人口減少、高齢化、インフラ老朽化——日本の地方都市が抱える課題は、コンパクトシティという都市づくりの考え方と深く結びついています。生活に必要な機能を一定のエリアに集約し、歩いて暮らせる街を実現するコンパクトシティは、今や国内外で都市政策の中心的なアプローチになっています。この記事では、国内外の具体的な事例をもとに、コンパクトシティが地域の暮らしをどう変えているのかを見ていきます。
コンパクトシティとは|なぜ今、必要とされているのか
コンパクトシティとは、住宅・商業・医療・福祉・交通といった都市機能を中心部や交通拠点周辺に集約させ、生活圏を徒歩・公共交通で完結できるよう設計された都市の形態です。英語の “compact”(小さくまとまった)が語源で、1990年代以降にOECDや欧州連合(EU)が持続可能な都市モデルとして推進してきました。
日本では国土交通省が2014年に都市再生特別措置法を改正し、「立地適正化計画」制度を創設しました。2024年4月時点で全国900を超える市区町村が立地適正化計画の作成に取り組んでおり、コンパクトシティ化は地方行政の標準的な課題となっています。背景には急速な人口減少があります。国立社会保障・人口問題研究所の推計では、日本の総人口は2070年には約8700万人まで縮小するとされており、広大な市街地を現在の水準で維持し続けることが現実的でなくなっています。
コンパクトシティ化が進むと、公共交通の利用者が増えて自動車依存が下がり、CO₂排出量の削減にもつながります。環境・経済・福祉の課題を同時に解決できる点が、持続可能な都市づくりの文脈でこれほど注目される理由です。
日本国内の事例|富山市・鷹栖町・大分市から学ぶ
国内では急激な人口減少が進む一方で、大都市圏への人口集中が続いており、地方では過疎化と都市機能の低下が同時に進行しています。以下では、先進的な取り組みで知られる3つの国内事例を紹介します。
富山市|ライトレール整備で「歩いて暮らせる街」を実現
富山市は富山県の県都で、人口約42万人を抱える北陸有数の中核都市です。かつては世帯あたりの乗用車保有台数が全国トップクラスで、市民の約72%が移動手段として自動車を利用していました。車に頼り切った街づくりが続いた結果、公共交通は衰退し、市街地は低密度に拡散。自動車を運転できない高齢者にとって、日常的な買い物や通院さえ困難な状況が生まれていました。
こうした課題に対し、富山市は2007年に「コンパクトシティ形成」を都市戦略の核に据えました。廃線になったJR富山港線を活用して整備された富山ライトレール(現・富山地方鉄道富山港線)は2006年に開業し、のちに市内路面電車と接続する環状線が完成。公共交通ネットワークが束状に広がり、主要な生活拠点を結ぶ形になっています。
住宅取得助成制度もコンパクトシティ化に大きく寄与しています。都心地区や公共交通の沿線に移住・建設する市民に対して補助金を支出することで、郊外に拡散していた人口が市街地に回帰しつつあります。市の調査では、沿線居住者の公共交通利用率がライトレール整備前と比べて大幅に上昇し、高齢者の外出頻度増加も報告されています。富山市のモデルはOECDからも「コンパクトシティ政策の国際的なモデル都市」として評価されており、多くの自治体の参考事例になっています。
鷹栖町(北海道)|「居住誘導区域」で生活サービスを守る
北海道のほぼ中央部に位置する鷹栖町は、旭川市から車で約25分という立地ながら、将来的な人口減少が確実視されていました。同町が策定した「鷹栖町立地適正化計画」は、まちの中に「居住誘導区域」を設定し、一定の人口密度を維持しながらサービス水準を確保することを狙いとしています。
この区域には公共施設・福祉施設・医療施設・保育施設を集約し、住民が徒歩や自転車で各種サービスにアクセスできる環境を整えています。小規模な自治体でもコンパクトシティの考え方が適用できることを示した事例として、道内外の市町村から注目されています。人口規模が小さい自治体ほど、施設の維持コストが高くなりがちなため、集約化の経済的メリットはより大きくなります。
大分市|駅高架化を核にした都市再生
大分市は高度経済成長期に工業都市として発展しましたが、1970年代以降に中心市街地の空洞化が進みました。同市は大分駅の連続立体交差(高架化)事業を都市再生の核に位置づけ、かつて空き地が点在していた駅南側に芝生広場や文化施設を整備しました。
駅周辺にマンション建設が相次いだほか、地元百貨店の再集積も進み、周辺市町村からの人口流入が見られるようになっています。夜間照明を活かしたイベントや屋外マルシェが定期的に開催され、市街地の賑わいが以前とは大きく変わりました。大分市の事例は、交通インフラの更新を起点にして都市機能を再編する「駅周辺集約型」の好例として紹介されることが多くあります。
海外の事例|ポートランド・フライブルク・コペンハーゲン
欧米では戦後から早い時期にコンパクトシティ化の政策が導入されており、自然環境の保全と都市機能の充実を両立したモデルが数多く蓄積されています。特に参考になる3都市を紹介します。
ポートランド(アメリカ)|都市成長境界線でスプロール化を防ぐ
米国オレゴン州最大の都市ポートランドは、1960年代まで典型的な自動車依存型都市でした。転機は1979年。「都市成長境界線(Urban Growth Boundary)」という制度を導入し、市街化区域と農地・森林を明確に区切りました。境界線の外側では農地や緑地の開発を規制し、内側の市街化区域に集中して開発・再投資するという政策です。
この政策によって、無秩序な郊外化(スプロール現象)が抑制され、住居・職場・スーパーなどが徒歩圏内に揃うコンパクトな街区が形成されました。また、1階を商業・飲食店、上階をオフィスや住居として使う「ミックスドユース(混合用途)」の建築形態が普及したことで、昼夜を問わず街に人が集まり、時間帯によるエネルギー消費のムラも小さくなっています。ポートランドは2020年代に入っても路面電車(ストリートカー)とライトレールの拡充を続けており、公共交通利用率は全米の地方都市の中でも高い水準を維持しています。
フライブルク(ドイツ)|戦後復興から生まれた環境都市
ドイツ南西部に位置するフライブルクは人口約23万人の大学都市で、第二次世界大戦中の空襲で市街の約80%が破壊されました。戦後の復興計画で中世の街並みを再現しながらコンパクトシティ化が決定され、都心部に商業・文化機能を集約する設計が採られました。
市街地の人口密度を適度に保つため、戸建て住宅の建設を制限し、住宅地を商業地と近接させる「ショートウェイコンセプト(短距離移動の原則)」を街全体に徹底しています。路面電車(トラム)が充実しており、旧市街では自動車の乗り入れを制限。自転車道の整備が進み、市内の自転車分担率は約30%と欧州でも高い水準を誇ります。
さらに太陽光発電の積極的な導入でも知られ、南向きの屋根に設置されたソーラーパネルが市内各所に広がっています。フライブルクは「環境首都」とも呼ばれ、コンパクトシティと脱炭素を両輪として進める都市モデルとして、世界中の都市計画関係者が視察に訪れます。
コペンハーゲン(デンマーク)|「フィンガープラン」と自転車都市
デンマークの首都コペンハーゲンは、1947年に策定された「フィンガープラン」(指状の都市計画)によって、鉄道路線の沿線に開発を集中させる構造を半世紀以上維持してきました。「手のひら」にあたる都心から「指」にあたる5本の鉄道路線沿いに住宅・商業施設を配置し、指と指の間にはグリーンベルトを確保するという設計です。
コペンハーゲンでは市内通勤者の約62%(2023年統計)が自転車を使うとされており、コンパクトな街区と充実した自転車インフラが組み合わさった結果です。2025年に向けてカーボンニュートラルを目指す「CPH 2025 Climate Plan」を推進しており、コンパクトシティと気候変動対策を一体的に進める先進事例として国際的に注目されています。
2024年以降の最新動向|デジタル技術との融合と課題
コンパクトシティ政策は2024年以降、デジタル技術との組み合わせで新たな段階に入っています。国土交通省は「都市のデジタルツイン」を活用した立地適正化計画の高度化を推進しており、人流データやセンサーデータを用いて公共交通の最適配置や施設立地の検討を行う自治体が増えています。
一方で、コンパクトシティ化には複数の課題も指摘されています。郊外居住者が中心部に移転するインセンティブが十分でないこと、移転を迫られる住民への配慮が必要なこと、そして不動産価格の上昇によって低所得層が都心から弾き出される「ジェントリフィケーション」のリスクです。特に、高齢者が長年住み慣れた郊外の自宅を離れることへの心理的・経済的な障壁は大きく、補助金だけでは動機づけが難しいという現実があります。
2024年には国土交通省が「居住誘導区域」の見直し指針を改定し、水害・土砂災害リスクの高いエリアをより厳格に除外する仕組みを強化しました。気候変動に伴う極端気象が頻発するなかで、コンパクトシティの「集約先」がそもそも安全な場所であることを確認するプロセスが、計画づくりの前提として重視されるようになっています。
また、自動運転・MaaS(Mobility as a Service)との連携も注目されています。MaaSとは、バス・鉄道・タクシー・シェア自転車などの交通手段をスマートフォン一つで検索・予約・決済できるサービスで、富山市や茨城県つくば市などで実証実験が進んでいます。交通弱者の移動を支援しながら公共交通の採算性を改善できる可能性があり、コンパクトシティの実効性を高める鍵の一つとして期待されています。
なぜコンパクトシティは環境にもよいのか
コンパクトシティが環境課題の解決に貢献できる理由は、主に移動距離の短縮とエネルギー効率の改善にあります。都市が拡散していると、一人ひとりが車で長距離を移動する必要が生まれ、輸送部門のCO₂排出量が増えます。コンパクトシティでは徒歩や自転車、公共交通が機能しやすくなるため、移動に伴う排出量を根本から減らすことができます。
国土交通省の試算によれば、コンパクトシティ化によって都市の旅客部門CO₂排出量を2050年までに最大約40%削減できる可能性があるとされています。インフラの維持管理コストが下がることで行政の財政余力が生まれ、その分を緑地整備や再生可能エネルギーへの投資に回すことも可能です。フライブルクやコペンハーゲンが示すように、コンパクトな都市構造は環境都市への転換を加速させる土台になっています。
生物多様性の観点でも効果があります。市街地が広がりすぎると農地や森林が失われますが、コンパクトシティは開発範囲を絞ることで緑地や水辺を保全しやすくします。ポートランドの都市成長境界線はその典型で、市街化区域外の農地と森林を今日まで守り続けています。
日本がコンパクトシティ化を進めるうえで押さえておきたいポイント
欧米の事例と日本の事例を並べると、いくつかの共通点と相違点が見えてきます。共通するのは、公共交通の整備なしにはコンパクトシティが機能しないという点です。集約した都市機能に人々がアクセスできなければ、利便性は生まれません。富山市のライトレールしかり、フライブルクのトラムしかり、交通インフラへの長期的な投資が先行しています。
一方で日本に特有の難しさもあります。欧米の事例はニュータウン建設や戦後復興という「白紙の状態」からの計画が多かったのに対し、日本の多くの都市はすでに拡散した市街地を「縮退・再編」しなければなりません。既存住民の合意形成、郊外の空き家問題、老朽化した公共施設の集約など、後から手を付ける難しさがあります。
それでも、成功事例は積み重なっています。2024年時点で立地適正化計画を策定済みの市区町村は800を超え、それぞれの地域特性に合わせた取り組みが各地で動いています。大切なのは、他都市の「形」をそのまま移植するのではなく、自分たちの街の地形・交通網・人口分布・産業構造を踏まえて計画をカスタマイズすることです。
まとめ|コンパクトシティが目指す「住み続けられる街」
富山市のライトレール、フライブルクの自転車道、コペンハーゲンのフィンガープランと気候計画——それぞれの都市が異なる手法を使いながら、「歩いて・乗って・暮らせる街」という共通のゴールに向かっています。コンパクトシティは単なる都市縮小ではなく、限られたリソースの中で生活の質を守り、次の世代に持続可能な街を引き渡すための設計思想です。
自分が住む街の立地適正化計画を調べてみたり、地域の公共交通の使い方を変えてみたりする小さな行動が、コンパクトシティ政策を支える市民参加の第一歩になります。
- コンパクトシティは住宅・商業・医療・交通を集約し、歩いて暮らせる都市を目指す設計思想
- 富山市のライトレール整備は、公共交通を核にした国内コンパクトシティの代表事例
- ポートランドの「都市成長境界線」は、郊外スプロールを防ぐ制度設計の好例
- フライブルク・コペンハーゲンは、コンパクトシティと脱炭素を一体で進める欧州モデル
- 2024年以降はデジタルツインやMaaSとの連携が、次世代のコンパクトシティを支えつつある
- 住民合意と交通インフラへの長期投資が、成功するコンパクトシティの共通条件


