公式LINEアカウントでも絶賛配信中!

友だち追加
CSR

ESG評価の方法を徹底整理|主要機関の違いと企業が押さえるべき指標

Photo by nikohoshi on Unsplash

「ESGスコアが低い」と言われたが、どこをどう改善すれば良いのかわからない——サステナビリティ報告書の調査をしていると、そんな声を担当者からよく聞きます。ESG評価は「環境・社会・ガバナンスへの取り組みを第三者機関が定量的に評価した指標」ですが、評価機関が複数あり、それぞれの算出基準が異なるため、全体像を把握するだけでも一苦労です。この記事では、主要評価機関の方法論の違いから、企業が情報開示をどう整理するかまで、順を追って説明します。

ESG評価とは何を測るものか

ESGとは、環境(Environment)・社会(Social)・ガバナンス(Governance)の3つの要素を指します。従来の企業評価が売上・利益などの財務情報を中心としていたのに対し、ESG評価は「長期的に持続可能な経営ができているか」を非財務情報から測ろうとするものです。

機関投資家の投資判断や金融機関の融資審査、さらには大企業のサプライチェーン管理にも活用されるようになり、中堅・中小企業にとっても無関係ではなくなっています。環境省や経済産業省もESG情報開示の指針を公表しており、国内でも制度的な裏付けが整いつつある段階です。

ただし重要なのは、ESG評価は「取り組みの良し悪し」を絶対的に決めるものではなく、評価機関ごとに視点や重みづけが異なるという点です。この前提を理解しないまま「スコアを上げる」だけを目的にすると、本質的な改善につながらないリスクがあります。私自身も研究の初期段階でこの「評価機関ごとの差異」を見落とし、あるレポートの数値を別機関のランキングと混在させてしまったことがありました。

主要ESG評価機関と方法論の違い

世界には30以上のESG評価機関が存在すると言われており、代表的なものとして、MSCI、FTSE Russell、Sustainalytics、S&Pグローバル(CSA/DJSI)の4機関がよく挙げられます。それぞれが独自のスコアリングモデルを持ち、同じ企業でも機関によってスコアが大きく異なるケースは珍しくありません。

MSCI ESGレーティング

MSCIはAAA〜CCC(7段階)でレーティングを付与します。公開情報を中心に収集しつつ、企業との直接ダイアログも評価プロセスに組み込まれています。ただし、スコアの根拠となった具体的な開示内容が企業側から確認しにくいという指摘があり、透明性の点では課題も残されているとされます。

FTSE Russell ESGレーティング

FTSE RussellはESGスコアを0〜5のスケールで評価します。最大の特徴は透明性の高さで、企業は評価された各指標に対してどの公開情報がスコアの根拠となったかを個別に確認できます。「なぜこの項目が低評価なのか」を実務担当者が正確に把握しやすいため、改善アクションにつなげやすい設計になっています。

Sustainalytics ESGリスクレーティング

Sustainalyticsは他機関とやや異なるアプローチを取り、「未管理のESGリスクがどの程度あるか」を数値化します。スコアは低いほどリスクが小さく管理が行き届いていることを意味するため、通常の格付けとは逆の読み方をする点に注意が必要です。初めてレポートを読んだときに「スコア10と30ではどちらが良いのか」と戸惑う担当者は少なくありません。現在はモーニングスター傘下で運営されています。

S&Pグローバル(CSA/DJSI)

S&PグローバルのコーポレートサステナビリティアセスメントCSAは、企業が詳細なアンケートに回答する形式が中心です。DJSIはそのスコア上位の企業を対象としたインデックスです。公開情報のみで評価するFTSEやMSCIとは異なり、企業の内部データや詳細な記述回答も評価に含まれるため、回答の戦略や記述力が評価に影響するという側面があります。

ESG評価の3つの柱|E・S・Gの主要指標を整理する

各機関で重みづけは異なるものの、E・S・Gそれぞれに共通して登場する代表的な指標があります。公開情報を読み解く際の参照軸として整理します。

E(環境)の主要指標

温室効果ガス(GHG)排出量のスコープ1・2・3の開示が、環境評価において最も頻出する指標の一つです。排出量の削減目標をScience Based Targets initiative(SBTi)等で設定しているかどうかも加点要素として扱われることが多いとされます。そのほか、水資源の使用量・管理状況、廃棄物の削減取り組み、生物多様性への影響も評価対象に含まれます。

S(社会)の主要指標

労働安全衛生、ダイバーシティ&インクルージョン(D&I)、サプライチェーンにおける人権方針の整備などが社会(S)領域の主要指標です。女性管理職比率や育児休業取得率の開示が進んでいる日本企業は増えましたが、サプライチェーン全体に人権デューデリジェンスを適用する開示は、依然として少ない傾向があると言われています。

G(ガバナンス)の主要指標

取締役会の独立性・多様性、報酬の透明性、株主への説明責任体制などがガバナンス(G)の中心的な指標です。コーポレートガバナンス・コードの実施状況や、汚職防止ポリシーの有無なども評価項目に含まれます。日本企業においては、社外取締役比率の向上が近年のガバナンス改善の主要テーマの一つとなっています。

情報開示フレームワークとESG評価の関係

ESG評価機関はスコアを算出する際、企業が公表する情報開示資料を主な情報源とします。したがって、どのフレームワークに沿って情報を開示するかがスコアに直結します。国際的に参照されることの多いフレームワークを簡単に整理します。

  1. GRI(Global Reporting Initiative)スタンダード:世界で最も広く採用されているサステナビリティ報告基準。環境・社会・ガバナンスの幅広いトピックを網羅しており、FTSE RussellやSustainalyticsのスコアリングにも参照されます。
  2. TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース):気候変動に関する財務影響をガバナンス・戦略・リスク管理・指標と目標の4項目で開示する枠組みです。現在はISSBが引き継いだIFRS S2基準と連携されています。
  3. SASB(Sustainability Accounting Standards Board)スタンダード:業種別に重要度の高い(マテリアルな)サステナビリティ項目を定義しており、投資家向けの情報開示との親和性が高いとされます。
  4. ISSB(国際サステナビリティ基準審議会)基準:IFRS S1・S2として公表され、企業のサステナビリティ開示を国際的に標準化する動きの最前線にある基準です。日本ではSSBJ(サステナビリティ基準委員会)が国内対応基準を策定中です。

これらのフレームワークを対比すると、GRIが広範な利害関係者向けの報告を重視するのに対し、SASB・ISSBは投資家の意思決定支援を優先する設計になっています。どれか1つを選べばすべてカバーできるわけではなく、目的に応じた組み合わせが求められます。

評価機関によってスコアが異なる理由

同じ企業でも評価機関によってスコアが大きく異なることがあります。これは各機関のスコアリングモデルが独自に構築されているためで、評価項目の選択・ウェイト付け・データ収集の方法がそれぞれ異なります。ある学術研究では、主要ESG評価機関間のスコア相関が比較的低いことが指摘されており、「ESGスコアは客観的な指標」と単純に信じることへの警戒感も研究者の間では共有されています。

複数の企業のIR資料など公開情報の傾向を整理すると、同一企業でも機関によって評価の高低が入れ替わるケースが見受けられました。たとえば環境開示に力を入れている企業がMSCIでは高評価を受けながら、Sustainalytics上では未管理リスクとして指摘される項目を抱えているという状況は、実際の開示資料からも読み取れます。

この「機関間のばらつき」は、投資家にとってはノイズになる一方、企業にとっては「どの評価軸を優先するか」を戦略的に考える余地でもあります。まず自社が対応すべき投資家・取引先がどの評価機関のスコアを参照しているかを確認することが、改善の出発点になります。

日本企業のESG評価の現状

D&Bの調査(2025年10月時点)によると、主要40カ国のESGランキング平均スコアにおいて日本は22位と中位に位置しており、上位は東欧・北欧が中心となっています。産業構造の多様性や企業規模のばらつきが平均スコアに影響しているとみられます。

また、日本株のESG投資割合は「ESG投資実態調査2025」によると46%とされており、2024年調査から5ポイント上昇しています。米国を中心に広まった「反ESG」の動きにもかかわらず、国内機関投資家による日本株ESG投資は回復傾向にあります。

一方で課題として挙げられるのが、開示情報の質と範囲です。女性を含む従業員の機会均等に関する方針開示について、日本を含むアジア諸国は先進国の上場企業と比較して少ない傾向にあることが、評価機関のメソドロジー資料でも言及されています。スコープ3排出量の開示やサプライチェーン人権デューデリジェンスの整備も、多くの企業で途上にある領域です。

日本企業のサステナビリティ事例をもっと見る

企業がESG評価を改善するための考え方

ESGスコアの改善を目指す前に、まず「どの評価機関のスコアが自社のステークホルダーにとって重要か」を特定することが肝心です。取引先や主要株主がどの機関のスコアを参照しているかを確認するだけで、取り組みの優先順位はかなり絞り込めます。

次に、現状の開示情報と評価機関の評価項目を照らし合わせるギャップ分析です。FTSEのように根拠となった開示を確認できる機関を使って、どの項目が未開示になっているかを洗い出すのが実務的な入口です。私が省庁の公開資料を調査した経験から言うと、「開示していないから低評価」というケースは、取り組みそのものが不十分なケースよりも多い印象を持っています。

さらに、開示するだけでなく「なぜその取り組みを行うか」という背景(マテリアリティ)と数値目標をセットで示すことが、評価機関や投資家の信頼につながります。環境負荷の削減を宣言するだけでなく、基準年・削減率・測定方法を明記することが求められます。根拠のない「環境配慮型」「サステナブル」という表現はグリーンウォッシングと見なされるリスクがある点も忘れてはいけません。

エシカル消費・サプライチェーンの取り組みについてはこちら

公開情報から見る|「評価機関の違い」を読者目線で整理すると

公開情報を整理してみると、企業のIR担当者が混乱しやすいポイントとして「4機関の評価軸の違いを把握しないまま対策を立てている」という傾向が見受けられます。以下に比較表として整理します。

  • MSCI:7段階レーティング。公開情報+ダイアログ。スコア根拠の透明性は限定的。
  • FTSE Russell:0〜5スケール。公開情報のみ。根拠となった開示が企業側で確認可能。
  • Sustainalytics:リスクスコア(低いほど良い)。未管理ESGリスクに着目。モーニングスター傘下。
  • S&Pグローバル(CSA):100点満点。企業アンケート回答が評価の柱。記述力・回答戦略が影響。

「全機関で高スコアを取る」ことを目標にするよりも、自社のステークホルダーが参照している機関を起点に対策を絞るほうが、現実的かつ効果的です。複数機関の改善を並行して進める場合も、GRIやTCFD等の開示フレームワークに沿った情報整備を土台とすることで、複数の機関評価に共通して対応できる部分が大きくなります。

気候危機と企業の対応については気候変動クラスター記事もご参照ください

今日から試せる1アクション

まず1つだけ試してほしいのは、自社のサステナビリティレポートとFTSE RussellまたはMSCIの評価項目リストを並べてみることです。FTSEは評価項目を公開しており、どの項目に対してどの開示資料が根拠として使われるかを企業側で確認できます。「開示しているつもりだったが、評価機関には届いていなかった」という発見が、具体的な次の一手につながることが多いためです。

まとめ|ESG評価を正しく理解するためのポイント

  • ESG評価は機関ごとに方法論が異なり、同一企業でもスコアが異なることがある
  • MSCI・FTSE Russell・Sustainalytics・S&Pグローバル(CSA)はそれぞれ評価軸と透明性が異なる
  • GRI・TCFD・SASB・ISSB等のフレームワークに沿った情報開示が、評価改善の土台となる
  • まず自社のステークホルダーが参照している評価機関を特定し、ギャップ分析から始めることが実務的な第一歩
  • 「環境に優しい」などの根拠なき表現はグリーンウォッシングリスクにつながるため、数値と目標のセット開示が不可欠

RELATED

PAGE TOP