非認知能力は、テストの点数では測れない「やり抜く力」「気持ちを整える力」「人と協力する力」の総称として語られます。ただ、子育ての場面で大切なのは、この言葉の人気ではなく、どの調査が何を示し、何を示していないかを切り分けて読むことです。
OECD(経済協力開発機構)の国際調査には日本から群馬県が参加し、2024年10月に第2弾の報告書が公表されました。国立青少年教育振興機構の調査では、体験の豊富さと自己肯定感の関連が報告されています。米国の長期追跡研究では、幼児期への投資の収益率が試算されています。この記事では、この3つを並べて読み、家庭で試せる行動を整理します。
非認知能力は何を指すのか|OECDの枠組みで整理する
「非認知能力」は教育現場や育児書で広く使われる一方で、学術的な厳密さを持つ用語というより、複数の力をまとめた通称に近い言葉です。調査結果を読む前に、何を測っているのかを確認しておきます。
OECDは「社会情動的スキル」と呼んでいる
OECDは非認知能力にほぼ重なる概念を「社会情動的スキル」と呼び、「目標の達成」「他者との協働」「情動の制御」といった側面から捉えています。我慢強さ、好奇心、共感、ストレス耐性などが具体例です。
つまり非認知能力とは、性格の良し悪しを指す言葉ではありません。経験や環境によって伸び方が変わると考えられている、育てられる力の集まりとして扱われています。
「学力と対立する力」ではない
OECDの国際調査を紹介した群馬県の概要では、目標達成への意欲、粘り強さ、好奇心が高い生徒ほど学業成績が高い傾向にあると報告されています。認知能力と非認知能力は二者択一ではなく、互いに関わり合う関係として読むほうが実態に近いと言えます。
一方で、この関連は同じ時点の調査で見られた相関です。粘り強さを伸ばせば成績が上がる、という因果までは、この結果だけでは断定できません。
日本で測られているのは、まだ限られた範囲
日本から2023年の調査に参加したのは群馬県のみで、国内全体の代表値ではありません。調査対象は県内の公立・私立高校79校で、生徒3,528名に加え、教員・校長を含めて合計4,215名でした。
つまり、日本の子ども全体について「非認知能力はこうだ」と言い切れる全国データは、現時点で限られています。この前提を持っておくと、後で紹介する数字を過大に受け取らずに済みます。
3つの調査が示すこと、示していないこと
非認知能力の子育て記事では、複数の調査が一括りに引用されがちです。ここでは対象も方法も違う3つを分けて見ます。
OECD社会情動的スキル調査2023|群馬県のデータ
2023年の調査は世界16の国・都市が参加し、2024年4月に第1弾、同年10月24日に第2弾の国際報告書が公表されました。群馬県の結果では、社会情動的スキルの男女差が参加地域の中で小さいことが報告されています。ストレス耐性の男女差は全体平均で0.65ポイントに対し群馬県は0.32ポイント、寛容さは全体平均0.22ポイントに対し0.09ポイントでした。
家庭に関する知見も出ています。報告書では、家事の責任を男女で分担している家庭の生徒は、社会情動的スキルが高い傾向にあると述べられています。報道によれば、そうした家庭の生徒は、ストレスへの対処、粘り強さ、楽観性、達成意欲といったスキルが高い傾向を示しました。
同じ報告で、群馬県には「家事は家族の女性が担当する」という考えが残っていることも指摘されています。家庭の役割分担が、子どもに見せている「当たり前」の一部になっていることがうかがえます。ただしこれも相関で、家事分担が原因とは確定していません。
国立青少年教育振興機構の体験活動調査
国立青少年教育振興機構の「青少年の体験活動等に関する意識調査」(令和元年度調査)では、自然体験、生活体験、文化芸術体験が豊富な子どもほど自己肯定感が高い傾向が報告されています。お手伝いをしている子どもでも、同様の傾向が見られます。
注目したいのは、社会経済的背景の違いにかかわらず、自然体験が多い子どもほど自己肯定感が高い傾向が示されている点です。家庭の経済状況が違っても、体験の量には関連が見られるということです。また、幼少期に保護者が外遊びを促していた子どもは、その後の探究心が高い傾向があるとも報告されています。
ヘックマンらの幼児教育研究|米国の長期追跡
非認知能力が世界的に注目された大きなきっかけは、経済学者ジェームズ・ヘックマンらによるペリー就学前計画の分析です。1960年代のミシガン州で、低所得家庭の3〜4歳の子どもを対象に、遊びや自主性を重んじる就学前教育が行われ、参加した子どもたちが40歳まで追跡されました。
シカゴ大学の発表によれば、こうした幼児期プログラムへの投資の年間収益率は、ペリー計画の従来推計で7〜10%とされてきました。同じ研究グループによるカロライナ・アベセダリアン計画の分析では13%と報告されています。
ただしこれは、1960〜70年代の米国で、不利な条件にある家庭の子どもに行われた手厚い介入の結果です。今の日本の家庭に、そのまま当てはめられる数字ではありません。
3つを並べて読むと見えてくること
3つの調査は、対象年齢(幼児期、小中高生、高校生)も方法(実験的な追跡、質問紙調査)も違います。それでも共通しているのは、特別な教材や高額な習い事ではなく、日々の関わりや体験が論点になっている点です。
逆に、どの調査も「この方法を使えば非認知能力が確実に伸びる」とは言っていません。示されているのは関連であり、保証ではありません。この限界を理解したうえで、次の行動を選ぶのが現実的です。
家庭で試せる4つの行動と根拠の強さ
3つの調査から、家庭で取り入れやすい行動を4つ挙げます。それぞれ、どの程度の根拠に支えられているかを併記します。
お手伝いを「子どもの担当」にする
根拠は、国立青少年教育振興機構の調査で、お手伝いや生活体験が豊富な子どもほど自己肯定感が高い傾向にあることです。根拠の強さは「関連が報告されている」段階で、因果は未確認です。
ポイントは、手伝わせることではなく任せることです。靴をそろえる、食器を下げるなど、結果が自分の役割として残る仕事を1つ決めると、「自分がやった」という実感が生まれやすくなります。
外遊びや自然に触れる機会を、週に1回でも持つ
根拠は同じ調査で、自然体験が多い子どもほど自己肯定感が高く、その傾向は社会経済的背景の違いにかかわらず見られたことです。幼少期に保護者が外遊びを促していた子どもは、探究心が高い傾向もありました。
遠出や高額なキャンプは前提ではありません。近所の公園で虫や草を観察する時間も、自然体験の入口です。
結果より過程に言葉をかける
OECDの国際報告書では、教師から多くのフィードバックを受けた生徒ほど社会情動的スキルが高いと報告されています。これは学校での知見であり、家庭にそのまま移せるとは限りません。
とはいえ、「100点だったね」より「毎日続けていたね」と過程に目を向ける声かけは、フィードバックの質を高める方法として無理のない応用です。この項目は、調査から導いた推論であることを断っておきます。
大人が家事や役割を分担する姿を見せる
群馬県の結果で、家事を男女で分担している家庭の生徒ほど社会情動的スキルが高い傾向があったことが根拠です。因果ではなく関連ですが、子どもは「家庭の役割はどう決まるか」を日常から学んでいると考えると、親の行動が最初のモデルになります。
まず変えやすいのは、子どもの前で「今日はどちらが何をやるか」を話し合う場面を見せることです。性別で役割を決めない習慣は、子どもの固定観念を和らげる方向に働く可能性があります。
非認知能力の子育てで起きやすい3つのすれ違い
ここまでの情報を踏まえ、公開されている育児情報や調査の読み方の傾向として、特に起きやすいと考えられるすれ違いを3つに整理します。個別の家庭の事例ではなく、論点の整理です。
非認知能力を「習い事で買う」ものと捉える
非認知能力を伸ばす特別なプログラムを探す動きは自然ですが、今回見てきた調査が示しているのは、お手伝い、外遊び、家庭の役割分担といった日常の体験です。国立青少年教育振興機構の調査では、体験の量が家庭の経済状況と無関係に自己肯定感と関連していました。高額な教室が必須だと読む根拠は、これらの調査からは見当たりません。
もちろん、習い事が合う子どももいます。ただ、「非認知能力のために」と目的化すると、子どもにとっての楽しさが後回しになる懸念があります。
自己肯定感を「褒めて上げる」ものと考える
自己肯定感は、褒めれば上がるという単純な構造ではありません。調査で関連が見られたのは、自然体験や生活体験といった「自分でやった経験」でした。自分で決めて、やって、できたり失敗したりした経験の積み重ねが、土台になっていると読めます。
結果だけを褒め続けると、失敗を避ける方向に働く懸念もあります。過程を認める声かけと、挑戦する機会の両方が必要です。
数値で測り、他の子と比べる
非認知能力は、測り方によって数値が変わる性質を持ちます。OECDの調査も、国や地域の比較には慎重な前提がついています。実際、群馬県の結果にも、男女差が小さいという強みと、テスト不安が参加地域で最も高いという課題が併存していました。
一つの指標で「うちの子は足りない」と判断するのは、データの読み方としても無理があります。比較する相手は他の子ではなく、半年前のその子自身が現実的です。
今日から試す1つのアクション
ここまでの内容を踏まえ、今日から取り入れやすい行動を1つに絞ります。それは「家事を1つ、子どもの担当として任せ、終わったら過程に一言だけ添える」ことです。
たとえば、夕食後の食器を台所まで運ぶ、洗濯物を畳んで所定の場所に置く、といった内容です。やり方が親の流儀と違っても、手を出さずに最後まで任せます。終わったあとは「全部運べたね」ではなく、「最後までやってくれたね」のように、過程に触れる言葉を1つだけ添えます。
この行動は、生活体験と自己肯定感の関連(国立青少年教育振興機構)、家事分担と社会情動的スキルの関連(OECD群馬県結果)の両方に重なります。ただし、これで非認知能力が伸びると保証するものではありません。まず1週間続けて、子どもの様子や自分の声かけがどう変わるかを観察してみてください。
まとめ
非認知能力は、特別な教材で急に身につく力ではなく、日々の体験と関わりの中で育つ力として語られています。OECDの国際調査、国立青少年教育振興機構の調査、ヘックマンらの長期研究は、それぞれ対象も方法も異なり、示しているのは関連であって因果の保証ではありません。
そのうえで3つに共通するのは、お手伝い、外遊び、家庭内の役割分担といった、費用をかけずに始められる日常の場面が重視されている点です。家庭の経済状況にかかわらず、体験の量が自己肯定感と関連していたという報告は、子育てに取り組む側にとって前向きな材料です。
高額な教室や数値化に急がず、まず1つの家事を任せることから始めてみてください。小さな変化を観察する姿勢こそが、非認知能力の子育てを続ける土台になります。
- 非認知能力はOECDで社会情動的スキルと呼ばれ、目標の達成・他者との協働・情動の制御の側面から捉えられている
- 日本で参加したOECD調査は群馬県のみで、結果は全国の代表値ではない
- 体験活動調査では、自然体験が多い子どもほど自己肯定感が高い傾向が、家庭の経済状況にかかわらず報告されている
- どの調査も因果の保証ではなく、関連の報告にとどまる
- まず家事を1つ子どもに任せ、終わったら過程に一言添えてみる
参考文献
- 群馬県教育委員会「SSES Round2 国際報告書(第1弾)の概要」(2024年)
- 群馬県「OECD社会情動的スキルに関する調査の国際報告書(第2弾)の公表について」(2024年)
- 国立青少年教育振興機構「過去の調査研究」青少年の体験活動等に関する意識調査(令和元年度調査)
- シカゴ大学「Investment in early childhood programs yields robust returns」(2016年)

