能な社会づくりに大きく貢献する取り組みです。環境省も「グリーンカーテンプロジェクト」として積極的に推進しており、その効果は科学的にも実証されています。
グリーンカーテンによる節電効果は想像以上に大きく、横浜市環境科学研究所の試算によると、家庭用エアコン1台分を毎日1~1.5時間程度節約する効果があるとされています。これは年間で見ると相当な電気代の節約につながります。
CO2削減効果も注目すべき点です。エアコンの設定温度を27℃から28℃に上げるだけで、1世帯あたり年間12.4kgのCO2排出量を削減できます。さらに、植物自体の光合成による二酸化炭素吸収効果も加わり、杉の木約9本分のCO2削減効果があると推測されています。
都市部で深刻化しているヒートアイランド現象の緩和にも、グリーンカーテンは有効です。コンクリートやアスファルトが蓄積する熱を植物の力で抑制し、都市全体の気温上昇を抑える効果があります。個人の取り組みが地域全体の環境改善につながる、まさに持続可能な環境対策といえるでしょう。
グリーンカーテンは、私たち一人ひとりができる身近な環境活動です。美しい緑を楽しみながら電気代を節約し、同時に地球温暖化対策にも貢献できる。この夏、あなたもグリーンカーテンで涼しく、そして地球に優しい生活を始めてみませんか。
参照元
・千葉県 https://www.pref.chiba.lg.jp/kouen/toshikouen/curtain/curtain.html
・環境省 グリーンカーテンプロジェクト https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/green/secret.html
・環境省 COOL CHOICE https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/topics/20160601-04.html
・戸田市公式サイト https://www.city.toda.saitama.jp/soshiki/212/kankyo-green-curtain.html
・刈谷市ホームページ https://www.city.kariya.lg.jp/kurashi/pet/1003889/1003901.html
・結城市公式ホームページ https://www.city.yuki.lg.jp/kurashi-tetsuzuki/kankyou-koutsuu/kankyou-iso/page000980.html
・サカタのタネ 緑のカーテン https://www.sakataseed.co.jp/special/midori/whatis/