海洋プラスチック問題とは、陸で使われたプラスチックごみが川や風を通じて海に流れ出し、海鳥や魚などの生き物、漁業、観光、暮らしの環境に悪影響を及ぼす問題です。使い捨ての容器やレジ袋のように身近なものが出発点になるため、遠い海の話に見えて、実は私たちの生活圏とつながっています。
この記事では、定義の説明にとどまらず、日本からどれくらいのプラスチックごみが海に出ていると推計されているのか、国際的な条約交渉は今どこまで進んでいるのか、自分の行動は何に効くのかを、環境省やOECDなどの公開資料をもとにまとめます。
そもそも海洋プラスチック問題とは|海で何が起きているのか
海に出たプラスチックごみは、海鳥や魚が餌と間違えて食べてしまったり、漁網やロープ状のごみに絡まったりして、生き物を傷つけます。ごみが漁獲物に混ざる、海岸に漂着して景観を損ね、観光や漁業の妨げになるといった形で、生態系から人の暮らしまで影響が及びます。
環境省はこの問題を、生物や生態系、生活環境、観光、漁業などさまざまな分野に悪影響を及ぼすものとして整理しています。被害が一つの分野にとどまらないことが、この問題を地球規模の課題にしている理由の一つです。
プラスチックが海で特に問題になるのは、その性質に理由があります。順に見ていきます。
分解されにくく、長く残り続ける
プラスチックは微生物に分解されにくく、自然に還りにくい素材です。ペットボトルは分解に400〜450年かかるという推定がよく紹介されます。ただし、これは条件を置いた推定値であり、紫外線や波の力など環境によって傷み方は変わります。確かなのは、海に出たものが短期間では消えないという点です。
5mm未満の「マイクロプラスチック」になる
海に出たプラスチックは、紫外線や波の力で少しずつ砕け、細かくなっていきます。5mm未満のものはマイクロプラスチックと呼ばれ、小さすぎて海から回収することがほとんどできません。
マイクロプラスチックの発生源や家庭でできる対策は、別の記事でまとめて整理しています。
生き物の体内に入り込むリスク
細かくなったプラスチックは、魚やプランクトンが餌と間違えて取り込むリスクを高めます。体内に入ったプラスチックが生き物や人にどこまで影響するのかは、研究が続いている分野です。分かっていないことが多いからこそ、これ以上海に出さないことが大切だと考えられています。
世界の発生量と見通し|OECDの推計と「魚の量を超える」予測の読み方
世界でどれくらいのプラスチックごみが出ているのかは、海洋プラスチック問題の大きさを測る出発点です。ここでは国際的によく引用される二つの数字を取り上げ、その読み方も合わせて見ます。
OECDが示す2019年の現在地と2060年の見通し
経済協力開発機構(OECD)が2022年に公表した「Global Plastics Outlook」によると、2019年の世界のプラスチックごみの発生量は3億5,300万トンでした。そのうち約2,200万トンが適切に管理されず、環境中に流出したと推計されています。
追加の対策をとらない場合、2060年にはプラスチックごみの発生量が10億1,400万トンと、約3倍に膨らむと見込まれています。環境中への流出量も約2倍の年間約4,400万トンになるとされています。
「2050年に魚の量を上回る」予測の位置づけ
もう一つ有名なのが、2016年にエレン・マッカーサー財団などが世界経済フォーラム(ダボス会議)で公表した報告書の数字です。現状のまま続けば、海に漂うプラスチックごみの量は2050年に魚の量を上回るという予測でした。同じ時期の報告書では、毎年約800万トンのプラスチックが海に流出しているとも紹介されています。
これらは将来の見通しであり、確定した事実ではありません。前提とする生産量や回収の仕組みが変われば、結果も変わります。「このまま何もしなければ」という条件付きの警告として受け取るのが適切です。
数字を読むときに押さえたい注意点
プラスチックごみの環境中への流出量は、国際的に合意された統計や推計手法が確立していません。環境省も、日本の推計について「暫定式・値」であることを明記しています。調査機関や年によって数字が違って見えるのは、このためです。
数字の大小を比べるより、どの前提で出された推計なのか、いつの時点のものなのかを確かめる習慣が、この問題を正確に理解する助けになります。
日本からはどれだけ流出しているのか|環境省の推計と漂着ごみ調査
世界の数字だけでは、自分ごとにはなりにくいものです。日本の状況を、環境省の推計と漂着ごみ調査の二つから見てみます。
年間1.6万〜3.1万トンという暫定推計
環境省は、日本から海へ流出するプラスチックごみの量を、発生源や品目別に積み上げて推計しています。令和7年度の検討結果では、年間1万6,000〜3万1,000トンという暫定値が示されました。前年度の推計は1万3,000〜3万1,000トンで、毎年、新しい情報を反映して見直されています。
別の方法として、製造量や消費量などのマクロ統計から河川経由の流出量を求めた令和5年度の推計では、年間2,300〜24,000トンでした。手法によって幅があること自体が、この分野の難しさを表しています。
全国の海岸で行われる漂着ごみ調査
環境省は、全国の海岸で漂着ごみの組成調査も行っています。令和6年度の調査は、39都道府県の80地点が対象でした。ごみの種類別のランキングや、プラスチックの漂着量が公表されており、ボトル類などの言語表記から、どこで作られたものかの国別割合も集計されています。
地域の調査では、大阪府が公表している大阪湾の海岸の調査結果で、人工物のうちプラスチックや発泡スチロール類が個数の96%を占めたとされています。海岸に流れ着くごみは、プラスチックが大半を占めるのが一つの特徴です。
「日本は関係ない」でも「日本のせい」でもない
調査には、日本の海岸に漂着する外国語表記のごみも含まれます。一方で、日本からも年間数万トン規模の流出が推計されています。海は国境を越えてつながっているため、どこか一つの国だけの問題として切り分けることはできません。
「他国から流れ着くのだから日本が減らしても意味がない」という見方も、「日本のごみが海を汚している」と自分を責める見方も、実態とは少しずれています。国内の流出を減らすことと、国際的なルールづくりを進めることは、両方が必要だと言えます。
ごみはどこから海に出るのか|約8割は街と川から
環境省の資料では、海に流出するごみの約8割は陸(街)由来とされています。一度海に出たごみを回収するのは難しいため、流出を防ぐことが対策の中心になります。
道路や河川敷から川へ、川から海へ
陸由来のごみとは、海岸に直接捨てられたものだけを指すわけではありません。道路にポイ捨てされた飲料容器、屋外に置かれたままのごみ、強風で飛ばされたレジ袋などが、雨水とともに側溝や河川に入り、最終的に海へ運ばれます。災害や事故で流されてしまうものもあります。
内陸に住んでいても、川の流域にいる限り、海とのつながりがあります。海から遠いから関係ないとは言えません。
漁具など海上で出るごみ
残りの2割ほどは、漁業で使われる網やロープ、浮きなど、海の上で失われたり捨てられたりするものと考えられます。漁具は漂着ごみの中でも一定の割合を占めるとされ、漁業者や自治体による回収の取り組みも進んでいます。
秋の大雨や台風の時期に気をつけたいこと
10月の今は、行楽や運動会などで屋外のごみが増え、台風や大雨で川の水量が増えやすい時期でもあります。ペットボトルや食品の包装が、風でごみ箱から飛んだり、河川敷に置かれたまま増水で流されたりすることがあります。屋外で出たごみは必ず持ち帰る、ごみ箱があふれていたら無理に積まないといった小さな注意が、流出の入り口を一つ減らします。
国際ルールはどこまで進んだか|大阪ブルー・オーシャン・ビジョンから条約交渉まで
海洋プラスチック問題は一国では解決できないため、国際的なルールづくりが長く議論されています。節目となる出来事を、時系列で振り返ります。
2019年の大阪ブルー・オーシャン・ビジョン
2019年のG20大阪サミットで、日本の提唱により、2050年までに海洋プラスチックごみによる追加的な汚染をゼロにすることを目指す「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」がG20首脳間で共有されました。その後、G20以外の国や地域にも共有が広がっています。ただし、これは各国が自主的に取り組む目標であり、法的な拘束力はありません。
2025年8月、ジュネーブでの交渉は合意に至らず
プラスチック汚染に関する法的拘束力のある国際条約をつくる交渉は、国連の場で続いています。2025年8月にジュネーブで開かれた第5回会合の再開セッション(INC-5.2)は、合意に至りませんでした。
日本政府の発表によると、生産や製品(第4条)、資金(第10条)などの論点では各国の隔たりが大きく、意見がまとまりませんでした。一方で、目的、製品設計、環境への放出・流出、廃棄物管理、既存のプラスチック汚染、公正な移行、国別行動計画などの条文では、具体的な文言をめぐる議論が進展しました。
2026年、新議長のもとで続く交渉と日本の役割
2026年2月には、ジュネーブで第5回会合の続き(INC-5.3)が開かれ、チリ外務省のフリオ・コルダノ氏が新しい議長に選ばれました。続いて2026年3月1日から3日にかけて、日本政府が東京で非公式の少数国会合を主催し、外務省の中村亮・地球規模課題審議官が議長を務めました。環境省の発表時点では、次の再開会合の日程は調整中とされています。最新の状況は、環境省や国連環境計画(UNEP)の発表で確認できます。
交渉の経緯と日本の役割は、こちらの記事でも詳しく整理しています。
誤解されやすい3つのポイント
ここまでの内容を踏まえ、読者が定義を知った直後に抱きやすい疑問のうち、誤解につながりやすいものを三つ取り上げます。
「自分はポイ捨てしていないから関係ない」とは言い切れない
意図的に捨てていなくても、風で飛ばされたり、回収前のごみが雨で流されたりして、環境中に出るプラスチックはあります。環境省が示す陸由来の約8割は、故意のポイ捨てだけを指すものではありません。「悪い人が捨てたごみの問題」ではなく、「暮らしのどこかで管理が行き届かなくなる問題」と捉えるほうが実態に近いでしょう。
「分解に400年」は目安として受け取る
ペットボトルが分解されるまでの年数は、あくまで推定値です。実際には、素材や環境の条件で変わります。大切なのは年数の正確さではなく、自然に任せても短期間では消えず、細かく砕けて残るという性質です。
「個人の行動では何も変わらない」わけではない
条約や企業の取り組みが重要なのは確かです。同時に、海に出るごみの約8割が陸の暮らしの場から出ているという見方に立てば、入り口にいるのは私たち自身でもあります。個人の行動だけで解決するわけではありませんが、流出の入り口を減らすという意味では、手の届く範囲に効く行動が確かにあります。
今日からできること|暮らしの中の行動と参加できる活動
最後に、無理なく続けやすい行動を、効果の出やすい順に整理します。
屋外のごみは持ち帰り、分別して出す
もっとも流出に直結するのは、屋外に残ったごみです。レジャーや散歩で出たごみは家に持ち帰って分別し、ごみ箱があふれているときは無理に積まない。この二つだけでも、陸から海への入り口を減らせます。
使い捨てプラスチックを少し減らす
マイボトルやマイバッグを持ち歩く、容器包装の少ない商品を選ぶといった選択は、ごみそのものを減らす行動です。すべてを一度に変えるより、よく使う一つのものから始めるほうが長続きします。
清掃活動に参加する
環境省と日本財団は、「海ごみゼロウィーク」という全国一斉の清掃キャンペーンを行っています。2025年は5月30日から6月8日までが期間で、2024年度は全国約1,300か所で60万人以上が参加しました(2025年2月時点)。海岸だけでなく、公園や街中の清掃も対象で、青いアイテムを身につけて参加する呼びかけがあります。
秋の今は、来年の初夏に向けて、お住まいの地域の清掃活動や、次回の開催情報を公式サイトで調べておくのに向いた時期です。
まとめ
海洋プラスチック問題は、陸の暮らしで使われたプラスチックが、分解されにくい性質のまま海に流れ出し、マイクロプラスチックとして生き物や環境に影響を及ぼす問題です。世界の発生量は2060年に約3倍になると見込まれ、日本からも年間1.6万〜3.1万トンという暫定推計が示されています。
国際的には、2019年の大阪ブルー・オーシャン・ビジョンを経て、法的拘束力のある条約をめざす交渉が続いています。2025年8月のジュネーブでは合意に至りませんでしたが、2026年には新議長のもとで交渉が再開され、日本も東京で非公式会合を主催しました。数字には幅があり、見通しも前提によって変わります。その不確かさを知ったうえで、できる範囲の行動を重ねていくことが大切です。
まず、屋外で出たごみを持ち帰る。この一つだけ試してみてください。
- 海に出るごみの約8割は陸(街)由来とされ、川を通じて内陸の暮らしともつながっている
- 日本からの流出は年間1.6万〜3.1万トンという暫定推計で、国際的に確立した推計手法はまだない
- 条約交渉は2025年8月に合意に至らず、2026年に新議長のもとで続いている
- 屋外のごみの持ち帰りと分別、使い捨ての削減、清掃活動への参加が、手の届く行動になる
参考文献
- OECD「Global plastic waste set to almost triple by 2060」(2022年)
- 環境省「日本の海洋プラスチックごみ流出量の推計」(令和5〜7年度検討結果)
- 環境省「令和6年度漂着ごみ組成調査データ 取りまとめの結果について」(2026年)
- 環境省「海ごみゼロウィーク2025の開催について」(2025年)
- 環境省 報道発表「プラスチック汚染に関する条約交渉 非公式少数国会合(東京)」(2026年)
- AFPBB News「海洋に漂うプラスチックごみ、2050年までに魚の量しのぐ 報告」(2016年)



