SDGsの目標3「すべての人に健康と福祉を」は、あらゆる年齢のすべての人が健康的な生活を送り、福祉を高めることを目指す目標です。ここでいう健康は、病気やけがの有無だけではありません。心の健康や、お金の心配なく医療を受けられるかどうかも含みます。期限の2030年まで残り4年となった今、この目標は世界でどこまで進み、日本では何が課題なのでしょうか。最新のデータと日本の実践例をもとに、私たちが選べる行動まで整理します。
目標3の13のターゲットは「結果」と「手段」に分けると読みやすい
目標3には13のターゲットがあります。番号が3.1〜3.9のものと、3.a〜3.dのアルファベットが付くものの2種類があり、この違いを知ると全体像がつかみやすくなります。
3.1〜3.9は「達成したい結果」
数字の付いた9つは、守りたい命と健康の中身を示しています。妊産婦の死亡率を出生10万人あたり70人未満にする(3.1)、新生児と5歳未満児の予防できる死亡をなくす(3.2)、エイズ・結核・マラリアなどの感染症に対処する(3.3)といった内容です。
続いて、がんや心疾患などの非感染性疾患による若年死亡を3分の1減らし、精神保健を促進する(3.4)、薬物やアルコールの有害な使用を防ぐ(3.5)、交通事故の死傷者を半減させる(3.6)が並びます。さらに、性と生殖に関する保健サービスをすべての人が使えるようにする(3.7)、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)を達成する(3.8)、大気・水・土壌の汚染による死亡や疾病を減らす(3.9)が加わります。
3.a〜3.dは「結果に届くための手段」
アルファベット付きの4つは、結果を実現するための土台です。たばこ規制枠組条約の実施強化(3.a)、途上国向けのワクチンや医薬品の研究開発支援と、手の届く価格での提供(3.b)、途上国での保健財政と医療人材の拡大(3.c)、健康危機の早期警戒と管理能力の強化(3.d)が挙げられています。
3.1〜3.9は「何を減らし、何を増やすか」、3.a〜3.dは「そのために誰が何を整えるか」を述べています。後者には国内外の資金や企業の技術も関わるので、日本に暮らす私たちとのつながりが見えやすい部分でもあります。
2026年時点の達成状況は、進んだ分野と止まっている分野に分かれる
国連が公表している目標3の最新数値を見ると、進んだ分野と止まっている分野がはっきり分かれています。2030年までの達成が危ぶまれる項目が少なくありません。
妊産婦と子どもの命は改善したが、目標には届かない
妊産婦死亡率(出生10万人あたり)は、2015年の228から2023年には197へ下がりました。ただし2030年の目標は70未満で、距離は大きいままです。5歳未満児の死亡率は2024年に出生1,000人あたり37.4で、2015年から13%の減少にとどまります。5歳未満児の死亡数は610万人から490万人に減りました。新生児死亡率は17.2で、2015年から11%の減少です。
出産時に専門技能を持つ人が付き添う割合は、2015年の80%から2025年には87%へ上がりました。それでも、毎年約490万人の子どもが5歳の誕生日を迎える前に亡くなっている現実は変わっていません。
感染症は減った病気と増えた病気がある
エイズウイルス(HIV)の新規感染は2015年から2024年で30%、エイズ関連の死亡は35%減りました。それでも2024年に新たに感染した人は130万人で、治療を受けられていない感染者は900万人を超えています。
結核は2024年に1,070万人が発症しました。2021年から3年続いた増加が止まり、初めて減少に転じています。一方、マラリアは2024年に約2億8,200万人が感染し、人口あたりの発生率は2015年より上がっていて、2030年の目標に向かう軌道から外れています。
非感染性疾患、心の健康、たばこ
70歳未満でがんや心疾患などの非感染性疾患により亡くなった人は、2021年に1,800万人に上ります。約2秒に1人の計算です。成人の喫煙率は2015年の23.5%から2024年には19.5%へ下がりました。アルコール消費量も2010年から13%減っています。
医療費の壁は、世界の半数以上の人にかかっている
UHCは、必要な医療をお金の心配なく受けられる状態を指します。2025年12月に公表されたWHOと世界銀行の報告によると、必要不可欠な保健サービスの利用状況を表す指数は、2000年の54から2023年には71へ改善しました。それでも2023年時点で約46億人が基本的な保健サービスを十分に受けられていません。2022年には21億人が、医療費の自己負担で経済的な困難に直面しています。
このまま推移すると、指数は2030年に74にとどまり、人口の約24%が医療費による家計の困難を抱えると見込まれています。
医療人材と薬の届き方に、途上国の課題が集中している
国連の報告では、世界の保健医療従事者は2023年時点で7,000万人を超えていますが、2030年には1,110万人が不足すると見込まれています。数字は地域差がきわめて大きく、人口1万人あたりの医師数は、欧州の43.8人に対して、サハラ以南のアフリカでは2.5人にとどまります。
薬やワクチンがあっても届く仕組みがなければ救えない
予防接種は、2021年から2024年の間に推計1,700万人の命を救いました。ワクチンが確かな成果を出している一方で、薬や機材、人材、道路や電力といった周辺の基盤が欠ければ、せっかくの治療も患者に届きません。3.a〜3.dが「手段」として置かれているのは、このためです。
資金面の逆風も見ておきたい
保健分野の国際協力は、各国の財政事情に左右されやすい分野です。2030年に向けて、必要な資金が継続して確保されるかどうかが、進み具合を分ける要因になります。日本の拠出が表明された例は、後の節で取り上げます。
日本は目標3の優等生か、国内にも見落としやすい課題がある
日本は1961年に国民皆保険を達成し、高額療養費制度などで患者の負担を抑える仕組みを整えてきました。UHCの面では、世界の多くの国が目標にする水準にあります。ただし、目標3は「すべての人」の心身の健康を問うため、日本国内にも向き合うべき課題が残っています。
若い世代の心の健康は、統計が警告を発している
厚生労働省の集計によると、2025年の自殺者数(暫定値)は1万9,097人で、統計のある1978年以降、初めて2万人を下回りました。その一方で、小中高生の自殺者は532人で、統計のある1980年以降で最多です。全体が減っても、子どもや若者の数字は逆に動いています。ターゲット3.4が「精神保健及び福祉の促進」を明記しているように、心の健康は目標3の中心的な課題です。
認知症と共に暮らす社会づくり
高齢化が進む日本では、認知症が身近な課題になっています。2024年1月には「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が施行され、認知症の人が尊厳を保ちながら暮らせる地域づくりが法律の柱になりました。認知症サポーター養成講座は、地域や職場、金融機関などで広く開かれています。
働く人の健康を、会社の取り組みとして支える
経済産業省は、従業員の健康管理を経営の視点で実践する法人を「健康経営優良法人」として認定しています。2025年度の認定は、大規模法人部門が3,400法人、中小規模法人部門が19,796法人でした。中小規模法人部門は前年度から3,063法人増えています。自分の職場が認定されているか、制度に取り組んでいるかを確認してみるのも、身近な入り口です。
日本の国際協力は、母子手帳と資金拠出で保健を支えている
日本は、国内で培った仕組みを海外に広げる形で目標3に貢献しています。国、国際協力機構(JICA)、民間企業が役割を分けて関わる例が増えています。
母子手帳は、日本発の仕組みとして海外に広がっている
母子手帳は、妊娠中から出産、子どもの成長までの健康記録を1冊にまとめる日本の仕組みです。JICAは途上国での導入を支援していて、アンゴラでは2025年11月末時点で全21州のうち17州で使われ始めています。2025年には内容を改訂し、点字版も作られました。
この取り組みに民間企業も加わっています。豊田通商は2025年8月、グループ会社のCFAOを通じて、アンゴラとモザンビークに母子手帳を合計約5万部寄贈すると発表しました。アンゴラ向けの約3.5万部には初めて点字版が含まれています。同社グループは2019年以降、アンゴラへ累計約81万部を寄贈しています。
感染症対策の基金へは、複数年の資金で関わる
日本政府は2025年11月、世界エイズ・結核・マラリア対策基金(グローバルファンド)の第8次増資に対し、2026年から2028年の3年間で最大810億円を拠出することを決めました。外務省は、三大感染症対策と保健システム強化に役立つ枠組みとして、UHCを進める保健外交の重要なパートナーに位置づけています。
取り組みを見るときの基準
国、JICA、企業の取り組みを見るときは、数字の大きさだけでなく、現地の制度に根付く設計になっているかが目安になります。母子手帳は配って終わりではなく、保健省と一緒に内容を改訂し、使い方の研修まで含めて広げている点で、継続の仕組みが見える例です。
目標3で誤解されやすい4つのポイント
目標3は身近な話題だけに、受け止め方がずれやすい部分があります。読者が次に抱きやすい疑問を、4つに整理します。
「日本は医療が整っているから関係ない」わけではない
国内の医療アクセスは確かに高い水準にあります。それでも、子どもの自殺者数の増加や認知症への対応など、国内でしか解決できない課題が続いています。国外の課題と国内の課題の両方を含むのが、先進国にとっての目標3です。
「健康」は身体だけの話ではない
目標3は、心の健康や依存症の予防、性と生殖に関する保健まで広く含みます。体調を崩さないことだけで完結する目標ではありません。
寄付は「額の大きさ」より「続け方」で効きやすい
保健の取り組みは、医療人材の育成や制度づくりのように時間がかかるものが中心です。一度きりの大きな寄付も役立ちますが、団体が計画を立てやすいのは、毎月の少額でも続く寄付です。ただし、家計に無理のない金額で続けられるかが前提になります。
予防行動は「自分のため」だけではない
予防接種や感染対策は、自分の体を守るだけでなく、ワクチンを接種できない乳児や持病のある人を守ることにもつながります。判断に迷うときは、かかりつけ医や自治体の窓口で相談できます。
今日からできることを、基準を持って選ぶ
日本は秋が深まり、インフルエンザの予防接種を考える時期に入りました。目標3に近い行動は、実は日常の中にあります。
自分と周りの健康を守る
予防接種の時期と対象を確認し、受けるかどうかをかかりつけ医と相談します。健康診断やがん検診は、結果を放置せず、要再検査なら受診につなげます。睡眠や食事の乱れが続くとき、気持ちが沈む日が続くときは、一人で抱えず、家族や職場の産業医、自治体の精神保健福祉センターなどの相談窓口に連絡できます。
寄付先を選ぶときの3つの基準
寄付をするなら、次の点を確認すると選びやすくなります。
- 年次報告書などで、集めたお金の使い道と成果が公開されているか
- 活動の対象国や分野が、自分の関心と合っているか
- 税制上の優遇が受けられる団体か(認定NPO法人や公益法人などは対象になる場合があります)
職場や地域で関わる
職場が健康経営に取り組んでいるかを調べる、地域の認知症サポーター養成講座に参加する、家庭や学校で性や健康の正しい知識を話せる場をつくる、といった関わり方もあります。書籍や公的機関の情報など、信頼できる情報源から学ぶのが基本です。
まとめ
目標3は、2030年に向けて前進した分野と、足踏みしている分野が混在しています。5歳未満児の死亡は減りましたが、毎年約490万人が亡くなっています。HIVや結核は改善の兆しがあるものの、マラリアは悪化し、UHCも約46億人が十分な保健サービスを受けられないままです。
日本は国民皆保険という強みを持つ一方、子どもの自殺者数の増加や高齢化に伴う認知症への対応など、国内の課題も抱えています。国際協力では、母子手帳のように日本の知恵を現地の制度に根付かせる取り組みや、グローバルファンドへの複数年の資金拠出が続いています。
個人にできることは、特別なものばかりではありません。まず1つだけ、今シーズンの予防接種を受けるか考える、または月々の寄付先の年次報告書を読んでみる、といった小さな行動から始めてみてください。
- 目標3のターゲットは、3.1〜3.9の「結果」と3.a〜3.dの「手段」に分けて読める
- 2023〜2024年時点で、妊産婦死亡率は197、5歳未満児の死亡は年間490万人と、2030年の目標には届いていない
- 約46億人が基本的な保健サービスを十分に受けられず、21億人が医療費で経済的な困難に直面している
- 日本にも、若い世代の心の健康や認知症など、国内で向き合うべき課題がある
- 予防行動、寄付先の選び方、職場や地域での関わりが、個人にできる現実的な入り口になる
参考文献
- 国際連合「Goal 3 Ensure healthy lives and promote well-being for all at all ages」(2026年版)
- WHO「Most countries make progress towards universal health coverage, but major challenges remain, WHO–World Bank report finds」(2025年)
- 外務省「グローバル・ファンド第8次増資期間に向けた我が国の貢献」(2025年)
- JICA「改訂版母子健康手帳、点字版母子健康手帳の贈呈式(PROSMATE)」(2025年)
- 豊田通商「アンゴラ・モザンビークへの母子手帳寄贈」(2025年)
- nippon.com「自殺、初めて2万人下回る―厚労省:小中高生は過去最多532人」(2026年)
- 経営プロ「『健康経営銘柄・健康経営優良法人2025』が決定」(2025年)

