私たちが毎日行う買い物や消費行動。その選択が、実は地球環境や社会に大きな影響を与えていることをご存知でしょうか。近年、単に安さや便利さだけでなく、環境や社会への影響を考えて商品を選ぶ「コンシューマー・コンシャスネス」という考え方が世界中で注目を集めています。
この記事で学べるポイント
- コンシューマー・コンシャスネスの基本概念と実践方法
- 意識的な消費行動が社会や環境に与える積極的な影響
- 日常生活で簡単に始められる具体的なアクション
コンシューマー・コンシャスネスとは何か
基本的な定義と意味
コンシューマー・コンシャスネス(Consumer Consciousness)とは、消費者が商品やサービスを購入する際に、価格や品質だけでなく、社会・経済・自然環境にどのような影響を与えるかを意識して選択する消費行動のことを指します。
「コンシャス」という言葉には「意識が高い」「思慮深い」という意味が含まれており、コンシャスな消費を好む人々は、自分の消費行動が環境や社会に負の影響を与えない選択肢を意識して選ぶ傾向があります。
この概念は、2019年に国際的な市場調査会社のユーロモニターが発表した「世界の消費者トレンドTOP10」にも「コンシャス・コンシューマー(課題意識の高い消費者)」として選ばれており、世界的に注目度が高まっています。
実際のコンシューマー・コンシャスネスの実践例としては、フェアトレード商品の購入、環境負荷の少ない商品の選択、地域の生産者を支援する地産地消、必要以上に購入しない適量消費などが挙げられます。これらの行動は、消費者一人ひとりが「自分の購入行動が世界にどんな影響を与えるか」を考えることから始まります。
エシカル消費との関係性
コンシューマー・コンシャスネスは、「エシカル消費」や「グリーン・コンシューマリズム」といった概念と密接な関係があります。エシカル消費とは、消費者庁が定義するところによれば「消費者それぞれが各自にとっての社会的課題の解決を考慮したり、そうした課題に取り組む事業者を応援しながら消費活動を行うこと」を指します。
両者の共通点は、消費行動を通じて社会や環境の課題解決に貢献しようとする姿勢にあります。ただし、コンシューマー・コンシャスネスは消費者の「意識」や「認識」により焦点を当てた概念といえるでしょう。
この意識的な消費行動の背景には、1950年代以降から存在していた「ダラー・ボーティング(dollar voting)」という考え方があります。これは、商品やサービスを購入する際に何を優先し、それがどんな影響を与えるかを考える概念で、消費者の購入行動が一種の「投票」のような役割を果たすという考え方です。
現在では、気候変動や労働問題、資源の枯渇といった地球規模の課題が深刻化する中で、消費者一人ひとりの選択がこれらの問題の解決に向けた重要な鍵を握っているという認識が広まっています。
コンシューマー・コンシャスネスが注目される背景
環境問題や社会課題への関心の高まり
コンシューマー・コンシャスネスが世界的に注目を集めている最大の理由は、深刻化する環境問題と社会課題への危機感の高まりです。
気候変動の観点から見ると、私たちが日常的に購入する商品の製造過程では多くの場合、温室効果ガスが排出されています。例えば、衣類の製造には水やエネルギーが大量に使われ、輸送や廃棄に至るまでの過程で二酸化炭素が放出されます。気候変動が進むと極端な気象や海面上昇、生態系の変化が起こり、私たちの生活環境も脅かされるため、持続可能な産業や低炭素な社会を支える消費行動が求められているのです。
また、労働問題や人権問題も重要な背景となっています。安価な商品の背景には、時として児童労働や劣悪な労働環境が存在する場合があります。消費者がこうした問題に気づき、フェアトレード商品や適正な労働条件で作られた商品を選ぶことで、世界の不平等や不公正の改善に貢献できるという意識が広まっています。
さらに、近年では「アンダーコンシューム(underconsumption)」というコンセプトも注目されており、贅沢品を誇示するのではなく、シンプルで質素な生活に価値を見出す動きが特に若い世代を中心に広がっています。
SDGsとの深いつながり
コンシューマー・コンシャスネスは、2015年に国連で採択された持続可能な開発目標(SDGs)と密接な関係があります。SDGsは2030年までに持続可能な社会を実現するための17の国際目標ですが、中でも目標12「つくる責任 つかう責任」と直接的につながっています。
目標12では、持続可能な消費と生産のパターンを確保することを目指しており、私たち消費者が誰も取り残されることなく、自然と調和した生活スタイルに関する情報と意識を持ち、実際に行動することが求められています。
具体的には、エコロジカル・フットプリント(人間の活動における地球環境への負荷を測る指標)の削減を目指し、リサイクル・リユースなどによって資源を無駄なく効率的に使用し、資源消費と廃棄物を減らすことで環境への負担を軽減することが重要とされています。
日本でも消費者庁が2015年から「倫理的消費調査研究会」を開催し、エシカル消費の普及に向けた取り組みを積極的に行っています。政府レベルでの推進により、コンシューマー・コンシャスネスは単なる個人の価値観ではなく、社会全体で取り組むべき重要な課題として位置づけられているのです。
コンシューマー・コンシャスネスの具体的な実践方法
日常生活でできる意識的な消費行動
コンシューマー・コンシャスネスの実践は、特別なことをする必要はありません。日常の買い物や消費行動の中で、少し意識を変えるだけで始めることができます。
まず、食品の購入では「地産地消」を心がけることが効果的です。地元で生産された農産品を選ぶことで、輸送にかかるエネルギーを削減でき、同時に地域経済の活性化にも貢献できます。また、冷蔵庫の中を確認してから買い物に行き、必要な分だけ購入することで食品ロス削減にもつながります。
衣類については、ファストファッションを避け、長く着られる質の良い服を選んだり、古着やリサイクル品を活用したりすることが挙げられます。最近では「サステナブルファッション」という言葉も広まっており、環境負荷の少ない素材や製造方法で作られた服を選ぶ消費者が増えています。
日用品では、プラスチック使用量を減らすためにマイバッグを持参する、詰め替え可能な商品を選ぶ、電気や水などの資源を無駄にしないよう心がけるといった行動が実践できます。これらは環境への配慮だけでなく、家計の節約にもつながる一石二鳥の効果があります。
商品選択の新しい判断基準
従来の商品選択では「価格」「品質」「安全性」が主な判断基準でしたが、コンシューマー・コンシャスネスでは新たな視点が加わります。
まず重要なのは「認証ラベル」の確認です。フェアトレード認証、有機JAS、FSC(森林管理協議会)認証、MSC(海洋管理協議会)認証など、様々な認証マークが商品の社会的・環境的価値を示しています。これらのラベルは、適正な労働条件や環境保護、持続可能な資源利用が行われていることの証明となります。
商品の「ライフサイクル」を考えることも大切です。その商品はどこで誰が作ったのか、使い終わった後にリサイクルやリユース、リメイクができるのか、といったことを購入前に考える習慣をつけましょう。例えば、パッケージが過剰でないか、修理やアップグレードが可能な商品かどうかなども判断材料になります。
企業の「社会的責任」への取り組みも重要な判断基準となります。環境保護活動、社会貢献活動、従業員の労働環境改善、多様性の推進など、企業がどのような価値観で事業を行っているかを調べて、自分の価値観と合致する企業の商品を選ぶという考え方です。
企業にとってのコンシューマー・コンシャスネス
消費者意識の変化に対応する必要性
企業にとって、コンシューマー・コンシャスネスの高まりは無視できない重要な市場変化となっています。消費者の意識が変化する中で、企業は従来の「価格競争力」や「機能性」だけでなく、「社会的価値」や「環境への配慮」も含めた総合的な価値提供が求められるようになりました。
特に注目すべきは、若い世代の価値観の変化です。環境問題を学校教育で学んできたZ世代(1990年代後半~2000年代初頭生まれ)は、企業が倫理的であるかどうかを商品選択や就職先選択の重要な判断基準とする傾向があります。彼らは企業の社会的責任への取り組みを重視し、自分たちの価値観と合致する企業を積極的に支持する傾向が強くなっています。
この変化は、企業のブランド価値や競争力に直接的な影響を与えています。コンシャスな消費者は単に商品を購入するだけでなく、その企業やブランドに対する長期的な愛着や信頼を形成する傾向があります。逆に、社会的責任を軽視する企業に対しては厳しい目を向け、不買運動などの形で意思表示を行う場合もあります。
企業は株主や顧客だけでなく、従業員、取引先といった広範囲なステークホルダーに支持される「コンシャス・カンパニー(意識の高い企業)」としてのブランディングが、今後の持続的成長のカギを握っています。
サステナブルな商品開発の重要性
コンシューマー・コンシャスネスの高まりを受けて、企業は商品開発の段階から環境や社会への影響を考慮した「サステナブル経営」への転換が急務となっています。これは単なるコスト増加ではなく、長期的な競争優位性を獲得するための戦略的投資と捉える必要があります。
サステナブルな商品開発では、原材料の調達から製造、流通、使用、廃棄に至るまでのライフサイクル全体で環境負荷を最小化することが重要です。例えば、再生可能エネルギーの活用、リサイクル可能な素材の使用、耐久性の向上、修理可能な設計などが具体的な取り組みとして挙げられます。
また、サプライチェーン全体での透明性確保も重要な要素となっています。取引先工場の労働環境、人権尊重の状況、環境への配慮などを公開し、消費者が安心して商品を選択できる環境づくりが求められています。近年では、温室効果ガス排出量の算出において、自社だけでなく取引先を含めたサプライチェーン全体での排出量(Scope3)の把握と削減が重要視されており、サステナブル調達の重要性がますます高まっています。
成功している企業では、サステナブルな取り組みを単なるコスト要因ではなく、イノベーションの機会として捉え、新しい事業領域の創出や既存事業の差別化につなげています。
コンシューマー・コンシャスネスの課題と今後の展望
普及における問題点
コンシューマー・コンシャスネスには確実に広がりを見せている一方で、その普及には いくつかの課題も存在しています。
最も大きな課題の一つは、アクセシビリティの問題です。環境に配慮した商品やサステナブルな商品は、一般的に従来品よりも高価格になる傾向があります。これにより、経済的に余裕のない消費者にとっては選択肢が限定されてしまい、「お金に余裕がある人だけが実践できる消費行動」になってしまうリスクがあります。実際に、環境問題への意識が高いとされるミレニアル世代やZ世代でも、経済的理由から安価な商品を選択せざるを得ない人は少なくありません。
また、「グリーンウォッシュ」と呼ばれる問題も懸念されています。これは、企業が実際には環境や社会への配慮が不十分であるにもかかわらず、表面的にはサステナブルであるかのようにマーケティングを行う行為を指します。消費者が「本当にエシカルかどうかわからない」という不安を抱く背景には、こうした企業の不誠実な姿勢も影響しています。
さらに、日本国内では「エシカル消費」という用語の認知度は依然として低く、2016年の調査では5%以下に留まっています。概念自体への理解不足も普及の阻害要因の一つとなっています。
持続可能な社会への貢献
これらの課題はあるものの、コンシューマー・コンシャスネスが持続可能な社会の実現に果たす役割は非常に重要です。個人の小さな選択の積み重ねが、やがて市場全体を変革する力となる可能性を秘めています。
実際に、この数年間で企業の情報開示は大きく変化しています。2013年以前はS&P500に含まれる企業のうちESG(環境・社会・ガバナンス)情報を公開していたのはわずか20%程度でしたが、2019年には約90%がサステナビリティレポートを発行するようになりました。これは、投資家や消費者からの要求が企業行動を変化させた明確な証拠といえるでしょう。
また、エシカル、オーガニック、フェアトレードの製品を求める消費者が増えることで、これらの商品がより一般的になり、価格も下がってアクセシビリティの問題も徐々に改善されることが期待されています。
長期的な視点で見れば、コンシューマー・コンシャスネスの浸透は、地球に優しい環境と人に優しい社会の実現に向けた重要な推進力となっていくでしょう。
まとめ:私たちにできることから始めよう
コンシューマー・コンシャスネスは、私たち一人ひとりが日々の消費行動を通じて、より良い社会と環境の実現に貢献できる具体的な方法です。完璧を求める必要はありません。まずは身近なところから、自分にできる範囲で意識的な消費行動を始めてみることが大切です。
地元の商品を選ぶ、食べ物を無駄にしない、長く使える質の良いものを購入する、認証ラベルのついた商品を選ぶ。これらの小さな行動の積み重ねが、企業の行動を変え、社会全体の変革につながっていきます。
私たちの消費行動は「投票」のような力を持っています。どの商品を選ぶか、どの企業を支持するかという日々の選択が、未来の社会をつくる重要な要素なのです。今日からできることを一つずつ実践し、持続可能な未来の実現に向けて歩み続けていきましょう。
参照元
・消費者庁 エシカル消費特設サイト
https://www.ethical.caa.go.jp/ethical-consumption.html
・消費者庁 エシカル消費について
https://www.caa.go.jp/policies/policy/consumer_education/public_awareness/ethical/about
・SDGsコンパス
https://sdgs-compass.jp/column/2619
・福島県ホームページ
https://www.pref.fukushima.lg.jp/sec/16005b/ethical-fukushima.html
・株式会社ゼロック
https://zeroc.co.jp/column/ethical/
・サステナブル・ブランド ジャパン
https://www.sustainablebrands.jp/news/1200955/