投資といえば、かつては「いかに儲けるか」だけが評価軸でした。しかし今、「儲けながら社会課題も解決する」という新しい投資のかたちが、日本でも急速に広がっています。それがインパクト投資です。環境・社会・ガバナンスを重視するESG投資とも重なりながら、より踏み込んだ「変化をつくる」ことを目的とするこの手法。2026年、日本の金融市場でいま何が起きているのかを整理します。
インパクト投資とは何か|ESG投資との違い
インパクト投資とは、財務的リターンと並行して、ポジティブで測定可能な社会的および環境的インパクトを同時に生み出すことを意図する投資行動を指します。従来の投資が「リスク」と「リターン」という2つの軸で価値判断されてきたのに対し、これに「インパクト」という第3の軸を取り入れた投資です。
ESG投資と似ているようですが、両者の間には明確な違いがあります。
ESG投資が、ESGへの「配慮」や「リスクの緩和」の観点から投資先を選択したり、ESGに積極的な企業に投資するスタイルであるのに対し、インパクト投資は「投資がもたらす社会面・環境面での課題解決」をより強く意図しています。
GIINはインパクト投資を構成する要素として、①環境や社会にポジティブなインパクトを与える投資家の意図、②金銭的収益への期待、③期待する金銭的収益とアセットクラスが多様であること、④インパクト測定と報告へのコミットメント、の4つを挙げています。
つまり、「結果として環境によかった」ではなく、「最初から社会・環境課題の解決を目的に据え、その効果を測定・報告する」ことがインパクト投資の本質です。
日本のインパクト投資残高は急拡大中
日本のインパクト投資市場は急拡大しています。
GSG国内諮問委員会の調査によると、2023年度のインパクト投資残高は前年度比197%の11兆5,414億円でした。また、インパクト投資に取り組む機関数も年々増えており、2023年には58機関にまで増加しています。
一方、サステナブル投資全体としても拡大基調が続いています。
日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)が国内機関投資家を対象に実施した調査によると、2024年の日本のサステナブル投資額は625兆6,096億円(2023年比16.6%増)に達し、運用資産総額の63.5%を占めています。
インパクト投資はサステナブル投資全体のまだ一部ですが、急速な普及が続いています。
GPIFがインパクト投資を解禁|転換点となった政府の動き
インパクト投資の拡大に弾みをつけた大きな出来事が、2024年6月の政府方針の転換です。
2024年6月21日に閣議決定された「新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2024年改訂版」には、「GPIF・共済組合連合会等が、投資にあたり、中長期的な投資収益の向上につながるとの観点から、インパクトを含む非財務的要素を考慮することは、ESGの考慮と同様、『他事考慮』に当たらない」という一文が追加されました。
これは何を意味するのでしょうか。年金積立金の運用において、本来の目的である被保険者の収益増加以外の目的で運用することは法律で禁止されてきましたが、今回の閣議決定はインパクトを考慮することがその禁止規定には当たらないという政府の公式見解を示したものです。
日本最大の機関投資家であるGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がインパクト投資への対応を迫られる形となっており、こうした動きが普及の「上流」から市場を加速させているのが、現在の日本市場の特徴といえます。
世界の逆風と日本の現在地
一方で、国際的な状況は複雑です。
ESG投資への勢いはここ数年で失速しており、米国ではトランプ大統領の第2次政権がESGに対して批判的な姿勢をとり、長らくESGの推進役とされてきた欧州でも政策的な支援が後退の兆しを見せています。
しかし日本では方向性が異なります。
日本では、企業や業界団体が世界的な逆風に抵抗し、ESG投資を持続可能な成長の柱にしようとする動きが続いており、長期的な投資視点からのESGの重要性は高まり続けているという見方があります。
また、インパクト投資が向き合う課題として、規制の枠組み、インパクトウォッシング(見せかけのインパクト)の問題、標準化されたインパクト測定手法の整備が主な課題として挙げられています。
「本当に社会・環境に良い影響を与えているのか」を客観的に示すための指標・測定方法の標準化は、市場全体の信頼性に直結する課題です。
インパクト投資が変えていく領域
日本のインパクト投資において特に有望とされる分野として、ヘルスケア、気候変動緩和、持続可能な農業が挙げられています。
また、GSG Impact JAPAN National Partner(旧称:GSG国内諮問委員会)は調査・情報発信活動を通じて、インパクト投資の裾野を個人投資家層へも広げようとする取り組みを続けています。
投資の世界だけでなく、事業会社の取り組みにも変化が現れています。
インパクト・エコノミーとは、投資のみならず、ビジネス、消費、政府のすべての意思決定の中心でインパクトが考慮される経済を指します。
お金の流れ全体が「社会課題の解決」と結びつく社会へ、という大きな方向性が見えてきます。
私たちにできること|「投資家」としての一歩
インパクト投資はまだ機関投資家が中心ですが、個人でも関わる道は開かれています。
まず知ることから始めましょう。ESGやインパクト投資に対応した投資信託・ファンドの数は国内でも増えており、金融機関のウェブサイトや運用報告書で「どんな社会課題に取り組むファンドなのか」を確認することができます。投資先の事業内容や、インパクトの測定・報告が公開されているかどうかを確認する習慣は、「賢い消費者」としての視点とも重なります。
また、直接投資が難しい場合でも、クラウドファンディング型の社会的投資やふるさと納税など、「お金の使い道で社会を変える」という発想を日常に取り入れる方法があります。「どこにお金を預け、どこに使うか」という選択が、企業や金融機関へのメッセージになる時代が来ています。
まとめ|「儲けながら社会を変える」が現実になる時代
日本のインパクト投資残高は2023年度に11兆円を超え、GPIFなど大型機関投資家の参入も視野に入りました。世界的な逆風があるなかでも、日本では政府・金融機関・企業が連携しながら「お金の力で社会課題を解く」市場の整備を進めています。
ただし、「インパクトウォッシング」の懸念や測定基準の未整備など、課題も残ります。情報を読み解く力を持ちながら、自分のお金がどんな未来をつくっているかを意識することが、私たちにできる最初の一歩です。投資は一部の人のためだけのものではなく、社会課題の解決に加わるひとつの手段になりつつあります。

