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ENVIRONMENT

ゼロエミッションとは?意味や企業の取り組み事例をわかりやすく解説

地球環境問題が深刻化する中、「ゼロエミッション」という言葉を耳にする機会が増えています。これは単なる環境スローガンではなく、私たちの未来を左右する重要な取り組みです。廃棄物をゼロにするという理想的な目標に向けて、国や企業がどのような具体的な行動を起こしているのでしょうか。

この記事で学べるポイント

  • ゼロエミッションの正確な意味とカーボンニュートラルとの違い
  • 環境問題の深刻化によりゼロエミッションが重要視される背景
  • 政府や企業が実践している具体的な取り組み事例

ゼロエミッションとは何か

ゼロエミッションとは何かゼロエミッションという概念を正しく理解するために、まずはその基本的な意味から詳しく解説していきます。

ゼロエミッションの基本的な意味

ゼロエミッションとは、1994年に国際連合大学によって提唱された「廃棄物の排出(エミッション)をゼロにする」という考え方です。英語の「emission」は「排出」を意味し、これをゼロにすることを目指すことから「ゼロエミッション」と呼ばれています。

具体的には、ある産業から排出された廃棄物を別の産業が原料として再利用することで、社会全体として廃棄物の最終処分量をゼロに近づけるという取り組みです。例えば、製紙工場から出る木くずを建材メーカーが合板の原料として活用したり、食品工場から出る生ごみをバイオマス発電の燃料として利用したりすることで、廃棄物が新たな価値を生み出す資源に変わります。

現在では、この概念が拡大され、温室効果ガスの排出をゼロにするという意味でも使われるようになっています。特に2015年のパリ協定以降、気候変動対策の文脈で「CO2排出実質ゼロ」を指してゼロエミッションという言葉が使用されることが増えています。

カーボンニュートラルとの違い

ゼロエミッションとよく混同される言葉に「カーボンニュートラル」があります。両者は似ているようで、実は重要な違いがあります。

カーボンニュートラルは、CO2(二酸化炭素)、メタン、窒素酸化物などの温室効果ガスの排出量を「実質的にゼロ」にすることを指します。「実質的に」という表現がポイントで、排出した温室効果ガスを森林による吸収や技術的な回収によって相殺し、差し引きゼロにするという考え方です。

一方、ゼロエミッションは温室効果ガスだけでなく、あらゆる廃棄物や汚染物質の排出を「完全にゼロ」にすることを目指します。対象範囲がより広く、大気汚染物質、水質汚濁物質、廃棄物なども含まれます。また、「相殺してゼロ」ではなく「そもそも排出しない」ことを理想とする点で、より厳格な概念といえます。

つまり、カーボンニュートラルが「温室効果ガスに特化した実質ゼロ」であるのに対し、ゼロエミッションは「すべての環境負荷物質の完全ゼロ」を目指す、より包括的で理想的な目標設定となっています。

ゼロエミッションが注目される理由

ゼロエミッションが注目される理由なぜ今、ゼロエミッションがこれほど注目されているのでしょうか。その背景には、深刻化する環境問題があります。

地球温暖化と気候変動問題

地球温暖化による気候変動は、もはや未来の問題ではなく、現在進行形の危機となっています。世界各地で異常気象が頻発し、猛暑、豪雨、干ばつ、山火事などの災害が人々の生活を脅かしています。

気象庁のデータによると、日本の年平均気温は100年あたり約1.3℃の割合で上昇しており、特に1990年代以降の温暖化が顕著です。このような状況を受けて、2015年のパリ協定では、世界共通の長期目標として「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保ち、1.5℃に抑える努力を追求する」ことが合意されました。

この目標を達成するためには、温室効果ガスの大幅な削減が不可欠です。日本政府も2020年10月に「2050年カーボンニュートラル」を宣言し、2030年度には温室効果ガスを2013年度比で46%削減するという中間目標を設定しています。ゼロエミッションの実現は、これらの目標達成に向けた重要な手段として位置づけられています。

廃棄物問題の深刻化

もう一つの深刻な問題が、増え続ける廃棄物です。経済成長とともに大量生産・大量消費・大量廃棄の社会構造が定着し、廃棄物の処理が社会的な課題となっています。

環境省の統計によると、日本の一般廃棄物の年間排出量は約4,200万トン、産業廃棄物は約3億7,000万トンに上ります。最終処分場の残余容量は年々減少しており、新たな処分場の確保も困難な状況です。また、廃棄物の焼却処理時には大量のCO2が排出されるため、気候変動の観点からも問題となっています。

さらに、海洋プラスチック汚染も深刻化しています。毎年約800万トンのプラスチック廃棄物が海洋に流出し、海洋生態系に深刻な影響を与えています。このような状況を改善するためには、そもそも廃棄物を出さない、または最大限再利用するゼロエミッションの考え方が重要になります。

持続可能な社会の実現

2015年に国連で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)では、「持続可能な消費と生産のパターンを確保する」ことが目標の一つとして掲げられています。従来の「採取→生産→消費→廃棄」という一方通行の経済モデルから、「循環型経済(サーキュラーエコノミー)」への転換が求められています。

循環型経済では、製品や素材を可能な限り長く使用し、廃棄物を新たな資源として活用することで、天然資源の消費を最小限に抑えます。ゼロエミッションは、この循環型経済の究極の形として位置づけられており、持続可能な社会の実現に向けた重要な指針となっています。

また、投資家や消費者の環境意識の高まりにより、企業にとってもゼロエミッションへの取り組みは競争力の源泉となっています。ESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視した投資)の拡大により、環境負荷の低減に積極的な企業が評価される時代になっており、ゼロエミッションは企業価値向上の重要な要素として認識されています。

日本政府・自治体の取り組み事例

日本政府・自治体の取り組み事例ゼロエミッション実現に向けて、日本政府や地方自治体では様々な取り組みが展開されています。ここでは代表的な事例を通じて、具体的な政策や成果を見ていきましょう。

エコタウン事業の推進

エコタウン事業は、ゼロエミッション実現のための先駆的な取り組みとして1997年度に政府によって創設されました。この事業は、「ゼロエミッション構想」を基本として、地域の特性に応じた環境調和型のまちづくりを推進するものです。

都道府県または政令指定都市が作成したプランが環境省と経済産業省の共同承認を受けることで、総合的・多面的な支援が実施されます。1997年度から2005年度までに、全国で26地域がエコタウンとして承認されており、各地域で特色ある取り組みが行われています。

例えば、北九州市エコタウンでは、製鉄所から排出される高炉スラグ(製鉄過程で生じる副産物)をセメントの原料として活用したり、廃プラスチックを化学原料に再生したりする事業が展開されています。これらの取り組みにより、2016年度には天然資源からの製造と比較して年間43.3万トンのCO2排出削減を実現しました。

環境省の試算によると、エコタウン26地域全体での2011年度の環境負荷削減効果は、最終処分削減量が年間約96万トン、温室効果ガス排出削減量が約46万トンに達しています。また、設備投資補助金約600億円に対して、民間投資を含めた総投資額は約1,700億円となり、大きな経済効果も生み出しています。

ゼロエミッション東京戦略

東京都は2019年5月、2050年にCO2排出実質ゼロに貢献する「ゼロエミッション東京」の実現を宣言しました。この宣言を具体化したのが「ゼロエミッション東京戦略」で、都市全体での脱炭素化に向けた包括的な取り組みが示されています。

同戦略では、「エネルギーセクター」「都市インフラ」「資源循環」「自然環境」「気候変動適応」「ライフスタイル」の6分野14政策が体系化されています。特に注目すべきは、2025年4月から施行された新築建物への太陽光発電設備設置義務化条例で、これは都道府県レベルでは全国初の取り組みです。

また、ゼロエミッションビークル(走行時に排出ガスを出さない電気自動車や燃料電池自動車)の普及促進も重要な柱の一つです。東京都は2030年までに乗用車新車販売におけるゼロエミッションビークルの割合を50%にする目標を設定し、購入補助金の拡充や充電インフラの整備を進めています。

さらに、プラスチック資源循環方針に基づく使い捨てプラスチック削減や、都庁自らが率先してペーパーレス化やリサイクル促進に取り組むなど、多角的なアプローチでゼロエミッション実現を目指しています。

ゼロエミ・チャレンジ企業の選定

経済産業省は2020年10月、脱炭素社会実現に向けてイノベーションに挑戦する企業を「ゼロエミ・チャレンジ企業」として選定・公表する取り組みを開始しました。この制度は、経団連やNEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)と連携して実施されています。

対象となるのは、「革新的環境イノベーション戦略」に基づく経済産業省の事業や、NEDOが実施する28のプロジェクトに参画する企業です。2021年10月のTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)サミットでは、上場・非上場企業合わせて624社がゼロエミ・チャレンジ企業として発表されました。

この制度の目的は、脱炭素化に積極的に取り組む企業を「見える化」することで、投資家や消費者が環境に配慮した企業を選択しやすくすることです。選定された企業は、国際会議やイベントでの発表機会の提供、投資家とのマッチング支援などの恩恵を受けることができます。

企業のゼロエミッション実現に向けた取り組み

企業のゼロエミッション実現に向けた取り組み民間企業においても、ゼロエミッション実現に向けた様々な取り組みが活発化しています。業界や企業規模を問わず、創意工夫を凝らした実践例を見ていきましょう。

製造業での廃棄物削減

製造業では、生産工程で発生する廃棄物の削減と再利用が重要な課題となっています。多くの企業が3R(Reduce:削減、Reuse:再利用、Recycle:リサイクル)を基本として、ゼロエミッション工場の実現に取り組んでいます。

サントリーホールディングスでは、製造過程で必要なエネルギーの有効活用と廃棄物排出の最小化に力を入れています。具体的には、工場で使用する燃料を重油から都市ガスや液化天然ガス(LNG)に転換することで省エネルギー化を図り、CO2排出量を大幅に削減しています。また、製造工程で発生する副産物を他の用途に転用することで、廃棄物の発生そのものを抑制しています。

トヨタ自動車では、生産工程で発生する金属くずやプラスチック廃材を100%リサイクルする「ゼロエミッション工場」の取り組みを世界各地の工場で展開しています。例えば、車体製造時に発生する鉄くずは製鉄会社に送られて新たな鋼材として再生され、再びトヨタの工場で自動車部品として使用されるという循環システムを構築しています。

さらに、食品業界では廃棄される食材の有効活用が進んでいます。キリンホールディングスでは、ビール製造工程で発生する麦芽かす(ビール粕)を牛の飼料として農家に提供したり、バイオマス発電の燃料として活用したりすることで、食品廃棄物のゼロエミッション化を実現しています。

ゼロエミッションビークルの普及

自動車業界では、走行時に排出ガスを出さないゼロエミッションビークルの開発と普及が急速に進んでいます。ゼロエミッションビークルには、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)、プラグインハイブリッド自動車(PHV)が含まれます。

日産自動車は、2010年に世界初の量産型電気自動車「リーフ」を発売し、電気自動車普及のパイオニアとして知られています。同社では2030年代早期に、主要市場で投入する新型車をすべて電動車両にする計画を発表しており、ガソリンエンジン車からの完全な脱却を目指しています。

トヨタ自動車は、電気自動車に加えて水素を燃料とする燃料電池自動車の開発にも注力しています。2014年に発売した「MIRAI」は、水素と酸素を化学反応させて発電し、排出するのは水のみという究極のゼロエミッションビークルです。同社では水素社会の実現に向けて、燃料電池技術の応用範囲を乗用車からトラック、バス、船舶まで拡大しています。

また、企業の社用車をゼロエミッションビークルに切り替える動きも加速しています。ヤマト運輸では、宅配業務に使用する小型トラックを順次電気自動車に置き換えており、2030年までに軽車両の50%を電動化する目標を設定しています。これにより、ラストワンマイル配送でのCO2排出削減を実現しています。

再生可能エネルギーの活用

企業のゼロエミッション実現において、事業活動で使用するエネルギーの脱炭素化は重要な要素です。多くの企業が再生可能エネルギーの導入を積極的に進めており、「RE100」という国際的なイニシアチブに参加する日本企業も増加しています。

RE100は、事業運営に必要な電力を100%再生可能エネルギーで賄うことを目標とする企業連合で、2025年1月現在、日本からは80社以上が参加しています。イオンは2050年までに事業で使用する電力を100%再生可能エネルギーにする目標を掲げ、店舗屋上への太陽光発電設備設置や再生可能エネルギー由来の電力調達を進めています。

ソニーグループは2030年までに自社の事業活動におけるカーボンニュートラル達成を目標としており、世界各地の事業所で太陽光発電設備の導入を拡大しています。また、サプライチェーン全体での脱炭素化にも取り組み、主要サプライヤーに対してもRE100への参加や温室効果ガス削減目標の設定を求めています。

製造業以外でも、データセンターを運営するIT企業では電力消費量が大きいため、再生可能エネルギーの活用が重要です。富士通では、2030年までに自社のデータセンターで使用する電力を100%再生可能エネルギーにする計画を発表し、風力発電や太陽光発電による電力調達契約を積極的に締結しています。

ゼロエミッション実現の課題と今後の展望

ゼロエミッション実現の課題と今後の展望ゼロエミッションは理想的な目標ですが、その実現には様々な課題があります。これらの課題を理解し、解決策を見つけることが重要です。

技術面での課題

ゼロエミッション実現における最大の課題の一つが、技術的な限界です。現在の技術では、すべての廃棄物を完全にゼロにすることは困難で、特に一部の化学物質や放射性廃棄物については安全な処理方法が限られています。

また、廃棄物を再利用する際に新たなエネルギーが必要になることも課題です。例えば、プラスチックのリサイクルには加熱や化学処理が必要で、その過程でCO2が排出されます。廃棄物を再利用可能な場所まで運搬する際の輸送エネルギーも考慮する必要があります。

電気自動車などのゼロエミッションビークルについても、バッテリーの製造時には大量のエネルギーが必要で、使用済みバッテリーのリサイクル技術もまだ発展途上です。さらに、電気自動車の電力源が火力発電由来の場合、走行時は排出ガスゼロでも、発電段階でCO2が排出されるという課題もあります。

コスト面での課題

ゼロエミッション技術の導入には、多くの場合、従来の方法よりも高いコストがかかります。再生可能エネルギーの発電コストは年々低下していますが、安定供給のための蓄電設備や送電網の整備には莫大な投資が必要です。

企業にとっても、生産設備の更新や新技術の導入は大きな負担となります。特に中小企業では、ゼロエミッション対応の設備投資が経営を圧迫する可能性があり、政府による支援制度の充実が求められています。

また、消費者レベルでも、ゼロエミッション製品は価格が高い傾向があります。電気自動車はガソリン車よりも車両価格が高く、太陽光発電システムの設置にも初期投資が必要です。これらのコスト負担が普及の障壁となっているのが現状です。

私たちにできること

ゼロエミッション実現は、政府や企業だけでなく、私たち一人ひとりの行動にもかかっています。日常生活でできる取り組みから始めることが重要です。

まず、ごみの分別とリサイクルの徹底が基本です。適切な分別により、資源として再利用できる材料を増やすことができます。また、マイバッグやマイボトルの使用、過剰包装の商品を避けるなど、そもそもごみを出さないライフスタイルを心がけることも大切です。

エネルギー使用量の削減も重要な取り組みです。LED照明への切り替え、エアコンの適切な温度設定、不要な電気機器のコンセント抜きなど、小さな節電の積み重ねが大きな効果を生みます。可能であれば、太陽光発電システムの設置や再生可能エネルギー由来の電力プランへの切り替えも検討価値があります。

移動手段の見直しも効果的です。可能な範囲で公共交通機関や自転車を利用し、自動車を使用する場合はエコドライブを心がけることで燃費を向上させることができます。次回の車両購入時には、ハイブリッド車や電気自動車を選択肢に入れることも重要です。

さらに、ゼロエミッションに積極的に取り組む企業の製品やサービスを選ぶことで、企業の環境への取り組みを後押しすることができます。消費者の選択が企業行動を変える力となり、社会全体のゼロエミッション実現を加速させることにつながります。

まとめ

まとめ:ゼロエミッションとは?意味や企業の取り組み事例をわかりやすく解説ゼロエミッションは、1994年に国際連合大学によって提唱された「廃棄物の排出をゼロにする」という考え方であり、現在では温室効果ガスの排出削減も含む包括的な環境対策として位置づけられています。地球温暖化や廃棄物問題の深刻化を背景に、持続可能な社会の実現に向けた重要な取り組みとして世界的に注目されています。

日本では、政府のエコタウン事業や東京都のゼロエミッション東京戦略、経済産業省のゼロエミ・チャレンジ企業選定など、国や自治体レベルでの積極的な施策が展開されています。企業においても、製造業での廃棄物削減、ゼロエミッションビークルの開発・普及、再生可能エネルギーの活用など、多様なアプローチでゼロエミッション実現に取り組んでいます。

一方で、技術的な限界やコスト面での課題も存在し、完全なゼロエミッション実現には時間がかかることも事実です。しかし、これらの課題に対しても継続的な技術開発や政策支援により、着実に解決策が見つかりつつあります。

私たち一人ひとりができることから始めて、社会全体でゼロエミッション実現に向けて歩み続けることが、持続可能な未来への確実な道筋となるでしょう。

参照元
・環境省エコタウン関連
https://www.env.go.jp/recycle/circul/venous_industry/ecotown.html
・東京都環境局ゼロエミッション東京
https://www.kankyo.metro.tokyo.lg.jp/climate/zeroemi_tokyo/index.html
・経済産業省ゼロエミ・チャレンジ
https://www.meti.go.jp/policy/energy_environment/global_warming/gte/challenge.html

  • 記事を書いたライター
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