水道の蛇口をひねれば、きれいで安全な水がすぐに出てくる。日本ではごく当たり前のこの光景が、世界では決して普通ではありません。そして、その「当たり前」が日本国内でも揺らぎはじめています。老朽化が進む水道インフラ、気候変動がもたらす渇水、人口減少による水道事業の経営悪化——2026年は、水資源の持続可能性を問い直す重要な節目の年でもあります。
世界の水危機|21億人が安全な水を使えない現実
国連によると、人類が利用できる淡水は地球上の水のわずか0.5%に過ぎず、今なお約21億人が安全な水へのアクセスを持たずに暮らしているとされています(ユニセフ・WHO、2024年データ)。
安全な飲料水と衛生へのアクセスは、人の健康と福祉のための最も基本的なニーズであり、人権として宣言されています。しかし、世界では約20億の人々が未だに安全な飲料水へのアクセスを欠いており、世界人口の40%が水不足の影響を受けているという見方があります。農業における需要だけで、水使用の約70%を占めているとされています。こうした負荷に加え、災害の90%以上が水に関連しており、気候変動は水を通じて最も大きな被害を生んでいます。さらに、人類の水需要は拡大する一方で、淡水への負荷は2050年までに40%以上増加すると予測されています。
この深刻な状況に対応するため、
セネガル共和国とアラブ首長国連邦が共催する2026年国連水会議が、協調行動による成果の加速に向けた重要な国際的節目として位置づけられています。
この会議は2026年12月2〜4日、アラブ首長国連邦で開催される予定です。
2023年3月にニューヨークで開かれた前回の国連水会議では、
「水行動アジェンダ」が採択され、水危機にある世界から水が確保された世界への変革を推進するための700を超えるコミットメントが盛り込まれました。
この流れを受け、2026年の会議では各国の行動の進捗確認と、さらなる資金動員が焦点となっています。
2021年における淡水の総利用価値(直接的、間接的利用を含む)は58兆ドルと推定され、これは世界のGDPの60%に相当するとされます。また、浄化、洪水緩和、炭素固定といった間接的価値は直接的利用の7倍に上るにもかかわらず、経済モデルではほとんど考慮されていません。
「水が豊富な国」日本が抱える意外な脆弱性
日本は年間降水量が世界平均を大きく上回る多雨国ですが、実態はそれほど単純ではありません。
一人当たりの年降水総量でみると、日本は約5,000㎥/人・年となり、世界の一人当たり年降水総量約20,000㎥/人・年の4分の1程度となっています。また、水資源賦存量を一人当たりでみると、日本は約3,400㎥/人・年と、世界平均である約7,100㎥/人・年の2分の1以下です。
日本の地形は急な場所が多くて河川が短く、さらに梅雨期や台風期に雨が集中して降るため、ほとんどの水は使われることなく海に流れるなどしてしまいます。私たちが使用できる水は、約770億立方メートルであり、降水量の総量の約10%に過ぎません。
こうした構造的な問題に加え、近年は気候変動の影響で渇水リスクも高まっています。
国土交通省は令和7年12月11日に渇水情報連絡室を設置したとされており、現在、中部・近畿・四国・九州の各地方整備局に渇水対策本部が設置されているという情報があります(2026年3月2日時点)。
老朽化する水道インフラ|「水道カルテ」が示す課題
日本の水問題において今、最も喫緊の課題のひとつとなっているのが、水道インフラの老朽化です。
政府は2024年12月に「水道カルテ」を公表し、全国約1,300の水道事業者の経営状況と施設の耐震化率を可視化したとされています。このデータにより、水道料金で給水コストを賄えていない事業者や、浄水場や配水池の耐震化率が全国平均を下回る施設を抱える地域の課題が明らかになったとされています。
2022年度の時点で、料金回収率が100%を下回り、かつ耐震化率も平均以下である事業者は全体の約46.5%に上るという見方があります。特に小規模な自治体では、老朽化対応や災害対策の遅れが目立ちます。
日本の水の安全保障は、高齢化の進行、収入の減少、地域間格差、そして脆弱な水インフラなどの課題を抱えており、水が豊富であることと、水へのアクセスが安定していることは同義ではありません。
都市部において、処理済み水の約40%が漏水により失われているという報告もあり、水道システムへの慢性的な投資不足が課題となっています。
日本政府の対策|新たな「水循環基本計画」が動き出す
こうした課題に対し、日本政府は包括的な対策を進めています。
令和6年(2024年)8月30日に、新たな「水循環基本計画」が閣議決定されたとされています。水循環基本計画は、平成26年に成立した水循環基本法に基づき、水循環に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るために定められる、日本の水循環に関する基本的な計画です。
今後、各府省庁が一体となって、「代替性・多重性等による安定した水供給の確保」「施設等再編や官民連携による上下水道一体での最適で持続可能な上下水道への再構築」「2050年カーボンニュートラル等に向けた地球温暖化対策の推進」「健全な水循環に向けた流域総合水管理の展開」の4つを重点的な取り組みの柱として施策を推進することとしています。
また、国は水道事業者全体に対するアンケート調査や実態把握を進め、新たなガイドラインの策定が検討されているとされています。加えて、広域連携や官民連携の推進、耐震化や省エネ型設備の導入支援も進められています。
地方都市での先進的な取り組み
地方レベルでも積極的な動きが広がっています。
水源林の保全や都市緑化、地域住民との協働による環境教育にも注力する都市が増えており、こうした取り組みは、社会インフラの脱炭素化とレジリエンス強化を同時に実現する道筋を示しています。
「水の価値」を問い直す視点
2026年の国連水会議に向けて、いま国際社会で強調されているのが「水の真の価値」を経済的・社会的に正しく評価することの重要性です。
国連持続可能な開発目標(SDGs)達成まで残り5年となった今、水システムの変革と、SDG目標6「安全な水とトイレを世界中に」の達成において、イノベーションと資金調達が果たす極めて重要な役割が強調されています。
現在の水分野への資金調達モデルは断片化しており、OECDと国連のデータによると、2022年に給水と衛生分野に向けられた投資額は、世界の公式開発援助(ODA)総額のわずか3.1%、約85億ドルにとどまっています。
水への投資は、単なる設備投資ではなく、食料安全保障・気候変動対策・人権保障に直結する課題です。
水の真の価値を認識することにより、連携が可能になります。水への価値評価は水レジリエンスの基盤であり、水への投資はその価値を引き出す鍵です。
私たちにできること
水問題は遠い国の話ではなく、日本の水道が抱える老朽化問題や渇水リスクとして、すでに足元に迫っています。まず日常の節水意識を持つことはもちろん、自分が暮らす地域の水道事業の現状や「水道カルテ」の公開データを参照してみることも一つの行動です。水の価値を「当たり前」から「大切なもの」として意識し直すことが、持続可能な水の未来への第一歩となります。
2026年12月の国連水会議は、世界が「水をどう守るか」を問い直す場になります。その議論の行方を、日本に暮らす私たちも関心を持って見守っていきたいところです。

