公式LINEアカウントでも絶賛配信中!

友だち追加
ENVIRONMENT

エコリージョンとは?生物多様性保全の鍵となる地域区分をわかりやすく解説

環境保護や生物多様性の話題でよく耳にする「エコリージョン」という言葉。この概念は、地球上の自然を効果的に守るために欠かせない考え方として、世界中で注目を集めています。エコリージョンを理解することで、なぜ特定の地域が重点的に保護されるのか、そして私たちの暮らしにどのような影響があるのかが見えてきます。

エコリージョンとは何か?基本的な定義と概念

エコリージョンとは何か?基本的な定義と概念エコリージョンとは、似たような生態系や生き物が集まっている比較的大きな地域のことを指します。英語では「Ecoregion」や「Ecological region」と呼ばれ、「生態域」や「生物域」といった日本語も使われることがあります。

エコリージョンの定義

世界自然保護基金(WWF)による定義では、エコリージョンは「地理的に異なった特徴的な生態系の集合体を含む、陸地および水圏の比較的大きな地域」とされています。つまり、その地域に住む動物や植物、そして環境の特徴が似ている場所をひとまとまりとして捉えた区分なのです。

例えば、日本の本州中部の山地では、ブナやミズナラといった落葉広葉樹が主体となる森林が広がり、ツキノワグマやニホンカモシカなどの動物が生息しています。このような共通した特徴を持つ地域が、一つのエコリージョンとして分類されます。

生態系や生物多様性との違い

生態系は、特定の場所に住む生き物とその環境が相互に影響し合うシステムのことです。一方、エコリージョンは、複数の似たような生態系をまとめた、より大きな地理的区分です。

生物多様性は「生き物の豊かさ」を表す概念で、どれだけ多くの種類の動植物がいるかを示します。エコリージョンは、この生物多様性を地域ごとに管理・保全するための枠組みとして機能しています。

別名・関連用語の整理

エコリージョンには、「バイオリージョン(生物域)」「生態系ブロック」といった表現もあります。これらはすべて同じ概念を指しており、研究者や組織によって使い分けられています。現在、WWFは地球上を825か所の陸域エコリージョンと約450か所の淡水域エコリージョンに分類しています。

エコリージョンが注目される理由と重要性

エコリージョンが注目される理由と重要性エコリージョンという考え方が生まれた背景には、従来の自然保護の限界がありました。小さな区域だけを保護していても、生き物や自然環境全体を守ることは難しいという問題に直面したのです。

地球規模での環境問題への対応

地球温暖化や森林破壊、生物種の絶滅といった環境問題は、国境や行政区域を越えて広がっています。渡り鳥は複数の国をまたいで移動しますし、川は上流から下流へと長距離にわたって流れています。このような自然の仕組みに合わせて保護区域を設定するために、エコリージョンの概念が重要になっているのです。

例えば、シベリアで繁殖した鳥が日本で越冬し、東南アジアで中継地を利用する場合、これらすべての地域が連携して保護しなければ、その鳥を守ることはできません。エコリージョンは、このような生き物の生活圏全体を考慮した保全計画を立てるための基盤となります。

効果的な自然保護の実現

限られた資源で最大の保護効果を得るには、どこを優先的に守るべきかを科学的に判断する必要があります。エコリージョンの分類により、生物多様性が特に豊かな地域や、絶滅の危機にある種が多い地域を特定することができます。

WWFが選定した「グローバル200」は、238か所の優先保護エコリージョンのリストです。これらの地域を重点的に保護することで、地球全体の生物多様性を効率よく守ることを目指しています。

科学的根拠に基づく保全計画

エコリージョンの分類は、気候、地形、土壌、植生、動物相などの科学的データに基づいて行われます。これにより、感情論ではなく客観的な根拠に基づいた保全計画を立てることができるのです。

また、農業従事者から環境保護団体まで、様々な立場の人々が共通の枠組みとしてエコリージョンを活用しています。これにより、異なる利害関係者間での合意形成がしやすくなり、より実効性の高い環境保護活動が可能になっています。

WWFによるエコリージョン分類の仕組み

WWFによるエコリージョン分類の仕組み世界自然保護基金(WWF)は、地球全体の自然環境を体系的に分類し、保全の優先順位を決めるためのシステムを構築しています。この分類システムは、科学的根拠に基づいて世界中の自然環境を整理し、効果的な保護活動を可能にしています。

世界のエコリージョン分類システム

WWFは現在、地球上を825か所の陸域エコリージョンと約450か所の淡水域エコリージョンに分類しています。この分類は、気候、地形、土壌の特徴、そして生息する動植物の種類などを総合的に分析して決められています。

陸域のエコリージョンでは、熱帯雨林、温帯落葉樹林、草原、砂漠、ツンドラなど、主要な植生タイプごとに細分化されています。例えば、アマゾンの熱帯雨林は複数のエコリージョンに分かれており、それぞれが独特の生物相を持っています。

淡水域では、河川、湖沼、湿地などの水環境が対象となり、そこに生息する魚類や水生昆虫、水鳥などの分布パターンに基づいて区分されています。これらの分類により、地球上のあらゆる自然環境が漏れなく把握されているのです。

グローバル200エコリージョンとは

全世界のエコリージョンの中でも、特に保護の優先度が高いとされる238か所が「グローバル200」として選定されています。この選定は、種の多様性、固有性(その地域にしかいない生き物の多さ)、特異性などを基準に行われています。

グローバル200に選ばれた地域は、地球全体の生物多様性を維持するために欠かせない場所とされています。例えば、マダガスカル島のスピニー森林や、インドネシアのスマトラ・ボルネオ低地雨林などが含まれており、これらの地域では優先的な保護活動が展開されています。

日本では、南西諸島(奄美群島、沖縄諸島、先島諸島)がグローバル200の一部として認定されており、世界的に見ても重要な生物多様性のホットスポット(生物の種類は豊富だが絶滅の危機にある地域)として位置づけられています。

分類の基準と特徴

エコリージョンの境界線は、生き物の生息パターンや環境条件の変化に基づいて設定されます。しかし、自然界に明確な境界線があるわけではないため、隣接するエコリージョン間には「移行帯」と呼ばれるグラデーション的な変化区域が存在します。

分類では、植物相(その地域に生育する植物の種類)、動物相(その地域に生息する動物の種類)、気候条件、地形的特徴などが総合的に考慮されます。人間活動の影響も含めて評価される場合があり、都市化や農地化の進行度合いも分類の要素となることがあります。

日本におけるエコリージョンの具体例と活用

日本におけるエコリージョンの具体例と活用日本列島は、複雑な地形と多様な気候条件により、比較的小さな国土の中に数多くのエコリージョンが存在しています。これらの地域区分は、効果的な自然保護や生物多様性保全のための重要な指標として活用されています。

日本のエコリージョン事例

日本の陸域は、北海道の亜寒帯針葉樹林から沖縄の亜熱帯林まで、緯度に応じて大きく異なるエコリージョンに分類されています。本州では、日本海側と太平洋側で異なる気候条件により、植生や動物相に違いが見られます。

山地帯では標高によってエコリージョンが変化し、低山帯の照葉樹林から、山地帯のブナ林、亜高山帯の針葉樹林、高山帯の高山植物群落まで、垂直方向に複数のエコリージョンが存在します。この垂直分布は、日本の山岳地帯の特徴的な生態系パターンを形成しています。

やんばる国立公園での取り組み

沖縄島北部に位置するやんばる国立公園では、エコリージョンの概念を活用した具体的な取り組みが行われています。この地域は、日本最大級の亜熱帯照葉樹林とサンゴ礁海域を有し、ヤンバルクイナやノグチゲラなどの固有種が生息する生物多様性の宝庫です。

研究者たちは、景観生態学的な観点からこの国立公園のエコリージョンマップを作成し、今後の管理計画に活用することを目指しています。このマップにより、保護すべき重要な生息地や、人間活動との調和を図るべき地域を科学的に特定することができます。

伝統的な集落景観と自然環境が調和した独特の文化的景観も、このエコリージョンの重要な特徴として評価されています。

河川や淡水域でのエコリージョン区分

日本の河川生態系についても、エコリージョンによる地域区分の研究が進められています。全国109の一級水系を対象とした調査では、水生昆虫の分布パターンを基に、河川のエコリージョン区分が検討されています。

カゲロウ類、カワゲラ類、トビケラ類、トンボ類、カメムシ類、コウチュウ類といった水生昆虫6分類群の地域ごとの類似性を解析することで、日本の河川における生物地理学的な特性が明らかになりつつあります。

この研究により、従来は魚類相のみに基づいていた河川エコリージョンの区分が、より多様な生物群を考慮したものへと発展しています。地理的距離や標高、河川次数、集水域面積などの環境要因と生物分布との関係も詳しく分析され、科学的根拠に基づいた河川管理や保全計画の策定に活用されています。

エコリージョンの活用分野と今後の展望

エコリージョンの活用分野と今後の展望エコリージョンの概念は、自然保護にとどまらず、様々な分野で実用的なツールとして活用されています。国際的な環境目標の達成や企業の持続可能な経営において、ますます重要な役割を果たすことが期待されています。

生物多様性保全での活用

エコリージョンは、2022年に採択された「昆明・モントリオール生物多様性枠組」などの国際的な生物多様性保全目標の実現において、中核的な枠組みとして機能しています。この枠組みでは、2030年までに陸域と海域の30%を保護区域とする「30by30目標」が設定されており、エコリージョンの概念が保護区域の選定と管理に活用されています。

国や県が実施する広域的な生態系の管理や保全を目的とした調査、モニタリングの基準としても有効性が認められています。エコリージョンに基づく保全計画により、限られた予算と人員で最大の保護効果を得ることが可能になっています。

また、絶滅危惧種の保護においても、その種の生息地全体をエコリージョンとして捉えることで、より効果的な保護戦略を立てることができます。個々の種を単独で保護するのではなく、生息環境全体を保全するアプローチが重視されています。

企業の環境経営への応用

近年、企業の環境経営においてもエコリージョンの概念が注目されています。TNFD(自然関連財務情報開示タスクフォース)などの国際的なフレームワークでは、企業が自然に与える影響を評価する際に、エコリージョンレベルでの分析が求められています。

大手企業では、自社の事業拠点がどのエコリージョンに位置し、そこにどのような生物多様性の価値があるかを把握する取り組みが始まっています。例えば、製造業では工場周辺の生態系への影響を評価し、食品産業では原材料調達地のエコリージョンにおける持続可能性を検証しています。

これらの取り組みは、単なる環境配慮にとどまらず、将来の事業リスクの把握や新たなビジネス機会の創出にもつながっています。投資家からの関心も高まっており、エコリージョンに配慮した経営は企業価値の向上にも貢献しています。

持続可能な社会づくりへの貢献

エコリージョンの考え方は、持続可能な開発目標(SDGs)の達成にも重要な役割を果たしています。特に、「陸の豊かさも守ろう」「海の豊かさを守ろう」「気候変動に具体的な対策を」といった環境関連の目標において、エコリージョンに基づく取り組みが有効とされています。

地域レベルでは、エコリージョンの概念を活用した持続可能な観光(エコツーリズム)の推進や、地域資源を活かした産業振興が行われています。地域の自然特性を理解し、それを活かした経済活動を展開することで、環境保全と地域発展の両立が図られています。

教育分野においても、エコリージョンは環境教育の重要なツールとなっています。自分たちの住む地域がどのようなエコリージョンに属し、どのような生き物が住んでいるかを学ぶことで、身近な自然への関心と理解を深めることができます。

まとめ

まとめエコリージョンは、単なる地域区分を超えて、私たちの未来を左右する重要な概念です。地球規模の環境問題に対処するため、科学的根拠に基づいて自然環境を理解し、効果的な保全策を実施するための基盤となっています。日本でも、やんばる国立公園での取り組みや河川生態系の調査など、具体的な活用事例が増えています。

今後は、企業の環境経営や持続可能な社会づくりにおいて、エコリージョンの重要性がさらに高まることが予想されます。私たち一人ひとりが、自分の住む地域のエコリージョンについて理解を深め、その保全に関心を持つことが、豊かな自然を次世代に引き継ぐための第一歩となるでしょう。

参照元
・Wikipedia – エコリージョン
https://ja.wikipedia.org/wiki/エコリージョン
・Weblio辞書 – エコリージョンとは
https://www.weblio.jp/content/エコリージョン
・日本生態学会第71回全国大会 – やんばる国立公園のエコリージョンマップ
https://esj.ne.jp/meeting/abst/71/P2-194.html
・ESRIジャパン – マップギャラリー2019
https://www.esrij.com/news/details/116800/
・環境省 – 自然環境・生物多様性
https://www.env.go.jp/nature/
・環境省 – ネイチャーポジティブ経営推進プラットフォーム
https://www.biodic.go.jp/biodiversity/private_participation/business/kigyou/

  • 記事を書いたライター
  • ライターの新着記事
MIRASUS

MIRASUS編集部。地球と人に優しい未来をつくるサステナビリティな事例をご紹介。誰にでもわかりやすくSDGsに関する情報は発信していきます。

  1. ESG投資とは?注目される理由と投資方法をわかりやすく解説

  2. エコリージョンとは?生物多様性保全の鍵となる地域区分をわかりやすく解説

  3. グリーンボンドとは?仕組みやメリットをわかりやすく解説

RELATED

PAGE TOP