「森林伐採は減っている」という報道と、「過去最悪を記録した」という報道が、同じ年に並んで流れることがあります。国連や衛星観測の資料を読み比べていて、最初につまずいたのがこの食い違いでした。どちらも誤りではありません。測っているものと期間が違うのです。
この記事では、世界の森林がいま実際にどうなっているのかを、国連食糧農業機関(FAO)と衛星観測(Global Forest Watch)の最新数値で整理します。そのうえで、原因と、日本の暮らしや企業との接点を見ていきます。
世界の森林伐採はどこまで進んでいるのか
世界の森林は約41億ヘクタールで、陸地の約3分の1を占めます。この森林がどの速さで失われているかは、見る資料によって答えが変わります。ここでは性格の異なる2つの数字を順に見ます。
FAOの数字|10年平均で見ると減速している
FAOが2025年10月に公表した世界森林資源評価(FRA2025)によると、2015年から2025年の年平均で、森林減少は約1,090万ヘクタールでした。1990年代の1,600万ヘクタールから大きく下がっています。一方で、植林や自然な回復による森林の拡大が年約680万ヘクタールあり、差し引きの純減は年約410万ヘクタールです。1990年代は純減が年約780万ヘクタールでしたから、純減はおよそ半分程度まで下がっています。
地域別に見ると、森林減少が最も大きいのは南米で年約420万ヘクタールです。アフリカが約345万ヘクタール、アジアが約200万ヘクタールと続きます。世界の森林減少の大半は熱帯に集中しています。
衛星データの数字|熱帯原生林は2024年に過去最大、2025年は減った
もう一つの数字は、メリーランド大学の研究チームが衛星画像から出し、世界資源研究所(WRI)のGlobal Forest Watchが公開しているデータです。こちらは毎年、熱帯の「原生林」(人の手がほぼ入っていない天然林)の消失を追っています。
2024年の熱帯原生林の消失は約670万ヘクタールで、記録上最大でした。約半分が火災によるもので、森林火災が最大の要因になったのは初めてだと報告されています。この消失に伴う温室効果ガスの排出は約31億トンと見積もられています。
2026年4月に公表された2025年のデータでは、消失は約430万ヘクタールに減りました。前年から約36%の減少です。ただし同じ報告は、現在の消失率が10年前より約46%高いことも示しています。「大きく減った」と「まだ高い水準だ」が同時に成り立つ数字です。
二つの数字が食い違って見える理由
FAOの数字は、国ごとの報告をもとに、森林が農地や牧場などほかの土地利用へ転換された面積を10年単位で集計したものです。衛星データは、樹木の覆いが失われた面積を、火災や自然災害も含めて1年ごとに捉えます。後者は年ごとの振れ幅が大きく、エルニーニョのような気象の影響も強く出ます。
そのため、見出しの数字だけを並べると食い違って見えます。長い期間の傾向を知りたいときはFAO、直近1年の変化や火災の影響を知りたいときは衛星データ、と使い分けると読み違えにくくなります。私は記事を読むとき、数字の出どころが「純減か総量か」「森林減少か樹木被覆の消失か」を最初に確認するようにしています。
森林伐採の主な原因|農地への転換と火災
森林が失われる理由は一つではありません。主因は農地や牧場への転換で、そこに火災が重なります。地域によって内訳がかなり違うことが、対策を難しくしています。
牛、大豆、パーム油など、商品の需要と結びついた転換
熱帯での森林減少は、牛の放牧地、大豆畑、アブラヤシ農園などへの転換が大きな割合を占めるとされています。EUの森林破壊防止規則(EUDR)が対象にしている商品が、その輪郭をよく表しています。対象は牛、カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆、木材の7品目と、その関連製品です。
ここで押さえておきたいのは、「伐採」と「森林破壊」は同じではないことです。計画的に木を伐り、植え直す林業は、森林面積そのものを減らしません。問題になるのは、伐った跡が農地や牧場になり、森に戻らない場合です。「木を使うこと」を一律に悪者にすると、かえって見誤ります。
火災が主役になった2024年
熱帯の森林火災は、ほぼ人為によるものとされています。農地にするために火を入れ、乾燥した年に燃え広がるという流れです。2024年は乾燥と高温が重なり、火災が消失面積を押し上げました。
火で焼けた森林は、すぐに「伐採跡」のように見えるわけではありません。それでも、樹木が失われて炭素が放出される点は変わりません。2025年の数字が下がったことを、そのまま「問題が解決に向かっている」と読むのは早計です。
国ごとに違う顔
2025年のデータでは、国ごとの動きが分かれました。
- ブラジルは前年から約42%減り、火災以外による消失は過去最低とされています。
- ボリビアは人為的な火災が主因で、消失は記録上2番目の高さでした。
- コンゴ民主共和国は全体で約5%減ですが、火災以外の消失は過去最高で、小規模農業と薪の採取が主な要因とされています。
- インドネシアは約14%増で、農業の拡大と鉱業が背景に挙がっています。
大規模農園が中心の地域と、暮らしの燃料や食料のために小さく切り開く地域とでは、必要な対策が違います。前者は企業の調達や規制が効きやすく、後者は貧困や代替燃料への支援がなければ止まりにくいでしょう。
日本の暮らしとの接点
世界の森林の話は遠く感じられますが、日本の消費や企業活動とは数字の上でつながっています。ここでは木材と、EUの規制の2点に絞ります。
木材の約6割弱を輸入に頼っている
林野庁が2025年11月に公表した「令和6年(2024年)木材需給表」では、日本の木材自給率は42.5%でした。裏を返せば、木材の約6割弱は輸入です。建築用の木材だけで見ると自給率は52.9%、紙の原料などを含む建築用以外では36.5%でした。
日本の国内の森林は、育てた木を使わずに放置されている面積も多く、国産材をもっと使うことが課題とされています。海外の森林を守る視点と、国内の森林を循環させる視点は、対立しません。どちらも「どこの森の木か」を意識する入口になります。
EUDRが日本企業に及ぼす影響
EUDRは、7品目をEU域内で売ったりEUから輸出したりする事業者に、森林破壊に関わっていないことの確認(デューデリジェンス)を求める規則です。適用開始は、大企業や中規模企業が2026年12月30日、零細・小規模事業者が2027年6月30日へと延期されています。2025年12月にEU理事会と欧州議会が、手続きの簡素化とあわせて合意しました。
2026年4月の見直しでは、革製品を対象外にする案などが示された一方、適用時期をさらに動かす内容ではなかったとされています。日本は直接の規制対象ではありませんが、EUへ製品や原料を輸出する企業は、取引先から産地情報の提出を求められる可能性があります。規制の動きは今後も変わりうるため、最新の状況は公式の発表で確認してください。
読者にとっての示唆
買い物の場面に引き寄せると、見るべきなのは「どの森か」を追える商品かどうかです。企業側が産地まで追跡する流れは、EUDRを一つのきっかけにして強まっています。消費者としては、その追跡に取り組んでいる企業や、認証の付いた商品を選ぶことが、需要側からできる意思表示になります。
今日から試せる1アクション
まず1つだけ、次の買い物で「紙製品か、パーム油を含む食品・日用品を1品、認証マークを見て選ぶ」ことを試してみてください。
紙やティッシュ、箱類には、森林管理の認証であるFSCのマークが付いているものがあります。パーム油は、加工食品やスナック菓子、洗剤、化粧品に使われており、持続可能な生産を認証するRSPOのマークが目印です。成分表示では「植物油脂」とだけ書かれていることもあるため、見つからなくても焦る必要はありません。
認証マークは完璧な保証ではなく、すべての商品に付いているわけでもありません。それでも、売り場で「産地を気にする人がいる」という需要を示す最も手軽な方法です。続けるうちに、自分がよく買う商品のどこに認証付きがあるかが分かってきます。
まとめ
世界の森林は約41億ヘクタールあり、FAOによれば、森林減少の年間面積は1990年代から大きく減ってきました。ただし、いまも年に約1,090万ヘクタールが他の用途へ転換され、純減も約410万ヘクタールあります。衛星観測の熱帯原生林では、2024年に火災の影響で記録的な消失があり、2025年は約36%減ったものの、10年前より高い水準です。
原因の中心は、牛・大豆・パーム油などの需要と結びついた農地への転換と、人為的な火災です。地域によって内訳が違うため、「減った」「増えた」の一言では判断できません。数字を見るときは、測っているものと期間を確認することが読み違いを防ぎます。
日本は木材の約6割弱を輸入に頼っており、EUDRのような規制の動きも、企業を通じて私たちの買い物に届きます。難しい対応は必要ありません。次の買い物で認証マークを1つ確認するところから始められます。
- FAOでは森林減少が年約1,090万ヘクタール、植林などを引いた純減が年約410万ヘクタール
- 熱帯原生林の消失は2024年が約670万ヘクタールで過去最大、2025年は約430万ヘクタールに減少
- 主因は農地への転換と人為的な火災で、国や地域によって内訳が異なる
- 日本の木材自給率は42.5%で、EUDRなど産地を追跡する規制の流れが企業に及んでいる
- FSCやRSPOなどの認証マークを1品確認するだけで、需要側の意思表示になる
参考文献
- Carbon Brief「UN report: Five charts showing how global deforestation is declining」(2025年、FAO世界森林資源評価2025の報道解説)
- 世界資源研究所(WRI)「Tropical Rainforest Loss Slowed in 2025, but Fire is a Growing Threat to Forests Worldwide」(2026年)
- Global Forest Watch「Fires Drove Record-breaking Tropical Forest Loss in 2024」(2025年)
- 林野庁「令和6年(2024年)木材需給表」の公表について(2025年)
- 日本貿易振興機構(ジェトロ)「EU、森林破壊デューディリジェンス規則の大幅簡素化と再度の適用延期で合意」(2025年)

