日本に住む私たちが病気になったら、医療機関にかかることは日常的なことです。
日本では予防接種や健康診断も特別めずらしいものではありません。
しかし、世界では貧困や病院への距離を理由に保健医療サービスを受けられない人がいます。
この記事では、SDGsの目標にも挙げられているユニバーサルヘルスカバレッジについて紹介します。
ユニバーサルヘルスカバレッジとは?
ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)とは、「すべての人が適切な健康増進・予防・治療・リハビリに関するサービスを支払い可能な費用で受けられる」ことを意味する言葉です。
日本には「国民皆保険制度」という、すべての国民が介入している公的な医療保険制度があります。
この制度のおかげで日本ではUHCが実現しており、病気になったとしても医療費の一部を支払うだけで病院にかかることができます。
しかし、世界的には日本のように公的な医療保険制度が導入されている国ばかりではありません。
UHCが実現していない国や地域では、適切な医療を受けることができずに感染症や下痢などの治療をすれば治る病気で、多くの人が亡くなっています。
UHCは、経済的な理由で病院に行くのをあきらめてしまう人がいなくなることを目指しています。
参照元:「ゴール3の達成に向けたJICAの取組方針」|独立行政法人 国際協力機構
ユニバーサルヘルスカバレッジとSDGsの関係
UHCは、SDGsの目標の中の一つに挙げられています。
目標3「すべての人に健康と福祉を」には、「全ての人々に対する財政リスクからの保護、質の高い基礎的な保健サービスへのアクセス及び安全 で効果的かつ質が高く安価な必須医薬品とワクチンへのアクセスを含む、ユニバーサルヘルスカバレッジ(UHC)を達成する」と示されているのです。
SDGsは2030年までの達成を目指しています。
それまでに誰もが適切な医療を負担可能な費用で受けられるようになることが求められています。
ユニバーサルヘルスカバレッジにおける3つの課題とは
UHCを実現するためには、3つの課題を改善することが必要とされています。
3つの課題とは、「物理的アクセス」「経済的アクセス」「社会習慣的アクセス」です。
それぞれの課題について見てみましょう。
物理的アクセス
まず、一つ目の課題である物理的アクセス。
保健医療サービスを受けるためには、医療を提供する場所、薬や設備、そして人材が必要です。
物理的アクセスの課題例として「近所に医療施設がない」「医薬品や医療器材がない」「医師や看護師がいない」の3つが挙げられています。
近所に医療施設がない
金銭的な課題だけではなく、距離が遠いことを理由に病院に行くのをためらう人もいます。
都会と田舎では医師や病院の数に格差があります。
とくに農村部には病院が少ないため、病気になっても受診するまで何時間もかかることも珍しくはありません。
医薬品や医療器材がない
医薬品や医療器材がなければ、適切な医療を受けることができません。
年間約2億人もの人が感染しているマラリア。
そのうち200万人の方がマラリアを原因として命を落としています。
治療薬の開発されているマラリアで命を落としている人の大半が、医療過疎が問題となっているサハラ以南のアフリカに住む5歳未満の子どもたちであるという報告があります。
医師や看護師がいない
途上国では、医師が少なく体調が悪くてもすぐに専門家に診てもらうことが難しい現状があります。
世界の40%以上の国では、人口1000人に対して医師が 1人以下で、人口1000人あたり医師が2人以上いる日本と比較すると、大きな格差がみられます。
世界中のすべての人に適切な保健医療サービスを提供するためには、2030年までに1800万人の医療従事者の育成が必要とされています。
経済的アクセス
二つ目の課題として挙げられているのは、経済的アクセス。
経済的アクセスの課題例として「医療費の自己負担が高い」「受診のための交通費が高い」「病気に伴い収入が減る(看病する家族も)」の3点が示されています。
医療費の自己負担が高い
日本には、国民皆保険制度に加えて収入や疾患の種類によるさまざまな減免措置があるため、治療費の支払いで生活が苦しくなることはイメージしにくいかもしれません。
しかしながら、多くの国では医療費は全額を自己負担で支払う必要があります。
発展途上国に限らず、アメリカを含む先進国にも皆保険制度を持っていない国があり、年間およそ1億5千万人の人々が医療への出費が原因で経済破綻に苦しんでいるという報告も。
病院に行くことによる経済的な負担感から、医療が身近なものではない国もあるのです。
受診のための交通費が高い
物理的アクセスの課題の一つである「近所に医療施設がない」ことが、受診のための交通費に関係しています。
農村部に住む人が病院に行く場合、医療機関のある地域までの交通費も必要になってしまいます。
病気に伴い収入が減る(看病する家族も)
病気や家族の看病を理由に仕事を休むことで収入が減り、治療費が払えず治療を継続できない人もいます。
治療が行えないと病気の回復は難しく、仕事に復帰できずに貧困につながる、といった悪循環がおこります。
全ての人が基本的な医療を負担可能な費用で受けられることは、貧困に陥るリスクを防ぐことにもつながるのです。
社会習慣的アクセス
三つめは社会習慣的アクセス。
社会習慣的アクセスの課題例には「サービスの重要性、必要性を知らない」「家族の許可が得られない」「言葉が通じない」の3点が挙げられています。
サービスの重要性、必要性を知らない
教育格差と健康格差には因果関係があります。
教育を受けていない人は、健康を維持するための食事・生活習慣や、病気の予防方法を知らないこともあるからです。
病気についての知識がないと、受診のタイミングがつかみにくく重症化して治りにくくなり、命を落としてしまう危険が高まります。
家族の許可が得られない
体調が悪くても、仕事を休んで病院に行くことを家族が許してくれないケースがあります。
これは、医療の重要性が広く認識されていないことが原因でおこりやすい課題です。
家族の誰かが受診の必要性に気付いていても、家長の許しが得られない場合や、高額な治療費の支払いをためらって受診を制限する場合もあるようです。
言葉が通じない
発展途上国では、地域ごとに言語が違うこともあり、医療スタッフに言葉が通じないことを理由に受診をあきらめてしまう人もいます。
コミュニケーションがとれないことは、体調の悪い人にとって大きな精神的負担になるためです。
物理的アクセスが改善されないと、同じ地域で同じ言語を話す医師に診てもらう機会にも恵まれにくくなります。
参照元:
・「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」|独立行政法人 国際協力機構
・「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(ファクトシート)」|厚生労働省
ユニバーサルヘルスカバレッジの実現に向けた取り組みとは
日本をはじめとする世界の国々のUHC達成に向けた取り組みについて紹介します。
G7伊勢志摩サミット
2016年に行われたG7伊勢志摩サミット。
開催国である日本はG7として初めて首脳会談でUHCの推進を主要テーマに設定しました。
サミットでは、国際社会が連携して発展途上国のUHCの確立を支援することが表明されました。
その後、2019年のG20大阪サミットで、さらに各国のUHCへの取り組みをまとめ、2030年のSDGsの達成に向けた話し合いが行われています。
ユニバーサルヘルスカバレッジデー
毎年12月12日はユニバーサルヘルスカバレッジデーです。
これは、2012年12月12日に国連総会でUHCを国際社会共通の目標とする決議が採択されたことを記念して設定されました。
UHCを推進する取り組みの一環として、「誰もが、どこでも、お金に困ることなく、自分の必要な質の良い保健・医療サービスを受けられる状態」の実現を呼びかけるイベントが世界中で開催されています。
参照元:「2018年世界保健デーのテーマは「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」です。」|厚生労働省
SDGsの達成にもつながるユニバーサルヘルスカバレッジを理解しよう!
UHCの3つの課題と日本をはじめとする世界の取り組みについて紹介しました。
住んでいる国や地域の違いで健康格差が生まれている現状は、見過ごせない課題です。
UHCの実現のために多くの国際機関が活動していますが、それぞれの国や地域が抱えている課題はさまざまです。
しかし、今回紹介した3つの課題である「物理的アクセス」「経済的アクセス」「社会環境的アクセス」の視点をもってその地域特有の課題を浮き彫りにすることができれば、解決の糸口は見つかりやすくなります。
医療を提供する人材の育成や、病院などの施設や機材の設置、衛生環境の改善や教育など、介入すべきポイントは多岐にわたります。
医療提供体制が充実している日本に住む私たちは、今後も国内でのUHCを維持しながら世界中にUHCが広がっていくように理解を深めていくことが大切かもしれません。