私たちの生活や企業の事業活動は、森林、水、土壌、生物資源といった自然からの恵みによって支えられています。ただし、従来の経済活動では、こうした自然を無償の資源として扱い、その価値が正しく評価されてきませんでした。その結果、過剰な利用や環境破壊が進み、長期的には企業経営や社会全体の持続可能性が脅かされています。こうした課題に対処するために注目されているのが「自然資本評価」です。本記事では、自然資本評価の意味、なぜ重要なのか、そして私たちにできることについて、わかりやすく解説します。
自然資本評価とは
自然資本は、森林、土壌、水、大気、生物資源など、自然によって形成される資本(ストック)のことです。
自然資本評価とは、自然資本の価値を経済活動に適切に反映し、持続可能な管理を促すための会計手法を指します。つまり、これまで金銭的な価値に含まれていなかった森林や水といった自然の価値を、金額で数値化し、企業や政府の経営判断に組み込む取り組みのことです。
自然資本から生み出されるフローを生態系サービスとして捉えることができ、自然資本の価値を適切に評価し、管理していくことが、国民の生活を安定させ、企業の経営の持続可能性を高めることにつながると考えられています。
なぜ自然資本評価が必要なのか
自然資本評価が急速に注目されている背景には、環境問題の深刻化があります。
生物多様性は1970年から2016年の間に平均68%減少しており、陸地の75%は改変され、海洋の66%は累積的な影響下にあり、湿地の85%が消失したとされています。
経済的な影響も無視できません。
世界のGDPの半分以上にあたる44兆米ドル相当が、自然資本に依存しているとされます。このように人類の生活と経済活動が自然資本に大きく依存しているにもかかわらず、従来の会計では環境価値が反映されていませんでした。
自然資本評価を行うことで、企業や政府は自らの事業活動が自然に与える影響を定量的に把握でき、経営判断をより適切に行えるようになります。
企業における自然資本評価の実例
企業による自然資本評価の先進事例があります。
スポーツウェアメーカーのPUMAは2011年にサプライチェーン全体を通じて自然資本に及ぼす影響のコストを金額で計算した「環境損益計算書」を公表し、水資源使用、温室効果ガス排出、土地利用、大気汚染、廃棄物の5つを対象に評価した結果、環境へのコストは1億4,500万ユーロと試算され、特に原材料生産による影響が半分以上(57%)を占めることが明らかになりました。
このように具体的な数値を示すことで、消費者がより環境に優しい製品を選択できるようになり、企業もサプライチェーン全体で環境負荷を削減するインセンティブが生まれます。
国際的な動き
生物多様性条約第10回締約国会議で愛知目標が採択されて以来、「自然資本」を国家や企業の会計・経営に盛り込む取り組みが国際的に活発化しました。
2017年にはNCAVES(自然資本会計と生態系サービスの評価)と呼ばれるパイロットテストをブラジル、中国、インド、メキシコ、南アフリカの5ヵ国で開始し、この試行により、国連が推進する会計基準であるSEEA(環境経済勘定システム)が国際基準として2021年3月に採択されました。
また、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)による責任投資原則(PRI)署名を契機に、わが国の資産運用業界でも積極化してきたESG投資や、「統合報告書」の枠組みにおいて自然資本が着目され、そのサプライチェーンにわたってインプットとアウトプットを明確にし、報告することが求められるようになってきているとされています。
私たちにできることは
自然資本評価は企業や政府の取り組みに見えるかもしれませんが、個人レベルでもできることがあります。まず大切なのは、自分たちの生活が自然資本に依存していることを認識することです。その上で、森林破壊の少ない製品を選ぶ、地域の環境保全活動に参加する、企業の環境情報開示をチェックするなど、日常の選択を通じて自然資本の価値を評価する側に回ることが重要です。
また、企業や投資家に対して、自然資本を考慮した経営を求める声を高めることも、社会全体の意識変化につながります。

