資源を使い捨てにするのではなく、できる限り長く使い続け、廃棄物として失われる素材をゼロに近づける「循環経済(サーキュラーエコノミー)」。この考え方が今、日本で「環境政策」の枠を超え、経済安全保障や産業競争力強化の国家戦略として動き出しています。2026年3月、政府は具体的な行動計画の策定に向けた動きを本格化させており、その中身と背景を読み解きます。
なぜ今、循環経済なのか
天然資源の採取と加工は、温室効果ガス排出の55%超、生物多様性損失と水ストレスの90%超の原因となっているとされています(国連環境計画・国際資源パネルによる推計)。
これほど大きな環境負荷をかけながら私たちが維持してきた「作って・使って・捨てる」リニア(一方通行)型の経済モデルは、今まさに限界を迎えつつあります。
鉱物資源の埋蔵量に対して2050年までの需要が大幅に超過する見込みであり、プラスチックの世界使用量も2倍以上になるとも予測されています。
資源の争奪が激化するなかで、廃棄物を資源として最大限に活用し新たな付加価値を生む循環経済への移行が、世界規模で急加速しています。
日本も例外ではありません。
日本はこれまで環境政策として3R(リユース・リデュース・リサイクル)を中心に取り組んできましたが、2024年には循環経済が日本の国家戦略として正式に位置づけられました。
2026年3月、政府が示した「行動計画」の骨格
環境省・経済産業省が2026年3月にまとめた資料によると、各国で重要鉱物およびリサイクル資源の輸出管理強化・国内資源確保・グローバル企業の再生材利用が進むなか、日本では石油・金属等を輸入に依存する一方で、国内のリサイクル原料の多くが焼却・輸出されているという現状があります。
こうした状況を踏まえ、日本の強みを生かして循環経済への移行を国家戦略として推進するため、重要鉱物等リサイクルに関する同志国連携(ASEAN・G7・日米・クアッド等)、太陽光パネルリサイクル・リチウムイオン電池再資源化への対応、地域循環資源の活用による地域活性化、そして資源循環分野の国際ルール形成(グローバル循環プロトコル)などを柱とする行動計画の策定が進められています。
重要鉱物の国内リサイクル確保に向けた国家行動計画の策定に向けた動きが加速しているとされていますが、策定主体・期限等の詳細については公式発表の内容を引き続き確認していく必要があります。
これは中国が主要産地を占めるレアアースなどの重要鉱物を、廃棄された電子機器や蓄電池から「都市鉱山」として回収・再資源化することで、輸入依存のリスクを下げる取り組みと直結しています。
「捨てない設計」を制度化する動き
政府の取り組みはリサイクルにとどまらず、製品を設計する段階から循環を組み込む仕組みにまで踏み込んでいます。
経済産業省は飲料ボトル・家庭用洗剤・化粧品容器などの包装を対象とした新たな認証基準を公表しており、再生材の使用促進・プラスチック使用量の削減・リサイクル工程の効率化を目的として、2026年1月24日に施行されました。
経産省が進める「資源の有効な利用の促進に関する法律」の改正では、特定製品に対する再生材使用の義務化と大手メーカーへの定期報告計画の策定、そして「解体しやすさ」や「長寿命化」といった特に優れた環境配慮設計への表彰制度の整備も柱として位置づけられています。
循環経済への移行は、気候変動や生物多様性の保全といった環境課題の解決に加え、地方創生や質の高い暮らしの実現、産業競争力強化、経済安全保障の確保にも貢献するものとして位置づけられています。
企業はどう動いているか
企業レベルでの取り組みも広がっています。
ファーストリテイリングが展開するユニクロは、回収したダウン商品からダウンとフェザーを取り出して洗浄・乾燥し、新しいダウン商品の素材として再生する技術を東レとのパートナーシップで確立。ダウン商品の回収は2019年に始まり、2023年までに約150万着を超えているとされています。
一方で、企業の現場には構造的な課題も残っています。
廃棄物教育に取り組む団体「ごみの学校」が、2025年12月開催の「サーキュラーパートナーシップEXPO」で実施したアンケート(民間企業・行政・研究機関など58名の実務者が回答)をもとに報告書を取りまとめ、2026年3月に公表しました。
その報告書では、資源管理の最初のステップ自体に明確さが欠けているという課題が浮き彫りになっており、回答者の約半数が「現状の廃棄物・資源の状況を把握するうえで、何を把握すべきか・どこから始めるべきかわからない」と答えています。循環経済への移行を阻む障壁は技術的なものよりも、組織的・構造的なものである可能性が示唆されています。
市場規模は2030年に80兆円へ
日本国内のサーキュラーエコノミー関連市場は現在約50兆円とされており、政府は2030年に80兆円まで拡大させることを目標としています。
また、国際エネルギー機関(IEA)によれば、2050年にはリサイクル市場が約2,000億ドル規模に成長する可能性があるとされています。
世界的な再生材需要の高まりを背景に、資源循環を新産業として育てることができるかどうかが、今後の日本の産業競争力を左右するとも言えます。
「もったいない」精神を、しくみに変える
日本には古来より「もったいない」というモノを大切にする精神があり、協調性や調和を重んじる文化的背景があります。3Rの実践やその過程で培われた高い技術力も強みです。
しかし、精神論や技術力だけでは循環は起きません。
国連環境計画(UNEP)国際環境技術センターのプログラムオフィサーである本田俊一氏は、廃棄物の「適正処理」だけに重点を置くのではなく、廃棄物の発生抑制・製品の長寿命化・再使用・リサイクルを念頭に置いた設計を促す強力な政策が必要だと指摘しています。
設計段階から資源の循環を組み込む制度整備、企業・行政・市民が連携してデータを把握しアクションを取れる仕組みの構築。その両輪が揃ったとき初めて、「捨てない経済」は精神論から現実の産業構造へと変わっていきます。国家戦略として加速する循環経済の行方を、私たちひとりひとりの消費・選択の目線からも引き続き注視していきたいところです。

