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ネガワット取引とは?仕組みやメリットをわかりやすく解説

ネガワット取引とは?仕組みやメリットをわかりやすく解説

電力不足が社会問題となる中、注目を集めているのが「ネガワット取引」という新しい仕組みです。これは節電によって生まれた余剰電力を、まるで発電したかのように取引する画期的な制度で、2017年から日本でも本格的に始まりました。電気を使う人々が積極的に電力供給に参加できる時代が到来しています。

この記事で学べるポイント

  • ネガワット取引の基本的な仕組みと従来の発電との違い
  • 取引に関わる事業者の役割と具体的な取引の流れ
  • 参加することで得られる経済的メリットと社会的意義

ネガワット取引とは何か?

ネガワット取引とは何か?

ネガワット取引とは、電力需要のピーク時に節電を行い、その削減した電力量を発電したのと同等の価値として取引する仕組みです。「ネガワット(negawatt)」という言葉は、マイナスを意味する「ネガティブ」と電力の単位「ワット」を組み合わせた造語で、アメリカのエネルギー学者エイモリー・ロビンス博士が1990年に提唱した概念です。

この取引では、契約に基づいて節電要請に応じた需要家(電気を使う人や企業)が、電力会社から報酬を受け取ることができます。つまり、電気を「使わない」ことが「価値」として認められ、お金を得られる仕組みなのです。

ネガワットの基本的な考え方

ネガワットの考え方を身近な例で説明しましょう。真夏の暑い日、多くの人がエアコンを使うため電力需要が急激に高まります。このとき、エアコンの設定温度を3度上げて節電すれば、その分の電力が「余る」ことになります。この余った電力を「節電所」で発電したものと同じように扱うのがネガワットの基本概念です。

従来は善意による節電が主流でしたが、ネガワット取引では節電に経済的価値を付与することで、より多くの人々が積極的に参加できる仕組みを作り出しました。LED電球への交換、工場の操業時間調整、蓄電池の活用など、様々な方法で節電に取り組むことができます。

従来の発電との違い

従来の電力供給は、発電所で電気を作り出す「供給側」からのアプローチが中心でした。需要が増えれば発電量を増やし、設備投資も発電所の建設に重点が置かれていました。一方、ネガワット取引は「需要側」から電力供給に貢献する全く新しいアプローチです。

最大の違いは、電気を「作る」のではなく「使わない」ことで価値を生み出す点にあります。発電所の建設には数年から数十年の期間と巨額の投資が必要ですが、ネガワットは既存の設備や行動の変更だけで比較的短期間に実現できます。また、発電所は限られた場所にしか建設できませんが、ネガワットは家庭や企業など、電気を使うあらゆる場所で創出可能です。

ネガワット取引の仕組み

ネガワット取引の仕組み

ネガワット取引は、複数の事業者が連携して成り立つ仕組みです。個々の需要家が直接電力会社と取引するのではなく、「アグリゲーター」と呼ばれる中間事業者が重要な役割を果たしています。この仕組みにより、小規模な節電でも束ねることで大きな供給力として活用できるようになりました。

取引の基本的な流れは、まず事前契約、次に節電要請と実行、最後に報酬の支払いという3段階で進行します。デマンドレスポンス(DR)という需要調整技術を活用し、電力の需給バランスを効率的に保つ仕組みとして機能しています。

取引に関わる主な事業者

ネガワット取引には主に3つの事業者が関わります。まず「需要家」は、実際に節電を行う家庭や企業です。次に「アグリゲーター」は、多数の需要家をまとめて管理し、電力会社との窓口となる特定卸供給事業者です。そして「電力会社」は、節電された電力を活用して電力供給の安定化を図ります。

アグリゲーターは取引の司令塔として、IoT技術を活用して各需要家の電力使用状況を監視し、最適なタイミングで節電要請を行います。また、需要家ごとの特性に応じた節電手法を提案し、効率的な需要調整を実現します。2022年4月からは正式に特定卸供給事業者制度が開始され、より多くの事業者が参入可能になりました。

具体的な取引の流れ

取引は以下の手順で進行します。第一段階では、需要家とアグリゲーター、アグリゲーターと電力会社の間で事前契約を結びます。この契約では、節電可能な容量、対応可能な時間、報酬の条件などが詳細に定められます。

第二段階では、電力需給が逼迫する見込みの際に、電力会社からアグリゲーターへ節電要請が出されます。アグリゲーターは各需要家の状況を考慮して最適な節電指示を出し、需要家は契約に従って節電を実行します。自動制御システムが導入されている場合は、遠隔操作で機器の出力調整が行われることもあります。

第三段階では、実際の節電量を測定・検証した後、電力会社からアグリゲーターへ、アグリゲーターから需要家へと報酬が支払われます。報酬には、節電能力に対する「kW報酬」と、実際の節電量に対する「kWh報酬」の2種類があり、契約内容に応じて組み合わせて支払われます。

ネガワット取引のメリット

ネガワット取引のメリット

ネガワット取引は、参加する需要家にとって経済的なメリットがあるだけでなく、社会全体の電力システムをより効率的で安定したものにする効果があります。この仕組みにより、従来は一方的に電気を「消費」するだけだった需要家が、電力供給に積極的に参加できるようになりました。

個人や企業レベルでの直接的な利益から、環境負荷軽減や電力インフラの最適化といった社会全体への貢献まで、多層的なメリットを提供しています。特に、電力不足が懸念される現在の日本において、新たな電源確保の手段として重要な役割を果たしています。

需要家(電気を使う人)のメリット

需要家が得られる最も直接的なメリットは、電力料金の削減と追加報酬の獲得です。節電により電気使用量が減るため、基本的な電力料金が安くなります。さらに、アグリゲーターとの契約に基づいて節電を実行することで、節電能力に応じた「kW報酬」と実際の節電量に応じた「kWh報酬」の2種類の報酬を受け取ることができます。

企業の場合は、生産計画の見直しや設備の効率化を通じて、電力コストの大幅な削減が可能になります。例えば、製造業では夜間操業への切り替えや、ピーク時間帯の設備稼働を避けることで、月間数十万円から数百万円の電力料金削減と報酬獲得を実現している事例があります。家庭でも、エアコンの設定温度調整や電気自動車の充電時間変更などで、年間数千円から数万円の節約効果が期待できます。

また、節電への取り組みを通じて、自社の電力使用パターンを詳細に把握できるようになり、長期的なエネルギー効率改善につながります。環境経営やCSR活動の一環として社会貢献をアピールできる点も、企業にとって大きなメリットといえるでしょう。

社会全体へのメリット

社会全体の視点では、ネガワット取引は電力システムの安定性向上に大きく貢献します。従来の発電所建設には長期間と巨額の投資が必要でしたが、ネガワットは既存のインフラを活用して比較的短期間で供給力を確保できます。これにより、急激な需要増加や発電所の故障などの緊急時にも、迅速に電力不足に対応できるようになります。

環境面では、化石燃料を使用する火力発電の稼働を抑制できるため、CO2排出量の削減に直結します。原子力発電所の稼働停止が続く中、再生可能エネルギーの普及とともに、ネガワット取引は日本の脱炭素化を推進する重要な手段として位置づけられています。

経済効率性の向上も見逃せません。電力需要のピーク時にのみ稼働する発電所は、年間を通じた稼働率が低く非効率的でした。ネガワット取引により需要の平準化が進むことで、既存の発電設備をより効率的に活用でき、電力システム全体のコスト削減につながります。この効果は最終的に電力料金の抑制という形で、すべての電力利用者に恩恵をもたらします。

ネガワット取引の種類と活用場面

ネガワット取引の種類と活用場面

ネガワット取引は、その目的や用途に応じて複数の類型に分類されており、それぞれ異なる場面で活用されています。資源エネルギー庁の分類によると、主に小売電気事業者の計画値同時同量の達成支援と、一般送配電事業者の調整力としての活用という2つの大きな目的があります。

この分類により、電力システムの様々な場面でネガワットが活用でき、より柔軟で効率的な電力運用が可能になっています。具体的な活用事例を見ることで、ネガワット取引がどのように社会の電力インフラを支えているかが理解できます。

取引の類型について

ネガワット取引は、目的・用途によって大きく2つの類型に分けられます。「類型1」は小売電気事業者の計画値同時同量の達成を支援するものです。計画値同時同量とは、電力会社が30分ごとに電力の需要予測と実際の需要を一致させる義務のことで、この達成が困難な場合にネガワットが活用されます。

類型1はさらに細分化され、「①小売電気事業者の需要抑制」と「②卸電力取引所での取引」があります。①では小売電気事業者が直接需要家に節電を依頼し、②では日本卸電力取引所(JEPX)でネガワットが商品として売買されます。2017年4月からJEPXでのネガワット取引が可能になったことで、より透明性の高い市場での取引が実現しました。

「類型2」は一般送配電事業者の調整力としての活用です。調整力とは、電力の周波数制御や需給バランス調整に必要な電源のことで、従来は発電所が担っていた役割をネガワットでも代替できるようになりました。この類型では、より迅速な対応が求められ、自動制御システムの導入が進んでいます。

実際の活用事例

製造業では、多様なアプローチでネガワット取引に参加しています。化学工場では、生産プロセスの一部を停止したり、自家発電設備を稼働させることで大規模な需要削減を実現しています。ただし、高価な設備投資が必要な場合は、報酬だけでは十分な収支を得られないという課題もあります。

鉄鋼業では、操業時間の調整により参加していますが、製品の納期と機器停止のタイミング調整が技術的な課題となっています。冷凍倉庫業界では、冷凍機の一時停止による節電が行われていますが、冬場は機器が停止していることが多く、年間を通じた安定的な参加が困難な場合があります。

一般家庭でも参加が広がっており、エアコンの設定温度変更、電気自動車の充電時間シフト、蓄電池システムの活用などが行われています。スマートメーターやIoT機器の普及により、家庭レベルでも精密な需要制御が可能になってきました。

商業施設では、照明や空調の調整、営業時間の見直しなどで参加しており、特に大型ショッピングセンターや病院などの大口需要家での効果が大きくなっています。これらの多様な活用事例により、日本全体で数百万kWの調整力が確保され、電力システムの安定化に大きく貢献しています。

ネガワット取引の現状と今後の展望

ネガワット取引の現状と今後の展望

ネガワット取引は2017年の制度開始から着実に発展を続けており、日本の電力システムにおいて重要な役割を担うようになりました。特に電力需給の逼迫が懸念される近年、従来の発電所建設に代わる迅速な供給力確保手段として、その存在感を増しています。

技術的な基盤整備も進んでおり、IoT技術やスマートメーターの普及により、より精密で効率的な需要制御が可能になっています。今後は需給調整市場や容量市場での活用拡大も期待されており、電力システム全体の構造変化を促す重要な仕組みとして位置づけられています。

日本での導入状況

2017年4月の制度開始以降、ネガワット取引の規模は順調に拡大しています。初年度の調整力公募では、募集量132.7万kWに対して111.2万kWの応札があり、そのうち95.8万kW(総額約35億9千万円)が落札されました。これは日本で初めてデマンドレスポンスが開かれた競争入札市場で取引された歴史的な事例となりました。

2021年4月からは「需給調整市場」が開設され、従来は各電力会社が個別に調達していた調整力を、エリアを越えて広域的に調達できるようになりました。これにより、より効率的な電力運用が実現し、ネガワット取引の活用場面も拡大しています。

2022年4月には特定卸供給事業者(アグリゲーター)制度が正式に開始され、より多くの事業者がネガワット取引に参入できる環境が整いました。現在では、電力会社系だけでなく、IT企業やエネルギーサービス企業など多様な事業者がアグリゲーターとして活動しており、競争の活性化により サービスの向上と料金の適正化が進んでいます。

将来性と課題

ネガワット取引の将来性は非常に高く評価されています。2030年の再生可能エネルギー20%導入目標の達成に向けて、太陽光発電などの変動電源が増加する中、需要側からの柔軟な調整力がますます重要になります。気象条件により出力が変動する再生可能エネルギーと組み合わせることで、より安定した電力システムの構築が期待されています。

容量市場での活用も本格化する予定で、将来の供給力確保に向けた投資促進効果も見込まれています。また、電気自動車の普及や蓄電池技術の向上により、家庭レベルでのネガワット参加がさらに容易になると予想されます。

一方で、解決すべき課題も存在します。産業用途では、生産計画との調整や設備投資回収の問題があり、業種によっては参加が困難な場合があります。また、需要削減量の正確な測定や、気象条件による需要変動の予測精度向上も技術的な課題として挙げられています。

制度面では、報酬体系の最適化や、より多くの需要家が参加しやすい仕組みづくりが求められています。特に中小企業や一般家庭での参加促進に向けて、簡単な手続きと魅力的な報酬設計が重要な課題となっています。

まとめ

まとめ

ネガワット取引は、節電により創出された電力を発電と同等の価値として取引する革新的な仕組みです。2017年の制度開始以来、日本の電力システムにおいて重要な役割を果たし、電力の安定供給と環境負荷軽減の両立を実現しています。

この仕組みにより、需要家は電力料金の削減と追加報酬の獲得が可能になり、社会全体では効率的な電力システムの構築と脱炭素化の推進が実現されています。アグリゲーターを中心とした取引の流れは、多様な需要家の参加を可能にし、小規模な節電でも大きな供給力として活用できる仕組みを作り出しました。

今後、再生可能エネルギーの普及や電気自動車の浸透とともに、ネガワット取引の重要性はさらに高まることが予想されます。電力を「使わない」ことに価値を見出すこの仕組みは、従来の電力システムに変革をもたらし、持続可能なエネルギー社会の実現に向けた重要な基盤となっています。

参照元
・資源エネルギー庁 https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/advanced_systems/vpp_dr/negawatt.html
・スマートグリッドフォーラム https://sgforum.impress.co.jp/article/3412
・野村證券 https://www.nomura.co.jp/terms/japan/ne/A03010.html
・環境ビジネスオンライン https://www.kankyo-business.jp/dictionary/012858.php
・エコめがねエネルギーBLOG https://blog.eco-megane.jp/negawatt/

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