フェアトレードのコーヒーやチョコレートを選ぶとき、私はいつも「この商品のCO2排出量ってどこまで計算されているんだろう」と気になってしまいます。パッケージの認証マークは目に入っても、その裏側にある「バリューチェーン排出量」という言葉まで意識する人は、まだ少ないのではないでしょうか。実際に企業のサステナビリティレポートを何冊か読み比べてみると、同じ業界でも開示のしかたがまったく違い、正直かなり戸惑いました。この記事では、そのつまずきも含めて、バリューチェーン排出量を削減するとはどういうことか、企業と生活者それぞれの視点から整理していきます。
バリューチェーン排出量とは何を指すのか
バリューチェーン排出量とは、自社の工場や事業所から出る排出(Scope1・2)だけでなく、原材料の調達から製品の輸送、販売後の使用、廃棄までを含めた一連の流れ全体で発生する温室効果ガスを指します。国際的な算定基準であるGHGプロトコルでは、これをScope3として15のカテゴリーに分類しており、購入した製品・サービス、資本財、燃料・エネルギー関連活動、輸送、出張、従業員の通勤、さらに販売した製品の使用や廃棄まで、実に幅広い範囲が対象になります。まずはこの言葉の指す範囲を押さえたうえで、次からは「では実際に何をどう減らしていくのか」という実践の話に進みます。
なぜScope3が排出量削減のカギになるのか
多くの製造業やサービス業では、自社の工場や事業所から直接出る排出量よりも、原材料調達や製品の使用段階で発生する排出量のほうが大きな割合を占めるとされています。たとえば家電メーカーであれば、販売した製品を消費者が使う際の電力消費に伴う排出が、自社工場の排出量を上回るケースも珍しくありません。食品メーカーであれば、原料となる農産物の栽培段階での排出が大きな比重を占めることもあります。つまり、自社の努力だけでは削減しきれない部分が、バリューチェーン全体には多く含まれているということです。この構造を理解しないまま「排出量削減」を語ると、実態を見誤ってしまう恐れがあります。
バリューチェーン排出量を削減する実践ステップ
ここからは、企業が実際にバリューチェーン排出量の削減に取り組む際に踏むことが多い、いくつかの段階を見ていきます。定義を知るだけでは行動につながらないので、順を追って具体的に見ていきましょう。
算定範囲を可視化するところから始まる
最初のつまずきポイントは、実は「削減」ではなく「算定」にあります。どのカテゴリーがどれだけの排出量を占めているのか、社内の購買データや物流データを整理しないと見えてきません。私自身、ある企業のサステナビリティレポートでカテゴリー別の内訳が公開されているものと、総量しか書かれていないものを見比べたことがあるのですが、内訳が細かく出ている企業ほど、その後の削減施策も具体的に書かれている傾向を感じました。裏を返せば、算定の粒度が粗いままだと、対策も「取引先に協力を呼びかけます」といった抽象的な表現にとどまりやすいということです。
サプライヤーとの協働なしには進まない
購入した原材料や部品の製造段階での排出(カテゴリー1)は、多くの企業でバリューチェーン排出量の中でも大きな比重を占めるとされています。ここを減らすには、自社だけでなく取引先の生産工程にも踏み込む必要があり、再生可能エネルギーの利用を条件に加えたり、排出量データの報告を求めたりする動きが企業の間で広がっています。ただし、これは中小の取引先にとっては負担にもなり得るため、一方的な要求ではなく、データ収集の仕組みを共同で整えるなど、伴走型の関わり方が求められる場面だと感じます。
使用段階の排出をどう設計に反映するか
家電や自動車のように、販売後に消費者が使う段階で長期間エネルギーを消費する製品では、使用時の省エネ性能そのものが排出削減の大きな鍵になります。製品設計の段階で消費電力を抑える工夫をすることは、メーカー側のバリューチェーン排出量削減であると同時に、使う側の光熱費削減にもつながる、双方にメリットのある取り組みだと言えます。
企業の取り組みに見られる共通パターン
複数の企業のサステナビリティ情報を見比べていくと、いくつか共通する動きが見えてきます。ひとつは、サプライヤー向けの行動規範や排出量報告の枠組みを整備する動き。もうひとつは、科学的根拠に基づく目標設定の枠組み(SBTなど)に沿って、Scope1・2だけでなくScope3も含めた削減目標を掲げる動きです。さらに、再生可能エネルギー由来の電力調達を自社だけでなく取引先にも広げていく動きも見られます。こうした取り組みは業種によって濃淡があり、どの企業が特に進んでいるかを単純比較するのは難しいのですが、複数のカテゴリーにまたがって手を打っている企業ほど、削減の実効性が高まりやすい印象を受けます。
具体的にどのようなSDGs関連の取り組みが企業で進められているか、事例を集めた記事も参考にしてみてください。
生活者としてバリューチェーン排出量にどう関われるか
ここで少し、フェアトレード商品を選ぶ生活者としての立場から考えてみます。私たちが商品を購入するという行為は、実は企業側から見るとバリューチェーン排出量の一部(購入した製品の使用段階や、輸送段階など)に組み込まれています。つまり、消費者の選び方や使い方そのものが、企業の排出量データに影響を与える構造になっているということです。
見落としがちなポイントとして、フェアトレード認証やオーガニック認証は「労働環境」や「農薬使用」に焦点を当てたものが多く、必ずしも「カーボンフットプリント(CO2排出量)」を保証するものではない、という点があります。私も最初は「フェアトレード=環境にも良い」と漠然と捉えていましたが、認証の目的をよく確認すると、排出量の観点では別の指標(カーボンフットプリント表示など)を見る必要があるとわかり、少し反省しました。両方の視点を持って商品を選ぶことが、結果的に企業のバリューチェーン排出量削減を後押しすることにつながります。
業種の異なる企業がどのような事例で取り組みを進めているかを知ることも、自分の消費行動を見直すヒントになります。
今日から試せる1つの行動
大がかりなことをする必要はありません。次に何かを購入するとき、その企業の公式サイトやサステナビリティレポートで「Scope3」または「使用時のCO2排出」という言葉が出てくるかどうかを一度探してみてください。それだけで、その企業がバリューチェーン全体をどこまで見ているかが、なんとなく見えてきます。
まとめ
バリューチェーン排出量の削減は、自社工場の対策だけでは完結しない、取引先や消費者を含めた広い範囲の話だとわかりました。定義を覚えることより、どこにボトルネックがあるかを可視化し、関係者と一緒に手を打っていく姿勢のほうが大切だと、レポートを読み比べる中で実感しています。
- バリューチェーン排出量はScope1・2に加え、調達から使用・廃棄までを含むScope3の15カテゴリーで捉える
- 多くの企業でScope3が排出量全体の大きな部分を占めるとされ、サプライヤーとの協働や製品設計の見直しが欠かせない
- 消費者の購入・使用のしかたもバリューチェーン排出量の一部であり、認証マークの目的を確認しながら選ぶことが後押しになる
本記事はMIRASUS編集チームが公的資料・企業公式情報をもとに作成しています。
参考文献
- 環境省「グリーン・バリューチェーンプラットフォーム」(環境省, https://www.env.go.jp/earth/ondanka/supply_chain/gvc/index.html)
- GHG Protocol「Corporate Value Chain (Scope 3) Accounting and Reporting Standard」(World Resources Institute / WBCSD, https://ghgprotocol.org/scope-3-standard)
- CDP「CDPについて」(CDP Worldwide, https://www.cdp.net/ja)



