「2050年カーボンニュートラル」という言葉は毎年のように耳にします。それでも、日本が実際にどこまで近づいているのかは分かりにくい、と感じている方も多いはずです。
日本政府は2020年10月に、2050年までに温室効果ガスの排出を全体として実質ゼロにすると宣言しました。ここでいう「実質ゼロ」とは、排出量から森林などによる吸収量を差し引いた合計をゼロにするという意味です。
この記事では、定義の説明は入口にとどめます。2026年4月に公表された最新の排出量と、2035年度・2040年度の目標、そしてニュースの数字を読み違えないための見方を整理し、最後に暮らしの中で取れる最初の一歩を紹介します。
日本は2050年に向けて、いまどこまで来ているのか
まず結論から言うと、排出量は着実に減っています。ただし、目標へ向かう経路と比べると、ここ最近は思うように減っていない面もあります。数字を順に見ていきます。
2024年度は約9億9,400万トンで、初めて10億トンを下回った
環境省が2026年4月に公表した確報値によると、2024年度の日本の温室効果ガス排出・吸収量は二酸化炭素(CO2)換算で約9億9,400万トンでした。基準年である2013年度と比べると28.7%の減少です。2013年度以降で最も低い水準で、10億トンの大台を初めて下回りました。
一つ前の2023年度は約10億1,700万トンで、2013年度比27.1%の減少でした。環境省は2023年度の減少要因として、電源の脱炭素化と、製造業の国内生産の減少によるエネルギー消費量の減少を挙げています。再生可能エネルギーと原子力を合わせた割合が電源構成の3割を超えたことが、電源の脱炭素化の中身です。
「過去最低」なのに、ペースが鈍化していると言われる理由
「過去最低なら順調なのでは」と思われるかもしれません。ここには少し注意が必要です。
報道によると、2024年度の排出・吸収量は、2013年度と2050年度を直線で結んだ経路の値より約1,500万トン多かったとされています。削減ペースが鈍っている要因として、再生可能エネルギーや原子力の伸びが小さかったことが挙げられています。
もう一つ見落とされがちなのが、吸収量の減少です。環境省の公表では、森林などによる吸収量は2023年度の約5,390万トンから、2024年度は約5,230万トンへ減りました。報道では、森林の樹齢が上がって成長が鈍り、CO2を吸う量が減っていることが背景として紹介されています。排出を減らす努力だけでなく、吸収する側の力も変わっていくという点は、あまり知られていません。
2035年度60%・2040年度73%という次の目盛り
次の節目も決まっています。日本は2025年2月18日に閣議決定したうえで、国連に対して「2013年度比で2035年度に60%、2040年度に73%削減する」という目標を提出しました。それまでの2030年度46%削減という目標に続くもので、2050年のネット・ゼロに向けた直線的な経路にあるとされています。
あわせて同日に閣議決定された第7次エネルギー基本計画では、2040年度の電源構成の見通しとして、再生可能エネルギーが4〜5割程度、原子力が2割程度、火力が3〜4割程度とされています。再エネと原子力を「脱炭素電源」と位置づけ、最大限活用する方針です。
地球温暖化そのものの仕組みから確認したい方は、こちらの記事も参考になります。
読者が抱きやすい3つの疑問に答える
企業の非財務開示を取材していると、カーボンニュートラルをめぐる疑問はだいたい同じところに集まると感じます。代表的な3つに、順に答えます。
「実質ゼロ」とは、CO2を1トンも出さないという意味ですか
そうではありません。「排出ゼロ」ではなく「実質ゼロ」と呼ぶのは、どうしても出てしまう排出を、森林による吸収などで差し引いて合計をゼロにする考え方だからです。
先ほどの2024年度の数字でいえば、約9億9,400万トンという値自体が、排出量から吸収量を差し引いた後の数字です。吸収量が減れば、排出量が同じでも合計は増えます。排出の削減と、吸収源の維持の両方が必要になる理由はここにあります。
日本は資源が乏しいのに、再エネ中心で間に合いますか
「間に合う」と言い切れる材料は、現時点では見当たりません。同時に、「再エネだけで間に合わせる」という計画でもありません。
エネルギー基本計画の2040年度の見通しは、再エネ4〜5割、原子力2割、火力3〜4割という組み合わせです。再エネの比率は直近の実績の約2倍にあたると報じられています。火力も残る前提の計画なので、残る火力の排出をどう抑えるか、再エネをどれだけ増やせるかが、今後の焦点です。
個人の節電や買い物は、国の数字に影響するのですか
影響します。ただし、「一人が我慢すれば国の数字が動く」という単純な話ではありません。
国の排出量は、産業、運輸、業務その他、家庭といった部門の合計です。環境省は2024年度の排出量について、家庭部門を含む部門別の分析も公開しています。家庭で使う電気は、発電所でどの電源が使われるかと合わせて、排出量に響きます。個人の選択は、電力会社のメニューや企業の商品づくりを通じて、少しずつ社会全体の流れに重なっていくと考えるのが現実的です。
地域で動き出している取り組み
国の目標を支えているのは、各地での具体的な取り組みです。ここでは環境省が進めてきた「脱炭素先行地域」を取り上げます。
脱炭素先行地域は、民生部門(家庭や業務施設など)の電力を2030年度までに実質ゼロにするなど、先行して脱炭素に取り組む地域を国が選ぶ制度です。「2025年度までに少なくとも100か所」を選ぶ目標が掲げられていました。環境省の発表では、2026年2月の第7回選定で12件が追加され、第1回からの合計は102件になりました。目標に届いたため、募集は第7回で終了しています。
選ばれた地域では、地域の再エネを地元で使う仕組みづくりや、公共施設・住宅の省エネ改修などが進められています。「国の目標は大きすぎて実感がわかない」という方は、自分の住む自治体がどの段階にあるかを調べてみるのも一つの方法です。
募集が終わっても、取り組みが終わるわけではありません。選定された地域で得られた手法を、ほかの自治体がどう取り入れていくかが、次の課題になります。
ニュースや企業開示の数字を読むときの3つの見方
ここまで見てきたように、カーボンニュートラルの数字は、基準年や前提によって見え方が変わります。排出量の数字に出会ったときに確認したい点を、3つに整理します。
基準年はいつか
日本の国の目標は2013年度が基準です。一方、企業の開示では2019年度や2020年度を基準年にしている例もあります。基準年が違えば、同じ削減量でも「何%減」という見え方が変わります。比べるときは、まず基準年をそろえて確認する必要があります。
吸収量を差し引いた数字か
「約9億9,400万トン」は吸収量を差し引いた値です。排出量だけを指す数字と混ざると、比較を誤ります。ニュースを読むときは、「排出量」なのか「排出・吸収量」なのかを見分けてください。
目標年の数字か、毎年の経路との差か
2030年度や2035年度の目標を達成できるかどうかと、今年の削減が経路に沿っているかどうかは、別の話です。「過去最低」という見出しと「ペースの鈍化」という報道が同時に成り立つのは、この違いによります。年ごとの値と、目標までの経路の両方を見ると、全体像をつかみやすくなります。
今日から試せる1アクション|電気の検針票を開いてみる
では、個人は何から始めればよいのでしょうか。おすすめは、電気の検針票(明細)を開くことです。
10月は冷房も暖房も使う時間が少なく、1年の中でも電気の使用量が落ち着きやすい時期です。これから暖房や給湯の使用が増えていくため、今の使用量を「基準」として把握しておくのに向いています。次の3点を確認してみてください。
- 先月と昨年同じ月の使用量(kWh)を比べる
- 契約している電気のメニュー名と、電源についての説明を読む
- 「再エネ由来」をうたうメニューがある場合、どのような仕組みでその電気を扱っているかの説明があるかを確認する
3つ目は、グリーンウォッシュを避けるうえで大切な点です。「環境に優しい」という言葉だけでなく、何をもってそう呼んでいるのかが説明されているかどうかが、判断の手がかりになります。
まず、検針票を開いて使用量を一度見る。それだけで十分な第一歩です。
まとめ
日本の温室効果ガス排出・吸収量は、2024年度に約9億9,400万トンと、2013年度比で28.7%減り、初めて10億トンを下回りました。一方で、2050年に向けた直線的な経路と比べると約1,500万トン多いと報じられており、森林の吸収量が減っていることも課題です。
2035年度に60%、2040年度に73%という次の目標は決まっていて、エネルギー基本計画は再エネ、原子力、火力を組み合わせた電源構成を描いています。「実質ゼロ」「基準年」「吸収量」といった言葉の意味を押さえておけば、ニュースの数字を落ち着いて読み解けるようになります。
そして個人にできる最初の一歩は、検針票を開いて電気の使い方を知ることです。大きな目標を前にして立ち止まってしまったときほど、足元の数字から確かめてみてください。
- 2024年度の排出・吸収量は約9億9,400万トンで、2013年度比28.7%減となった
- 目標は2035年度60%減、2040年度73%減(いずれも2013年度比)
- 「実質ゼロ」は、排出量から吸収量を差し引いた合計をゼロにする考え方
- 数字は基準年、吸収量の扱い、経路との差の3点で読み分ける
- まずは電気の検針票を開き、使用量とメニューの説明を確認する
参考文献
- 環境省「我が国の温室効果ガス排出・吸収量(2024年度確報値)」(2026年)
- 環境省「2023年度の温室効果ガス排出・吸収量について」(2025年)
- 環境省「日本のNDC(国が決定する貢献)」(2025年)
- サイエンスポータル「再エネと原発の脱炭素電源を『最大限活用』 政府、エネルギー基本計画を改定」(2025年)
- 環境省「脱炭素先行地域選定結果(第7回)について」(2026年)
- 秋田魁新報「24年度温室ガス削減ペース鈍化 目標より1500万トン多く」(2026年)


