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SOCIETY

インパクト評価の日本の現在地|休眠預金・インパクト投資・自治体の動きと、今日から始める3ステップ

Photo by Ihor Dvoretskyi on Unsplash

「インパクト評価って、結局何をするものなのだろう」「大きな財団や金融機関の話で、自分や小さな団体には関係ないのでは」。そう感じて、検索窓に「インパクト評価 日本」と打ち込んだ方は少なくないはずです。

先に結論を書くと、日本でインパクト評価が使われる場面は、おおまかに「助成金」「自治体の事業」「インパクト投資」の3つに分かれます。どの場面でも、基本の問いは同じです。「活動をやった(アウトプット)」ではなく、「その結果、誰の何がどう変わったか(アウトカム)」を確かめることです。

この記事では、公的資料で確認できる範囲で日本の現在地を整理します。そのうえで、評価を読む側が引っかかりやすい点と、小さな活動でも始められる手順をお伝えします。

この記事で学べること

  • 日本でインパクト評価が使われている3つの場面(休眠預金・自治体・インパクト投資)
  • 金融庁の指針が示す、インパクト投資に必要な4つの要素
  • インパクト評価でよくある3つの誤解と、数字を読むときの注意点
  • 小さな団体や個人でも始められる、評価の3ステップ
目次

「インパクト評価」は日本で何を指し、どこで使われているのか

インパクト評価は、何を測るものなのか

インパクト評価(社会的インパクト評価)とは、事業や活動がもたらした社会的・環境的な変化を、定量的・定性的に把握し、その価値を判断することです。内閣府の「社会的インパクト評価検討ワーキング・グループ」は、2016年3月に報告書「社会的インパクト評価の推進に向けて」をまとめました。日本の議論は、この報告書あたりから公的な枠組みの中で進んできたと言えます。

定義はここまでにして、大事なのは考え方の筋道です。評価の出発点になるのは、「インプット(投じた資金や人手)→アクティビティ(活動)→アウトプット(活動の直接の成果物)→アウトカム(対象者に起きた変化)→インパクト(より長期・広範な社会的変化)」という因果の流れを描くことです。この図をロジックモデルと呼びます。

たとえば子ども食堂なら、「開催回数」や「提供した食事の数」はアウトプットです。「孤食が減った」「相談できる大人が増えた」といった変化がアウトカムにあたります。多くの活動報告は前者で止まりやすく、評価はそこから一歩先を問います。

日本では、どんな場面で使われているのか

「評価」と一口に言っても、日本では文脈が少なくとも3つあります。

  1. 助成金の制度で、事業の成果を確認する評価(休眠預金など)
  2. 自治体が民間と組んで進める事業で、成果を測る評価(横浜市の取り組みなど)
  3. お金を出す側が、社会的効果を測り管理する評価(インパクト投資)

同じ言葉でも、誰が何のために使うかで求められる厳密さや書き方が変わります。混同すると「うちの活動の評価は、あの財団のやり方と違う」と戸惑うことになります。次の章から順に見ていきます。

「インパクト評価」と、開発経済学の「インパクト評価」は同じものですか

英語の impact evaluation は、開発経済学などで、比較群を置いて因果関係を統計的に検証する手法を指すことがあります。本記事で扱うのは、日本の助成・行政・金融の現場で使われる、より広い意味での「社会的インパクト評価」です。両者は重なる部分もありますが、検索で出てくる情報の前提が違うことがあるため、読むときは文脈を確認してください。

助成金と自治体の現場で、評価はどう使われているのか

休眠預金の仕組みでは、評価が制度に組み込まれている

休眠預金等活用法は2016年に議員立法で成立し、2018年に全面施行されました。2019年から、休眠預金を活用した事業が始まっています。内閣府の資料によると、資金は指定活用団体(JANPIA)から資金分配団体へ、そこから実行団体へと流れる仕組みです。

この制度の特徴は、資金分配団体や実行団体が実施する評価について、評価指針が示されている点です。指針は2019年7月に策定され、2020年7月に改訂されています。JANPIAは評価の多様性を認めて尊重するとしており、「全国どの事業にも同じ物差しを当てる」運用ではありません。

ここから分かるのは、助成を受ける側にとって、評価は「報告のための追加作業」ではなく、事業設計の一部として求められるということです。応募の段階で、何を変えたい事業なのかを説明できるかが問われます。

自治体が民間と組むとき、評価は何を可視化するのか

自治体の例として、横浜市は2016年から社会的インパクト評価のモデル事業に取り組んでいます。困難を抱える子どもたちの学習・生活・居場所を支える事業について、ゴールドマン・サックス、社会福祉法人たすけあい ゆい、横浜市などが連携し、SROI(社会的投資収益率)による評価を行いました。

SROIは、事業がつくった社会的価値を金額に換算して、投じた資金と比べる手法です。行政や出資者に「この資金でどんな変化が生まれたか」を説明しやすくなる一方で、換算の前提を置くことになります。数字が出たときは、結果だけでなく前提も確認してください。

評価の結果は、誰のために使われるのか

ここまでの2つの場面に共通するのは、評価が「お金を出す側への説明」と「現場の改善」の両方に使われることです。前者だけを意識すると、数字をきれいに見せる作業になりがちです。現場にとって本当に役立つのは、うまくいかなかった部分が見え、次の年度の設計に反映できる評価です。

インパクト投資では、金融庁の指針と「17.3兆円」をどう読むのか

金融庁の指針が示す4つの要素

金融庁は2024年3月29日に「インパクト投資(インパクトファイナンス)に関する基本的指針」を公表しました。インパクト投資とは、一定の投資収益を確保しつつ、社会・環境的効果の実現を企図する投資です。指針は、その基本的な要素として次の4点を挙げています。

  1. 実現を意図する社会・環境的効果が明確であること
  2. 投資の実施によって、その効果の実現に貢献すること
  3. 効果の特定・測定・管理を行うこと
  4. 市場や顧客に変革をもたらし、または加速し得るよう支援すること

3つめの「測定・管理」が、インパクト評価に当たる部分です。ただ測るだけでなく、測った結果を管理に生かす、つまり次の判断に使うところまでが求められています。

日本のインパクト投資残高は、どう伸びたのか

GSG Impact JAPANと社会変革推進財団(SIIF)による調査では、2024年度の日本のインパクト投資残高は約17.3兆円でした。前年度の約6.9兆円から約150%増えています。ただしこれは、調査に回答して要件を満たした59組織の運用資産の合計です。また、大手銀行・生命保険会社8社の投資が全体の増加分の94%を占めたと報告されています。

この数字から「日本の社会課題の解決が17兆円分進んだ」とは読めません。残高は、投資の規模を表しているだけで、生まれた効果の大きさを示してはいないからです。何をインパクト投資として数えるか、大手金融機関がどれだけ参入したかによって大きく動く数字でもあります。だからこそ、個々の投資でどんなアウトカムを測っているのかが、これから問われます。

企業にとって、インパクト評価はどんな意味を持つのか

企業の側では、インパクト加重会計のように、環境や社会への影響を金額で財務諸表に反映しようとする動きもあります。実務的な課題として、開示規制への対応ニーズが背景にある一方で、複数のイニシアチブが並立して企業側が混乱しやすいことも指摘されています。完璧な測定を目指して動けなくなるより、段階的に精度を上げていく姿勢が現実的だとされています。

評価の数字を読むとき、引っかかりやすい3つのポイント

ここでは、インパクト評価に関する公開情報や解説を読むなかで、つまずきやすい点が似通っていることから、読者の疑問に沿って整理します。

「インパクト評価=何でも金額に換算すること」ではありませんか

そう思われがちですが、違います。SROIのように貨幣換算をする手法もありますが、評価の本質はロジックモデルで因果を整理し、変化を捉えることです。変化の捉え方は、アンケートの数値、聞き取りの記録、事例の積み重ねなど、事業の性格に合わせて選べます。金額にできることと、価値があることは別の問題です。

「うちは小さな団体だから、評価は無理」ではありませんか

評価の深さは、団体の規模ではなく、使う目的と資源に合わせて決められます。休眠預金の評価指針が評価の多様性を認めているように、同じ手法を全員に求めるわけではありません。小さな団体にとって大切なのは、大がかりな調査よりも、事業の前と後で何が変わったかを記録する習慣です。

「評価の数字が良ければ、活動の効果が証明された」と言えますか

言い切れません。アウトカム指標が改善しても、それが活動のおかげなのか、ほかの要因によるものなのかは、比較する対象がなければ分かりません。評価結果を見るときは、「何と比べているのか」「想定外の影響や負の影響は拾っているのか」「結果を誰が、どんな立場で出しているのか」の3点を確認すると、数字との距離感がつかめます。根拠のない「社会に良いことをしている」という印象だけが先行する状態は、避けたいところです。

今日から試せる、インパクト評価の3ステップ

ステップ1 ロジックモデルを1枚に書く

白い紙に、「誰のどんな状態を変えたいか」を最初に書き、そこから逆向きに活動をたどります。インプット、アクティビティ、アウトプット、アウトカムの順に、1行ずつ埋めてください。このとき、アウトプットとアウトカムを書き分けることが最大のポイントです。

ステップ2 見る指標を、1〜3個に絞る

指標を増やしすぎると、集計が続かなくなります。「孤食の日数」「相談できる人の人数」「参加後の自己評価」など、アウトカムに直結するものを選んでください。定性的な声(参加者の言葉)も、1〜2件の記録があれば十分に材料になります。

ステップ3 事業の開始前に、いまの状態を記録する

評価で最も取り戻しにくいのが、開始前のデータです。変化を比べる基準がないと、あとから「良くなった」と言い切れません。アンケート1枚でも構いません。年度の後半に入った今の時期は、来年度の事業計画や助成の申請に向けて、この基準づくりを始めやすいタイミングです。

団体に所属していない方は、何を見ればよいですか

寄付先や応援する団体を選ぶとき、活動報告に「何回開催した」「何人が参加した」だけでなく、「参加者にどんな変化があったか」が書かれているかを見てみてください。変化を言葉にしようとしている団体は、自分たちの活動を省みる姿勢があると読み取れます。

今日の1アクションとして、関心のある活動を1つ選び、「アウトプット」と「アウトカム」を1行ずつ書き分けてみてください。書けない部分が見つかれば、それが評価の入り口です。

まとめ

日本のインパクト評価は、休眠預金、自治体の事業、インパクト投資という3つの場面で広がっています。公的な指針や枠組みも整ってきました。ただし、制度や数字が先に進むことと、現場で変化が確かめられていることは同じではありません。

投資残高の約17.3兆円のように大きな数字が出るときほど、その数字が何を測っているのかを確かめる視点が必要になります。そして評価の核にあるのは、ロジックモデルで「何を変えたいのか」を言葉にし、事業の前後で変化を記録するという、規模を問わず始められる手順です。

評価は、活動を飾るためのものではなく、活動を見直すためのものです。まず1つだけ、手元の活動のアウトカムを言葉にしてみてください。

  • 日本のインパクト評価は、助成金・自治体の事業・インパクト投資の3つの場面で使われている
  • 金融庁の指針は、インパクト投資に「効果の特定・測定・管理」を求めている
  • 投資残高の約17.3兆円は規模を示す数字で、効果の大きさを示すものではない
  • 評価は貨幣換算がすべてではなく、ロジックモデルで因果を整理することが出発点になる
  • 小さな活動でも、アウトカムを書き分け、開始前の状態を記録することから始められる

参考文献

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