太陽光や風力が増えるほど、電気を「つくる量」より「いつ使えるか」が問われるようになり、鍵を握るのが大規模蓄電所(BESS=系統用蓄電池)です。国際エネルギー機関(IEA)によると、2025年の世界の電池容量の追加は約108GWに達し、前年から約4割増えました。BloombergNEFの集計では、2025年の導入量は112GWです。
この記事では、世界の最新数値、先行する地域の使われ方、日本の現在地、そして蓄電池への誤解までを順に整理します。
再エネが増えるほど蓄電池が必要になる理由
太陽光発電は晴れた日の昼間に集中して発電し、日没後にはほとんど発電できなくなります。風力も風次第で変動します。電気は「使う量」と「つくる量」を常に一致させなければならないため、再エネの割合が高まるほど、この時間のずれが大きな課題になります。蓄電池はそのずれを埋める装置です。昼に余った電気をためて、需要が高まる夕方から夜に放出します。
昼に余り、夕方に足りなくなる
日本でも、電力需要が小さく日射が十分にある春や秋の晴れた日は、昼間に電気が余りやすくなります。10月の今ごろは、冷暖房の需要が少ない季節にあたります。供給が需要を上回ると、送配電事業者は発電所に出力を絞るよう求めます。これが「出力制御」です。せっかくつくれる電気を捨てる形になるため、再エネ事業者の収益も、脱炭素の効果も損なわれます。
一方で、日が沈むと太陽光の出力は急に落ち、それまで余っていた電気が一転して足りなくなります。この夕方の需要ピークを、火力発電が急いで補う構図が各地で続いてきました。
欧州ではマイナス価格が増えている
再エネが多い市場では、昼間の卸電力価格がゼロやマイナスになる時間帯が増えています。電気が余っていて、引き取る側にお金を払ってでも使ってもらいたい状態です。これは再エネ発電事業者にとって、売電収入が落ち込むリスクにつながります。
蓄電池があれば、安い(余っている)時間に充電し、価格が高い夕方に放電できます。つまり蓄電池は、系統の安定と事業の採算の両方を支える設備になりつつあります。
蓄電池が担う役割は変わってきた
かつて系統用蓄電池は、周波数を整える「調整力」の提供が主な用途でした。IEAによれば、調整力の提供を主目的とするプロジェクトの割合は、約45%から約7%に低下しています。いまの成長を引っ張っているのは、昼の電気を夜に回す「エネルギーシフト」です。BloombergNEFも、2025年の導入の約85%が公益事業規模で、主にエネルギーシフト用途だと報告しています。
再エネ全体の最新動向を知りたい方は、次の記事もあわせてご覧ください。
世界の現在地|2025年に導入量は100GWを超えた
大規模蓄電所の拡大は、すでに「これから」ではなく「いま起きている」段階にあります。ここでは機関ごとの数値を並べて、全体像をつかみます。
IEAとBloombergNEFの数値
IEAの「Global Energy Review 2026」は、電池ストレージを最も成長の速い電源技術と位置づけています。2025年の世界の追加容量は約108GWで、前年から約40%増でした。このうち公益事業規模は約87GW、つまり全体の約8割を占めます。
BloombergNEFの「Energy Storage Market Outlook 1H 2026」は、2025年の導入量を112GW(307GWh)、前年比約48%増としています。2026年は158GW(459GWh)、2036年には年間約306GWまで拡大すると予測しています。
IEAとBloombergNEFで数値が少し違うのは、集計の方法や対象が異なるためとみられます。傾向としては、どちらも「2025年に100GWの大台を超えた」点で一致しています。
地域別では中国が先行
IEAは、2025年の追加を中国が約63GW、米国が19GW、欧州が約6.2GWとしています。BloombergNEFの集計では、中国が新規導入の54%、米国が16%でした。世界の追加の過半は中国で、米国がそれに続く構図です。
特に目立つのが豪州です。IEAは、豪州の追加が約8GWとなり、前年の約9倍になったと報じられています。人口の少ない国でも、再エネの比率が高い系統では、蓄電池が急速に増えうることを示しています。
技術の中身|LFPが主流、長時間化も進む
導入される蓄電池の約9割は、リン酸鉄リチウム(LFP)電池です。IEAとBloombergNEFの双方がこの水準を示しています。LFPはコバルトやニッケルを使わず、安全面でも評価されています。
放電時間も徐々に長くなっています。BloombergNEFは、6時間以上の長時間蓄電の導入が2026年に年間2GWへ約4倍になると見込んでいます。また、太陽光と蓄電池の導入量の比は、2016年の56対1から2025年に6対1まで縮まりました。2026年は4対1になる見通しです。太陽光を1つ建てるたびに蓄電池もセットで考える流れが、数字にも表れています。
エネルギー転換の全体像を押さえたい方には、次の記事が入口になります。
先行3地域の使われ方|豪州・カリフォルニア・中国
同じ「大規模蓄電所」でも、地域によって使われ方や目的が異なります。ここでは、データが公開されている先行地域の様子を見ていきます。
豪州|夕方のピークをこなす主役に
豪州の主要電力市場(NEM)では、蓄電池の放電量が四半期ごとに過去最高を更新しています。豪州エネルギー市場運営機関(AEMO)の四半期報告をもとにした報道によると、2025年第3四半期の平均放電量は前年同期比で150%増の215MWでした。夕方の4時から8時の放電が増えたことで、需要の高い時間帯のガス火力の稼働が11%減ったとされています。
2025年第4四半期には、12月29日の午後7時半までの30分間に、蓄電池の放電が単一区間の最高となる2,885MWを記録しました。同期のガス火力の発電量は、2000年第4四半期以来の低水準だったと伝えられています。蓄電池が「夕方の火力」を置き換えている、具体的な例です。
カリフォルニア|2045年に向けた大量導入
米国カリフォルニア州では、州のエネルギー委員会(CEC)の調査で、蓄電池の容量が2018年の約500MWから、2025年半ばまでに16,900MW超へ増えています。州は、2045年までに48,000MW超の蓄電池と4,000MWの長時間蓄電が必要になると見込んでいます。
日中の太陽光で大量に発電し、日没後の夕方から夜に電気を供給する設計は、豪州と共通しています。州が長期の必要量まで示している点が、導入を後押しする材料になっています。
中国|量で世界をけん引する
中国は、IEAによると2025年に約63GWを追加しており、世界の過半を占めています。太陽光・風力の大量導入と、蓄電池の整備を同時に進めてきた結果です。ただし、公開されている詳細な運用データは地域ごとに限られます。ここでは「規模で世界を先導している」という事実にとどめます。
3地域に共通するのは、再エネが急増した後に、夕方のピークと出力制御が課題として表面化し、蓄電池が解決策として選ばれた点です。日本もまさに同じ入口に立っています。
日本の現在地|申込は急増、連系はこれから
日本では、系統用蓄電池に参入したい事業者の申込が急増している一方、実際に系統へつながった設備はまだ少ない状況です。ここでは、その落差を数字で確認します。
申込が連系を大きく上回っている
資源エネルギー庁の資料(2025年9月24日)によると、2025年6月末時点で、連系済みの系統用蓄電池は約25万kWでした。これに対し、接続検討の受付は約14,300万kW(2024年6月末比で約2.4倍)、契約申込みは約1,800万kWです。
接続検討は、複数地点で同時に検討を申し込むケースもあり、すべてが実現するわけではないと注記されています。それでも、事業者の関心が高いことは確かです。世界が年間100GW規模で導入している水準と比べると、日本の連系済み容量はまだ桁が違う小ささです。
出力制御の増加が背景にある
関心の高まりの背景には、出力制御の増加があります。資源エネルギー庁の審議会資料では、2026年の冬、好天などの影響で全国の出力制御量が例年より増えたと説明されています。九州エリアでは追加対策も議題になっています。
電気を捨てる量が増えるほど、「余った時間に充電する蓄電池」の価値は高まります。事業者にとっては、電気を安く買って高く売る収益機会にもなります。
制度面の後押し|長期脱炭素電源オークション
制度面では、長期脱炭素電源オークションが蓄電池を対象に含んでいます。これは、脱炭素電源への新規投資を促すため、落札した電源に長期にわたって収入を確保する仕組みです。応札には運転継続時間などの要件が定められており、資源エネルギー庁のガイドラインは2025年8月27日に改定され、蓄電池は1日1回以上連続6時間以上の運転継続が可能なものに限定されました。
日本の電力の自給率が低いことも、蓄電池への期待を後押ししています。国内でつくった電気を無駄なく使うことが、エネルギー安全保障にもつながるためです。
日本各地で動き出した大規模蓄電所の事例
日本でも、複数の企業連合が各地で大規模蓄電所の建設を進めています。特に北海道は、再エネの適地が多く、蓄電池の計画が集まる地域です。ここでは、公表されている事例を見ていきます。
すでに稼働を始めた蓄電所
北海道石狩市では、芙蓉総合リースが出資する会社が運営する蓄電所が、2026年8月1日に商業運転を始めたと発表されました。出力は10,125kW、蓄電池容量は29,970kWhです。出資者には、九電みらいエナジーや三菱電機などが名を連ねています。
北広島市では、ミツウロコグリーンエネルギーの系統用蓄電池が2026年6月に運用を始めました。経済産業省・資源エネルギー庁の補助事業に採択された案件とされています。
建設中・計画中の案件
千歳市では、三菱HCキャピタルエナジーなど4社が出資する事業会社が2025年6月に着工し、2027年1月の運転開始を目指しています。札幌市では、スパークス、JA三井リース、関西電力が、出力50MW・容量175.5MWhの蓄電所を2か所(合計100MW・351MWh)つくる計画を発表しており、2028年4月の商用運転開始が目標です。
苫小牧市では、NTTアノードエナジーが2028年度の運転開始を予定しています。いずれも事業者の発表にもとづく計画で、最終的な稼働時期や規模は変わる可能性があります。
事例から見える共通点
こうした案件では、リース会社、電力会社、設備メーカー、商社などが出資して、特別目的会社(SPC)をつくる形が目立ちます。蓄電所は初期投資が大きく、収益も市場価格の変動に左右されるため、複数社でリスクを分け合う設計が採られているとみられます。
もう一つの共通点は、規模です。石狩市の約1万kW級に対し、札幌の計画は5万kW級へ大型化しています。日本の蓄電所は、数年のうちに桁がひとつ上がる段階に入りつつあります。
蓄電池をめぐる誤解と課題
蓄電池は万能ではありません。メリットだけを語ると、グリーンウォッシングにつながりかねません。ここでは、誤解されやすい点と、実際の課題を整理します。
蓄電池があれば再エネ100%になるわけではない
蓄電池は電気をつくる装置ではありません。ためた電気がもとから再エネ由来なのか、火力由来なのかによって、環境効果は大きく変わります。また、充放電のたびに一部の電力が失われます。
現在の主流は数時間規模の蓄電です。梅雨や冬の悪天候が数日から数週間続く場合など、季節をまたぐ変動までは、蓄電池だけでは埋められません。送電網の増強、需要側の調整、他の長期貯蔵技術などを組み合わせる必要があります。
安全性と地域との合意
リチウムイオン電池は、不具合があれば発熱や火災のおそれがあります。消防庁は、リチウムイオン蓄電池設備の消防法令上の扱いや安全対策を、検討会で継続的に議論しています。大規模な蓄電所では、設置場所の選び方、消火設備、周辺住民への説明がいっそう重要になります。
設置する事業者に求められるのは、基準を守るだけでなく、地域に分かりやすく情報を公開する姿勢です。
系統整備とのバランス
蓄電池の申込が急増したことで、系統への接続の順番や、本当に実現する案件を見分ける仕組みが課題になっています。使われない権利だけが先に積み上がると、実際に必要な設備の接続が遅れるおそれがあります。
また、蓄電池を使い終えた後の回収・再資源化も、今後は避けて通れません。導入量が増えるほど、廃棄段階まで含めた設計が問われます。
私たちが今日からできること
大規模蓄電所は、一般の消費者が直接つくれるものではありません。それでも、電気の使い方や選び方を通じて、エネルギー転換に関わる方法はあります。
電気を使う時間を少しずらす
昼間に電気が余りやすい時期は、洗濯機や食洗機などを昼にまわすことで、余った再エネを使うことができます。時間帯別料金のプランを選べば、家計にも反映されます。契約中のプランが対象かどうかは、電力会社のサイトで確認できます。
家庭用蓄電池やEVは条件を確認してから
太陽光を設置している家庭では、蓄電池を併設して自家消費を増やす選択肢があります。ただし、費用や補助金の内容は地域や時期によって変わることがあるため、最新の情報を確認してから検討することをおすすめします。容量も製品によって異なります。導入前に、複数社の見積もりと、どれだけ自家消費が増えるかのシミュレーションを比べてみてください。
地域の電源を知ることから
まとめ
再エネが増えるほど、「いつ使えるか」を調整する蓄電池の重要性が高まります。IEAは2025年の世界の電池容量の追加を約108GW、BloombergNEFは112GWと報告しており、すでに100GW規模の市場になりました。豪州では夕方のピークに蓄電池がガス火力を置き換え、カリフォルニアでも大量導入が続いています。
一方、日本は申込が急増しているものの、連系済みの系統用蓄電池はまだ少なく、これから実際に系統につなぐ段階です。蓄電池は万能ではなく、再エネ由来の電気をためてこそ意味があります。安全性、地域との合意、系統整備、使用後の処理といった課題にも向き合う必要があります。
読者の皆さんにできることは、まず電気を使う時間帯を一つだけずらしてみることです。今日の洗濯を、昼の時間帯にまわすところから試してみてください。
- 蓄電池は、昼に余った再エネを夕方以降に回し、出力制御や火力への依存を減らす
- 2025年の世界の追加はIEAで約108GW、BloombergNEFで112GWと、100GWを超えた
- 豪州やカリフォルニアでは、夕方のピークを蓄電池が担う場面が増えている
- 日本は申込が急増している一方、連系済みの容量はまだ小さい
- 蓄電池は万能ではなく、安全性や系統整備などの課題への対応も欠かせない
参考文献
- IEA「Technology: Battery storage – Global Energy Review 2026」(2026年)
- pv magazine「BloombergNEF confirms energy storage has reached the 100 GW era」(2026年)
- pv magazine Australia「Q4 2025 a landmark period for household and grid-scale energy storage」(2026年)
- カリフォルニア州エネルギー委員会「California Energy Storage System Survey」(2025年)
- 資源エネルギー庁 次世代電力系統WG資料(系統用蓄電池の接続状況)(2025年)
- 電力広域的運営推進機関「長期脱炭素電源オークションの制度詳細について(応札年度:2025年度)」(2025)




